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涙が奏でる哀歌・嘆きの魔王トリステッツァ⑦/涙落

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「さて……」

 トリステッツァは、剣を構えるエレノアたちに手を向ける。
 それだけで、エレノアたちは冷や汗が止まらない。
 魔王。人間界に侵攻を続ける魔族たちの王。
 四人の王の一人が、目の前にいるのだ。
 だが───パレットアイズの時とは違う。絶望を感じることなく、剣を構え、立つことができる。
 エレノアは、『炎眼ヘスティア』でトリステッツァを見る。

「……なに、こいつ」
「エレノア?」
「気を付けて。こいつ……体温が、ほとんどない」

 トリステッツァの体温は、雪や氷と同程度。
 魔族の平均体温などエレノアは知らないが、トリステッツァが異常ということはわかる。
 すると、トリステッツァが手をグッと握った。

「『落涙の聖少女ラクリマ』」

 トリステッツァの握った拳が開かれると、手から水色の液体が滴り落ちる。
 そして、雪と混ざり合い、氷の彫像が現れた。
 彫像は、エレノアやサリオスと同じほどの大きさで、美しい少女の姿をしている。
 彫像に色が混ざり合い、青い肌を持つ少女となった。

「さぁ、やりなさい」
『───』

 少女こと『ラクリマ』が動き出す。
 手には氷の剣が二本。二刀流だ。

「下がれ!!」

 サリオスが、双剣を手に飛び出す。
 そして、ラクリマの剣を双剣で受けた。

「ぐっ……」
「サリオス!!」
「オレはいい!! そっちを頼む!!」

 目の前には、トリステッツァ。
 ユノが飛び出し、エレノアは『熱線砲』を構え向ける。
 ユノはチャクラムを一つ投げた。
 トリステッツァは首を傾けてチャクラムを躱し、ユノはチャクラムで空間を斬りつける。

「『水祝みずいわい』」

 空間が裂け、水が噴き出した。
 ユノがレイピアで水を斬りつけると、一瞬で氷となる。
 さらに、大剣で氷を叩き割ると、氷塊となりトリステッツァに降り注いだ。

「ふむ……」

 トリステッツァは、軽く手を振るう。
 それだけで、飛んでくる氷塊が蒸発した。

「なっ」
「まだまだぁ!!」

 驚くユノ。
 だが、エレノアは熱線砲をトリステッツァに向ける。

「『灼炎楼しゃくえんろう熱線砲華ねっせんほうか』!!」

 赤い光線がトリステッツァに向かい飛ぶ。
 トリステッツァは、気だるそうに舌打ちをした。

「……炎聖剣」

 かつて、トリステッツァを追い詰めた炎の聖剣。
 その剣が、今こうして、新しい使い手の元でトリステッツァに向けられる。
 トリステッツァは、人差し指を立てた。

「『絶氷涙プレジア』」
「───なっ!?」

 人差し指で涙を拭うと、その涙が凍り付く。
 それを光線に向けると、凍った涙と光線が直撃。光線が弾かれ、霧散した。

「うそ……」
「そんなものかね?」
「グ、ぁッ!?」

 バキン!! と、サリオスがラクリマに弾き飛ばされた。
 双剣が片方飛ばされ、回転して地面に突き刺さる。
 ラクリマは、無表情でサリオスの喉を切り裂こうと剣を振るう。

「───まだ、まだ」

 まだまだ。
 サリオスは諦めない。
 残った一本の剣を構え、本気で叫んだ。

「まだまだ!! うぉぉぉっ!!」

 すると、サリオスに応えるかのように剣が発光する。
 弾かれた双剣の一本がサリオスの元へ飛び、形状が変わる。
 刀身が折れ、手持ち部分となり、柄が広がり、淡い光が広がった。
 そして、もう片方の剣の刀身にも光のラインが走る。

「だあぁっ!!」

 ガキン!! と、ラクリマの剣を受け止めたのは……『光盾ビームシールド』だった。そして、盾で受け止め隙ができたのか、もう片方の『光剣ビームソード』でラクリマを両断する。
 新たな変形、『剣と盾ソード&シールド』を獲得した瞬間だった。
 ラクリマが消滅する。

「ほう……」
「エレノア、ユノ!!」
「うん!!」
「わかった」

 サリオス、エレノア、ユノ。
 剣と盾、バーナーブレード、レイピアを持ち、未だ動かないトリステッツァに迫る。
 動ける、剣を振れる。
 魔王を倒す。それだけを考えて。

「『シャイニング・アトラス』!!」
「『灼炎楼・六歌仙ろっかせん』!!」
「『氷棘突レイジダーツ』!!」

 斬撃、連続斬り、連続突きが同時に放たれる。
 トリステッツァはそれでも、一歩も動かない。
 ゆっくりと、一筋の涙を流し、それが地面に落ちた。

「泣け、《涙の女神テューラ》」
「「「ッッ!!」」」

 上空から降り注ぐのは、強酸の涙。
 トリステッツァの真上から、大きな強酸の涙が落ちて来た。
 巻き込まれる。
 溶けて死ぬ。
 だが───三人は、止まらない。
 なぜなら、見えたから。

「『地帝ドワーフ』!!」

 巨大な斧を地面に突き立てるロセ。
 それを思い切り引き抜くと、斧の刃に砕けた《地面》が丸ごと突き刺さっていた。
 そして、ロセは回転し、地面が付いた斧をぶん投げた。

「『ダイナミックショット』!!」

 斧と地面が回転し、強酸にブチ当たる。
 強酸が霧散し、トリステッツァは「おお」と驚いた。
 そして、トリステッツァの身体に三本の剣が突き刺さる。
 サリオスの剣が肩に食い込み、エレノアの剣が胸に突き刺さり、ユノの剣が全身に穴を空けて腹に刺さった……だが。

「くっ……いい、実にいい」

 トリステッツァは、泣いていた。

「なんで!? か、核……心臓に、あたしの剣、刺さってるのに!?」

 エレノアは驚愕。
 バーナーブレードは確かに、心臓に刺さっていた。
 だが、トリステッツァは首を振る。

「ネルガルの核は魔族で最硬度なのは違いない……だがね、核を守る方法なんて、いくらでもある。詳しくは言わないけど、ね」
「くっ……だったら」

 サリオスに微笑みかけ、首を振る。

「きみたちは確かに強い。でも……まだ、届かない。私には、その刃は届かないよ」
「あ、あれ……!?」

 エレノアたちの身体が動かない。
 そして、目の前にいるトリステッツァが砕け散る。
 いつの間にか、エレノアたちの背後にトリステッツァは立っていた。

「冰で作った偽物だ。すまないね……あまりにも弱いキミたち相手に戦うには、十分だと思った」
「くっ……」
「さて、どうし「死ね」

 次の瞬間、トリステッツァの背後にいたスヴァルトが、トリステッツァの首を鋸剣で両断した。
 頭が転がるが、すぐに血が凍り、切断面から氷の鎖が伸び、首がくっついた。

「今のはよかった……気付かなかったよ」
「チッ、っバケモンが!!」
「せ、先輩……」
「オラ、おめーら気合入れろ!! 相手は魔王だぞ!?」

 エレノアたちの身体が動き出す。
 ロセも合流し、五人の七聖剣士たちが剣を構える。

「…………」

 トリステッツァは、懐かしんでいた。
 かつて、自分を追い詰めた聖剣士も、五人いた。
 
「かつての再現だ……ふふ、これも運めっ」

 ドズッ!! と、トリステッツァの側頭部に『矢』が刺さる。
 トリステッツァの眼がグルンと回転。
 完全な不意打ちに、トリステッツァの意識がほんの少しだけ飛んだ。

「今ァァァァァァァァァァ!!」

 スヴァルトが叫ぶ。
 五人は同時に、自身最強の技を放った。

「『灼炎楼・十二神将』!!」
「『氷神月ニブルヘイム』!!」
「『シャイニング・エターナル』!!」
「『地帝ドワーフビッグバン』!!」
「『闇狂やみぐるい逢魔牙時おうまがとき』!!」

 五色の輝きが、トリステッツァを飲みこんだ。
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