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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ①/空から降る飴

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 トラビア王国の遥か上空に、フリルの付いた傘を広げる一人の少女がいた。
 手には飴玉があり、それをふわふわ浮かべ、口の中に入れてコロコロ舐める。

「まさか、クリスベノワがねぇ~……」

 一部始終を見ていた。
 三人の新人聖剣士と、得体の知れない黒い『何か』に、クリスベノワは敗北した。
 正直、負けるとは思っていなかった。
 だが───クリスベノワの動きが、妙だった。何か縛られているような、何かが働いているように見え……それが原因で、クリスベノワは敗北したとパレットアイズは思った。

「ま、いいわ。何がどうであれ、人間は資格を得た」

 パレットアイズが手を広げると、様々な『お菓子』が現れる。
 飴玉、チョコ、クッキー、グミ。他にも大量の菓子類が現れ、ふわふわとパレットアイズの周りを周回する。そして、パレットアイズが傘から手を離した。
 傘はクルクル回転しながらパレットアイズの頭上を回る。
 パレットアイズは、両手をパシッと合わせ、ニコニコしながら呟いた。

「『箱庭空間ダンジョン』……ふふん。せっかくだし、夢のような、お菓子の世界へ案内してあげる。光栄に思いなさいよ? この『快楽の魔王』パレットアイズちゃんの『世界』へ案内してあげるんだから!」

 パレットアイズは、両手の指を絡め、印を結ぶ。

「『魔王聖域アビス』展開」

 すると、トラビア王国上空に桃色の《紋様》が出現し、トラビア王国を包み込む。
 
「『夢とお菓子のファンタジア・スイーツ・不思議な世界ワンダーランド

 ◇◇◇◇◇

 空から、飴玉が降って来た。
 飴玉だけじゃない。包装紙に包まれたチョコ、グミ、キャンディなど、大量の『お菓子』が降って来たのだ。

「「「「…………」」」」

 ロイ、エレノア、ユノ、ララベルは、ポカーンと空を見上げていた。
 何が起きているのか?

「今日、お祭り?」

 ララベルが言うが、ロイたちは首を振る。
 すると、デスゲイズが言う。

『ロイ、パレットアイズだ』
「えっ」
『ふん、『魔王聖域アビス』を展開したのか。範囲はトラビア王国全体……あくまで遊ぶつもりのようだ』
「…………」
『エレノアには聞こえていない。パレットアイズが上空にいる以上、我輩の存在を知られるわけにはいかないからな』

 聞きたいことが山ほどできた。
 すると、ユノが飴玉を拾い、クンクン匂いを嗅ぐ。

「いい匂い」
「ちょっと、落ちた飴とかやめなさいよ」
「でも、包装紙に包まれてるし……見て」

 ユノが指を刺した方向には、町の子供たち、大人たちが笑いながらお菓子を拾い集めていた。どうやら、何かのイベントと勘違いしているようだ。
 ララベルもチョコの包みを拾い、包みを開けようとすると。

『やめた方がいい。パレットアイズの魔力で作られた菓子だ。どんな影響が出るかわからんぞ』
「すみませんララベル先輩、そのチョコ!!」
「うきゃっ!? なな、なにすんのよ」

 ロイは、ララベルの手からチョコをひったくる。
 町の人は───……もう、すでに食べ始めていた。

「え、なにこれ……」

 そして、エレノア。
 エレノアが見ていたのは、たった今ロイたちが出てきた、大衆食堂。
 ロイ、ユノ、ララベルが振り返ってみると、驚くべきことが起きた。

「…………な、なんだこれ」

 大衆食堂が、変わった。
 古めかしい木造の建物だ。だが、その壁の材質が薄い茶色に……クッキーに変わった。
 窓は薄い水飴に、柱がチョコに、椅子がグミに、屋根がクッキーに代わり、ホワイトクリームがドロリと掛けられた。
 お菓子の家。古めかしい大衆食堂が、お菓子の家になった。

「「「「…………」」」」

 さらに、周囲の建物も同じように変わっていく。
 街灯がキャンディに、ベンチがチョコに、公園の遊具がフルーツパフェに……もう、国中から、甘ったるい匂いが充満し始めた。
 もう、イベントなどではない。
 どう考えても、異常事態だった。

「え、えっと……と、とにかく!! 学園に行くわ。これ、どう見ても異常事態!!」
「「「は、はい!!」」」
『待て。お前はパレットアイズを探せ』
(無茶言うな)

 ロイたちは、聖剣レジェンディア学園へ向かって走り出した。

 ◇◇◇◇◇

「「…………」」

 トラビア王国に入ると同時に、サリオスとロセは『空から降るお菓子』に遭遇した。

「あの……今日って、何かイベントとか」
「え、ええと~?」

 サリオスはロセに聞くが、ロセは首を傾げるだけ。
 だが、すぐ後ろで何やら揉め事があったのか、叫び声が聞こえた。

「おい、なんだこりゃ!? そ、外に出れねえぞ!!」

 トラビア王国の正門から先が、透明な雲……わたあめのような物で覆われていた。
 馬車で出ようとした御者が馬車から降り、雲を掻き分けるが、雲はびくともしない。
 これで異常事態と察したのか、ロセは『地聖剣』を抜き地面に差し、柄部分を捻って一本の『長剣』を抜く。

「ごめんなさいねぇ~」
「あぁ? っどぉあ!?」

 ズババババ!! と、ロセは目にも止まらぬ速さで雲を斬る……が、斬れた雲は一瞬で修復され、ただのわたあめに戻ってしまった。
 ロセは首を傾げる。

「これは~……どうやら、閉じ込められたみたい」
「なっ……まさか、また魔族が!?」
「恐らくねぇ。でも、ダンジョンは全て消えたのに……それに、このお菓子」

 ロセは飴玉を拾う。
 もちろん、口にはしない。
 
「先輩、見てください!!」
「え?」

 サリオスが指さした方を見ると、建物が『お菓子の家』に変わる瞬間だった。
 家だけではない。道も、街灯も、公園の遊具も、町を流れる川も甘いジュースになってしまった。
 完全な異常事態。だが、住人たちはどこか楽しんでいるようにも見えた。

「せ、先輩」
「……学園へ戻りましょう。先生たち、聖剣騎士団の皆さんと話さないと」
「あの、オレ……王城に行っていいですか? この事態、何かわかるかも」
「いえ。単独行動は避けましょう。まずは学園に」
「……はい」

 サリオス、ロセも、学園に向かって走り出した。

 ◇◇◇◇◇

 学園に到着すると、お菓子をいっぱい抱えた生徒たちが多くいた。
 中には、すでにお菓子を食べ始めている者もいる。
 
「ね、ねえ……これ、ヤバいよね」
「ああ」

 ロイは頷く。
 学園はまだ『お菓子化』していない。城下町から、徐々に徐々にお菓子化しているようだ。
 ララベルは、ロイたちに言う。

「えーっと、ロイは部屋に戻ってなさい。エレノア、ユノはアタシと一緒に職員室行くわよ」
「「はい!!」」
「はい」

 好都合だった。
 一緒にいろと言われるより、単独行動できる方が都合がいい。
 エレノアが心配そうに見ていたので、「後で教える」とだけ言い、ロイは走り出した。
 目指すは自分の部屋ではなく、見張り塔。
 あそこなら、学園や城下町を見渡せる。ロイの視力なら何か見えるかもしれない。

「デスゲイズ、行くぞ」
『……待て』
「え?」
『あいつを見ろ』

 と、デスゲイズが言ったのは、ベンチに座ってチョコを食べている女子二人。
 新入生だろうか。女子同士でお喋りしながらチョコを食べている。
 
「これ、すっごくおいしい~!」
「うんうん。あ~、あたしのぶんなくなっちゃった。また拾ってこよっと」
「ん~美味しい、おいしい~……───っっヴ」

 バギン、ベギン、ゴキッ……と、妙な音がした。

「……え?」
「ヴ、ヴァ……ぃ、ぉぉ、を、ヲ」

 チョコを食べていた女子の背中が、裂けた・・・
 そして、背中から昆虫の脚のような触手が生えてきた。上半身の制服がはじけ飛び、身体が黒くなる。さらに、スカートが破れ、臀部からも触手が生えてきた。
 そして───口が裂け、眼が真っ赤になり、この世のモノとは思えない叫びをあげる。

『グェェェェェェェェッ!!』
「ひっ……っき、きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 変化した女子は、触手を使い壁を伝ってどこかへ消えた。
 そして、残された女子は嘔吐……その腕が、黒く変色を始めていた。

『パレットアイズの魔力を取り込んだ結果だ。チッ……さしずめ、『菓子に群がる蟲』といったところだな』
「な……お、おい……も、戻るんだよな?」
『パレットアイズを始末すれば、恐らくは』
「……ッ」

 ロイは、残された女生徒の元へ。

「おい、大丈夫か、おい!!」
「あ、あ……な、なに、これ。なにこれぇ!! あ、あたし、あたしも、バケモノ、に」
「……ごめん!!」
「っっぐ」

 ロイは女子を気絶させ、ベンチに横にした。

「まずい……」

 このままでは、城下町も、学園も……菓子を食べた人間は、『蟲』になる。
 あの蟲がヒトを襲えば、どうなる?

「トラビア王国が───……崩壊する!!」
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