聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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それは君の愛の奇跡④/胸いっぱいのありがとう

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『ロイ、おいしっかりしろ、おい!!』
「…………」

 ササライの王城から離れた雑木林の中、ロイは胸を押さえ、何度も咳き込んでは血を吐いていた。
 魔力がもう尽きかけている。
 そして、これまでで一番大きな咳をして血を吐くと、聖域が解除された。
 もう、血が止まらない。歩くこともできず、ズルズルと木にもたれかかる。
 
『ロイ、ああ……くそ、くそ、くそ!! なぜ我輩は何もできない!? なぜ、なぜ……』
「デスゲイズ……聞いてくれ」
『……え?』

 座り込むと、ジワジワと地面に血が広がった。
 呼吸も浅く、命を限界まで魔力に変えたせいなのか、今にも死にそうだった。
 それでもロイは、デスゲイズのために、残された全ての力を使い、両手を合わせた。

「俺……ずっと、考えてた。それでさ……思い、ついたんだ」
『……思い、ついた?』
「ああ……」

 ロイは、眼を閉じて静かに呟く。

「封印聖域、展開……」

 ◇◇◇◇◇◇

 デスゲイズは、ロイの精神世界にいた。
 すでに世界は崩壊している。世界に亀裂が入り、この世界が砕ければ、デスゲイズも消滅する。
 ロイなら、魔王を滅ぼせる……そういう意味で、デスゲイズは自分の全てをロイに託していた。
 だからこそ、死ねば終わり。

「……ロイ。お前はもう、立派にやった」

 デスゲイズは、ポツリと言う。

「ササライの世界はきっと……人にとって地獄と化す。恐らく……我輩の一部である聖剣も、我輩が消滅すれば消える。もう……人が魔族に、魔王にできることは、何もない」

 パレットアイズ、トリステッツァ、バビスチェ、ササライ。
 四人の魔王に忘れさられるまでデスゲイズは待ち、ロイという最強最高の逸材を見つけ、抗った。
 だが……ササライには、届かなかった。
 ロイなら、きっとササライを倒せると思った。だが……届かなかった。
 
「すまなかった、ロイ……」
「何諦めてんだよ、馬鹿」

 と、聞こえてきた。
 振り返るとそこにいたのは、ロイだった。

「え……」
「こうして会うの、何度目かな。ずっと一緒だったけど……人の姿で会うのは、これが最後かもな」

 あり得なかった。
 ロイが、この世界に入れるわけがない。
 デスゲイズの封印の内側に、ロイがいた。

「な、なぜお前がここに!? ここはお前の精神世界、だが……我輩は四つの魔王宝珠の力で魂が封印されている状態だ。いうなれば、お前の精神の部屋に、厳重な封印を施した金庫を置くようなもの……声や意思、力を渡すことは辛うじてできた。だが、我輩そのものを金庫から出すのは不可能だ。お前自身が、カギのかかった金庫の中に入るような真似……」
「確かにな」

 ロイの中に、魔王の力で封印されたデスゲイズがいる。
 デスゲイズを出すには、封印を解き、魂を解放し、肉体という器を外で用意する必要がある。
 だが、デスゲイズの封印を解くには、四つの魔王宝珠を破壊してカギを壊し、金庫の中から出す必要があった。
 しかし……魔王宝珠は破壊されず、ササライが取り込んでいる。つまり、ササライを倒さない限り、デスゲイズは外に出ることができない。
 ロイは言う。

「お前は、四つのカギが掛かった部屋の中にいるようなもんだろ? そして、その部屋ごと俺の中に来た……部屋の外から声は聞こえるし、ある程度の力を貸すことはできたけど、お前自身は外に出れない、ってことだよな」
「あ、ああ……」

 だが、ロイはこうして部屋の中にいる。
 四つのカギが壊れたというわけではない。あまりにもあり得なかった。
 ロイはニヤリと笑う。

「ふふふ。簡単だ……俺は、お前の部屋に新しい鍵を掛けたんだ」
「は?」
「忘却、快楽、嘆き、愛……四つのカギにもう一つ、俺は『大罪』のカギをかけた。封印に干渉して、より強固になるように再封印したんだ」
「……へ?」

 デスゲイズは、意味がわからずポカンとした。
 わざわざ、カギを強固にした……意味不明だった。
 だが、ロイの狙いはそこにあった。

「つまり、お前の封印は五つ……忘却、快楽、嘆き、愛、そして大罪。俺は大罪のカギを使い、こうして堂々と中に入った。つまり~……ふふふ、カギのひとつが開けば、お前はもう外に出れるんじゃないか? って思ったんだ」
「…………」

 もう、何でもアリな気がするデスゲイズ。
 規格外どころではない。
 だが、どこからどう見ても、ロイは人間だ。
 てっきり、世界を創造した神様が、人間に化けているのかと思った。

「デスゲイズ、お前を解放する……お前の肉体は、お前を解放した時に作ってくれ。お前の権能を全て返すから……できるよな?」

 ロイは、デスゲイズに手を差し伸べた。
 デスゲイズは、手が震えた。
 その手を取れば、解放される。同時に……失う。

「……ロイ」
「馬鹿、泣くな」
「え……?」

 デスゲイズは、涙を流していた。
 解放の喜びなのか、失うことの悲しみなのか。
 ロイはデスゲイズに近づき、そっと涙を拭う。

「俺さ、お前に感謝してる」

 デスゲイズの頬に触れ、ロイは言う。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは、残された全ての力を使い、立ち上がった。
 もう、失う血はほとんどない。
 身体が空っぽだった。命も、何もかも、空っぽだ。
 それでも、眼は輝いていた。
 ボロボロにひび割れた魔弓デスゲイズを強く握り、右手を開く。

「大罪、権能……『暴食』」

 赤い光が、ロイの手に集まる。

 ◇◇◇◇◇◇

「感謝……?」
「ああ。俺さ、剣の才能はないし、実家じゃ冷遇されていた。でもさ……こうして、聖剣士と一緒に戦えた」

 精神世界では、ひび割れた空間にロイの記憶が投射された。
 パレットアイズ、トリステッツァ、バビスチェとの戦い。新たな権能。聖剣士たちとの出会いや、デスゲイズとの思い出が映る。

「お前のおかげなんだ。お前が……お前が、俺に希望をくれた。みんなを援護する矢を放つことができたのは、お前のおかげだ」

 ロイは笑っていた。
 でもそれは……悲しみの笑顔だった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイの手に、輝きが増す。

「『色欲』、『嫉妬』、『憤怒』、『怠惰』、『傲慢』、『強欲』」

 それは、虹色の輝きだった。
 七つの権能がロイの手に集まり、虹色の輝きとなる……そして、その手には一本の『矢』が握られていた。
 ロイの全て。
 八咫烏として、これまで使ってきた全ての力が、一本の矢に込められていた。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは、デスゲイズの手を取ると、正面に『光』が刺した。
 部屋の出口……封印の出口、ロイの作った出口。
 光刺す方へ、二人は歩き出す。

「ありがとう、デスゲイズ」
「……いやだ」
「最後に、頼む。どうかエレノアたちを……助けてやってほしい」
「嫌だ!! お前がやれ!! ふざけるな、ふざけるな!!」

 ロイの歩みが止まらない。
 デスゲイズは手を振り払おうとした、だができない。なぜかできない。

「いろいろ考えたけどさ。やっぱり……ササライとケリ付けるの、お前だよ」
「……ロイ」
「へへ、お前なら、三分でケリ付けられるかもな」
「…………」

 涙が止まらない。
 光の先にあるのは、別れだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは、誰もいない雑木林の中で、たった一人……人生最後の矢を番えた。
 狩人として、矢を番える瞬間も、射る瞬間も見られない。
 命を賭けた、究極の矢。
 弦を引き、眼を閉じ……ゆっくりと開く。
 
「最終権能、『大罪ノ魔王デスゲイズ・デッドリーシン』装填」

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイはデスゲイズから手を離し、光刺す道を見た。
 ゆっくりと、光が強くなっていく。

「全部終わったらさ、自分の足で……好きなところに行って、美味い物いっぱい食えよ」

 デスゲイズは手を伸ばす。
 だが……ロイは。

「さよなら、デスゲイズ」

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは微笑み、青空に向かって矢を放った。

「虹の彼方へ──『虹色に輝く大罪の矢アルコバレーノ・デスゲイズ・ストライク』」

 権能、そして命を乗せ、虹色の矢が飛んだ。
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