聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

文字の大きさ
上 下
133 / 227

愛の支配③/現れし時

しおりを挟む
 アオイは、校舎内を隠れながら進んでいた。
 腰には『短刀』形態の雷聖剣イザナギがある。狭い場所で振るう、暗殺型の形態だ。
 いざという場合に、校舎内でも振りやすい大きさにした。
 そして、常に『雷命』を発動させ、周囲の気配を探る。
 生物なら『生体電流』が流れている。アオイは、半径数百メートル以内なら、どんな生物でも感知することが可能だった。
 現在、校舎内に人は数えるほどしかいない。

「不審者……クソ、どういうヤツが不審者なのだ?」

 アオイは焦っていた。
 ロイが七聖剣士と戦い、周囲の目を引いている間。アオイは学園内を探り、魔界貴族が動く瞬間を探る。デスゲイズ曰く、『間違いなく学園内に魔界貴族がいる。偽のロイと、それ以外に』というのだ。
 だが、わからない。

「偽のロイ殿……こいつを探る」

 これしかない。
 そう思った瞬間、アオイの方に向かって走る人間を感知した。
 アオイは近くの空き教室に飛び込む。すると、反対側からも三人、こちらに向かってきた。

「あ、サリオス!!」
「エレノア、ユノ!! ちょうどよかった、手を貸してくれ。中央に魔界貴族が現れた。先輩たちが戦っている!!」
「わかった。ユノ、行くよ!!」
「うん。『ロイ』は隠れてて」
「あ、ああ。気を付けろよ」

 アオイの口元が歪んだ。
 まさか……この場に、『ロイ』がいるとは。
 エレノアたち三人は、ロイが戦っている中央に向かって走り出す。
 『ロイ』は、小さく息を吐いた。

「さーて……」

 『ロイ』が動き出した。
 今のアオイは『気配』を奪われている。ここにいることは気付かれていない。
 さらに、アオイは聖剣士としての訓練で、『暗殺者』の訓練も受けている。呼吸数を減らし、周囲の物と同化するように、存在を希薄化させる。
 『ロイ』は言った。

「外で暴れてるみたいだけど、何考えてるのかなー」

 女の声だった。
 『ロイ』ではない。
 すると、別の声がした。

「タイガ、こっちこっち」
「あ、シェンフー」
「そろそろ次の段階に移るって、アンジェリーナが言ってるよ。ふふ、校内すっごいことになるよ? 不純異性交遊!! くふふっ」
「なに始まるの?」
「愛を解放するって。男は飢え、女は欲情する聖域。バビスチェ様、子供たちに『愛』を振りまきたいんだってさ」
「じゃあ、この姿は終わり?」
「うん。八咫烏、変わり者の聖剣士ってことでみんな納得したみたい」
「ふーん。こいつの聖剣、けっこうすごい能力みたいだけど。デスゲイズっていう聖剣みたい」
「デスゲイズ? 変な名前ー」
「使い道あるかもだし、姿だけは覚えておくね。じゃ、行こっか」
「うん」

 気配が移動を開始した。
 アオイは、『雷命』で二人をマークする。
 生体電流の流れは同じになることはない。だが、この二人は全く同じだった。

(反撃開始だ……!)

 アオイは、暗殺者の如く動き出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイは、七聖剣士三人を相手に互角以上に戦っていた。
 まず……全ての攻撃を回避、受け流している。

「こ、コイツ……避けるのめっちゃ上手いし!! ぜんっぜん当たんない!!」

 ララベルが双短剣を構え、肩で息をする。
 スヴァルトも、鎖鎌を振り回しつつも呼吸が荒い。

「間違いなく公爵級だ。だが、嘆きの魔王の次は『愛の魔王』の手番だろ? おかしい……愛の魔王の手下は全員、女だったはずだ」

 ロセは、大戦斧を手に首を傾げる。

「それに、妙ねぇ? この魔族……私たちの攻撃を全て躱すけど、攻撃の手が弱い。魔法も使わないし、決め手に欠ける攻撃ばかりねぇ?」
『…………』

 本気で攻撃したら、先輩たちが怪我するからですよ。
 ロイはそう言いたかったが、言えない。
 というか、ロセたちが強くて攻撃に回れない。いや、回れるが手加減ができないという。
 すると、さらに厄介な事態になった。

「『灼炎楼・一閃』!!」
「!!」

 ロイはエレノアの斬撃を跳躍して躱す。
 すると、背後にユノがいた。

「『水祝』」
「ッ!!」

 ユノが二人いる。
 背後にいたユノではなく、斜め後ろにいたユノだ。
 サリオスが『光』の屈折で、ユノの位置をずらしていたのだ。
 斜め後ろから水が迫る。
 ロイは水に矢を放ち、その全てを奪った。

「えっ」

 ロイの手にある小さな矢に、ユノの水が全て封じられている。

『敵にすると本当に面倒な連中だ。アオイがいないのが救いだな……ロイ、全員と敵対した場合の模擬訓練として戦ってみろ』
(無茶言うな……!!)

 エレノア、ユノ、サリオス。
 ロセ、ララベル、スヴァルト。
 アオイを除いた七聖剣士が、ロイを包囲する。

『ふふ、成長したな。こうして対峙するとわかる』
(んなこと言ってる場合か!! さすがに、これだけの数……)

 逃げるか、戦うか。
 ロイは決めた。
 ユノの『水』が入っている矢を上空に発射。すると、解放された水が雨のように降り注ぐ。
 一瞬だけ気を取られた六人。その隙に、ロイは本気でその場から離脱した。

「は、速い……ッ!?」
「見て、あそこ!!」

 ロイは物置小屋の屋根に。
 そして、そのまま建物の裏に消え、全速力で走り出した。

『どこへ行く?』
「とにかく逃げる!! アオイの気配を探しつつな!!」
『む、来たぞ。やはり熱を感知するエレノアは、お前の居場所を瞬時に見つけたようだ』
「くっそ、エレノアのやつ……俺が八咫烏だって気付けよ!!」
『認識を変えられている。む……見ろ、それだけじゃない』
「え?」

 ロイのすぐ後ろにいたエレノアが急停止し、胸を押さえた。
 そして、追いついたユノ、ロセ、ララベル、サリオス、スヴァルト。
 全員が、胸を押さえ呼吸が荒い。

(な、何だ……?)
「は、はっ、は、はっ……な、なに、これ……あ、アツイ」
「ぅ、ぅ……」

 エレノアとユノが、顔を真っ赤にして腰を抜かした。
 サリオスも、フラフラしながら膝をついてしまう。
 ロセは、フラフラしながらスヴァルトに寄り掛かり、ララベルもスヴァルトに寄り掛かる。

「ぅ、ぁ……」
「っぐ、お、お前ら……よ、寄るな、ヤバい」
「あ、ぅ……あ、す、スヴァルト……」

 明らかに、異常事態だ。
 ロイは思う。

「まさか、ネルガルのような『疫病』が……!?」
『……違う。これは』
「は、離れろ!! クソ、サリオス、来い!!」
「うぁっ」

 スヴァルトは、サリオスの襟を掴んでどこかへ消えた。
 そして、エレノアたちは、ぐったりしながら涙目でロイを見た。

「や、やだぁ……なに、これぇ」
「うぁぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……く、ぅ」
「ぁぁ~……」

 艶めかしい声、仕草、表情だった。
 思わずロイは顔をそむける。
 すると、デスゲイズが言う。

『発情している。メスの香りだ』
「……は?」
『なるほどな。第三の聖域は、女を発情させ、男を狂わせる聖域か……バビスチェめ、相変わらず最低な趣味だ。ロイ、早くこの聖域を解除しないと、こいつらはオスを求めて動き回るぞ』
「なっ」
『愛。それがバビスチェの存在意義……愛は全てを狂わせる。そうやって、バビスチェは人間の国をいくつも滅ぼしてきた』
「…………」
『認識を変えれば、愛する男以外の男を受け入れ、感情を増幅させれば本能に抗えない。どうする、ロイ』
「…………決まってるだろ」

 ロイは、矢を四本同時に発射。
 エレノアたちに刺さり、ロイの手元へ戻ってくる。
 すると、エレノアたちは呆然としたまま、フラフラ立ち上がった。

『感情を奪ったのか……』
「やりたくない。やりたくなんてない!! でも……こうするしかなかった。ちくしょう!!」

 そして、二撃目の矢で意識を奪い、近くの藪にエレノアたちを隠した。

「聖域を解除したら起こしに来る。それまで待っててくれ」

 ロイは、エレノアとユノの頭をそっと撫でる。
 そして、アオイがいる校舎に視線を向けた。

「アオイもヤバいかもしれない。デスゲイズ、急ぐぞ!!」
『ああ。バビスチェ……本当に厄介な相手だ』

 ロイは、全速力で走り出した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...