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それは君の愛の奇跡①/命奏でる詩
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「…………」
『ロイ、ロイ!! おい、ロイ!!』
デスゲイズは、本気で焦っていた。
ロイは、重症だった。
腹を、胸を杭で刺され、今も出血が止まらない。
臓器も深く損傷している。このままでは確実に死ぬ。
デスゲイズのいる『内面世界』では、周囲の空間に亀裂が入っていた。
『まずい、まずい……ロイが死ねば吾輩も死ぬ。封印云々じゃない、ロイの死に吾輩も引っ張られる……もう、どうしようもない』
周囲には誰もいない。
ちょうど、トラビア王国とササライの王城の中間地点。
周囲に何もない平原。助けを求めることもできない。
デスゲイズは叫んだ。
『くそ!! 誰でもいい、何でもいい!! ロイを助けてくれ!!』
正体がバレるとか、存在を知られるわけにはいかないとか、そんなこと忘れてデスゲイズは叫んだ。
魔弓デスゲイズにも亀裂が入る。深い亀裂が入った瞬間、ロイの内面世界にいるデスゲイズは胸を押さえ膝を付いた。
『うぐぁっ……わ、吾輩も、消滅する……ロイ、ここまで、なのか……』
「…………」
その時……ロイの指が、ピクリと動いた。
◇◇◇◇◇◇
まどろむ意識の中、ロイはぬるま湯に浸かったような感触だった。
「…………あった、けえ」
いろいろなことを思いだす。
ティラユール家での訓練、エレノアとの出会い、一緒の訓練……そして、聖剣かと思ったら粗末な木刀で、それが愛用の弓を飲み込み、ただの趣味だった弓が武器となり、聖剣士を援護する弓士、八咫烏となった。
初めては、学園を襲撃してきた魔族ベルーガだった。
正直……ただの獲物。魔獣や動物と変わらないなと思った。この程度なら、弓でもいいかな、聖剣士を援護することもできるかな、と思った。
その次は、パレットアイズ。
王国周辺に現れたダンジョンで、エレノアたちが鍛えながら、ダンジョンを攻略していた。
正直、学生と八咫烏の両立は厳しかった……が、悪くなかった。
デスゲイズとも、打ち解けることができた。
その次は、トリステッツァ。
極寒の国に現れたトリステッツァをみんなで倒した。ユノの故郷を守ることができてよかった。
初めて、死ぬかもしれないと思い、全力の『魔王』相手に戦った。
負けるかもしれないと本気で思い……もっと強くなりたいと思えた。
その次は、バビスチェ。
直接的な攻撃より、ロイの周りをかき乱すような攻撃が多かった。
アオイとも知り合えた。女だと知った時は驚いた。
聖剣の秘密や、デスゲイズのことをもっと知れた。今ではもう、デスゲイズは立派な相棒だ。
バビスチェを倒し、世界の平和がまた近づいた。
そして、ササライ。
最悪の魔王。全てはササライのシナリオ通りだった。
魔王宝珠を全て取り込むため、至高の魔王になるために、聖剣士たちを滅ぼさず、魔王を倒せる聖剣士を育てるのが、ササライの目的だった。
その目的は果たされ、三人の魔王が討伐され、全ての力をササライが取り込み……ササライは真の『ゲーム』を、シナリオが決まったゲームを始めた。
七聖剣士を模した七魔剣士との戦い、そして今……七聖剣士たちは、ササライに最後の戦いを挑んでいる。
ロイの役目は終わった。
七聖剣士を、ササライの元に送る。最後はきっと、七聖剣士が魔王を倒す。
援護は、もういらない……この世界はきっと、平和になる。
そう思い、眼を閉じようとした。
◇◇◇◇◇◇
『ロイ!!』
◇◇◇◇◇◇
だが……聞いてしまった。
デスゲイズ。四大魔王の前に存在した、もう一人の魔王。
バカで、何かあればすぐ『女を抱け』とか、変なことばかり言う。
でも、相棒だ。
ロイの、大事な、愛しい『弓』の声が……今にも泣きそうな声が、響いていた。
「…………ぁ」
まだ、ロイにはやるべきことがあった。
震える指を動かし、今にも止まりそうな心臓の鼓動を確認する。
「……ま、だ」
デスゲイズを。相棒を。ロイの弓を。
「……解放、する」
人間くさい、愛を知っている最強で最悪でふざけた、大罪の魔王デスゲイズを、弓から解放する。
それが、ロイの最後の仕事。
「……ふぅ」
魔力を全身に循環させる。
筋肉を魔力で操作し、大きく空いた穴を閉じる。
失血は止まった。ロイはゆっくりと立ち上がる。
命が燃えているのがわかった。
『……ろ、ロイ?』
「デスゲイズ。俺は、最後までやるよ。この世界を守って、お前を解放する」
目を閉じると、聞こえてくる。
エレノアたち七聖剣士の声。そして、トラビア王国で戦う聖剣士の声。
トラビア王国は劣勢。魔獣が、人間たちを押している。
「……俺、わかったんだ。本当の、俺の……」
ロイは手を合わせ、祈るように交差させた。
「『魔王聖域』展開」
ロイから、あり得ない量の魔力が噴出した。
驚愕どころではない。一人の人間が出す魔力ではない。
だからこそ、デスゲイズは気付いた。
『ま、まさか……命を燃やしているのか!? バカなバカばバカな!? ロイお前、死ぬぞ!? 下がれ、下がって治療を』
「お前がまともなこと言うの、初めてかもな」
ロイは苦笑し、静かに言った。
「俺は聖剣士を援護する。八咫烏のロイ……さあ、トラビア王国を守る聖剣士たち、一緒にやろう!!」
トラビア王国全体を、ロイの魔力が包み込んだ。
「『聖剣覇王七天虚空星殿・神閻天蓋《しんえんてんがい》』」
『ロイ、ロイ!! おい、ロイ!!』
デスゲイズは、本気で焦っていた。
ロイは、重症だった。
腹を、胸を杭で刺され、今も出血が止まらない。
臓器も深く損傷している。このままでは確実に死ぬ。
デスゲイズのいる『内面世界』では、周囲の空間に亀裂が入っていた。
『まずい、まずい……ロイが死ねば吾輩も死ぬ。封印云々じゃない、ロイの死に吾輩も引っ張られる……もう、どうしようもない』
周囲には誰もいない。
ちょうど、トラビア王国とササライの王城の中間地点。
周囲に何もない平原。助けを求めることもできない。
デスゲイズは叫んだ。
『くそ!! 誰でもいい、何でもいい!! ロイを助けてくれ!!』
正体がバレるとか、存在を知られるわけにはいかないとか、そんなこと忘れてデスゲイズは叫んだ。
魔弓デスゲイズにも亀裂が入る。深い亀裂が入った瞬間、ロイの内面世界にいるデスゲイズは胸を押さえ膝を付いた。
『うぐぁっ……わ、吾輩も、消滅する……ロイ、ここまで、なのか……』
「…………」
その時……ロイの指が、ピクリと動いた。
◇◇◇◇◇◇
まどろむ意識の中、ロイはぬるま湯に浸かったような感触だった。
「…………あった、けえ」
いろいろなことを思いだす。
ティラユール家での訓練、エレノアとの出会い、一緒の訓練……そして、聖剣かと思ったら粗末な木刀で、それが愛用の弓を飲み込み、ただの趣味だった弓が武器となり、聖剣士を援護する弓士、八咫烏となった。
初めては、学園を襲撃してきた魔族ベルーガだった。
正直……ただの獲物。魔獣や動物と変わらないなと思った。この程度なら、弓でもいいかな、聖剣士を援護することもできるかな、と思った。
その次は、パレットアイズ。
王国周辺に現れたダンジョンで、エレノアたちが鍛えながら、ダンジョンを攻略していた。
正直、学生と八咫烏の両立は厳しかった……が、悪くなかった。
デスゲイズとも、打ち解けることができた。
その次は、トリステッツァ。
極寒の国に現れたトリステッツァをみんなで倒した。ユノの故郷を守ることができてよかった。
初めて、死ぬかもしれないと思い、全力の『魔王』相手に戦った。
負けるかもしれないと本気で思い……もっと強くなりたいと思えた。
その次は、バビスチェ。
直接的な攻撃より、ロイの周りをかき乱すような攻撃が多かった。
アオイとも知り合えた。女だと知った時は驚いた。
聖剣の秘密や、デスゲイズのことをもっと知れた。今ではもう、デスゲイズは立派な相棒だ。
バビスチェを倒し、世界の平和がまた近づいた。
そして、ササライ。
最悪の魔王。全てはササライのシナリオ通りだった。
魔王宝珠を全て取り込むため、至高の魔王になるために、聖剣士たちを滅ぼさず、魔王を倒せる聖剣士を育てるのが、ササライの目的だった。
その目的は果たされ、三人の魔王が討伐され、全ての力をササライが取り込み……ササライは真の『ゲーム』を、シナリオが決まったゲームを始めた。
七聖剣士を模した七魔剣士との戦い、そして今……七聖剣士たちは、ササライに最後の戦いを挑んでいる。
ロイの役目は終わった。
七聖剣士を、ササライの元に送る。最後はきっと、七聖剣士が魔王を倒す。
援護は、もういらない……この世界はきっと、平和になる。
そう思い、眼を閉じようとした。
◇◇◇◇◇◇
『ロイ!!』
◇◇◇◇◇◇
だが……聞いてしまった。
デスゲイズ。四大魔王の前に存在した、もう一人の魔王。
バカで、何かあればすぐ『女を抱け』とか、変なことばかり言う。
でも、相棒だ。
ロイの、大事な、愛しい『弓』の声が……今にも泣きそうな声が、響いていた。
「…………ぁ」
まだ、ロイにはやるべきことがあった。
震える指を動かし、今にも止まりそうな心臓の鼓動を確認する。
「……ま、だ」
デスゲイズを。相棒を。ロイの弓を。
「……解放、する」
人間くさい、愛を知っている最強で最悪でふざけた、大罪の魔王デスゲイズを、弓から解放する。
それが、ロイの最後の仕事。
「……ふぅ」
魔力を全身に循環させる。
筋肉を魔力で操作し、大きく空いた穴を閉じる。
失血は止まった。ロイはゆっくりと立ち上がる。
命が燃えているのがわかった。
『……ろ、ロイ?』
「デスゲイズ。俺は、最後までやるよ。この世界を守って、お前を解放する」
目を閉じると、聞こえてくる。
エレノアたち七聖剣士の声。そして、トラビア王国で戦う聖剣士の声。
トラビア王国は劣勢。魔獣が、人間たちを押している。
「……俺、わかったんだ。本当の、俺の……」
ロイは手を合わせ、祈るように交差させた。
「『魔王聖域』展開」
ロイから、あり得ない量の魔力が噴出した。
驚愕どころではない。一人の人間が出す魔力ではない。
だからこそ、デスゲイズは気付いた。
『ま、まさか……命を燃やしているのか!? バカなバカばバカな!? ロイお前、死ぬぞ!? 下がれ、下がって治療を』
「お前がまともなこと言うの、初めてかもな」
ロイは苦笑し、静かに言った。
「俺は聖剣士を援護する。八咫烏のロイ……さあ、トラビア王国を守る聖剣士たち、一緒にやろう!!」
トラビア王国全体を、ロイの魔力が包み込んだ。
「『聖剣覇王七天虚空星殿・神閻天蓋《しんえんてんがい》』」
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