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光聖剣サザーランドと闇魔剣ア・バオア・クー①/凶愛

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 サリオスは剣を構える。
 トラビア王宮剣術。幼いころから習っており、何よりも馴染んだ構え。
 剣の柄を握る。右手で握り、左手は添えるだけ。
 不思議と、この構えを取ると、心が落ち着いた。

「うふふ、サリオスくん……綺麗な構え」

 対するヴェンデッタは、大鎌だ。
 柄の長さは数メートルあり、女性の細腕なのに苦も無くクルクル回転させている。
 サリオスは呟く。

「──……よし」

 剣を変形させ、片手剣と盾を作る。
 盾を構えつつ、片手剣で攻める作戦。
 大技はまだ使わない。鎧身は最終手段。
 サザーランドの刀身に『光』を集めると、ヴェンデッタの口が大きくゆがんだ。

「『ヴァラエーナ・イリュージョン』」
「ッ!?」

 回転させた鎌から『黒いモヤ』が噴き出し、回転に合わせて巨大な『鎌』となって飛んできた。
 サリオスは驚愕……だが、一瞬で判断。
 盾で鎌を弾き、剣でも弾く。そして、鎌が飛んで来なくなった瞬間に合わせて飛び出した。

(大鎌。間合いを詰めれば──……!!)
「ひひっ」

 すると、ヴェンデッタの『闇魔剣ア・バオア・クー』の柄が短くなり、手持ちサイズの鎌となる。
 サリオスに向けて鎌を振るうと、盾で受けとめる。
 鎌を受け止めた瞬間、そのまま盾で受け流すとヴェンデッタの態勢が崩れた。

「『シャイニング・ストライク』!!」

 片手剣による突き──……だが、ヴェンデッタは身体を突き出し、なんと片手剣を腹に刺して受け止めた。

「なっ」

 ヴェンデッタの腹から血が噴き出す。だが、ヴェンデッタは笑っていた。

「いたぁい……でも、熱い……ああぁ、サリオスくんの愛を感じるわぁぁぁぁ!!」
「ひっ……」

 サリオスは恐怖した。
 会ったことのない人種。魔族とは違う、狂気を感じた。
 トリステッツァとは違う、自分に明確に向けられる『狂気』に、身体が硬直する。
 すると、ヴェンデッタは『闇魔剣ア・バオア・クー』を投げ捨て、サリオスの片手剣を両手で掴んで固定する。
 自分に刺したままの状態で急接近。そして、信じられないことが起きた。

「んぶっ!?」
「んん……っ」

 なんとヴェンデッタは、サリオスに口づけした。
 信じられなかった。
 腹に『光聖剣サザーランド』を突き刺したまま、サリオスの手を掴み、もう片手で頭を掴んでの口づけ。サリオスは混乱の極みだった。
 そして、見た。

「ぁ……愛」

 ヴェンデッタの素顔。
 長い黒髪で顔は見えなかった。だが……髪の分け目から見えた素顔は、あまりにも美しかった。
 キスをして、恍惚の表情を浮かべてはいるが、腹に剣は刺さったまま。
 意味不明すぎ、サリオスはされるがままだった。
 そして、サリオスの力が抜けた瞬間、ヴェンデッタはサリオスの盾を手で弾き飛ばし、そのまま思い切りサリオスを抱きしめる。
 柔らかな感触がサリオスに伝わってきた。もともと、ヴェンデッタが薄着というのもあるが、その身体付きはあまりにも妖艶だった。
 
「好き……サリオスくん」
「…………」

 敵……で、間違いない、はず。
 と、サリオスはヴェンデッタを受け入れかけてしまう。
 だが、ぶんぶんと首を振り、ヴェンデッタを突き飛ばして離れる。
 同時に、片手剣を消し、盾と合わせてロングソード形態に戻してしまう。あまりにも混乱し、どういう変形があるのか忘れてしまった。

「な、なんで、きみは……ぼ、ボクを?」

 サリオスは、そう質問するので精一杯だった。

 ◇◇◇◇◇◇

「初めてあなたを見たのは……子供の頃」
「え?」
「六歳のあなた。覚えてる? あなた……城下町の路地裏で迷子になって、怖い大人たちに囲まれていたのよ?」
「……えっと」
「私は、そこにいたの。あなたが大人に囲まれていた理由は、お金持ちでも、王族だからでもない。あなたは……掴まり、売られそうになっていた私を助けるために飛び出したのよ」
「…………ぁ」

 サリオスの記憶が刺激される。
 六歳。
 国民の暮らしや文化に触れるという名目で、十日に一度ほど、城下町に出かける習慣があった。
 もちろん、護衛付き。だがある日、サリオスは護衛の目を盗み、危険だからと入ることの許されない路地裏へ一人踏み込んだ。
 三歳のころから剣の修行は始めていたので、下手な大人に負ける気はしなかった。
 そして、路地裏で迷子になった。

「……そういえば、黒髪の女の子を助けた記憶がある」
「それ、私……」
「まさか、キミが……?」
「うん。あなたは私を救った後、すぐに護衛騎士に連れて行かれたけど……私、覚えてるのよ? あなたは泣きじゃくる私に手を差し伸べ、優しい笑顔を向けてくれた……私は、今も忘れられないの」
「……じゃあきみは、人間?」
「ううん。私はハーフ……人間と魔族のね。どこかの魔界貴族が人間を攫って産ませた子。生まれてすぐ私は捨てられた」
「…………」

 サリオスは、何も言えなかった。
 間違いなく、サリオスは路地裏で女の子を助けた。
 見て見ぬふりはできない。それだけの理由で飛び出したことは覚えている。
 だが、女の子の顔も名前も知らない。目の前にいるヴェンデッタがそうだと確信は持てない。

「私、ササライ様に拾われて、『闇魔剣ア・バオア・クー』の使い手に選ばれて……あなたが聖剣の使い手になってるって知った。ああ、これが運命……やっとあなたに会えると思った」
「…………」
「でも、あなた……私のこと、覚えてない。しかも、好きな人とか……やだ」
「…………う」
「ね、サリオスくん。私と一緒になろ? 私、大きくなったのよ? 身体も自信ある……あなたのしたいこと、なんでもしてあげる。魔剣が欲しいならあげるし、裏切れって言うなら裏切る。私……あなたが好きなだけの、女の子だから」
「…………」

 いつの間にか、サリオスは剣を下げていた。
 戦っていいのか、倒すべきなのか。
 
「……ヴェンデッタ」
「なに?」
「ボクは……この国の、人間のために戦う聖剣士だ。きみの想いには応えられない」
「…………」
「きみの後ろにある『吸魔の杭』を破壊させてもらう。それだけが、今の目的だ」

 ヴェンデッタをだまし、仲間に引き入れることもできた。
 想いに嘘で応え、騙し討ちすることもできた。
 でも……サリオスはできない。経緯はどうであれ、自分に対し向けてくる想いに嘘で応えることは、たとえ敵であろうとできなかったのだ。
 
「──『鎧身がいしん』」

 サリオスは、『光聖剣サザーランド・ライトオブハイロウ』を解放する。
 光輝く純白の全身鎧を装備し、サザーランドを向ける。
 それに対しヴェンデッタは、笑った。

「──……あは」

 その笑みは、狂気を孕んだ笑みだった。
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