163 / 227
ロイの憂鬱と八咫烏
しおりを挟む
結局、オルカの勘違いだった。
バビスチェの『聖域』が発動した時、ムラムラしたオルカがユイカに襲い掛かったが、ユイカが聖剣の『能力』に目覚め撃退。さすがにマズいと思ったのか、オルカを男子寮まで運んだが、聖域に当てられムラムラしてしまい、上着を脱いだところで我に返り、なんとか女子寮まで戻り引きこもってたそうだ。
エレノアからその話を聞いたオルカは、安心していた。
「よ、よかった。よかった……!!」
「うむ。安心だな」
アオイがオルカの肩をポンポン叩く。
ロイは、エレノアに聞いた。
「なぁ、ユイカの能力って?」
「『催眠』だって。半径一メートル以内の生物を強制的に眠らせるんだってさ」
「便利だな……まぁ、誤解じゃなくてよかったよ」
「あれ、どこ行くの?」
「……ちょっとな」
ロイ、アオイ、オルカの三人は、エレノアを探してショッピングモールへ来ていた。本来は外出自粛なのだが、気分転換にと出歩いている生徒は多い。
ロイはエレノアたちから離れ、一人で歩きだした。
『……どうした?』
「いや、いろいろ考えること多いよな」
『……まぁな』
ロイはショッピングモールを出て、誰もいない学園中庭へ。
ベンチに座り、大きな欠伸をして、木刀形態のデスゲイズに言う。
「なぁ、なんでお前……バビスチェに正体をバラしたんだ?」
『……あそこでバビスチェを無視することもできた。でもな……そうしたくなかった。お前は知らんだろうが、我輩と四人の魔王は、そこそこ長い付き合いがある。恨みこそあるが……死を前に、あんな顔を見せられたら……な』
「……お前も、けっこう甘いんだな」
『否定しない。だが……おかげで、ササライにバレた。パレットアイズも知るだろう。魔王を二人倒した時点でバレても構わんと思っていたが……正直、厳しい』
「は?」
『我輩の予想では、バビスチェとトリステッツァを倒した時点で、封印の半分……つまり、我輩の力の半分は戻っているはずだった。だが、まさかササライが、二人の力を吸収しているとは思わなかった。我輩の封印は未だ解除されん。五割の力が戻れば、万全な魔王二人がかりでも無傷で屠ることはできるが……』
「……おい、マズいだろ」
『ああ、マズい。我輩の存在がバレて、ササライはルールを超えた何かを仕掛けてくる。当然、我輩の殺害も目的に入っているはずだ』
「…………マジかぁ」
『ああ。それに、最後……見ただろう? エレノアの剣を受け止めた女を』
「え? ああ、あれは確か……魔剣、だったっけ。魔界貴族が何人か持ってたな」
『あの力。七聖剣に匹敵する力を感じた。炎の魔剣といったところか……恐らく、七本、七聖剣と同じ数あると思え。そして……白い鳥」
「…………」
『月光鳥』のセレネと名乗った、白い弓士。
全てがロイと正反対。明確にロイを敵視していた。
『ササライは、拘る。あいつは徹底的に『場』をセッティングし、観客気分で観戦することを何よりも好む……七聖剣士と、それを補佐する『八咫烏』に対し、七人の魔剣を使う剣士と、それを補佐する『月光鳥』……クソ、あいつの考えそうな演出だ』
「……それに、快楽の魔王もいる」
『我輩の封印も解けずじまい……そして、我輩の存在もバレた』
「……頭痛いな。あ、お前のことバレたなら、もう先輩たちに『八咫烏』のこと言ってもいいんじゃ」
『状況が変わった。やはり、お前の存在は隠しておけ』
「え、なんで」
『恐らく、ササライはそう望む。奴の演出に水を差すような真似をするのはまずい』
「……よくわからんけど、わかった」
ロイはベンチに深く腰掛け、空を見上げた。
「もっと、強くならなきゃな……」
『なに?』
「聖域を使いこなして、弓の訓練、権能の使い方もイチから見直す。あの白い女……対峙してわかった。あいつは強い」
『フン、あの程度、今のお前なら』
「あいつは俺が倒す。『狩人形態』だけで、他の権能は使わない」
『……は?』
「あいつは俺と同じ、狩人だ。俺と同じく権能を持ってるかわからんけど……あいつは弓しか使っていない。だったら俺も、その上であいつを倒す」
『お前、何を』
「譲らない。これは、俺の狩人としての意地だ」
そう言い、ロイは立ち上がる。
「俺はイチ生徒だから何もできないけど……今は、王都や学園のが大変そうだ」
『確かにな。町や施設の破壊だけなら問題ないが……バビスチェめ』
現在、王都や学園の施設復旧作業が進んでいる。
同時に……性被害を受けた者、望まず加害者になった者、時間が経てば望まぬ妊娠をする者も現れる。
それらのケアも、同時に進んでいた。
加害者は後悔し、被害者は精神的に病む者もいるだろう。
「な、忘却の魔王はまだ動かないか?」
『ああ。まず間違いなく、奴の手番が始まる前に接触がある。恐らくだが……こちらの体勢が万全になるまで、動かない可能性もあるぞ』
「親切な野郎だな……」
『……ロイ、ササライを絶対に侮るな。奴は間違いなく、最強の魔王だ』
「わかってる」
ロイはデスゲイズを腰に差し、歩きだした。
バビスチェの『聖域』が発動した時、ムラムラしたオルカがユイカに襲い掛かったが、ユイカが聖剣の『能力』に目覚め撃退。さすがにマズいと思ったのか、オルカを男子寮まで運んだが、聖域に当てられムラムラしてしまい、上着を脱いだところで我に返り、なんとか女子寮まで戻り引きこもってたそうだ。
エレノアからその話を聞いたオルカは、安心していた。
「よ、よかった。よかった……!!」
「うむ。安心だな」
アオイがオルカの肩をポンポン叩く。
ロイは、エレノアに聞いた。
「なぁ、ユイカの能力って?」
「『催眠』だって。半径一メートル以内の生物を強制的に眠らせるんだってさ」
「便利だな……まぁ、誤解じゃなくてよかったよ」
「あれ、どこ行くの?」
「……ちょっとな」
ロイ、アオイ、オルカの三人は、エレノアを探してショッピングモールへ来ていた。本来は外出自粛なのだが、気分転換にと出歩いている生徒は多い。
ロイはエレノアたちから離れ、一人で歩きだした。
『……どうした?』
「いや、いろいろ考えること多いよな」
『……まぁな』
ロイはショッピングモールを出て、誰もいない学園中庭へ。
ベンチに座り、大きな欠伸をして、木刀形態のデスゲイズに言う。
「なぁ、なんでお前……バビスチェに正体をバラしたんだ?」
『……あそこでバビスチェを無視することもできた。でもな……そうしたくなかった。お前は知らんだろうが、我輩と四人の魔王は、そこそこ長い付き合いがある。恨みこそあるが……死を前に、あんな顔を見せられたら……な』
「……お前も、けっこう甘いんだな」
『否定しない。だが……おかげで、ササライにバレた。パレットアイズも知るだろう。魔王を二人倒した時点でバレても構わんと思っていたが……正直、厳しい』
「は?」
『我輩の予想では、バビスチェとトリステッツァを倒した時点で、封印の半分……つまり、我輩の力の半分は戻っているはずだった。だが、まさかササライが、二人の力を吸収しているとは思わなかった。我輩の封印は未だ解除されん。五割の力が戻れば、万全な魔王二人がかりでも無傷で屠ることはできるが……』
「……おい、マズいだろ」
『ああ、マズい。我輩の存在がバレて、ササライはルールを超えた何かを仕掛けてくる。当然、我輩の殺害も目的に入っているはずだ』
「…………マジかぁ」
『ああ。それに、最後……見ただろう? エレノアの剣を受け止めた女を』
「え? ああ、あれは確か……魔剣、だったっけ。魔界貴族が何人か持ってたな」
『あの力。七聖剣に匹敵する力を感じた。炎の魔剣といったところか……恐らく、七本、七聖剣と同じ数あると思え。そして……白い鳥」
「…………」
『月光鳥』のセレネと名乗った、白い弓士。
全てがロイと正反対。明確にロイを敵視していた。
『ササライは、拘る。あいつは徹底的に『場』をセッティングし、観客気分で観戦することを何よりも好む……七聖剣士と、それを補佐する『八咫烏』に対し、七人の魔剣を使う剣士と、それを補佐する『月光鳥』……クソ、あいつの考えそうな演出だ』
「……それに、快楽の魔王もいる」
『我輩の封印も解けずじまい……そして、我輩の存在もバレた』
「……頭痛いな。あ、お前のことバレたなら、もう先輩たちに『八咫烏』のこと言ってもいいんじゃ」
『状況が変わった。やはり、お前の存在は隠しておけ』
「え、なんで」
『恐らく、ササライはそう望む。奴の演出に水を差すような真似をするのはまずい』
「……よくわからんけど、わかった」
ロイはベンチに深く腰掛け、空を見上げた。
「もっと、強くならなきゃな……」
『なに?』
「聖域を使いこなして、弓の訓練、権能の使い方もイチから見直す。あの白い女……対峙してわかった。あいつは強い」
『フン、あの程度、今のお前なら』
「あいつは俺が倒す。『狩人形態』だけで、他の権能は使わない」
『……は?』
「あいつは俺と同じ、狩人だ。俺と同じく権能を持ってるかわからんけど……あいつは弓しか使っていない。だったら俺も、その上であいつを倒す」
『お前、何を』
「譲らない。これは、俺の狩人としての意地だ」
そう言い、ロイは立ち上がる。
「俺はイチ生徒だから何もできないけど……今は、王都や学園のが大変そうだ」
『確かにな。町や施設の破壊だけなら問題ないが……バビスチェめ』
現在、王都や学園の施設復旧作業が進んでいる。
同時に……性被害を受けた者、望まず加害者になった者、時間が経てば望まぬ妊娠をする者も現れる。
それらのケアも、同時に進んでいた。
加害者は後悔し、被害者は精神的に病む者もいるだろう。
「な、忘却の魔王はまだ動かないか?」
『ああ。まず間違いなく、奴の手番が始まる前に接触がある。恐らくだが……こちらの体勢が万全になるまで、動かない可能性もあるぞ』
「親切な野郎だな……」
『……ロイ、ササライを絶対に侮るな。奴は間違いなく、最強の魔王だ』
「わかってる」
ロイはデスゲイズを腰に差し、歩きだした。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?
眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。
これが全ての始まりだった。
声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。
なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。
加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。
平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。
果たして、芳乃の運命は如何に?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる