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魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス④/戦い方

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「───……ッッ!!」

 なに、コイツ。
 シュプレーは、日傘の先端から魔力の塊を連射し、八咫烏を追い込んでいた……が、実際には追い込むどころか、かすり傷一つ付けられなかった。
 八咫烏。
 聖剣士なのに、弓を使う妙な敵。
 パレットアイズ配下の侯爵級を何人か倒したとは聞いていたが、正直なところそこまでの実力者とは思えなかった……が、その評価は違っていた。
 
『───』
「ッ!!」

 八咫烏が懐から取り出したのは、黒い玉。
 それを床に叩き付けると、黒い煙が一気に吹き上がる。
 煙玉。八咫烏の姿が見えなくなると、どこからともなく『矢』が飛んで来た。

「ああもう、めんどくさぁい!!」

 日傘を畳んで振り回すと、煙が一気に晴れる。
 そして、再び矢が飛んで来た。それを、身体をねじって躱すシュプレー。

「こいつ……ッ」

 八咫烏は、自分をよく理解している。
 武器は矢。接近戦には向かないと理解している。だから、視覚を奪い、遠距離からの狙撃でシュプレーに攻撃を繰り返している。
 しかも、ただの矢ではない。

「なに、これ……ッ!?」

 飛んできたのは、十本の『魔喰矢グロトネリア』だ。意志を持ったように不規則な軌道で暴れまわり、シュプレーに喰らいつこうとする。
 そして、『時空矢アイオーン』が十本以上。こちらは、どこからともなく現れては、シュプレーの心臓、頭、首などを狙って飛んでくる。
 飛んでくる、という表現は正しくない。まるで、距離を無視するかのように、唐突に現れてはシュプレーの身体に突き刺さろうとする。
 シュプレーは、魔力で身体強化をし、高速で日傘を振るって矢を叩き落す。

「何、これっ……」

 会話はない。
 八咫烏は、『シュプレーを殺す』ことしか考えていない。
 冷酷な、獲物を狙う狩人。これから狩る獲物相手に、会話をしようという狩人は存在しない。
 八咫烏───ロイは、軽く呼吸を整える。

『……いつの間に、こんなに『暴食』を使いこなせるように』

 デスゲイズが驚愕していた。
 大罪権能の一つ『暴食』の力は、『あらゆるモノを食う矢』を精製することができる。だが、精製に必要な力は、ロイが振り絞らなくてはならない。
 すでに、三十以上の『矢』を精製しており、疲労も濃いはず。なのに……ロイは汗もかかず、ただシュプレーを狩ることしか考えていない。
 
『お前、ずっと考えていたな? 聖剣士が、エレノアたちがいない場合、自分がいかに接近して戦えるかを……』
(まあな)
『なんてやつ……』

 そう、ロイは想定していた。
 きっと、エレノアたちではない、自分が真正面から魔界貴族と戦うことになると。
 援護だけじゃない。ロイが、八咫烏として魔界貴族と戦うための方法が必要になると。
 そのために、姿をくらます煙玉を準備した。
 シュプレーは舌打ちし、傘を思いきり振り回す。すると、煙が一気に晴れた。

「面白いじゃなぁい」
『…………』
「でもぉ……あたし、まだまだ本気じゃないのよ? 『ゆらゆら』」
「!!」

 ロイは横っ飛びした。
 すると、ロイがいた地面が、空間ごと揺れていた・・・・・・・・・
 言葉にするのは難しい。地面がくり抜かれ、シーソーのように揺れ、周囲の景色まで切り抜かれたようにユラユラと揺れていたのだ。

「あたしは『ゆらゆら』のシュプレー。あたしはねぇ? いろんなものを『揺らす』ことができる。地面も、空間も、人も、命も───あたしにとって、ただの振り子みたいなもの」
『…………』
「揺れてみる? 『ゆらゆら』」

 ロイは再び横っ飛び。すると、空間が揺れていた。
 喰らうとまずい───ロイは身体強化を施し、矢を三本抜く。
 三発同時に矢を放つが、シュプレーが指を鳴らすと、矢が止まり不自然に揺れる。
 そして、ロイが四発目の矢を放つ。これは揺らすことができず、シュプレーは首をひねって回避……ニヤリと笑い、指を慣らした。

「~~~っ!?」
「ふふふ、捕まえたぁ」
 
 喰らった。
 ロイの立つ地面、空間が揺れる。
 視界が揺れる。不思議と身体は安定しており、立つことはできる……が、視界がブレまくり、とてもじゃないが狙いが定まらない。

「なぁんだ。大したことないじゃない……ま、弓矢の腕前がいいのは褒めてあげる。それにしても……聖剣士、なのよねぇ? なんというか、見たことのない力……」
『…………』
「ね、何も言わないの?」

 八咫烏は、矢筒から矢を抜き、番える。
 そして、揺れる視界の中、シュプレーに向けた。

「当たると思う?」
『……ああ』
「じゃあ、当ててみるぅ? ほらほら、あたしの心臓はここ、ここよ」

 シュプレーは、胸を指でトントンする。
 勝利を確信している。だが───八咫烏は、ロイは言う。

『死ね』

 放たれた矢は、シュプレーに触れることなく、顔の横を通り抜けた。
 シュプレーはクスクス笑い、ロイに向かって言う。

「残念でし

 次の瞬間、真っ赤に燃えるバーナーブレードがシュプレーの背中に突き刺さり、心臓を破壊して胸から飛び出した。

「ぶぐバァァァッ!? にゃ、ニャんで……ッ!?」

 吐血。
 心臓が破壊され、シュプレーの身体が青く燃え始める。
 背後にいたのは、エレノア。そして、ユノ。
 全く、全く気付かなかった。
 シュプレーが振り返ると、エレノアが勝利を確信したように笑っていた。

「あたしたちに気付かなかったのも仕方ないわ。まぁ、正直バレると思ったけど……八咫烏の誘導が、ここまで上手くいくなんて、あたしたちですら驚いてるもん」
「ッ、ッッ……」
「これ、見て」

 ユノが地面を指さし、スーッとなぞっていく。
 地面は凍り付いていた。そして、この部屋のドアがロイの矢によって破壊されていた。
 ドアの開く音すら警戒し、地面を静かに滑ることで足音を消して接近。ロイは、エレノアたちに注意が向かないよう、ひたすらシュプレーを引き付けていた。
 
「あ、ハハハ……して、やられた、わぁ。まさか、あたし、が……コン、な、ところ……で、ェ」

 シュプレーの身体が一気に燃え上がり、完全に消滅した。そして、ワクチンサンプルが2つ、コロンと落ちる。
 そして、エレノアがそれを拾って息を吐いた。

「あ~……勝ったぁ」
『お疲れさん』
「ってか、絶対に気付かれると思ったわ……あんた、自分に注意向けるの上手すぎ。あたしらだけだったら、絶対に勝てなかったわ」
『かなりの強敵だった。事前に『揺れる力』を見ていたから対処できたってのもあるし、こいつは俺を舐めていたから、いろいろな面で甘いところがあった。最初から本気で殺しにかかれば、負けていたのは間違いなくこっちだろうな』
「そっかぁ……やっとのことで『動く板』に乗って登ってきたと思ったら、戦う音聞こえてくるんだもん。びっくりしちゃった」

 エレノアがため息を吐き、八咫烏に言う。

「でも、勝ててよかった。ありがとね」
『お礼はいい』
「…………」
「ん、ユノ、どうしたの?」

 ユノが、八咫烏をジーっと見ていた。
 黒いコート、仮面、手に持つ弓を何度か見て、コテンと首を傾げた。

「ロイ?」

 いきなり出てきた言葉に、八咫烏は硬直した。
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