聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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魔界貴族侯爵『鳴氷』のエルサ・魔性化態①/女子の戦い

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「…………どう?」
「まだ休んでる」

 エレノア、ユノの二人は、王都内にある空き家にいた。
 スラム街だろう。粗末な作りの平屋で、窓が一つ、ドアが一つしかない家だ。家というよりは物置小屋だろう。
 ロセの『地聖剣』で建物の周りを岩で覆い、ララベルの『風聖剣』で空気を浄化して取り込んでいる。今、この場所だけバビスチェの『聖域』に侵されていない空間となっていた。
 エレノアは窓から離れ、椅子に座る。

「……一晩、経っちゃいましたね」

 声を掛けたのは、ロセ。
 交代で睡眠を取ったが、ロセは少し眠そうだ。

「そうねぇ……」
「ちょっと、辛気臭い顔しないでよ。やるべきことは決まってんでしょ」

 ララベルが足を組む……下着が丸見えの状態だが気にしていない。

「あのデカい蝶を倒す。あいつ……一晩かけて、王都上空を旋回してた。鱗粉まき散らして、まるで罠張ってるみたいに……」
「魔王もいる。他にも敵がいるかも……」

 ユノが言うと、エレノアが言う。
 
「とりあえず、あの蛾を倒す方法、考えないと」

 ◇◇◇◇◇

 四人は椅子に座り、対策会議と現状について話す。

「とりあえず、わかってるのは……王都がめちゃくちゃヤバいってこと」

 ララベルが簡潔に言うと、エレノアがウンウン頷く。

「えっと、その……そこらじゅうで、えっちな声とか聞こえるのよね」
「これ、知ってるわ。『愛の魔王』バビスチェが使う手……愛の魔王は、直接的な攻撃じゃない。精神系の力で、ヒトを操るのを得意としてるみたいねぇ」
「わたし、聞いたことある。フレム王国が昔、愛の魔王にやられたって」

 ユノが挙手して言う。
 
「魔王の力で国中がえっちな気分になって、子供いっぱい生まれたみたい」
「……なにそれ」

 エレノアが首を傾げる。
 可愛らしく言うが、実際は恐ろしいことだ。
 望まぬ愛の営みによって子が生まれたり、貴族も王も構わず営み、国そのものの運営が成り立たなくなるくらい欲にまみれ……最後は、魔界貴族たちによる国の支配。
 戦争が起き、レイピアーゼ王国と戦争寸前までいったらしい。幸いなことに、当時の七聖剣士たちが命懸けで止めたようだが。
 ロセは言う。

「うう……虫」
「アンタ、好き嫌いしてる場合じゃないからね」
「わ、わかってるわよ!! もう、山育ちのあなたはいいけど……」
「アンタは地面暮らしじゃない。ドワーフの地帝王国。モグラいっぱい出るんでしょ? 餌だってミミズとかでしょうが」
「ち、違うわよ!! 餌はちゃんとしたパンとか、お野菜とかだもん!!」
「地底なのに?」
「王国は地底だけど、お野菜とか牧場はちゃんと地上にあるの!!」
「あ、あの~……言い争いしてる場合じゃ」

 エレノアがソロソロと挙手。ロセとララベルがハッとして咳払いした。
 
「仲良し」

 ユノがそう言い、ようやく話が本筋に戻る。
 ロセがもう一度咳払いをすた。

「さて、まずやるべきことは、あの魔界貴族が変身した『蝶』を倒すことね。ララベル、どう思う?」
「そうねぇ……今、王都に鱗粉みたいなの撒いてるみたい。どういう効果あるのか知らないけど、あの……なんだっけ? 『鳴氷』だっけ。あいつの氷で、王都を固めちゃうとか」
「に、逃げられないように……ですよね」

 エレノアがごくりと唾を飲み込む。
 すると、ユノが言う。

「おかしい。あんな怪物が空を飛んでるのに、住人が誰も騒いでない」
「恐らくだけど……この桃色みたいな、妙な空間が『洗脳』効果があるのかも」
「これに触れると戦意が喪失しちゃいますよね……」
「ある程度は、アタシの『風』で身体を包んで吹き飛ばせる。でも、風を維持しながらだと、ろくな技が使えない。戦うのは、アンタら三人に任せることになるわね」
「わたし、やる」

 ユノが力強く頷いた。
 三人がユノを見る。

「あいつの氷、わたしには溶かせなかった……わたし、あいつの氷には負けたくない。エレノア、ロセ先輩、わたしが前に出るから、サポートして」
「前に出る、って……あんなデカいの、どう戦うのよ」
「背中に飛び乗る。ここから一番高い建物に誘導して」
「ここから一番だと……『見晴台』かな?」

 見晴台。
 トラビア王国の観光名所の一つで、王国を見渡すことのできる塔だ。
 長い螺旋階段を上り、塔の頂上から見渡す景色はまさに絶景。
 エレノアはウンウン頷いた。

「一度登ったことあるけど、身体強化使わないとキツイのよねー」
「あそこに誘導して。わたし、てっぺんから飛び降りてあの蝶の背中に飛び移る」
「ユノちゃん……一人で戦うつもり?」
「ううん。みんなと一緒だよ。エレノア、ロセ先輩が誘導して、ララベル先輩は風のサポート。わたしが背中であいつの核を壊す」
「「「…………」」」

 ユノは満足そうに微笑んでいた。
 三人は顔を見合わせる。

「ま、いいんじゃない? ユノなら倒せる気がするわ。それに、ダメでもアタシがいるし」
「ふふ、そうね。頼れるお姉さんの力、見せなきゃね」
「あたしだってやりますから!! ユノ、アシストは任せなさい!!」

 エレノアがドンと胸を叩くと、大きな胸が揺れた。
 ユノは満足そうに微笑み、氷聖剣フリズスキャルヴをテーブルに置く。

「七聖剣士、女子の部だね」
「ふふふん。スヴァルトやサリオス、アオイには悪いけど、女子の力見せてやろうじゃない。ね、ロセ」
「そうねぇ。頑張りましょっか」
「はい!! うっし、燃えて来たかも!! あの蛾、焼き尽くしてやる!!」
「エレノア、あれ蝶だよ。それと焼き尽くしたらわたしも燃えちゃう」

 エレノア、ユノ、ロセ、ララベル。
 四人の七聖剣士はそれぞれ聖剣を合わせ、共闘を誓い合った。
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