聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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愛の眷属

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 トラビア王国にある、ありふれた宿。
 王都の中心からやや外れた位置にある、小さくはないが大きくもない宿屋。
 ここに、『愛の魔王』バビスチェはいた。
 宿屋の扉には『貸し切り』という張り紙がしてある。この程度の大きさの宿を貸し切るのは、王都の中~上級クラスの商人ならよくあることだ。
 まさか、四大魔王の一人が貸し切っているなど、誰も思いもしないだろうが。
 バビスチェは、バスローブ姿で、タオルで濡れた髪を拭き、鼻歌を口ずさみながら部屋に戻ってきた。

「~♪」
「ご機嫌だね、バビスチェ」
「あらササライ。来ていたの?」

 バビスチェが私室として使っている、宿で一番上等な部屋。
 高級一歩手前、という感じのソファにササライは座り、テーブルにあったボードゲームの駒を手に取り、指で弄んでいた。

「あのさ、今さらだけど……これ、ルール違反じゃないの?」
「え?」
「パレットアイズが王都を攻めただろ? 次のパレットアイズの手番まで、ここは手番で選んじゃダメじゃないか?」
「ふふ。それなら心配いらないわ。私が狙うのは王都じゃない。聖剣士だから」
「えぇ?」
「国、住人じゃなくて、聖剣士だけを狙う。ふふ、たまにはこんなヤリ方も面白いんじゃない?」
「じゃあ、ルール追加?」
「ええ。『国ではなく聖剣士を狙う場合は関係なしに狙える』……ルール、追加ね」
「トリステッツァが死んで魔王は三人になったけど、まだまだ退屈しなそうだね」

 ササライは、駒を指で弾く。
 ボードの上で駒が倒れた。

「で、八咫烏を狙うの?」
「ええ」
「…………まぁ、キミの手番だしね」
「あら、アナタがヤリたかったの?」

 バビスチェはバスローブを脱ぎ全裸になる。
 ササライは異性だ。だが、そこに羞恥心はない。
 ササライも、バビスチェの全裸に何かを感じることはなかった。
 バビスチェは、尻尾を揺らしながら、ワインを開けてグラスに注ぐ。

「八咫烏」

 そう言い、グラスを揺らす。

「あの子には、何かがある。ただの聖剣士じゃない……ふふ、七聖剣以外にも、魔王を殺す手段があるとしたら?」
「……『あの女』が残した、隠された兵器の可能性かもねぇ」

 ササライは、ボードの上にある駒を全て倒す。
 そして、ボードを指でトンと叩くと、全ての駒が起き上がった。

「ねぇ、バビスチェ」
「ん~?」
「トリステッツァが死んだ今……ボクらも、考えないといけないかもね」
「何を?」
「遊びさ。このまま、人間たちをからかって悠久の時間を過ごすのも悪くはないと思ってたけど……人間は成長する。もしかしたら、数百、数千年後に、ボクらを滅ぼす力を完璧にして手に入れるかもよ?」
「それはつまり、人間を滅ぼすってこと?」
「うん。あの女……リアライブが残した『聖剣』は、やっぱり脅威ってことさ。八咫烏にちょっかい出すのもいいけどさー」
「……ササライ。教えてあげる」

 ササライを遮り、バビスチェが言う。

「トリステッツァが領域内で『魔性化』したのは確実だけど……それ以外に、トリステッツァから妙な反応があったのよ」
「そういやキミ、トリステッツァを監視してたんだっけ」
「ま、完璧じゃないけどね。『聖域』内では、私の力はほとんど散るから。で……その妙な反応だけどね、どうも『聖域』の気配を感じたの」
「……はぁ?」
「トリステッツァの聖域内で、誰かが『聖域』を展開した可能性があるわ」
「…………それ、マジで言ってる?」
「ええ。魔族の誰かが裏切った可能性があるわね。それも、聖域を展開できるほどの魔族が」
「公爵級以上、ってことかい?」
「ええ……単純に考えるとぉ」

 バビスチェはササライを見る。
 パレットアイズと、トリステッツァの公爵級は死んだ。
 つまり、一番怪しいのは。

「…………ボクを疑ってる?」
「そこまでじゃないわ。あなたの部下に裏切り者、いない?」
「…………ま、いいや。調べてやるよ。他に手掛かりは?」

 バビスチェは肩をすくめた。
 つまり、手掛かりはこれだけ。

「やーれやれ。ほんと、面倒なことになりそうだね」
「同感。でも……私の手番ではっきりさせるわ。八咫烏……あの子が現れてから、全てが狂い始めた」

 八咫烏。
 八咫烏が現れてから、パレットアイズは死のギリギリまで追い詰められ、侯爵級や公爵級がバンバン死に、聖剣士たちが異常に成長し、トリステッツァが死んだ。
 八咫烏には、何かがある。
 それが、バビスチェの出した答えだった。

「さぁ~て……さっそく、遊びの支度をしなくちゃネ」

 バビスチェはササライにウインクし、裸のまま部屋を出た。

 ◇◇◇◇◇

 バビスチェは、隣の部屋へ。
 ドアを開けると、ベッドで絡み合うように眠る五人の女たちがガバッと起き上がった。
 ちなみに、全員が裸である。

「「「「バビスチェ様ぁ!!」」」」
「はいはい。みんな、お仕事の時間よぉ~♪」
「はい!!」

 四人を押しのけて最初にベッドから降りたのは、十七歳ほどの少女だった。
 桃色のショートヘアで、真っ白な角が二本生え、顔には赤い稲妻のような刺青が刻まれている。背中には小さな翼が生え、長いツルツルの尻尾が生えていた。
 魔界貴族侯爵『夢魔むま』のスキュバ。
 スキュバは、バビスチェの胸に顔を埋める。

「何しますぅ? 前の手番でヤッたみたいに、男同士をひたすら狂わせてガンガンヤるようにしちゃいますぅ? でもアレキモイだけで楽しくなかったけどぉ……おっぶ!?」

 スキュバを押しのけたのは、白いロングヘアの少女。
 病的なまでに髪も、肌も白い。瞳は赤く、かなりやせ細っていた。だが、バビスチェを見つめる目は潤み、歓喜に包まれている。
 魔界貴族侯爵『凍鳴とうめい』のエルサ。

「……なんでもします。私みたいな氷の女でもできることなら」
「うんうん。エルサちゃんにもお仕事あるよ?」
「バビスチェ様……うっげ!?」

 エルサを蹴とばしたのは、双子の少女。
 全く同じ顔、同じ髪型、同じ特徴を持つ少女だった。
 黄色いツインテール、ギザギザの歯、虎のようなまだら尻尾に、頭からはケモミミが生えている。
 魔界貴族侯爵『姉虎』のタイガ。
 魔界貴族侯爵『虎妹』のシェンフー。
 二人は、全く同じ動きをして、バビスチェにくっつく。

「「バビスチェ様、お仕事やるの?」」
「ええ、そうよぉ?」
「「えへへっ、今度もたくさん遊べるの?」」
「ええ。きっと楽しいわよぉ?」

 双子の少女は互いに顔を見合わせ、ハイタッチ。
 すると、薄水色のストレートヘアの少女が、裸のまま跪いた。

「我が主。ご命令を」

 魔界貴族公爵『薔薇騎士レディ・ローズ』アンジェリーナ。
 バビスチェを守る騎士であり、側近にして愛人である。
 バビスチェは双子の頭を撫でて離れ、アンジェリーナの顎をくいッと持ち上げる。

「私の騎士。最初のお仕事をあげる」
「はっ」
「まず、全員に服を着せて、朝食を食べなさい。デザートはフルーツ系ね? ああ、それと熱い紅茶を淹れてちょうだい」
「かしこまりました」
「その後───みんなにお話するわ。私たちの『手番』について」

 バビスチェが言うと、五人の魔界貴族たちはニヤリと笑った。
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