聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

文字の大きさ
上 下
91 / 227

アイスウエストの街へ

しおりを挟む
「───……ってわけで、アイスウエストの街へ行くことになったから」

 ロイの宿に来たエレノアは、会議の一部始終を説明した。
 概ね、デスゲイズの予想通りだった。デスゲイズは『な?』と言う。
 ロイは、エレノアがホットルピーを飲み干すのを待ってから言った。

「アイスウエストの街……そこに、魔界貴族が」
「間違いなくね。報告だと、『遊んでる』らしいのよ。ワクチンサンプルをチラつかせながら、アイスウエストの街に常駐してる聖剣士相手にね」
「遊んでる?」
「ええ。報告によれば、その……ワクチンサンプルを持っている魔界貴族、子供らしいわ」
「子供……デスゲイズ、知ってるか?」

 と、ここでデスゲイズが言う。

『わからん。トリステッツァの配下は、入れ替わりが激しいからな。いや……トリステッツァに限らず、公爵以外の魔族はよく入れ替わる。パレットアイズのように入れ替えがほぼない例は稀だ』
「じゃあ、お前もわからないのか」
『ああ』

 しばし、沈黙。
 それから、エレノアが言う。

「出発は明後日。なるべく急ぐみたいだけど、どうしても準備があるからね……」
「それはいいんだけど、いいのか? 王都も大変なんじゃ」

 王都は、毎日十名ずつ感染者が出ている。
 今はまだ悪寒、発熱程度だが、二週間もすれば死に至る。

「いちおう、治療系の聖剣士の『能力』で、ある程度の進行は遅らせることができるみたい。何もしなければ二週間だけど、治療を受ければ一か月は何とか……って言ってたわ」
『ちなみに、ネルガルの疫病は『治療行為をすること』で延命することができるように設定されているぞ。そういう病気にして、希望を持たせるのがあいつらのやり方だ』
「「…………」」

 嫌な話だった。
 疫病が始まってすでに四日が経過している。今のところ発病したのは四十名。王都にいる治療系聖剣士たちでも対応できる数だ。
 『疫病』のことは、国民が全員知っている。
 外出を禁じ、王都外へ出ることを禁じ、体調不良者は無償で治療を受けているのが現状だ。これ幸いにと、疫病以外の病気で治療を受ける者も少なくないとか。
 だが、それでも無償で治療を始めた。この国を守るために。

「王様の決断、すごかったな……」

 毎日、外では聖剣士たちが巡回し、体調不良の者は王都に何箇所も設置された臨時診療所での治療を受けろと言いまわっている。
 聖剣士たちだって、疫病に掛かるかもしれないのだ。いや……いずれは病に侵される。
 それでも、今もこうして戦っている。

「ロイ……アイスウエストの街に来てくれるよね」
「当然」
『ふん、ネルガルはともかく、侯爵級ならロイでも勝てる。いや、エレノアとユノ、お前たちが倒せ。ロイは援護に徹するからな』
「ええ。任せて!」

 エレノアが胸をドンと叩くと、大きな胸が揺れた。
 ロイはそれを見ないようにし、今思ったことを言う。

「そういえば、ユノは?」
「ああ、あの子なら、父親のところに行ってるわよ」
「父親? 王様───……ああ、わかった」

 ロイも聞いていた。
 ユノには、父親が二人いる。
 
 ◇◇◇◇◇◇
 
「おとうさん」
「おお、ユノ」

 王都郊外の森にある大きな家。
 ユノは、一人でここに来た。
 出迎えたのは、クマのような大男……ではなく、ユノの父ベアルド。
 ネルガルの襲撃時に会うことはできたが、ゴタゴタしたせいで、こうして会うのは四日ぶりだ。
 アイスウエストの街にユノが行くのは明後日。今日は、この家に泊る。

「はっはっは!! あー……め、メシの支度をせねばな」
「おとうさん」
「え、ええと……」

 ユノが、ジーっとベアルドを見る。どうやら怒っているようだ。
 
「あ、ええ「おとうさん、どうしてわたしを養女に出したの」……ぅぐ」

 質問は、案の定だった。
 ベアルドは、威圧するユノの前に小さくなる。
 そして、ぽつりと言った。

「……氷聖剣に選ばれたのだぞ」
「うん」
「いつまでも、こんな王都郊外の、木こりの娘というわけにもいくまい」
「わたし、気にしない」
「だが……」
「わたし、悲しかった……おとうさん、わたしのこと嫌いになったのかと」
「そんなことはない!!」

 ベアルドは叫ぶ。
 ユノは、真っすぐな視線を送るベアルドを見た。

「おとうさん、わたしを養女に送ってからずっと避けてた。いつもはこの家にいたのに、コールドイーストやアイスウエストで木こり始めるようになって、何年も会えなかった」
「…………」
「たまに会えたけど、わたしが養女のこと聞くとすぐに逃げた……でも、今日は逃がさない」
「うぐっ」
「おとうさん、わたし……わたし、おとうさんの娘だから。王族なんかじゃないよ」
「…………」

 ユノは、ベアルドに抱きついて甘えた。
 ベアルドは、大きな手でユノの頭を不器用に撫で、敗北を認めたように苦笑する。

「すまんかった……ワシが浅はかだったよ」
「……ん」
「こんなゴツイ熊みたいな男と暮らすより、華やかな王都で、同世代の聖剣士たちと一緒に学び、暮らす方がお前のためになると思った。だが……正直なところ、ワシも少し寂しかった」
「わたし、今も寂しい」
「ああ。すまんな……」
「おとうさん、わたし、ここに来てもいい? おとうさんの子供?」
「ああ。いつ来ても構わんぞ。友達も連れてきなさい」
「うん」
「あー……だが」
「だいじょぶ。義姉さんにはちゃんとお話するね。わたし、あの王様がおとうさんだなんて、思ったことないから。あの人、氷聖剣しか見てないし」
「…………ユノ」

 ベアルドは、何かを言おうとしたが、口をモゴモゴさせるだけで終わった。
 そして、手をポンと叩く。

「よし!! 今日はイノシシ肉で鍋でも作るか。ユノ、手伝ってくれ」
「うん。あのね、話したいこといっぱいあるの」
「おお、いっぱい聞かせてくれ」

 ユノは、久しぶりに「おとうさん」との時間を過ごすのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 二日後。
 エレノア、ユノ、ロイは、魔法高速艇乗り場に来た。
 これから向かうのはアイスウエストの街。すでに先発隊が向かい、町の様子が報告に上がっている。
 マリアは、ユノたちに言った。

「確認した魔界貴族侯爵は二人。少年少女のようなナリをしているが気にすることはない。奴らからワクチンサンプルを奪うことだけを考えよう」
「うん」
「はい!!」

 ロイは頷いた。実は何度かマリアに「王都で待機すべき」と言われている。だが、ロイが『八咫烏』と知るのはエレノアだけなので、「自分も戦う」とは言えない。ただエレノアとユノが心配だから付いてくるだけの同級生、という立ち位置だった。
 
「幸い、魔界貴族たちはアイスウエストの町を我が物顔で歩いたり、聖剣士たちと軽く戦闘しては舐め腐った態度で見逃したり、ワクチンサンプルをチラつかせて嘲笑っているようだ……おのれ」
「……そいつらから、ワクチンサンプルを奪うんですね?」
「ああ。ワクチンは合計五つ、その内の二つを必ず手に入れる……ユノ、エレノア君、君たちだけが頼りだ」
「うん。義姉さんは戦うの?」
「ああ。私と、部隊長が何人か同行する。はっきり言うが、実力はユノとエレノア君よりも高い。だが、七聖剣の力はいざという時に必要になるかもしれん……」
「もちろんです。マリアさん、あたしとユノができることなら、なんでもしますので!!」
「する」
「……ふっ、頼りにしているぞ。それとロイ君」
「は、はい」
「君は宿での待機を命じる。いいか、決して戦おうとするな」
「……はい」

 そういうわけには、もちろんいかない。
 魔法高速艇に乗り込み、アイスウエストの町へ出発した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...