道具屋転生~道具屋に転生させろと言ったが、道具屋(建物)とは言ってない~

さとう

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道具屋(建物)の身体

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道具屋になった。
言葉だけだと「ああそうか」だけど、実際に見ると意味がわからんと思う……。

「…………」

 冷静に考えよう。
 まず、俺の名前。

「俺は丸山誠一! 日本生まれの二十歳! 仕事はスーパーの陳列担当! 神の野郎が持ち込んだウイルスで死んだ! んで、道具屋として異世界転生した! どういうわけか『道具屋』じゃなくて『道具屋(建物)』に転生しちまった!」

 叫ぶ。でも……建物から声が出ているのかいないのか、俺の屋根に止まっているピンクのツノが生えた小鳥(めっちゃ異世界っぽい鳥)はピクリとも動かない。もしかして……家(どう見ても掘っ立て小屋)になった俺の声は、聞こえないのか?

「あああ……あのクソ神、メタボ神、ハゲ神め!! 道具屋にしろって言ったのに、なんで建物なんだよ!? こんなのどうすりゃいいんだ!?」

 叫ぶが、屋根にいる鳥は大きな欠伸をするだけ。
 マジでヤバい。このまま死ぬ……待てよ? 死ぬ? 家が死ぬのか?
 ちょっとだけ冷静になる。

「と、とりあえず……今の状況と、この身体のことを理解しよう」

 まず、今の状況。
 目の前は黒い幹の木がいっぱい並んでいる。草や藪もあるけど、俺が知ってるような草はない。
 人の気配はゼロ、動物の気配もほぼゼロ。よくわからん異世界っぽい鳥が俺の屋根に何度か止まってる。
 立地は最悪だな……人がいないのは致命的だ。

「あ、レベル制とか言ってたな。ステータス画面……」

 ステータス画面。そう思うと、目の前に画面が浮かぶ。

◇◇◇◇◇◇
道具屋 レベル1
従業員 0
商品 ──
◇◇◇◇◇◇

 酷いな……商品ゼロ、従業員ゼロ。こんなの道具屋じゃなくて山小屋だぞ。
 レベルを上げるには、従業員を雇って商品を仕入れて……仕入れ先とかも何とかしないと。というか、この状態でできることってなんだ? そもそも、『俺』が道具屋(建物)なんだぞ? 意思疎通できるのか? 声は出せるけど、人と会話できるのか? そもそも、こんな喋る小屋に人が来るのか? 気味悪がられて取り壊されたり……うわわ、死ぬんじゃね?

「……マジでヤバいな」

 ともかく、今できること。

「なんか便利なスキルないのかよ……」

◇◇◇◇◇◇
《スキル》
憑神アバター レベル1
〇緊急生産 レベル1
〇用心棒 レベル1
◇◇◇◇◇◇

「え」

 なんか新しい画面が出た。
 アバターって、まさか……まさか!
 俺は叫んだ。

「スキル、『憑神アバター』使用!」

 すると、小屋が一瞬だけ淡く輝き───視点が変化した。
 視点は小屋の中。そして……。

「あ、ああ……っ!! 腕、足、手……あ、あああっ!!」

 涙が出た。
 俺は、小屋の中にいる。
 四肢があり、身体があり……涙を流せる。
 俺は、人の身体を手に入れた。
 スキル『憑神アバター』は、人の身体を作れるんだ。

「やったぁぁぁぁ!!」

 俺は小屋の中で跳ねまわり、そのままドアを開けて外へ。

「うおっしゃぁぁぁぁっぶへっ!?」

 だが、外に出ようとしたら弾かれた。
 ドアを開けたのに出れない。見えない壁があった。まさか、小屋から出れない?
 
「なんだよ……ちくしょう。ん?」

 ふと、身体が重いことに気付く。
 喜びで気付かなかったが、左手首に腕時計が巻かれていた。
 そこに、時間が表示されている。
 時間だけならわかるが……こんな表示もあった。

『顕現時間 残り2分 残存魔力20』
「え……なにこれ。魔力?」

 レベル1の俺の魔力は30。一分『憑神』を使うと10減る。つまり、俺は3分しかこの身体を維持できない。
 た、たった三分だけ? 噓だろ……どうしろってんだよ。
 
「う、おおお……か、解除」

 タイムリミットが残り1分になったので解除。人間の身体は消え、再び小屋へ。
 がっくり項垂れるが……収穫はあった。

『獲得経験値20 レベルアップまであと80』

 魔力を消費すれば、レベルが上がる。
 レベルが上がれば魔力は増える。つまり、長く人間でいられる。
 それだけじゃない。新しいスキルを得られるかもしれないし、スキルのレベルも上がるかもしれない。
 やっと希望が見えてきた。

「よし! まずはレベルを上げてからだ!……全然道具屋っぽくねぇ」

 俺は気合を入れ、レベル上げをすることにした。
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