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魔界貴族侯爵『拳骨』のママレードと『猫背』のジガート①/猫の恐怖

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 魔界貴族侯爵『猫背』のジガート。
 その名の通り、とんでもない猫背だった。
 薄青い肌、鮫のような鱗が生え、伸びっぱなしの髪、頭にはツノが生えている。
 薄気味悪い。スヴァルトがペッと唾を吐く。

「汚いなぁ」
「はっ……疫病撒き散らすテメェらのが汚ねぇだろうが。どの口がほざきやがる」
「キミ、口も汚いね。今までの聖剣士はけっこう、礼儀正しい子が多かったけど」
「そりゃお上品なお嬢ちゃんたちだ。オレみてぇなのもいるって勉強になったか? さぁて……話は終わりだ。薄気味悪い猫背野郎、テメーは───……」

 すると、『鋸剣チェンソーエッジ』が分離し、柄が伸び、刀身部分に漆黒の刃が伸びる。
 大鎌デスサイズ形態。スヴァルトの身長よりも高い、死神の持つような大鎌を、スヴァルトはクルクル器用に回転させ構える。
 すると、ジガートは口を大きく───……人間を数人、丸呑みできるほど大きく口を開いた。すると、ズルズルと人間サイズの《猫魔獣》が吐き出される。

「やっちゃって」
「クソボケか? こんな雑魚───……」

 大鎌を構え、真横に薙いだ瞬間───スヴァルトはその場から一歩も動いていないのに、猫魔獣たちは綺麗に両断された。

「オレ様の敵じゃあねぇんだよ。クソ雑魚」
「あらら」
「テメェよぉ……ほんとに侯爵級なのか? 雑魚すぎじゃねぇか」
「あー……ボク、戦うのは魔獣任せで、自分ではあんまり戦わないんだよね。今まで戦った聖剣士は全員、ボクの『猫』に殺られちゃったからさぁ」
「じゃあ、今日がテメェの命日だなぁ? 命日って知ってるか? テメェが死ぬ日……つまり、今日だ」
「キミ、ほんと口悪いね……魔界でも、キミみたいなヤツいないよ」
「カカッ、最高の褒め言葉だぜ」

 大鎌をジガートへ向け、舌を出して笑うスヴァルト。
 息も絶え絶えに見ていたサリオスだったが、こればかりはジガートに同意した……さすがに、スヴァルトは凶悪すぎる。
 
「まぁ、いいや。たまにはボクも戦わないとね」
「いいね。じゃあかかってきな、細切れにしてやるからヨォ!!」
「うん。じゃあ、少し遊ぼうか───『魔性化アドベント』」

 すると、ジガートが四つん這いになる。
 そして、全身がボコボコと肥大化し、鮫肌のような表皮が鋭利に、強靭になる。
 尾が十メートル以上伸びて止まり、顔がネコのような、虎のように変わる。
 
「…………マジかよ」
『ボクさぁ……魔族の中でも、魔獣の血が濃く出てるんだよね』

 魔性化アドベント
 魔族の切り札。最終奥義ともいうべき技。
 自らの肉体を変化させ、戦闘形態へと成る技。
 ジガートの魔性化は、ジガート自身が《猫魔獣》となる姿だった。

『じゃ、行くよー』
「───!!」

 スヴァルトは、大鎌の柄を分離させ、両手に一本ずつ持つ『双鎌形態』へ変形させる。
 そして、高速で飛んできたジガートの『尾』を何とか弾いた。

「ッッ!!」
『あれ? なにその顔……まさか、見えなかった?』
「はっ……欠伸が出るぜ」

 ツゥ───と、スヴァルトの頬から血が流れた。
 ほんの少し、冷や汗を流している。
 サリオスには、全く見えなかった。

「は、速……」

 スヴァルトがその場で鎌を振ると、ギィン!! ギィンギィン!! と、鉄をひっかくような音が響く。
 サリオスにはジガートの尾がブレたようにしか見えず、高速で操られる尾による攻撃を、スヴァルトが辛うじて捌いているのが全く見えなかった。
「チッ───」
『ほらほらほらほらほらぁ!!』
「ぐっ……っが、ぁぁ!?」

 バチィン!! と、尾に弾かれスヴァルトが吹っ飛び、地面を転がった。
 素早く立ち上がり、その場から横っ飛び。すると、いつの間にか跳躍していたジガートが、スヴァルトを押しつぶそうとした。
 ジガートが着地すると、地面に亀裂が入る。
 そして、大きく口を開けると───。

『フシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
「───ッ!?」

 口から発生した衝撃波に、スヴァルトは全身を叩かれる。
 双鎌が吹き飛び、基本形態である鋸剣チェンソーエッジに戻ってしまう。

「スヴァルト先輩!!」
『きみ、ヒトの心配してる場合?』
「えっ」

 サリオスの眼前に、ジガートがいた。
 凶悪なネコのような顔が、サリオスの顔の数十センチ前にいた。
 ドッと汗が流れる。サリオスは動けない。

『きみ、強くなるね。さっきの『能力』とか、ヤバそうだ……ここで食べておこうかな』
「…………」
『じゃ、いただきまーす』

 大きな口が、サリオスの頭を噛み砕こうとしていた。
 動けない。
 サリオスは、剣を構えることもできず───。

「だらぁぁぁっしゃぁぁ!!」
『ブッ!?』

 横から飛び蹴りを食らわせるスヴァルト。
 剣ではなく、蹴り。
 ジガートは吹っ飛び、地面を転がった。

『痛いなぁ……』
「カカカカッ!! いやぁ、こっちも痛かったぜぇ? さぁさぁ続きといこうじゃねぇか!!」

 鋸剣を構え、スヴァルトが笑う。
 ジガートはため息を吐き、尻尾をユラユラ動かし始めた。
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