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第二章 クオルデン王立魔法学園

旅団について

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「昨晩は、お見苦しい姿を……」

 翌朝。ヒナタはシャドウに深々とお辞儀をして謝罪……シャドウの部屋に裸で押し入ったことより、『務め』を果たせなかったことと、ベッドを占領したことで謝罪した。
 どうも、『房中術』はハンゾウが仕組んだことであり、シャドウ最後の修行でもあるらしい。ヒナタはその役目を果たそうとしただけで、羞恥もなければためらいもない。 
 なので、シャドウは昨晩見たヒナタの裸を思い出さないように言う。

「え、えーと……ヒナタ。俺はその、まだ『房中術』をする覚悟がない。それに、まだまだ忍術も熟練度が低いし、対人、対魔獣戦の経験値も低い。だからその……もうちょい、待ってくれないか?」
「なるほど……まだまだ修行は続く、ということですね」
「あ、ああ」

 そういうことにしておくか……と、シャドウは頷いた。

「わかりました。ですが、いずれ『房中術』は受けていただきますので。それがハンゾウ師が、私に頼んだ最後の願い……シャドウ様、どうかよろしくお願いします」
「あ、はい……」

 その言い方卑怯だろ!! と、シャドウは叫びたかった。
 今は亡きハンゾウ最後の願い。そう言われたら『房中術』だろうと断りにくい。
 シャドウは咳払いし、話題を変えた。

「と、とりあえず……学園に入学するに向けて、俺がすべきことは? 試験勉強とか?」
「いえ。貴族は基本的に何の問題もなく入学できます。入学に必要な書類は全て提出済みですので、入学一か月前にはクオルデン王国にあるアジトで下見を、入学二日前には魔法学園にある寮に移動します」
「わかった。あ、装備とかは」
「クオルデンのアジトに、アサシンに必要な道具は全て揃っています。我々がすべきことは、『黄昏旅団』について知ること……シャドウ様、『黄昏旅団』について、どれだけ知っていますか?」
「……師匠が作ったってことと、二十二人いる暗殺者ってことくらい」
「はい。正確にはハンゾウ師を除いた二十一人ですね。では……説明します」

 ヒナタは、テーブルに数枚の羊皮紙を置いた。
 そこには、シャドウがハンゾウから貰ったリストブレードが二本、交差したような紋章が描かれている。

「これは、『黄昏旅団』の紋章です。基本的に『今』の旅団は、貴族か王族の依頼しか受けません。金さえ積めば誰でも、どのような状況でも暗殺をする……ただの虐殺者の集団となっています」
「……昔は、違ったんだな」
「はい。ハンゾウ師が率いていた七人だけの暗殺者集団の時は、悪をくじき弱者を救う正義の組織だったそうです」
「七人? 少ないな」
「はい。その頃は『風魔七忍』という名だったそうです」
「へえ……」
「そして、現在は総勢二十人……ハンゾウ師が育てた七人の風魔七人と、十四人の暗殺者が『黄昏旅団』と呼ばれています」
「し、師匠の弟子が、七人も?」
「はい。その七人の強さは別格です。全盛期のハンゾウ師ですら、四人以上は同時に相手をできなかったそうです」
「……マジか」
「はい。そして現在の『黄昏旅団』は、それぞれ称号で呼ばれています」

 ヒナタは、別の羊皮紙を見せる。
 愚者、魔術師、女教皇、女帝、皇帝、教皇、恋人、戦車、力、隠者、運命の輪、正義、吊男、死神、節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審配、世界。
 二十二の単語が書かれており、愚者と力にはバツが書かれていた。

「愚者はハンゾウ師、力はパワーズという男でした。愚者……ハンゾウ師が組織を去った後に付けられた称号のようですね」
「力……そういや、パワーズは自分のこと、ストレングスとか言ってたな」
「はい。なので、残り二十人……いえ、『女教皇』も削除しておきましょう」

 マドカのことだろう。
 そして、ヒナタは七つの単語に丸を付けた。
 恋人、正義、死神、悪魔、太陽、審判。そして、世界には二重丸を付ける。

「この七つは要注意です。特にこの『世界』……この称号を持つ者が、『黄昏旅団』のボスにして、『風魔七忍』最強……名は、サスケ」
「サスケ……最終的に、そいつを倒せばいいんだな」
「はい。それこそが、ハンゾウ師の後継者であるシャドウ様の任務。そしてこの私……ヒナタの」

 シャドウは少し考え、ヒナタに言う。

「……なあ、ヒナタ」
「はい」
「俺とお前でさ、新しい『風魔七忍』をやろうぜ。師匠が掲げた正義の組織を」
「……え?」
「別に、七人いなくてもいい。師匠が立ち上げた本当のアサシン教団を、俺たちでやろう」
「……シャドウ様」
「黄昏旅団を倒して、師匠の意志を継ぐ。それこそ、俺がやるべきことだ」
「……はい!!」

 ヒナタは頷いた。
 こうしてここに、新たな『風魔七忍』が結成された。

 ◇◇◇◇◇◇

「とりあえず、学園には三人の旅団がいるって聞いたけど、情報あるか?」
「申し訳ございません、そこまでは……」
「そっか。まあ、いいや。まずは学園に入学して、情報を集めよう」
「はい」

 そして、入学に関しての注意事項などを詰め、お昼になった。

「ふう……腹減ったな」
「あ、申し訳ございません。お昼の支度はまだ……」
「あはは。じゃあ、外に食いに行くか」
「わかりました。では、近場の食堂にでも」

 二人は私服に着替え、城下町に出る。
 貴族街から歩いて数十分のところに、城下町はある。
 お昼時なので、通りからは濃い食事の香りがしていた。

「……賑わってるなあ」
「アルマス王国はクオルデン王国よりも小さいですが、国王陛下の人望、人となりが素晴らしく、国民からも絶賛されています。念のため確認しましたが、国王は『旅団』の関係者ではありません」
「仕事早いな……」
「一人娘がいて、今年クオルデン王立魔法学園へ入学するそうです」
「あー……そういや、そんなこと言ってたな」
「すでに接触済みですか?」
「いや、偶然な」

 シャドウは、盗賊に襲われそうになった話をすると、ヒナタは「なるほど」と頷いた。

「王族……アルマス王国は小国ですが、王族との接触は控えるべきでしょうね。暗殺者にとって目立つことは好ましくありませんから」
「確かにな」

 お昼時なので、見せはどこも混んでいた。
 城下町のやや外れにある大衆食堂に入ると、ちょうど席が一つ空いていたので座る。
 メニューを見て、シャドウは日替わり定食、ヒナタも同じ物を大盛で注文する。
 
「シャドウ様は、ずっと森にいたそうですね」
「ああ、師匠とひたすら修行だよ。体術に忍術……地獄だった」
「では、こういう人の多い場でできる修行はしたことがないでしょう……私はハンゾウ師から『観察力』を鍛えるために、酒場や食堂にいる人間をとにかく観察する術を習いました」
「観察……?」
「はい。例えば……あちらの剣士」

 視線だけ送り、シャドウたちのテーブルから少し離れたところで飲んでいる剣士を見た。

「数は二人、武器は剣、鎧の汚れから討伐依頼帰りでしょう。表情からかなり上機嫌、空いたジョッキは三つ……ペースがだいぶ早い。きっと、依頼を成功させ、報酬で飲みに来たのでしょう。唇の動きから察するに、今日の戦闘を武勇伝として語り合っている」
「すごいな……」
「観察することで、いくつも情報を得られます。シャドウ様もぜひ」
「ああ、やってみる」

 と───シャドウが頷いた時だった。

「あの、すみません……相席、いいですか?」

 と、女の子に声をかけられた。
 ああ、いいですよ……と、シャドウが言おうと顔を上げた時、少しだけ目を見開く。

「よかったぁ。ソニア、こっち座っていいってさ」
「ひめさ……こほん。ラウラ様、勝手に先に行かないようお願いします」
「あはは、ごめんね」

 シャドウだけじゃない、ヒナタも少し驚いていた。
 シャドウたちの前にいたのは……アルマス王国第一王女ラウラ。そして、護衛騎士ソニア。
 かつて、シャドウが盗賊から救った少女たち、だった。
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