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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ⑦/魔王という存在
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聖剣士五人は、誰も剣を構えようとしなかった。
それくらい、意味がない行為だとわかった。目の前に浮かぶのは可憐な少女などではない。この世界を、人間をいつでも滅ぼせる『魔王』なのだ。
人間を滅ぼさないのは、ほんの気まぐれ。
四人の魔王たちによる『ゲーム』だから、直接手を下すことはしない。
でも、今は違う。
五人は触れてしまったのだ。決して触れてはいけない、魔王という存在に。
八咫烏を責めることはできない。パレットアイズの『魔王聖域』を解除するためには、どのみち触れればならなかったのだ。
「さて、どうしよっかなー」
パレットアイズは可愛らしく首を傾げる。
「とりあえず、あんたらより格上の敵を用意してあげる。徹底的に嬲ってから、最後はあたしが直接殺してやるわ」
パレットアイズが指を鳴らすと、白銀に輝く騎士が地面から湧くように現れた。
黄金騎士よりも、金剛騎士よりも強い闘気を纏う、『白銀騎士』だ。
最初に剣を構えたのは、ララベルだった。
「あ、アンタら……死にたくなければ、やるわよ」
「ら、ララベル……」
「ロセ、アンタが正しかったわ。これ、アタシらには荷が重かったわ」
ララベルは、震えながら笑った。
ロセも、止まらぬ震えを押さえるように、力強く『地聖剣ギャラハッド』を握り、大斧をブンと振るう。
「そう、ね……サリオスくん、ユノちゃん、エレノアちゃん。ここは私とララベルに任せて」
「え……」
「あなたたちが逃げる時間は稼いであげる。ふふ、先輩の意地、見せちゃうね」
ロセの震えが止まった。
表情もどこか安らかだ。
この表情は、死を覚悟した者の眼。
ロセは、命を賭けて戦うつもりだ。
だが───……サリオスは、そんなこと許せなかった。
「───ッ!!」
勢いよく『光聖剣サザーランド』を抜き、震えを無理やり押さえつけ、剣を構える。
そして、ロセの前に立った。
「逃げません」
「さ、サリオスくん……?」
「さっきも言いましたよね。ここで逃げたら、オレは……もう、勝てない。引いたらダメなんだ!!」
「……っ」
そして、エレノアとユノ。
二人も、剣を構えてサリオスの隣に立った。
「そうよね……殿下、今のあなた、すっごくカッコいいかも」
「うん」
「エレノア、ユノ……」
「殿下。ううん……サリオス、やるわよ!!」
「サリオス、一緒にやろう」
「……ああ!!」
エレノアとユノが、サリオスを真に信頼した。
震えは止まり、剣を握る手には力が入る。
それを見て、ロセとララベルは顔を見合わせ、苦笑した。
「なんか、いけるかもね」
「ええ。ララベル、後輩に負けてられないわねぇ」
「そうね!!」
五人の聖剣士が、剣を構える。
サリオスが、聖剣をパレットアイズに突き付けた。
「魔王、ここd
次の瞬間。
サリオスが消え、お菓子の家が一直線にいくつも砕け散った。
「あ、終わった?」
人差し指を、ちょこんと構えるパレットアイズ。
何をしたのか?
砕けたお菓子の家の先に、右腕が砕かれ、いくつもの木片が身体に突き刺さったサリオスが、盛大に血を吐いた。
カランと、エレノアの隣には『光聖剣サザーランド』と、サリオスの左腕が肘の部分から千切れてその場に落ちてた。
「え?」
理解できなかった。
光聖剣サザーランドと、サリオスの腕がここにある。
パレットアイズが、『魔力を指先から放出した』だけでこの結果だった。
「あ、ぁ……ァァァァァッ!!」
ロセが怒りのまま飛び出した。
パレットアイズはニヤニヤ笑うと、その前に『白銀騎士』が立ち塞がる。
「邪魔ァァァァァッ!! ───……ッ!?」
だが、白銀騎士はロセの暴力的な横薙ぎを、右腕だけで防御。
左手で持つ大剣で、ロセを両断しようと一気に振り下ろした。
ロセは感情のまま飛び出したおかげで、頭が真っ白だ。
だが──。
「こんの、大馬鹿!!」
「ッ!?」
ララベルが割り込み、ロセを蹴り飛ばし、回避が間に合わないと判断し、短剣をクロスして大剣を真上から受け止めた。
「ッぎ……っっづぁぁ!!」
受け止めた瞬間、ララベルの両腕に亀裂が入った。
ロセならともかく、ララベルの細腕では白銀騎士の大剣を受け止めるなど自殺行為。右腕が完全に折れ、左腕に大剣が食い込んだ瞬間、全力で後方へ下がり辛うじて回避。地面を転がり、ロセの前で止まる。
「ら、ララベル……」
「この、馬鹿……考えなしに、飛び出すのは、アタシの、役目……で、しょ」
ララベルの左腕が、肘から切断されていた。
すると、パレットアイズがララベルの腕を掴み、面白そうに振る。
「あっはっは!! よっわぁぁ~……ねぇねぇ、こんなんであたしを倒せるのぉ?」
「くっ……!!」
「ばか、挑発に、乗んな……!!」
ララベルは、ロセの腕を掴んで止める。
すると、パレットアイズは白銀騎士を押さえ、ユノの目の前に瞬間的に移動した。
「えっ」
「あら可愛い。おじょうちゃん、あたしのペットにならない? かわいがってあげるけどぉ~?」
「───……ッ」
頬を撫でられ、口に指を入れられ、首を撫でられ───服を裂かれ、上半身が露わになる。
それでも、ユノは動けない。
動いたら、パレットアイズに殺される。震えることも、抵抗することもできない。
胸を、脇を、腹を、背中に触れられる。冷たい手が、命を狩ることのできる手が、ユノの肌を蛇のように這いずり回る。
「ふふふ……」
パレットアイズが口を開けると、蛇のような舌がにゅるっと伸び、ユノの顔に触れた。
「……っ」
「あらら、怖かったぁ?」
ユノは粗相をした。が、羞恥などない。
恐怖しかない。今すぐ楽になりたいとすら思えた───が。
「う、ァァァァァッ!!」
「んん?」
バーナーブレードが、パレットアイズに向けて振り下ろされた。
だが、バーナーブレードがパレットアイズに触れる瞬間、白銀騎士の蹴りがエレノアの腹に突き刺さり、エレノアは十メートル以上転がり、盛大に吐血した。
「ぶ、っがっぁは、ぐぇっ……」
「無粋な子。邪魔しちゃダメじゃない」
「ゆ、のを……ユの、に、触る、っな!!」
エレノアは立ち上がる。
パレットアイズは満面の笑みを浮かべ、ユノの肌に手を這わせ……胸の中心、心臓部分に爪を立てる。
「っぁ」
「ふふ、お友達? ねぇ、お友達の心臓、見たくない?」
「こ、んのッ……っぐぁ!?」
だが、白銀騎士がエレノアの背後に現れ、その両腕をガッチリつかみ、ゆっくりとユノの、パレットアイズの前まで歩いてくる。
パレットアイズは、ユノの身体を蛇のような舌で舐め回している。今気づいたが、パレットアイズの眼も、蛇のように瞳孔が縦に割れていた。
「いいこと考えた。ふふ、この子の心臓をあなたの前で抉り出して、あなたが食べるっていうのはどう? ああ───あたしの魔力で、心臓がなくてもこの子を少しだけ生かしてあげる。オトモダチが、自分の心臓を食べる様を見て、あなたがどう思うのか、すっごく見たい……」
狂気。恐怖。異常。
人間の眼から見て、パレットアイズは狂っていた。
何が面白いのか、ニコニコしたままユノの身体に爪で傷を付け、少しずつ流れる血を美味しそうに舐めては魔法で治療している。
「炎聖剣の子。あなたは最後に殺してあげる。あっちのエルフと、ドワーフの混ざりものの内臓を喰らって、お腹いっぱいにしてからあたしが丸呑みしてあげる……ふふふ、楽し
次の瞬間。パレットアイズの頭に『矢』が突き刺さった。
カクン、とパレットアイズの首が折れる。同時に、白銀騎士の心臓部分に大穴が開き、白銀騎士の両腕が肘から吹き飛び、エレノアは解放された。
ずっと、機会を伺っていた八咫烏だ。
サリオスが吹き飛ばされても、ララベルの腕が切断されても、ユノが辱められ、エレノアが蹴り飛ばされても……ずっと、機会を伺っていた。
狩人のように、気配を消し、心を消して。
戦いが始まると同時に全力で離脱し、援護に徹しようとしたが……援護どころか、まともに剣を振ることすらできていない。
今、できるのは。パレットアイズを仕留めるために矢を射るだけ。
約三百メートル離れた木の上にいたロイは、首が折れ曲がったパレットアイズに向け、狙いを定めた。
「これで───」
「これで、なに?」
「えっ」
ロイの隣に、パレットアイズがいた。
馬鹿な。
あそこに、首が折れ曲がったパレットアイズがいる───が、消えた。
速すぎて、残像があそこにあった。
パレットアイズは、頭の矢を抜く。
「すごいわね、あんた。でも───死ね」
「ッ!!」
ロイは魔弓デスゲイズで身体を守る───が、パレットアイズの魔力による『圧』で、身体ごと地面に叩き付けられた。
「っがっぁ!?」
「この弓? 聖剣でもないのに、変な能力持つの。それとも、突然変異した聖剣? まぁ、ブチ壊すけど」
メキメキメキメキと、パレットアイズは地面に仰向けになったまま動けないロイに、強大な『圧』をかける。呼吸すらできず、全身の骨が軋み───嫌な音がした。
それは、『魔弓デスゲイズ』に入る、小さな亀裂。
「───ッ、す、げ」
デスゲイズ。
そう言いたいが、声が出ない。
べき、ばき……と、ロイの右腕が折れ、左足も折れた。
「───ッ、!!」
ロイ!!
エレノアがそう叫び、バーナーブレードを全力で燃やし、血を吐きながらボロボロでロイに斬りかかる。だが……パレットアイズは、見もせずに手を振るった。
すると、空気が裂け───エレノアも、裂けた。
「───ッあ」
右手、右足が切断され、エレノアは吹き飛んだ。
「───ッ、───」
ロイは叫ぶ、が……声は出ない。
「アンタらも、邪魔」
パチンと指を鳴らすと、巨大な雷の柱が、這いずるララベル、ロセ、ユノに直撃。
黒焦げになった三人が倒れ、ピクピクと痙攣していた。
「───」
ロイは絶望した。
勝てない。死ぬ。このままでは死ぬ。全員死ぬ。
エレノア、ユノ。
ぐるぐると思考が回転し、涙が出た。
「あっはっは。わかった? 人間は人間らしく、夢を見ず生きればいいの。人間はあたしたちにとって、ただの娯楽の道具なんだから」
パレットアイズは、どこまでも楽しそうに笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
亀裂が入った『魔弓デスゲイズ』は、今なおビキビキと亀裂が入っていく。
『…………』
ロイが死ぬ。
やはり、魔王を相手にするには早い。
権能もまだ二つめ。しかも、『色欲』に至っては使いこなせてすらいないし、嫌悪していた。
今のロイでは、魔王を相手にできない。
恐らく、公爵級がせいぜいだろう。クリスベノワには勝てたが、残り三人の公爵級相手では厳しい。
再び、大きな亀裂が入った。
このままでは砕け散る。
だが、デスゲイズは笑った。
『ククク……』
それくらい、意味がない行為だとわかった。目の前に浮かぶのは可憐な少女などではない。この世界を、人間をいつでも滅ぼせる『魔王』なのだ。
人間を滅ぼさないのは、ほんの気まぐれ。
四人の魔王たちによる『ゲーム』だから、直接手を下すことはしない。
でも、今は違う。
五人は触れてしまったのだ。決して触れてはいけない、魔王という存在に。
八咫烏を責めることはできない。パレットアイズの『魔王聖域』を解除するためには、どのみち触れればならなかったのだ。
「さて、どうしよっかなー」
パレットアイズは可愛らしく首を傾げる。
「とりあえず、あんたらより格上の敵を用意してあげる。徹底的に嬲ってから、最後はあたしが直接殺してやるわ」
パレットアイズが指を鳴らすと、白銀に輝く騎士が地面から湧くように現れた。
黄金騎士よりも、金剛騎士よりも強い闘気を纏う、『白銀騎士』だ。
最初に剣を構えたのは、ララベルだった。
「あ、アンタら……死にたくなければ、やるわよ」
「ら、ララベル……」
「ロセ、アンタが正しかったわ。これ、アタシらには荷が重かったわ」
ララベルは、震えながら笑った。
ロセも、止まらぬ震えを押さえるように、力強く『地聖剣ギャラハッド』を握り、大斧をブンと振るう。
「そう、ね……サリオスくん、ユノちゃん、エレノアちゃん。ここは私とララベルに任せて」
「え……」
「あなたたちが逃げる時間は稼いであげる。ふふ、先輩の意地、見せちゃうね」
ロセの震えが止まった。
表情もどこか安らかだ。
この表情は、死を覚悟した者の眼。
ロセは、命を賭けて戦うつもりだ。
だが───……サリオスは、そんなこと許せなかった。
「───ッ!!」
勢いよく『光聖剣サザーランド』を抜き、震えを無理やり押さえつけ、剣を構える。
そして、ロセの前に立った。
「逃げません」
「さ、サリオスくん……?」
「さっきも言いましたよね。ここで逃げたら、オレは……もう、勝てない。引いたらダメなんだ!!」
「……っ」
そして、エレノアとユノ。
二人も、剣を構えてサリオスの隣に立った。
「そうよね……殿下、今のあなた、すっごくカッコいいかも」
「うん」
「エレノア、ユノ……」
「殿下。ううん……サリオス、やるわよ!!」
「サリオス、一緒にやろう」
「……ああ!!」
エレノアとユノが、サリオスを真に信頼した。
震えは止まり、剣を握る手には力が入る。
それを見て、ロセとララベルは顔を見合わせ、苦笑した。
「なんか、いけるかもね」
「ええ。ララベル、後輩に負けてられないわねぇ」
「そうね!!」
五人の聖剣士が、剣を構える。
サリオスが、聖剣をパレットアイズに突き付けた。
「魔王、ここd
次の瞬間。
サリオスが消え、お菓子の家が一直線にいくつも砕け散った。
「あ、終わった?」
人差し指を、ちょこんと構えるパレットアイズ。
何をしたのか?
砕けたお菓子の家の先に、右腕が砕かれ、いくつもの木片が身体に突き刺さったサリオスが、盛大に血を吐いた。
カランと、エレノアの隣には『光聖剣サザーランド』と、サリオスの左腕が肘の部分から千切れてその場に落ちてた。
「え?」
理解できなかった。
光聖剣サザーランドと、サリオスの腕がここにある。
パレットアイズが、『魔力を指先から放出した』だけでこの結果だった。
「あ、ぁ……ァァァァァッ!!」
ロセが怒りのまま飛び出した。
パレットアイズはニヤニヤ笑うと、その前に『白銀騎士』が立ち塞がる。
「邪魔ァァァァァッ!! ───……ッ!?」
だが、白銀騎士はロセの暴力的な横薙ぎを、右腕だけで防御。
左手で持つ大剣で、ロセを両断しようと一気に振り下ろした。
ロセは感情のまま飛び出したおかげで、頭が真っ白だ。
だが──。
「こんの、大馬鹿!!」
「ッ!?」
ララベルが割り込み、ロセを蹴り飛ばし、回避が間に合わないと判断し、短剣をクロスして大剣を真上から受け止めた。
「ッぎ……っっづぁぁ!!」
受け止めた瞬間、ララベルの両腕に亀裂が入った。
ロセならともかく、ララベルの細腕では白銀騎士の大剣を受け止めるなど自殺行為。右腕が完全に折れ、左腕に大剣が食い込んだ瞬間、全力で後方へ下がり辛うじて回避。地面を転がり、ロセの前で止まる。
「ら、ララベル……」
「この、馬鹿……考えなしに、飛び出すのは、アタシの、役目……で、しょ」
ララベルの左腕が、肘から切断されていた。
すると、パレットアイズがララベルの腕を掴み、面白そうに振る。
「あっはっは!! よっわぁぁ~……ねぇねぇ、こんなんであたしを倒せるのぉ?」
「くっ……!!」
「ばか、挑発に、乗んな……!!」
ララベルは、ロセの腕を掴んで止める。
すると、パレットアイズは白銀騎士を押さえ、ユノの目の前に瞬間的に移動した。
「えっ」
「あら可愛い。おじょうちゃん、あたしのペットにならない? かわいがってあげるけどぉ~?」
「───……ッ」
頬を撫でられ、口に指を入れられ、首を撫でられ───服を裂かれ、上半身が露わになる。
それでも、ユノは動けない。
動いたら、パレットアイズに殺される。震えることも、抵抗することもできない。
胸を、脇を、腹を、背中に触れられる。冷たい手が、命を狩ることのできる手が、ユノの肌を蛇のように這いずり回る。
「ふふふ……」
パレットアイズが口を開けると、蛇のような舌がにゅるっと伸び、ユノの顔に触れた。
「……っ」
「あらら、怖かったぁ?」
ユノは粗相をした。が、羞恥などない。
恐怖しかない。今すぐ楽になりたいとすら思えた───が。
「う、ァァァァァッ!!」
「んん?」
バーナーブレードが、パレットアイズに向けて振り下ろされた。
だが、バーナーブレードがパレットアイズに触れる瞬間、白銀騎士の蹴りがエレノアの腹に突き刺さり、エレノアは十メートル以上転がり、盛大に吐血した。
「ぶ、っがっぁは、ぐぇっ……」
「無粋な子。邪魔しちゃダメじゃない」
「ゆ、のを……ユの、に、触る、っな!!」
エレノアは立ち上がる。
パレットアイズは満面の笑みを浮かべ、ユノの肌に手を這わせ……胸の中心、心臓部分に爪を立てる。
「っぁ」
「ふふ、お友達? ねぇ、お友達の心臓、見たくない?」
「こ、んのッ……っぐぁ!?」
だが、白銀騎士がエレノアの背後に現れ、その両腕をガッチリつかみ、ゆっくりとユノの、パレットアイズの前まで歩いてくる。
パレットアイズは、ユノの身体を蛇のような舌で舐め回している。今気づいたが、パレットアイズの眼も、蛇のように瞳孔が縦に割れていた。
「いいこと考えた。ふふ、この子の心臓をあなたの前で抉り出して、あなたが食べるっていうのはどう? ああ───あたしの魔力で、心臓がなくてもこの子を少しだけ生かしてあげる。オトモダチが、自分の心臓を食べる様を見て、あなたがどう思うのか、すっごく見たい……」
狂気。恐怖。異常。
人間の眼から見て、パレットアイズは狂っていた。
何が面白いのか、ニコニコしたままユノの身体に爪で傷を付け、少しずつ流れる血を美味しそうに舐めては魔法で治療している。
「炎聖剣の子。あなたは最後に殺してあげる。あっちのエルフと、ドワーフの混ざりものの内臓を喰らって、お腹いっぱいにしてからあたしが丸呑みしてあげる……ふふふ、楽し
次の瞬間。パレットアイズの頭に『矢』が突き刺さった。
カクン、とパレットアイズの首が折れる。同時に、白銀騎士の心臓部分に大穴が開き、白銀騎士の両腕が肘から吹き飛び、エレノアは解放された。
ずっと、機会を伺っていた八咫烏だ。
サリオスが吹き飛ばされても、ララベルの腕が切断されても、ユノが辱められ、エレノアが蹴り飛ばされても……ずっと、機会を伺っていた。
狩人のように、気配を消し、心を消して。
戦いが始まると同時に全力で離脱し、援護に徹しようとしたが……援護どころか、まともに剣を振ることすらできていない。
今、できるのは。パレットアイズを仕留めるために矢を射るだけ。
約三百メートル離れた木の上にいたロイは、首が折れ曲がったパレットアイズに向け、狙いを定めた。
「これで───」
「これで、なに?」
「えっ」
ロイの隣に、パレットアイズがいた。
馬鹿な。
あそこに、首が折れ曲がったパレットアイズがいる───が、消えた。
速すぎて、残像があそこにあった。
パレットアイズは、頭の矢を抜く。
「すごいわね、あんた。でも───死ね」
「ッ!!」
ロイは魔弓デスゲイズで身体を守る───が、パレットアイズの魔力による『圧』で、身体ごと地面に叩き付けられた。
「っがっぁ!?」
「この弓? 聖剣でもないのに、変な能力持つの。それとも、突然変異した聖剣? まぁ、ブチ壊すけど」
メキメキメキメキと、パレットアイズは地面に仰向けになったまま動けないロイに、強大な『圧』をかける。呼吸すらできず、全身の骨が軋み───嫌な音がした。
それは、『魔弓デスゲイズ』に入る、小さな亀裂。
「───ッ、す、げ」
デスゲイズ。
そう言いたいが、声が出ない。
べき、ばき……と、ロイの右腕が折れ、左足も折れた。
「───ッ、!!」
ロイ!!
エレノアがそう叫び、バーナーブレードを全力で燃やし、血を吐きながらボロボロでロイに斬りかかる。だが……パレットアイズは、見もせずに手を振るった。
すると、空気が裂け───エレノアも、裂けた。
「───ッあ」
右手、右足が切断され、エレノアは吹き飛んだ。
「───ッ、───」
ロイは叫ぶ、が……声は出ない。
「アンタらも、邪魔」
パチンと指を鳴らすと、巨大な雷の柱が、這いずるララベル、ロセ、ユノに直撃。
黒焦げになった三人が倒れ、ピクピクと痙攣していた。
「───」
ロイは絶望した。
勝てない。死ぬ。このままでは死ぬ。全員死ぬ。
エレノア、ユノ。
ぐるぐると思考が回転し、涙が出た。
「あっはっは。わかった? 人間は人間らしく、夢を見ず生きればいいの。人間はあたしたちにとって、ただの娯楽の道具なんだから」
パレットアイズは、どこまでも楽しそうに笑っていた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
亀裂が入った『魔弓デスゲイズ』は、今なおビキビキと亀裂が入っていく。
『…………』
ロイが死ぬ。
やはり、魔王を相手にするには早い。
権能もまだ二つめ。しかも、『色欲』に至っては使いこなせてすらいないし、嫌悪していた。
今のロイでは、魔王を相手にできない。
恐らく、公爵級がせいぜいだろう。クリスベノワには勝てたが、残り三人の公爵級相手では厳しい。
再び、大きな亀裂が入った。
このままでは砕け散る。
だが、デスゲイズは笑った。
『ククク……』
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会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
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