聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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動き出す、七人の魔剣士

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 魔界。
 ササライ、トリステッツァ、バビスチェ、パレットアイズ。 
 四人の魔王が治めていた領地が一つになり、その中心地に新たな魔王国が作られた。
 忘却の魔王ササライ改め、『至高魔王ササライ』となった、魔王の中の魔王。
 魔界は『大魔帝国領地』と名を改め、大魔王国王都『シャングリラ』には、大勢の魔族が押し寄せた……これまで、ササライ以外の魔王に付いていた元・魔界貴族たちが、ササライの下で新たな魔界貴族となるべく押し寄せたのだ。

「魔族、いっぱいだね」

 シャングリラ魔王城の最上階テラスにて、『炎魔剣イフリート』を振るう七魔剣士の一人、ヴェスタが王城前に殺到する魔族たちを眺めつつ言う。
 すると、装飾の施された立派な椅子に座り、紅茶を楽しむ少女が言う。

「仕方ありませんわ。魔界貴族になれば新たな領地が貰える。今は、すべての領地がササライ様に没収された状態ですもの」

 シルバーブルーのドレス、淡いブルーのロングヘアの少女がクスっと笑う。
 傍には、いびつな形をしたレイピアが台座に載せられていた。
 氷魔剣フェンリル。ヴェスタと同じく、七魔剣士の一人であるアイシクルミューゼの剣だ。

「ね、アミュ。わたしにもお茶ちょーだい」
「仕方ありませんわね……」

 お嬢様のような雰囲気だが、意外と世話焼きなアイシクルミューゼは、ヴェスタのためにカップを用意する。すると、ドスドスと大柄で筋肉質な男が、なぜか丸太を片手にテラスへ来た。

「うわっはっは。参った参った。元侯爵級を五人も殺しちまって追い出されたわい。わっしでは試験管が務まらんと言われてしまったわ。わっはっは!!」
「グレコドローマ。お疲れ様」
「おつー、グレコおじさん、お茶飲む?」
「うむ、いただこう!!」
 
 丸太を置き、椅子の代わりにして座る大男。
 グレコドローマ。地魔剣アジ・ダハーカの使い手であり、ヴェスタはグレコおじさんと呼んでいる。
 スキンヘッドに髭面、身体はがちがちの筋肉質で、アミュに渡されたカップをグイっと飲み干すと同時に、カップを握りつぶしてしまった。

「おお、やっちまった!!」
「馬鹿力……まったくもう」
「おじさん、不器用だね」
「わっはっは!! すまんな、すまんな」

 それから、三人でお茶を楽しんでいると……テラスに二人入ってきた。
 一人は真っ黒なローブを来た瘦せすぎの少女。胸元がゆるく、胸が見えている。だがそんなことはどうでもいいのか、大きな鎌を引きずっていた。
 もう一人は、純白の鎧を装備し、真っ白な剣を腰に差した青年だ。
 ヴェスタは言う。

「おつ、アークレイにヴェンデッタ」
「ああ、ようやく審査が終わった。やれやれ、魔界貴族といっても大したことがないな」

 光魔剣トゥアハ・デ・ダナンの使い手アークレイ。七魔剣士のリーダーである彼は、さわやかな笑顔を浮かべてテラス席へ。すると、アミュがいいタイミングでお茶を出し、お礼を言って受け取った。

「新しい魔界貴族が決まれば、領地の経営も始まるだろう。ササライ様の手番が始まるまで、もう少しだ……全員、しっかり準備をしておくように」
「…………ククッ」
「ヴェンデッタ。聞いているのか?」
「…………ええ」

 漆黒の少女ヴェンデッタはうなずく。
 鎌をテラスの床に刺し、持ち手の棒部分に座ってニヤニヤしている。
 闇魔剣ア・バオア・クーの使い手である少女は、七魔剣士の中でも異端だとササライは言っていた。
 アークレイはため息を吐く。

「やれやれ。今更だが、大丈夫なのか? 七聖剣士はグレシャ島で相当な訓練を積んだと聞いているぞ。負けることはないと思うが、油断して『まさか』ということもある……」
「それは大丈夫でしょうね」

 と、最後にテラスにやってきたのは、両目を閉じながら歩いてくる『サムライ』の青年だ。
 腰には雷魔剣ホノイカヅチが差してあり、ヤマト国の衣装である着物をまとっている。すぐ後ろには風魔剣ルドラの使い手であるサスケが控えていた。

「ライハか。大丈夫とは?」
「いえ、サスケが雷の聖剣士と戦った時の話を聞く限り、問題ないということです。ねぇサスケ」
「はい。八咫烏の邪魔が入りましたが……あの時点では敵ではないでしょう。自分が戦ったアオイ・クゼの実力は、せいぜい公爵級程度。この場にいる魔剣士が負ける要素はありません」
「と、いうわけです。まぁ、訓練は続けるに越したことはないですが、ね」

 ライハこと、ライハ・ドウミョウジはクスクス笑う。
 男なのか女なのかわからない美貌だ。性別はこの場にいる誰にも明かしていない。知るのはササライだけという話もある。
 この場に、ササライの配下である七人の魔剣士がそろった。
 すると、ヴェスタは言う。

「早くエレノアと戦いたいな」

 ヴェスタはエレノアを思う。

「私は、氷聖剣の方が気になりますわね」

 アイシクルミューゼは、ユノを思う。

「…………光聖剣。アタシの闇が食べちゃう」

 ヴェンデッタは、サリオスを思う。

「……アオイ・クゼはオレの獲物だ」

 サスケは、アオイを思う。

「わっはっは!! わしは地聖剣のおなごに興味がある。相当なパワーを持つようだしの!!」

 グレコドローマは、ロセを思う。

「皆さん、気になる相手がいるようで。私は風の聖剣士ですかね……サスケが雷を相手にするなら、私が風を相手にせねば」

 ライハは、ララベルを思う。

「じゃあオレは残った闇聖剣かな。疑問に思うんだよな。闇の聖剣、光の魔剣……どちらが強いのか」

 アークレイは、スヴァルトを思う。
 そして、テラスの屋根に上って空を見上げていた白い少女、セレネはつぶやく。

「ロイ。みんな戦いたい相手が決まってる。私はみんなを援護する。あなたは七聖剣士の援護……そして最後、私との決着を」

 セレネはそう言い、拳をギュッと握りしめた。

 ◇◇◇◇◇

 ササライは、テラスの柱に寄り掛かり、七魔剣士の会話を一部始終聞いていた。
 誰も、ササライに気づかない。だがササライは笑っていた。

「いいね、実にいい。七人の聖剣士と、七人の魔剣士。そして黒きカラスに、白きハクチョウが裏で戦う……観客は、人間界、魔界の住人達。く、ふははっ……面白い、面白いよ。本当に、最高のショーになる!! あぁ~……そしてラスボスはこのボク。素晴らしい、最高すぎる……デスゲイズ、見ているかい? 始まるよ、本当の闘いが。最高のショーが!!」

 ササライは『演出家』だ。
 場をセッティングし、最高に盛り上がる舞台を心ゆくまで『観戦』し、最後においしいところをかっさらうのが大好きだ。
 新たな魔界の『仕込み』が終われば、いよいよ始まる。

「もうすぐ始めるよ。人間と魔族が奏でる、最高の『戦い』……最高の『ショー』を」

 忘却の魔王改め、『至高魔王ササライ』の手番が始まるまで、残り二十日。
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