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観光都市ラグーン①/夏の都市

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 トラビア王国最北の町で一泊。
 翌日の早朝には再び魔法飛行艇に乗り、お昼に差し掛かる前には上空から見えた。
 ロイは、魔導飛行艇の窓を見て「おおっ」と唸る。

「見えた。あれが観光都市ラグーンか」
「え、見えた!?」「見せて」
「うおっ!?」

 と、ロイが覗く窓から見ようと、右にエレノア、左にユノが来る。
 ロイの腕に、二人の柔らかな塊が押し付けられ、内心ドギマギしてしまうロイ。二人も初めての旅先で喜んでいるのか、気付いていないようだ。
 ユノは、ロイの腕にギュッと抱きついて言う。

「ロイ、いっぱい遊ぼうね」
「ああ。三日しかいないけどな」
「うん」
「ちょっと、あたしも遊ぶからね!」
「わかってるって」

 すると、派手な柄シャツに麦わら帽子を被ったオルカが言う。

「到着したら、ユイカの宿屋に荷物置いてメシにしようぜ!」
「いいね~、あたしお腹減ったよ」
「俺も。な、ユイカ、美味いメシ食いたい」
「案内は任せて! と言いたいけど……あたしも数えるほどしか来たことないし、ここお店の入れ替わり激しい激戦区だから、よくわかんない……まぁ、美味しそうな店、適当に探して入ろっか」

 こうして、五人は観光都市ラグーンに到着した。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 ユイカに案内されて到着したのは、大きな二階建ての家だった。
 その隣には、白い木造りで三階建ての宿屋があり、多くの観光客が出入りしている。
 ユイカは、受付のおばさんに「久しぶり!」と挨拶し、少し話し込んだ後に、離れの鍵を持って合流……さっそく、離れの中へ。

「「「「おお~……!」」」」
「ふふん、どう?」

 離れは広かった。
 広いリビング、二階へ続く階段、キッチン、バルコニー、ウッドデッキ。
 ウッドデッキにはパラソルがあり、ビーチチェアも置いてある。

「ここにある道具、何でも使っていいってさ。部屋は二階と一階、一階にはお風呂もあるって」
「とりあえず、女子二階で男子一階か」

 オルカが言うと、誰も反対しなかった。
 一階の部屋は二人部屋で、立派なベッドが二つある豪華な部屋だ。
 荷物を置いてリビングに戻ると、ユイカがいた。ロイはせっかくなので聞いてみる。

「な、ユイカ。ここすごい立派だけど、本当にいいのか?」
「うん。ここ、もともとの宿だったのよ。おじさん、大金が入ったとかで隣に大きな宿作って、ここは用無しになったんだけど、やっぱり愛着あるのか壊せなくて、離れとして使ってるんだって」
「へぇ……大金ね」
「砂漠で食材探ししてたら、デザートトパーズっていう、千年に一粒くらいしか見つからない宝石拾ったんだって。デザートサボテンとかいう植物の体内で精製されるとか……」
「きょ、強運だな……」

 オルカが苦笑する。
 すると、ユノとエレノアが降りて来た。

「いやー、いい部屋ね。ユイカ、ありがとね」
「ありがと」
「いいのいいの。さ、ご飯行こっ」

 五人は町へ出た。
 一番栄えている中心街からは少し離れていたので、『デザートシープ』という大きな羊が引く荷車をレンタルし、町まで行くことに。
 荷車には幌が付いているが、さすがに暑い。
 ロイは、手で自分を扇ぎつつ言う。

「そういやここ、フレム王国なんだよな」
「だなー……トラビア王国とは気候が違うぜ」
「お隣はレイピアーゼ王国で、すっごい雪降ってるんだよね……」

 今、デザートシープが歩いているのは、中心街へ続く道路だ。
 観光都市なだけあり、たくさんのデザートシープが観光客を乗せて歩いている。
 ロイはユノとエレノアを見る。

「みてみて、あそこにあるお店。なんかいい匂いしない?」
「焼き立てパン……お肉……くんくん、デザートシープのお肉かな」
「なんでわかるのよ……というか、この運んでくれてる羊を食べるの?」

 何やら楽しそうだった。
 ロイは聞いてみた。

「な、エレノアとユノは暑くないのか?」
「あたしは別に。炎聖剣に選ばれてから、熱に強くなったのよね」
「わたし、暑い。でも、ほんのちょっと冷気で身体を覆ってるから涼しい」
「マジかよいいなぁ。ユノちゃん、オレにもやってくんね?」
「いいけど。他人を冷やすの難しい。氷漬けになったらごめんね」
「……やっぱいいです」
 
 そうして、中心街へ到着した。
 観光地───そんな言葉がピッタリな場所だった。

「「「「「おおお……!!」」」」」

 五人はデザートシープ専用駐羊場で降り、観光地を眺める。
 様々な食べ物を売っている出店、民芸品や工芸品が売っているお店、お土産屋、大きな宿屋や定食屋が数多く並び、公園には休憩エリアが設けてあり買った物を食べている人が多くいる。
 さらに、公園にはオアシスがあり、魔法の力なのか噴水で周囲を冷やしている。噴水近くでは大道芸人が、いろいろな出し物をやっていた。

『───む?』

 すると、ロイが腰に差している木刀形態のデスゲイズが唸る。
 だが、ロイは気にせず歩き出した。

「な、メシ食おう!! すっげえ腹減ってきた!!」
「同意」

 オルカが出店を指さすと、ユノが激しく頷きオルカと行ってしまった。
 
「ね、せっかくだし自由行動!! 食べたいの食べまくるっ!! ユイカ、行こっ!!」
「うんっ!!」

 空腹に耐えきれないのか、エレノアとユイカも行ってしまった。
 ユノとオルカは『デザートシュリンプ』という砂漠でよく取れる真っ黒な昆虫の丸焼きを食べ、エレノアとユイカは甘そうな果物のクレープを食べていた。

『孤独だな』
「いやそんなことないぞ!? これは自由行動で、俺が出遅れただけで……」

 なんとなく悲しくなるロイ。
 すると、デスゲイズが言う。

『ちょうどいい。ロイ、向こうに行け』
「向こうって……大道芸人しかいないぞ。俺、メシ食いたい」
『いいから行け。確認したいことがある』
「なんだよもう……」

 喉の渇きを我慢し、デスゲイズが言う方向へ。
 向かったのは、大道芸人が芸をする場所だ。多くの大道芸人が芸をしている。
 ロイが向かったのは、看板に『姉弟道芸』と書かれた場所だ。
 若い十代後半の男女が、手に持ったショートソードを相手に向かって投げ、それをキャッチしている。

「さぁさぁ、弟クレイオンの『丸呑み剣』をご紹介!! そうれっ!!」

 クレイオンという大柄の男が上に向かって口を開けると、姉の投げたショートソードが口の中にスポッと入り、ごくりと丸呑みした。
 見ていた観客たちがキャーキャー騒ぎ、おひねりが箱の中へ。
 クレイオンは口を開け、にっこり笑ってポーズを取った。

「よ、よくもやったなぁ~!? さぁ、我が姉ウラーニャ、ここで果てろぉ!!」

 と、クレイオンがショートソードを手に、ウラーニャと呼ばれた女性の腹に剣を突き立てた。
 出血───これには観客たちも真っ青になるが、ウラーニャはニッコリ笑って剣を腹から抜いた。

「はい、不死身!!」
「「「「「おぉぉ!!」」」」」

 どうやら、何らかのトリックのようだ。
 拍手喝采となり、姉弟はポーズを取った。

「す、すっげえ。俺、大道芸って初めて見た」
『馬鹿か。あの二人は魔界貴族だ』
「…………は?」

 デスゲイズが何を言っているのか、ロイは一瞬理解できなかった。
 が、デスゲイズは続ける。

『……なるほどな。「はぐれ」だな』
「……はぐれ?」
『そういえばお前に、魔族が住む魔界についてきちんと説明しなかったな』

 魔界とは、魔族の住む広大な領地。
 人間界を覆うように広がる、四人の魔王が管理する領地で、ここに住む種族は魔族のみ。
 魔族は、魔界貴族のようなモノたちだけではない。
 
『魔界貴族は、人間でいう聖剣士のようなものだ。聖剣士以外の人間もいるだろう? 魔族も同じ、魔界貴族以外にも魔族はいる。そして、人間の世界に住む魔族も多くいる』
「じゃあ、あいつらは」
『はぐれ魔族。しかもこの魔力……魔界貴族『子爵』級ほどの力はあるな』
「お、おいおい……どうする、俺たちだけでやるか」
『やめておけ。魔族の中には、ああいう人間の華やかな部分に憧れて、魔界を捨てる者もいる。この観光都市のような華やかな町……魔族には作ることができない。憧れる気持ちもわかる』
「…………」
『せっかくだ。少し、話をしたらどうだ?』
「え!? でも」
『あの程度、お前の敵ではない。しかも、我輩の魔力を察知する実力もない。あいつらは、魔族としての身体、魔力を利用して大道芸人として暮らしているだけだろう』
「…………」
『ロイ、魔族を知れ。お前が射るのは、本当の魔界貴族、クズどもだけだ』
「……わかった」

 ちょうど大道芸が終わり、後片付けを始めた二人。
 ロイは意を決し、二人に近づいてみた。
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