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第一章 シャドウ
プロローグ
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クオルデン大陸にある最大国家、クオルデン。
クオルデン王国貴族の中で、最も強大な『魔力』を持つ『ハーフィンクス公爵家』に生まれた少年シャドウ。
彼は、歴代ハーフィンクス家の中で最も多くの魔力を持つ神童として生まれ落ちた……が、神童としての名は長く持たなかった。
何故なら、シャドウは……保有魔力こそハーフィンクス家始まって以来最大であった。でも、その『魔力』を体外に放出する技術……『魔法』を行使することができない身体だった。
そのことがわかったのは、シャドウが三歳になった時。
父であり、クオルデン王国最強の魔法師の指導の元、初めて魔法を使おうとした時のことだった。
「な、なぜ……なぜ、シャドウは魔法を使えない?」
「……お気の毒ですが。旦那様、シャドウ坊ちゃんは、魔力こそ多いですが……『魔術回路』が、存在しません」
「なっ……ば、馬鹿な!!」
魔術回路。
それは、魔力の通り道。
魔力は、神経のごとく張り巡らされた『魔術回路』を通り、身体から輩出される。
そこに、『魔法式』という式を経由させ、魔力を加工して放出することで、様々な奇跡を起こす……それをできるのは貴族だけに許された『魔法』の力。
貴族なら、誰もが魔力を持ち、魔法を使える。
だがシャドウは……クオルデン王国で最も強大な魔力を持ちながら、その魔力を全く放出することができない、欠陥品として生まれたのだった。
◇◇◇◇◇◇
シャドウ、十三歳のある日。
部屋で読書をしていると、乱暴にドアが開かれた。
「シャドウ、ちょっといい?」
「……なに、姉さん」
シャドウの姉、セレーナ。
絶大な魔力を持ち生まれたシャドウと違い、魔力量こそ平凡だが、魔力回路の数は通常魔法師の四倍以上ある特異体質として生まれ、十五歳にして様々な魔法を行使できる『天才』であった。
セレーナは、シャドウに言う。
「ふふ、ねえシャドウ、また魔法の訓練をしたいから、協力してくれない?」
「……嫌だよ。姉さん、またボクを的にするつもりだろう」
「あ~ら、そんな酷いことするわけないじゃない」
嘘だった。
姉セレーナは、シャドウを『的』にして、よく魔法の練習をしていた。
その魔法は……苦痛を与える魔法。
「神経魔法……私が今、開発してる魔法には実験台が必要なの。お父様も言ってたわよ? シャドウはどうせ、十五歳になったら家を追い出すから、好きなように使えって」
「……」
「ふふ。じゃあ行きましょうか。シェリアも待ってるわよ」
セレーナと共に向かったのは、貴族の家には必ずある『魔法訓練用設備』だ。
そこに、シャドウとセレーナの腹違いの妹、シェリアがいた。
蜂蜜色のロングヘアを持つセレーナに対し、シェリアは綺麗な銀色の髪をしている。
対してシャドウは黒……父親と同じ髪色だ。
どちらも目麗しい少女であり、シャドウが弟、兄だと二人は認めていない。
「お姉さまっ!! 今日も一緒に魔法の訓練しましょうねっ!!」
「ええ、かわいいシェリア……聞いて? 今日もシャドウがお手伝いしてくれるって」
「ほんと? ふふっ、ありがとうお兄ちゃん」
「……」
ありがとう、お兄ちゃん。
普通に聞けば麗しい兄妹の言葉だが、真実は違う。
「じゃあお兄ちゃん……今日は『火魔法』の訓練をするから、ちゃ~んと避けてね?」
シェリアにとって、兄は『動く的』だった。
シェリアは魔力量、魔術回路こそ普通だが……魔力を『魔法式』に加えて放つ技術が、歴代ハーフィンクス家でもトップの実力だ。
つまり、魔法を放つのが誰よりも早い。
魔法を放つ触媒である杖をシャドウに向け、『炎の槍』という一般的攻撃魔法を放つ。
「くっ……!?」
シャドウは転がって躱す。
別に、体術の訓練を受けているわけじゃない。みっともなく地面を転がって炎の槍を回避するだけだ。
シェリアの杖からは、絶え間なく魔法が放たれる……幸いなことに、命中率はいまいちだった。
だが───突如として、シャドウの身体が硬直する。
「あ、っが!?」
セレーナの開発している『神経魔法』……身体ではなく、神経に作用させる魔法だ。
神経に電撃を流されたような痛みに、身体が硬直。
その隙に、炎の槍がシャドウに突き刺さり、腕が燃えた。
「うぁぁぁぁ!!」
「当たりッ!! どうどう、お姉さま」
「うん、いいわね。でも、練りこむ魔力が少ないわね……発動速度はいいけど、威力も重視しないとね」
「はぁ~い」
二人は、シャドウの心配なんてしていない。
すると、シャドウの父であるウォーレンが通りかかり、笑みを浮かべた。
「おお、二人とも。魔法の練習をしていたのかい?」
「「お父様!!」」
輝くような笑顔を娘二人に向け、シャドウにはゴミを見るような目を向けるウォーレン。
「ほう、火魔法と……セレーナが開発中の神経魔法か」
「はい!! お父様、その……魔法は早く発動できるのですが、威力が足りなくて」
「ははは。簡単だ、魔力をもっと練ればいい。そうすれば」
と───ウォーレンが火魔法を発動させ、シャドウに向けて放った。
「うぁぁぁぁぁぁっ!!」
シャドウの腕、足が燃える。ウォーレンが指を鳴らすと、火はすぐ消えた。
「情けない声を出すな!! この失敗作が!!」
「ひっ」
「お父様、神経魔法についてですが……」
「ふむ、神経に直接作用する魔法だね。これはなかなか難しい。でも、人の身体の仕組みをもっと理解すれば、簡単だ。大丈夫、セレーナならすぐにできるさ。ちょうどいい実験台もいるしね」
「はい!!」
ウォーレンは、娘二人の頭を撫で、シャドウを見ることなく行ってしまう。
父に褒められ、セレーナもシェリアも有頂天なのか、火傷を負ったシャドウを放置し、ティータイムだ。
残されたシャドウは立ち上がり、腕や足を押さえ顔をしかめる。
「……いてて」
シャドウの身体は、ボロボロだった。
ただ、魔力が多いだけの身体。
常人より死ににくい。ただそれだけ。
だから、姉や妹に馬鹿にされ……いや、馬鹿にされてはいない。都合のいい人形としか見られていない。
それでも、シャドウは耐えた。
「あと一年……」
十五になれば、家から出られる。
家から出て、一人の人間として生きていける。それだけがシャドウの心の支えになっていた。
クオルデン王国貴族の中で、最も強大な『魔力』を持つ『ハーフィンクス公爵家』に生まれた少年シャドウ。
彼は、歴代ハーフィンクス家の中で最も多くの魔力を持つ神童として生まれ落ちた……が、神童としての名は長く持たなかった。
何故なら、シャドウは……保有魔力こそハーフィンクス家始まって以来最大であった。でも、その『魔力』を体外に放出する技術……『魔法』を行使することができない身体だった。
そのことがわかったのは、シャドウが三歳になった時。
父であり、クオルデン王国最強の魔法師の指導の元、初めて魔法を使おうとした時のことだった。
「な、なぜ……なぜ、シャドウは魔法を使えない?」
「……お気の毒ですが。旦那様、シャドウ坊ちゃんは、魔力こそ多いですが……『魔術回路』が、存在しません」
「なっ……ば、馬鹿な!!」
魔術回路。
それは、魔力の通り道。
魔力は、神経のごとく張り巡らされた『魔術回路』を通り、身体から輩出される。
そこに、『魔法式』という式を経由させ、魔力を加工して放出することで、様々な奇跡を起こす……それをできるのは貴族だけに許された『魔法』の力。
貴族なら、誰もが魔力を持ち、魔法を使える。
だがシャドウは……クオルデン王国で最も強大な魔力を持ちながら、その魔力を全く放出することができない、欠陥品として生まれたのだった。
◇◇◇◇◇◇
シャドウ、十三歳のある日。
部屋で読書をしていると、乱暴にドアが開かれた。
「シャドウ、ちょっといい?」
「……なに、姉さん」
シャドウの姉、セレーナ。
絶大な魔力を持ち生まれたシャドウと違い、魔力量こそ平凡だが、魔力回路の数は通常魔法師の四倍以上ある特異体質として生まれ、十五歳にして様々な魔法を行使できる『天才』であった。
セレーナは、シャドウに言う。
「ふふ、ねえシャドウ、また魔法の訓練をしたいから、協力してくれない?」
「……嫌だよ。姉さん、またボクを的にするつもりだろう」
「あ~ら、そんな酷いことするわけないじゃない」
嘘だった。
姉セレーナは、シャドウを『的』にして、よく魔法の練習をしていた。
その魔法は……苦痛を与える魔法。
「神経魔法……私が今、開発してる魔法には実験台が必要なの。お父様も言ってたわよ? シャドウはどうせ、十五歳になったら家を追い出すから、好きなように使えって」
「……」
「ふふ。じゃあ行きましょうか。シェリアも待ってるわよ」
セレーナと共に向かったのは、貴族の家には必ずある『魔法訓練用設備』だ。
そこに、シャドウとセレーナの腹違いの妹、シェリアがいた。
蜂蜜色のロングヘアを持つセレーナに対し、シェリアは綺麗な銀色の髪をしている。
対してシャドウは黒……父親と同じ髪色だ。
どちらも目麗しい少女であり、シャドウが弟、兄だと二人は認めていない。
「お姉さまっ!! 今日も一緒に魔法の訓練しましょうねっ!!」
「ええ、かわいいシェリア……聞いて? 今日もシャドウがお手伝いしてくれるって」
「ほんと? ふふっ、ありがとうお兄ちゃん」
「……」
ありがとう、お兄ちゃん。
普通に聞けば麗しい兄妹の言葉だが、真実は違う。
「じゃあお兄ちゃん……今日は『火魔法』の訓練をするから、ちゃ~んと避けてね?」
シェリアにとって、兄は『動く的』だった。
シェリアは魔力量、魔術回路こそ普通だが……魔力を『魔法式』に加えて放つ技術が、歴代ハーフィンクス家でもトップの実力だ。
つまり、魔法を放つのが誰よりも早い。
魔法を放つ触媒である杖をシャドウに向け、『炎の槍』という一般的攻撃魔法を放つ。
「くっ……!?」
シャドウは転がって躱す。
別に、体術の訓練を受けているわけじゃない。みっともなく地面を転がって炎の槍を回避するだけだ。
シェリアの杖からは、絶え間なく魔法が放たれる……幸いなことに、命中率はいまいちだった。
だが───突如として、シャドウの身体が硬直する。
「あ、っが!?」
セレーナの開発している『神経魔法』……身体ではなく、神経に作用させる魔法だ。
神経に電撃を流されたような痛みに、身体が硬直。
その隙に、炎の槍がシャドウに突き刺さり、腕が燃えた。
「うぁぁぁぁ!!」
「当たりッ!! どうどう、お姉さま」
「うん、いいわね。でも、練りこむ魔力が少ないわね……発動速度はいいけど、威力も重視しないとね」
「はぁ~い」
二人は、シャドウの心配なんてしていない。
すると、シャドウの父であるウォーレンが通りかかり、笑みを浮かべた。
「おお、二人とも。魔法の練習をしていたのかい?」
「「お父様!!」」
輝くような笑顔を娘二人に向け、シャドウにはゴミを見るような目を向けるウォーレン。
「ほう、火魔法と……セレーナが開発中の神経魔法か」
「はい!! お父様、その……魔法は早く発動できるのですが、威力が足りなくて」
「ははは。簡単だ、魔力をもっと練ればいい。そうすれば」
と───ウォーレンが火魔法を発動させ、シャドウに向けて放った。
「うぁぁぁぁぁぁっ!!」
シャドウの腕、足が燃える。ウォーレンが指を鳴らすと、火はすぐ消えた。
「情けない声を出すな!! この失敗作が!!」
「ひっ」
「お父様、神経魔法についてですが……」
「ふむ、神経に直接作用する魔法だね。これはなかなか難しい。でも、人の身体の仕組みをもっと理解すれば、簡単だ。大丈夫、セレーナならすぐにできるさ。ちょうどいい実験台もいるしね」
「はい!!」
ウォーレンは、娘二人の頭を撫で、シャドウを見ることなく行ってしまう。
父に褒められ、セレーナもシェリアも有頂天なのか、火傷を負ったシャドウを放置し、ティータイムだ。
残されたシャドウは立ち上がり、腕や足を押さえ顔をしかめる。
「……いてて」
シャドウの身体は、ボロボロだった。
ただ、魔力が多いだけの身体。
常人より死ににくい。ただそれだけ。
だから、姉や妹に馬鹿にされ……いや、馬鹿にされてはいない。都合のいい人形としか見られていない。
それでも、シャドウは耐えた。
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