155 / 227
アナタの愛こそ私のすべて・愛の魔王バビスチェ⑥/電光石火
しおりを挟む
アオイは駆ける。
腰にある日本刀形態の『雷聖剣イザナギ』からは、これまでにない力が満ちている。
聖剣レジェンディア学園の正門を飛び越え、生徒会室へ。
学園は不自然なまでに静かだ。
能力『雷命』を発動───……学生寮内で、『ふしだらな行為』をしている男女が多くいた。
アオイのように、この『桃色の霧』から逃れることができなかった生徒だろう。
アオイは認めない。
「こんなものが、愛?」
断じて違う。
愛とはもっと、尊いもの。
男であるアオイはわからない。だが、アオイの中にある女は叫んでいた。
愛とは、通じ合うこと。
「拙者には理解できない。でも……『私』にはわかった」
女を認めてくれたロイ。自分はアオイ・クゼだと……男ではない、女のアオイを認めてくれた。
男も女も合わせて、アオイ・クゼ。
兄の代わりではない。アオイ・クゼは『雷聖剣イザナギ』に選ばれた七聖剣士だ。
「行くぞ、イザナギ」
紫電が、これまでになく輝いて爆ぜた。
◇◇◇◇◇
バビスチェは、生徒会室の椅子に座っていた。
回転イスを回すと、外が見える窓がある。
バビスチェは、人差し指を立て空中をゆっくりとなぞる……すると、生徒会室の壁が綺麗さっぱり両断され、外から丸見えになった。
「フフ、来たわねぇ」
椅子に座ったまま、バビスチェは足を組んで指をしゃぶる。
妖艶なまま、敵意を抱くことも、配下を殺された恨みも持たず。
ただ、出迎える。
向かって来るアオイを、優しく『愛』で包むため。
「さぁ、いらっしゃぁ~い♪」
「───ッ!!」
部屋にいたヴェスタは感じていた。
何かが向かって来る。
恐るべき速度。手を出すなと言われたが、無意識のうちに『炎魔剣イフリート』の柄を握っていた。
だが、一瞬で身体が硬直する。
「動いたら食べちゃうわよん?」
バビスチェが、真っ黒に染まった眼で、口が裂けそうなくらい歪んだ笑みを浮かべていた。
魔王。『愛の魔王』バビスチェは、四人の魔王で最弱。
そう聞いていたが、戦う気なぞ微塵も起きない。
ヴェスタは頷き、生徒会室から出て行った。
そして───見えた。
「フフフ、アオイちゃぁ~ん♪」
両手を広げ、アオイを出迎えるバビスチェ。
優しく包み込んで、愛してあげる───……そう、思っていた。
紫電に包まれたアオイが跳躍。バビスチェに向かって飛ぶ。
◇◇◇◇◇
雷聖剣イザナギは、雷の力を持つ聖剣。
持続的な力は風聖剣に負けるが、一瞬の速度は風よりも速い。
今、アオイの速度は、雷聖剣イザナギを手にして最速だった。
「もっと、いける」
全ての想いを刀に載せ、アオイは笑う。
「何でも、斬れる」
紫電が、アオイの身体を焼く。
その熱さが、心地いい。
「行け、アオイ!!」
ロイの声が聞こえる。
これほどまでに気分が高揚するのは、人生初。
◇◇◇◇◇
『男も女もアナタ、大事なのは受け入れること。さぁ、進みなさい』
◇◇◇◇◇
「───『鎧身』」
アオイの全身を、紫色の全身鎧が包み込む。
鎧武者。肌の露出が一切ない、紫電の甲冑。手に持つのは『日本刀』だ。
雷聖剣イザナギの最終形態。『雷聖剣鎧イザナギ・九天応元雷冥普化天尊』。
その姿を見て、バビスチェの顔色が初めて変わった。
「え───っ」
「『雷命大開眼』」
全てを視る、見る、観る、診る、看る。
命を、流れを、呼吸を、感情を、動作を、筋肉を。
全ての先にあるのは、僅かな未来。
アオイの眼が、数秒先の未来を見た。バビスチェがどう動くのか、何をするのかが頭の中に流れ込んで来るのがわかる。
アオイは、『雷神聖剣イザナギノオオカミ』の柄を握る。
「フフ、最終形態なんて何時ぶりかしらぁ~」
一秒もない時間だが、バビスチェは言う。
いくら最終形態に覚醒しても、力はバビスチェが上。
未来を見ても、アオイの攻撃は届かない。
だが───アオイは言う。
「拙者は───……私は、一人じゃない!!」
◇◇◇◇◇
ロイは、エレノアたちの聖剣を叩き落した瞬間、王都に飛び込んだ。
『なっ!? おい、ここから『時空矢』で援護をするんじゃ』
「変更!! やっぱり俺も、アオイの傍で援護する!!」
『はぁ!? おい、いくら我輩の力を持っても、今のバビスチェの聖域の効果には長く抗えん!! アオイが失敗したら、お前も囚われるぞ!?』
「囚われない!! アオイは成功する。それに、俺だって援護するからな!!」
『……バカが。だが、乗ってやる!! 行け、ロイ!!』
「ああ。見てろデスゲイズ……俺とアオイが魔王にブチかます瞬間を!!」
王都内は、桃色のモヤに包まれている。
いくらデスゲイズを持っても、このモヤがロイの精神を大きくゆさぶった。
だが、ロイは走る。
全力の身体強化で向かうのは、聖剣レジェンディア学園。
ロイは見た。全身鎧のアオイが跳躍した瞬間を。
『やれ、ロイ!!』
デスゲイズを投げ捨て、ロイは両手を合わせ少しだけズラした。
「アオイ!! 行くぞ───……『魔王聖域』展開!!」
半径百メートル。ロイを中心に展開された『聖域』。
『聖剣覇王七天虚空星殿』が発動し、アオイの身体能力が七倍に、攻撃力が七倍となった。
この瞬間───アオイの力が、バビスチェを僅かに上回った。
「ッ!?」
バビスチェが驚愕。
右手を上げ、防御姿勢を取ろうとする。
だが、音もなくアオイがバビスチェを通り過ぎた。
「久世雷式帯刀剣技『極』───……『伊邪那美』」
静寂が生徒会室を包み込み───バビスチェの身体が百の斬撃でバラバラに砕け爆ぜた。
腰にある日本刀形態の『雷聖剣イザナギ』からは、これまでにない力が満ちている。
聖剣レジェンディア学園の正門を飛び越え、生徒会室へ。
学園は不自然なまでに静かだ。
能力『雷命』を発動───……学生寮内で、『ふしだらな行為』をしている男女が多くいた。
アオイのように、この『桃色の霧』から逃れることができなかった生徒だろう。
アオイは認めない。
「こんなものが、愛?」
断じて違う。
愛とはもっと、尊いもの。
男であるアオイはわからない。だが、アオイの中にある女は叫んでいた。
愛とは、通じ合うこと。
「拙者には理解できない。でも……『私』にはわかった」
女を認めてくれたロイ。自分はアオイ・クゼだと……男ではない、女のアオイを認めてくれた。
男も女も合わせて、アオイ・クゼ。
兄の代わりではない。アオイ・クゼは『雷聖剣イザナギ』に選ばれた七聖剣士だ。
「行くぞ、イザナギ」
紫電が、これまでになく輝いて爆ぜた。
◇◇◇◇◇
バビスチェは、生徒会室の椅子に座っていた。
回転イスを回すと、外が見える窓がある。
バビスチェは、人差し指を立て空中をゆっくりとなぞる……すると、生徒会室の壁が綺麗さっぱり両断され、外から丸見えになった。
「フフ、来たわねぇ」
椅子に座ったまま、バビスチェは足を組んで指をしゃぶる。
妖艶なまま、敵意を抱くことも、配下を殺された恨みも持たず。
ただ、出迎える。
向かって来るアオイを、優しく『愛』で包むため。
「さぁ、いらっしゃぁ~い♪」
「───ッ!!」
部屋にいたヴェスタは感じていた。
何かが向かって来る。
恐るべき速度。手を出すなと言われたが、無意識のうちに『炎魔剣イフリート』の柄を握っていた。
だが、一瞬で身体が硬直する。
「動いたら食べちゃうわよん?」
バビスチェが、真っ黒に染まった眼で、口が裂けそうなくらい歪んだ笑みを浮かべていた。
魔王。『愛の魔王』バビスチェは、四人の魔王で最弱。
そう聞いていたが、戦う気なぞ微塵も起きない。
ヴェスタは頷き、生徒会室から出て行った。
そして───見えた。
「フフフ、アオイちゃぁ~ん♪」
両手を広げ、アオイを出迎えるバビスチェ。
優しく包み込んで、愛してあげる───……そう、思っていた。
紫電に包まれたアオイが跳躍。バビスチェに向かって飛ぶ。
◇◇◇◇◇
雷聖剣イザナギは、雷の力を持つ聖剣。
持続的な力は風聖剣に負けるが、一瞬の速度は風よりも速い。
今、アオイの速度は、雷聖剣イザナギを手にして最速だった。
「もっと、いける」
全ての想いを刀に載せ、アオイは笑う。
「何でも、斬れる」
紫電が、アオイの身体を焼く。
その熱さが、心地いい。
「行け、アオイ!!」
ロイの声が聞こえる。
これほどまでに気分が高揚するのは、人生初。
◇◇◇◇◇
『男も女もアナタ、大事なのは受け入れること。さぁ、進みなさい』
◇◇◇◇◇
「───『鎧身』」
アオイの全身を、紫色の全身鎧が包み込む。
鎧武者。肌の露出が一切ない、紫電の甲冑。手に持つのは『日本刀』だ。
雷聖剣イザナギの最終形態。『雷聖剣鎧イザナギ・九天応元雷冥普化天尊』。
その姿を見て、バビスチェの顔色が初めて変わった。
「え───っ」
「『雷命大開眼』」
全てを視る、見る、観る、診る、看る。
命を、流れを、呼吸を、感情を、動作を、筋肉を。
全ての先にあるのは、僅かな未来。
アオイの眼が、数秒先の未来を見た。バビスチェがどう動くのか、何をするのかが頭の中に流れ込んで来るのがわかる。
アオイは、『雷神聖剣イザナギノオオカミ』の柄を握る。
「フフ、最終形態なんて何時ぶりかしらぁ~」
一秒もない時間だが、バビスチェは言う。
いくら最終形態に覚醒しても、力はバビスチェが上。
未来を見ても、アオイの攻撃は届かない。
だが───アオイは言う。
「拙者は───……私は、一人じゃない!!」
◇◇◇◇◇
ロイは、エレノアたちの聖剣を叩き落した瞬間、王都に飛び込んだ。
『なっ!? おい、ここから『時空矢』で援護をするんじゃ』
「変更!! やっぱり俺も、アオイの傍で援護する!!」
『はぁ!? おい、いくら我輩の力を持っても、今のバビスチェの聖域の効果には長く抗えん!! アオイが失敗したら、お前も囚われるぞ!?』
「囚われない!! アオイは成功する。それに、俺だって援護するからな!!」
『……バカが。だが、乗ってやる!! 行け、ロイ!!』
「ああ。見てろデスゲイズ……俺とアオイが魔王にブチかます瞬間を!!」
王都内は、桃色のモヤに包まれている。
いくらデスゲイズを持っても、このモヤがロイの精神を大きくゆさぶった。
だが、ロイは走る。
全力の身体強化で向かうのは、聖剣レジェンディア学園。
ロイは見た。全身鎧のアオイが跳躍した瞬間を。
『やれ、ロイ!!』
デスゲイズを投げ捨て、ロイは両手を合わせ少しだけズラした。
「アオイ!! 行くぞ───……『魔王聖域』展開!!」
半径百メートル。ロイを中心に展開された『聖域』。
『聖剣覇王七天虚空星殿』が発動し、アオイの身体能力が七倍に、攻撃力が七倍となった。
この瞬間───アオイの力が、バビスチェを僅かに上回った。
「ッ!?」
バビスチェが驚愕。
右手を上げ、防御姿勢を取ろうとする。
だが、音もなくアオイがバビスチェを通り過ぎた。
「久世雷式帯刀剣技『極』───……『伊邪那美』」
静寂が生徒会室を包み込み───バビスチェの身体が百の斬撃でバラバラに砕け爆ぜた。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる