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涙が奏でる哀歌・嘆きの魔王トリステッツァ①/涙の女神
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会議が終わり、ロイとエレノア、サリオス、ロセ、スヴァルトは城の外へ出た。
サリオスは、エレノアとロイに言う。
「挨拶が遅れたけど、ボクたちも来たんだ。一緒に戦おう」
「ええ。心強い!!」
「それと……ロイ、きみも」
「あ、ああ」
サリオスは、ロイにも微笑んでいる。
すると、サリオスの後ろからヒョコッとロセが顔を見せた。
「エレノアちゃん、ロイくん、久しぶりだねぇ」
「ロセ先輩! あの、怪我したって聞きましたけど……」
「大丈夫! 治療系の聖剣士さんに、治してもらったから。ふふ、ありがとね、エレノアちゃん」
「えへへ……」
「それと、ロイくんも、こんにちは」
「こんにちは、ロセ先輩」
「……あれ? ロイ、ロセ先輩と知り合いなのかい?」
「ああ、まあ」
「オイオイオイオイ」
と───サリオスの肩をガシッと掴み、無理やり組む男。
スヴァルトは、手をパタパタさせながら言う。
「仲良しゴッコはここまでにしとけや。ロセ、サリオス、エレノア、公爵級ブチのめす計画立てるぞ。雑魚のガキ、テメーは消えな」
「スヴァルト!! あなた、言い方ってものが!!」
「うっせデカ乳。揉むぞ」
ロセは胸を隠しサリオスの背後へ。
エレノアもムスッとするが、むしろロイには好都合だった。
ロイは、エレノアに小さく言う。
「俺は独自に動く。心配すんな、援護は任せとけ」
「……ええ」
ロイは、スヴァルトに向かって一礼。
「わかりました。俺がいても邪魔になるでしょうし、安全なところに避難しています」
「素直で物分かりのいいガキじゃねぇか。さっさと行きな」
「はい」
ロイは、ロセとサリオスに頭を下げ、宿に向かって走り出した。
◇◇◇◇◇
───ロイがいなくなった瞬間、空が『夜空』に覆われた。
◇◇◇◇◇
ロイは急停止し、空を見上げた。
「な……何だ!?」
ロイだけではない。
城下町を歩く人たち。老若男女問わず、全員が空を見上げた。
そして、デスゲイズが言う。
『来たぞロイ───……これは、トリステッツァの『魔王聖域』だ!!』
「!!」
『来るぞ!!』
デスゲイズが叫んだ瞬間、夜空に亀裂が入った。
「な……」
パレットアイズの時とはまるで違う。
空から飴が降るのでも、パレード隊が現れるのでもない。
割れた空から、真っ蒼な顔をした『女』が、涙目で地上を見ていた。
「っき、きゃぁぁぁぁぁっ!?」「っひ、っひぃぃぃ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」「な、なんだぁぁ!?」
辺りはパニックだった。
逃げ惑う人たち。家に飛び込む人たちと、とにかく逃げだした。
中には、城下町から平原に飛び出す者もいた。
『まずい……見ろ、ロイ』
「え……?」
ロイの近くで、吐血する老婆がいた。
全身に発疹が出て、高熱を出し、泡を吹きだしている。
明らかに、ただ事ではない。
「お婆さん、お婆さん、しっかり!!」
「ぅ、ぁ……」
「な、なんだこれ……お婆さん!!」
老婆は血を再び吐く。そして、ロイに手を伸ばしてきた。
ロイはその手を掴む。すると、ロイの後ろで声が。
「ばあさん、ばあさん……!!」
「ぁ、な、だ……」
「ばあさん……!!」
老婆の夫だろうか、老人がロイを押しのけ老婆の手を握る。
すると、安心したのか……老婆は微笑み、そのまま事切れた。
「ば、ばあさん……っ!! う、ぅぅぅ……ど、どうして」
『まずい……ロイ、その老人を泣かせるな!!』
「え……」
老人は、老婆の手を握り涙を流す……すると、老人の身体から青白い光が立ち上り、その光が空に浮かぶ《女》の口に入っていく。
そして───女の眼から、《涙》が落ちた。
「───お爺さん!!」
「え」
涙が、老人を直撃。
老人は、遺体となった老婆と共に涙に飲み込まれ、衣服が溶け、肉が溶け、内蔵が溶け……ただの骨となり、地面を転がった。
「な、な……なん、だ、これ」
『……』
空では、再び『女』が涙を流した。
青白い光がいくつも立ち上り、女の口に吸収されていく。
ロイは叫んだ。
「デスゲイズ、何だよこれ!!」
『……《涙の女神》だ。そして、『疫病』の加速……今のを見ただろう? ネルガルの病が、進行速度が加速している。恐らく……人間の感情を利用した、最終攻撃に入ったんだ』
「ど、どういう」
『あの女、《涙の女神》は、人間の悲しみを吸収し、涙を流す。その涙は、あらゆるものを溶かし、全てを浄化する……まぁ、見ての通り骨しか残らん強酸だ。この酸を防げるのは魔王だけ……落ちてきたら、躱すしかない』
「…………」
『人間は優しく、慈悲深い。身内の、他者の死に悲しみ涙する……ネルガルが『疫病』を加速させたのは、病によって亡くなる者たちを想い、人間が涙すると知っているからだ』
「な、なんてこった……」
あまりにも、おぞましい攻撃だった。
パレットアイズの飴玉やパレード隊が、マシに思えるほど。
悲しみを涙に変え、全てを溶かす強酸にして落とす『聖域』……空を見上げると、涙の女神は、その名の通りに涙を流していた。
「くっそ……」
『ロイ、まずいぞ』
「知ってるよ!!」
『違う。ユノだ!! ユノの父親も、疫病に侵されているだろう!?』
「───!!」
『急げ。このままでは、ユノが』
「『黒装』!!」
ロイは『狩人形態』へ変身し、これまでにない速度で走り出した。
◇◇◇◇◇
ロイがユノの家で見たのは───……最悪な、光景だった。
「おとうさん……おとう、さぁん」
「ぁぁ……ユノ、大丈夫だった、か?」
焼け爛れた背中。
涙を流すユノ。
ユノを庇い、疫病に侵されながらも、《涙》からユノを庇った、ベアルドの姿だった。
家の屋根がドロドロに溶けている。きっと、ユノの涙に反応した《涙の女神》が、強酸の涙をこぼしたのだ。
ベアルドは、疫病でボロボロの身体を押して、ユノを庇って強酸にさらされた。
背中が、ない。
骨まで見え、内蔵も見えている。
息も絶え絶え、疫病で死にかけていながらも、ベアルドは笑っていた。
「すまん、なぁ……」
「しゃべっちゃダメ。だめ……おとうさん」
「ユノ……幸せに、なぁ」
「やだ、やだ」
ユノは首を振る。
ベアルドは、八咫烏を見た。
不審者としか思えない姿だ。ユノですら気付いていないのに、ベアルドは言った。
「ユノを、頼むよ……」
「…………」
「おとうさん……おとうさん」
「ユノ、ありが、とう……なぁ」
ベアルドは、笑ったまま息を引き取った。
「ぅ、ぁ……ぁ、ぁぁあ、ぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ユノが、絶叫した。
ベアルドに縋りつき、泣いていた。
八咫烏は───立ち尽くした。
「ユノ!!」
エレノアが飛びこんできた。
エレノアだけではない。サリオス、ロセ、スヴァルトもいる。
ベアルドに縋りつくユノを見てエレノアが察し、顔を伏せた。
「八咫烏……お前、なんでここに」
「…………」
サリオスが警戒するが、ロセが止めた。
スヴァルトが八咫烏を睨むが、八咫烏は動かない。
エレノアが、八咫烏の傍を通りすぎ、ユノに覆い被さるように抱きしめた。
「…………」
「八咫烏、お前……何か言
八咫烏に手を伸ばしたサリオスの全身に、《矢》が突き刺さった。
「───……ッッッ!?!?」
錯覚、だった。
伸ばした手が弾かれたように引っ込んだ。
サリオスは真っ蒼になり、冷や汗が止まらない。
スヴァルト、ロセの二人も同じだった。
青くなり、ピクリとも動けないでいる。
「…………」
それくらい、八咫烏───……ロイの、静かすぎる殺気が、恐ろしかった。
ロイは、無言で踵を返し、家を出た。
◇◇◇◇◇
涙を流すユノが、頭にこびりついて離れなかった。
八咫烏は、ゆっくりと王都へ向かって歩きだす。
サク、サク……と、雪を踏みしめる音だけがした。
「…………」
すると───《涙の女神》が流した涙が、空中でふわふわと浮かび、一気に弾けた。
弾けた涙が、透き通る人骨のような形となり、地上に落ちてくる。
『直接的な攻撃に切り替えて来た。こいつは……『流す涙のない骨人』、並みの聖剣士レベルの強さを持つ、子爵級~伯爵級レベルの魔獣だ』
「…………」
透き通る骨の魔獣は、ヒトの形だけではない。
犬、猫、クマ、虎、牛など、動物の骨格をしていた。
ロイは、未だに冷たい殺気を放っている。
『許せないか?』
デスゲイズが問う。
『わかるぞ。お前は……キレた時ほど、冷静に、静かになる。人間とは思えないほどの『憤怒』を、心の中で煮立たせている……恐ろしい男だ。これほどの殺気を、十六になったばかりのガキが発するなぞ』
「…………」
『今のお前に相応しい。ロイ、お前に与えよう。大罪権能『憤怒』の力を!!』
次の瞬間、赤黒く『魔弓デスゲイズ』が燃える。
形状が変化し、ロイの着ているコート、そして仮面が変化する。
弓ではなく、漆黒の金属へ変わる。
コートだった服が、素材の一部が金属となる。胸当て、籠手、レガースとなり、コートはさらに分厚く、機動力が低下する代わりに防御力が増した。
そして仮面。
今までは顔を隠す形状だったが、万象眼となる右目部分の、四分の一が砕けた。
コートのフードも、分厚く頑丈に変化する。
『これは、聖剣士に援護するための力ではない。お前が、お前の中で燃え滾る『怒り』の力を吐き出すための姿。お前が戦うための力───……名を冠するなら、『殺滅形態』といったところか……ロイ、使い方はわかるな?』
「……ああ」
ロイは、漆黒の『鉄の棒』を構えた。
持ち手にある引金を引くと、鉄の棒の先端から何かが発射され、発射されたモノがバラバラに弾け、ダクリュオンたちをまとめて吹き飛ばした。
『……『怒りの散弾銃』……ロイ、『憤怒』の能力は『破壊』だ。お前の怒りに呼応し、この『ショットガン』の弾薬となる。『暴食』と違い特殊な能力を付与することはできないが……単純な威力ならこちらのが上だ』
「…………」
ロイは、ショットガンと呼ばれる武器を肩に背負い、歩きだす。
向かう先は、魔王トリステッツァと、『疫病』のネルガル。
怒りを胸に、ロイはつぶやいた。
「ユノを悲しませた報い、受けさせてやる……一時間で、ケリつけてやるよ、魔王トリステッツァ」
サリオスは、エレノアとロイに言う。
「挨拶が遅れたけど、ボクたちも来たんだ。一緒に戦おう」
「ええ。心強い!!」
「それと……ロイ、きみも」
「あ、ああ」
サリオスは、ロイにも微笑んでいる。
すると、サリオスの後ろからヒョコッとロセが顔を見せた。
「エレノアちゃん、ロイくん、久しぶりだねぇ」
「ロセ先輩! あの、怪我したって聞きましたけど……」
「大丈夫! 治療系の聖剣士さんに、治してもらったから。ふふ、ありがとね、エレノアちゃん」
「えへへ……」
「それと、ロイくんも、こんにちは」
「こんにちは、ロセ先輩」
「……あれ? ロイ、ロセ先輩と知り合いなのかい?」
「ああ、まあ」
「オイオイオイオイ」
と───サリオスの肩をガシッと掴み、無理やり組む男。
スヴァルトは、手をパタパタさせながら言う。
「仲良しゴッコはここまでにしとけや。ロセ、サリオス、エレノア、公爵級ブチのめす計画立てるぞ。雑魚のガキ、テメーは消えな」
「スヴァルト!! あなた、言い方ってものが!!」
「うっせデカ乳。揉むぞ」
ロセは胸を隠しサリオスの背後へ。
エレノアもムスッとするが、むしろロイには好都合だった。
ロイは、エレノアに小さく言う。
「俺は独自に動く。心配すんな、援護は任せとけ」
「……ええ」
ロイは、スヴァルトに向かって一礼。
「わかりました。俺がいても邪魔になるでしょうし、安全なところに避難しています」
「素直で物分かりのいいガキじゃねぇか。さっさと行きな」
「はい」
ロイは、ロセとサリオスに頭を下げ、宿に向かって走り出した。
◇◇◇◇◇
───ロイがいなくなった瞬間、空が『夜空』に覆われた。
◇◇◇◇◇
ロイは急停止し、空を見上げた。
「な……何だ!?」
ロイだけではない。
城下町を歩く人たち。老若男女問わず、全員が空を見上げた。
そして、デスゲイズが言う。
『来たぞロイ───……これは、トリステッツァの『魔王聖域』だ!!』
「!!」
『来るぞ!!』
デスゲイズが叫んだ瞬間、夜空に亀裂が入った。
「な……」
パレットアイズの時とはまるで違う。
空から飴が降るのでも、パレード隊が現れるのでもない。
割れた空から、真っ蒼な顔をした『女』が、涙目で地上を見ていた。
「っき、きゃぁぁぁぁぁっ!?」「っひ、っひぃぃぃ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」「な、なんだぁぁ!?」
辺りはパニックだった。
逃げ惑う人たち。家に飛び込む人たちと、とにかく逃げだした。
中には、城下町から平原に飛び出す者もいた。
『まずい……見ろ、ロイ』
「え……?」
ロイの近くで、吐血する老婆がいた。
全身に発疹が出て、高熱を出し、泡を吹きだしている。
明らかに、ただ事ではない。
「お婆さん、お婆さん、しっかり!!」
「ぅ、ぁ……」
「な、なんだこれ……お婆さん!!」
老婆は血を再び吐く。そして、ロイに手を伸ばしてきた。
ロイはその手を掴む。すると、ロイの後ろで声が。
「ばあさん、ばあさん……!!」
「ぁ、な、だ……」
「ばあさん……!!」
老婆の夫だろうか、老人がロイを押しのけ老婆の手を握る。
すると、安心したのか……老婆は微笑み、そのまま事切れた。
「ば、ばあさん……っ!! う、ぅぅぅ……ど、どうして」
『まずい……ロイ、その老人を泣かせるな!!』
「え……」
老人は、老婆の手を握り涙を流す……すると、老人の身体から青白い光が立ち上り、その光が空に浮かぶ《女》の口に入っていく。
そして───女の眼から、《涙》が落ちた。
「───お爺さん!!」
「え」
涙が、老人を直撃。
老人は、遺体となった老婆と共に涙に飲み込まれ、衣服が溶け、肉が溶け、内蔵が溶け……ただの骨となり、地面を転がった。
「な、な……なん、だ、これ」
『……』
空では、再び『女』が涙を流した。
青白い光がいくつも立ち上り、女の口に吸収されていく。
ロイは叫んだ。
「デスゲイズ、何だよこれ!!」
『……《涙の女神》だ。そして、『疫病』の加速……今のを見ただろう? ネルガルの病が、進行速度が加速している。恐らく……人間の感情を利用した、最終攻撃に入ったんだ』
「ど、どういう」
『あの女、《涙の女神》は、人間の悲しみを吸収し、涙を流す。その涙は、あらゆるものを溶かし、全てを浄化する……まぁ、見ての通り骨しか残らん強酸だ。この酸を防げるのは魔王だけ……落ちてきたら、躱すしかない』
「…………」
『人間は優しく、慈悲深い。身内の、他者の死に悲しみ涙する……ネルガルが『疫病』を加速させたのは、病によって亡くなる者たちを想い、人間が涙すると知っているからだ』
「な、なんてこった……」
あまりにも、おぞましい攻撃だった。
パレットアイズの飴玉やパレード隊が、マシに思えるほど。
悲しみを涙に変え、全てを溶かす強酸にして落とす『聖域』……空を見上げると、涙の女神は、その名の通りに涙を流していた。
「くっそ……」
『ロイ、まずいぞ』
「知ってるよ!!」
『違う。ユノだ!! ユノの父親も、疫病に侵されているだろう!?』
「───!!」
『急げ。このままでは、ユノが』
「『黒装』!!」
ロイは『狩人形態』へ変身し、これまでにない速度で走り出した。
◇◇◇◇◇
ロイがユノの家で見たのは───……最悪な、光景だった。
「おとうさん……おとう、さぁん」
「ぁぁ……ユノ、大丈夫だった、か?」
焼け爛れた背中。
涙を流すユノ。
ユノを庇い、疫病に侵されながらも、《涙》からユノを庇った、ベアルドの姿だった。
家の屋根がドロドロに溶けている。きっと、ユノの涙に反応した《涙の女神》が、強酸の涙をこぼしたのだ。
ベアルドは、疫病でボロボロの身体を押して、ユノを庇って強酸にさらされた。
背中が、ない。
骨まで見え、内蔵も見えている。
息も絶え絶え、疫病で死にかけていながらも、ベアルドは笑っていた。
「すまん、なぁ……」
「しゃべっちゃダメ。だめ……おとうさん」
「ユノ……幸せに、なぁ」
「やだ、やだ」
ユノは首を振る。
ベアルドは、八咫烏を見た。
不審者としか思えない姿だ。ユノですら気付いていないのに、ベアルドは言った。
「ユノを、頼むよ……」
「…………」
「おとうさん……おとうさん」
「ユノ、ありが、とう……なぁ」
ベアルドは、笑ったまま息を引き取った。
「ぅ、ぁ……ぁ、ぁぁあ、ぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ユノが、絶叫した。
ベアルドに縋りつき、泣いていた。
八咫烏は───立ち尽くした。
「ユノ!!」
エレノアが飛びこんできた。
エレノアだけではない。サリオス、ロセ、スヴァルトもいる。
ベアルドに縋りつくユノを見てエレノアが察し、顔を伏せた。
「八咫烏……お前、なんでここに」
「…………」
サリオスが警戒するが、ロセが止めた。
スヴァルトが八咫烏を睨むが、八咫烏は動かない。
エレノアが、八咫烏の傍を通りすぎ、ユノに覆い被さるように抱きしめた。
「…………」
「八咫烏、お前……何か言
八咫烏に手を伸ばしたサリオスの全身に、《矢》が突き刺さった。
「───……ッッッ!?!?」
錯覚、だった。
伸ばした手が弾かれたように引っ込んだ。
サリオスは真っ蒼になり、冷や汗が止まらない。
スヴァルト、ロセの二人も同じだった。
青くなり、ピクリとも動けないでいる。
「…………」
それくらい、八咫烏───……ロイの、静かすぎる殺気が、恐ろしかった。
ロイは、無言で踵を返し、家を出た。
◇◇◇◇◇
涙を流すユノが、頭にこびりついて離れなかった。
八咫烏は、ゆっくりと王都へ向かって歩きだす。
サク、サク……と、雪を踏みしめる音だけがした。
「…………」
すると───《涙の女神》が流した涙が、空中でふわふわと浮かび、一気に弾けた。
弾けた涙が、透き通る人骨のような形となり、地上に落ちてくる。
『直接的な攻撃に切り替えて来た。こいつは……『流す涙のない骨人』、並みの聖剣士レベルの強さを持つ、子爵級~伯爵級レベルの魔獣だ』
「…………」
透き通る骨の魔獣は、ヒトの形だけではない。
犬、猫、クマ、虎、牛など、動物の骨格をしていた。
ロイは、未だに冷たい殺気を放っている。
『許せないか?』
デスゲイズが問う。
『わかるぞ。お前は……キレた時ほど、冷静に、静かになる。人間とは思えないほどの『憤怒』を、心の中で煮立たせている……恐ろしい男だ。これほどの殺気を、十六になったばかりのガキが発するなぞ』
「…………」
『今のお前に相応しい。ロイ、お前に与えよう。大罪権能『憤怒』の力を!!』
次の瞬間、赤黒く『魔弓デスゲイズ』が燃える。
形状が変化し、ロイの着ているコート、そして仮面が変化する。
弓ではなく、漆黒の金属へ変わる。
コートだった服が、素材の一部が金属となる。胸当て、籠手、レガースとなり、コートはさらに分厚く、機動力が低下する代わりに防御力が増した。
そして仮面。
今までは顔を隠す形状だったが、万象眼となる右目部分の、四分の一が砕けた。
コートのフードも、分厚く頑丈に変化する。
『これは、聖剣士に援護するための力ではない。お前が、お前の中で燃え滾る『怒り』の力を吐き出すための姿。お前が戦うための力───……名を冠するなら、『殺滅形態』といったところか……ロイ、使い方はわかるな?』
「……ああ」
ロイは、漆黒の『鉄の棒』を構えた。
持ち手にある引金を引くと、鉄の棒の先端から何かが発射され、発射されたモノがバラバラに弾け、ダクリュオンたちをまとめて吹き飛ばした。
『……『怒りの散弾銃』……ロイ、『憤怒』の能力は『破壊』だ。お前の怒りに呼応し、この『ショットガン』の弾薬となる。『暴食』と違い特殊な能力を付与することはできないが……単純な威力ならこちらのが上だ』
「…………」
ロイは、ショットガンと呼ばれる武器を肩に背負い、歩きだす。
向かう先は、魔王トリステッツァと、『疫病』のネルガル。
怒りを胸に、ロイはつぶやいた。
「ユノを悲しませた報い、受けさせてやる……一時間で、ケリつけてやるよ、魔王トリステッツァ」
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