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魔界貴族公爵クリスベノワの『討滅城』⑥/攻略開始

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 数日後。
 総勢百二十名。聖剣レジェンディア学園の生徒たちは、『討滅城』に入城した。
 一年生、二年生をさらに増やし、三年生の成績上位者を三人加え、新たに三つのグループを作る。そして、一階層から二階層へと上がることができた。
 二階層は、いくつものドアが横一列に並ぶ広い廊下だ。ドアの前にはいくつもの『制限』された指示が書かれており、サリオスはエレノアたちに言う。

「また『制限』だ。どう思う?」
「……さらにチームを分けて、一気に攻略! なーんて」
「ダンジョンの目的が、チームの分断だとしたら、あまりおススメできないな……時間はかかるが、確実に一つ一つ攻略すべきか」

 悩んでいると、三年生のリーダーである男子のムートンが言う。

「先輩としてのアドバイスだ。慎重になるのは悪いことじゃないが、咄嗟の判断が迫られる時もある。そして、安全な戦いだけでは、聖剣士は成長しない」
「う……」
「もう少し、仲間を信じてみるのはどうだ? 扉の数はざっと二十……五名ずつ、聖剣の属性をなるべくダブらせないようにチームを分けて、攻略するって案もあるぜ」
「賛成ね」

 と、三年生のリーダーの一人、ポニーテールヘアの少女キキリアが賛成する。

「残り三十日くらい猶予あるみたいだけど、それも確実じゃないんでしょ? 余裕があるからって慎重になりすぎて、リミットを超える可能性もあるわ。それに……残り三十日ってのも、確証がないし」
「……確かに」

 さらに、最後の三年生である坊主頭のオショウが言う。

「南無……迅速にいこう」
「は、はい」

 この人だけ独特だな……と、サリオスは思った。
 エレノアたちに確認する。

「あたしはいいよ。というか、先輩たちのいう通りだし」
「同意」
「よし、じゃあチーム分けを。手分けして攻略しよう!」

 こうして、本格的な攻略が始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 一方ロイは、『討滅城』の周りを歩いていた。

『ダメだな。堅牢な結界によって守られている……侵入は難しそうだ』
「真正面から挑むしかないのか……」

 『制限』付きのダンジョンなんて、まともにクリアできると思わない。
 そもそも、クリスベノワがやりたい放題できるダンジョンなのだ。最終階層で『聖剣士1人のみ入場可能』なんてドアがあり、一対一の戦いになったら、一年生の聖剣士が勝てるはずもない。
 なので、ロイがすべきことは、クリスベノワを先に仕留めることだ。
 
「隠し通路とか、あるのかよ……」
『わからん。が……これほどの規模の城だ。中を管理する魔界貴族が必ずいるはず。そいつらが出入りする出口が、きっとあるはずだ』
「んー……」

 魔弓デスゲイズを肩に担ぎ、ロイはため息を吐く。
 こんな探し方で、見つかるのだろうか。
 とりあえず、いろいろ聞いてみることにした。

「デスゲイズ。公爵級は強いのか?」
『強い。少なくとも、あのエルフやドワーフレベルの聖剣士が百人いても勝てん』
「……それは大袈裟だろ」
『何度でも言う。ロイ……魔界貴族を舐めるな。今のお前は連勝を重ねているから勘違いしているかもしれんが、本来なら侯爵級ですら、まともに戦うのは難しいんだぞ』
「うーむ」

 のんびり歩いていると。

『───!! ロイ、隠れろ!!』
「ッ!!」

 ロイは気配を消し、コートに魔力を流しステルス形態へ。近くの岩に飛び込み、デスゲイズを握りしめ……そのまま、岩から少しだけ顔を出した。

『ククク、大当たり……!!』

 デスゲイズは喜んだ。
 なぜなら、『討滅城』の壁の一部が開き、中から魔界貴族の男が現れたのだ。
 何やらキョロキョロし、ニヤリと笑う。
 デスゲイズはすぐに理解した。

『たまにいるんだ。ああいう勘違いした魔界貴族が……魔力から見て、伯爵級といったところか。昇格したばかりなのだろう……恐らく、ダンジョン管理の仕事に飽き、無断で人間を襲おうと抜け出したんだろう』
(でも、チャンスだ)
『ああ。あの馬鹿のおかげで、抜け道が見えた』

 ロイは矢を抜き、放つ。
 矢は魔界貴族の心臓を破壊。一瞬で蒼い炎に包まれ、燃え尽きた。
 そして、魔界貴族が現れた壁を手でさする。

「ここから、だよな……どこだ?」
『なるほどな。ロイ、そこの窪みを見ろ』

 壁に小さな窪みがあった。
 指一本分。窪みというよりは、石造りの壁にできた小さな隙間のようなものだ。似たような隙間がいくつもあり、一見すると古めかしい造りの壁にしか見えない。
 
『そこの……そう、その窪みだ。そこから今始末した魔界貴族の魔力の残滓がある』
「どれどれ……お、ボタンがある」

 ボタンを押すと、壁が透き通った。

『なるほどな。魔力で偽装した壁か……魔力を流すことで、実体化を解除する仕組みだ』
「ほほー……面白いな」
『さぁロイ、ここから先は『制限』がない。狩人としてのお前の出番だぞ』
「ああ」

 ロイは、魔弓デスゲイズを強く握りしめて言った。

「半日以内でケリを付ける───……行くぞ」

 ◇◇◇◇◇◇

「『灼炎楼しゃくえんろう六歌閃ろっかせん』!!」

 バーナーブレードによる高速の六連斬り。
 エレノアの正面にいた、カボチャのような顔をしたオークこと、『パンプキンオーク』は消滅した。
 現在、ダンジョンの七階層。『制限』に苦しめられながらも、なんとか上っている。
 今の『制限』は、『右手にのみ剣を持つことが可能』という制限だ。
 エレノアは叫ぶ。

「みんな、苦しかったら後衛と交代しつつ戦って!! 無理はダメだからね!!」

 エレノアは、片手で剣を振るっている。
 試しに両手で持った途端、とんでもない激痛が走り動けなくなってしまったのだ。

「第二形態は威力あるけど重い……仕方ないかっ!!」

 エレノアはバーナーブレードを解除。片手剣へと戻し、炎を纏わせる。
 そして、向かってくる『ダンジョンコボルト』を斬り伏せた。
 仲間を気にしながらの戦いは、かなりきつい。
 
「マズイかも───……」

 ここにきて、ようやく『一年生は見習い剣士』というのがよくわかった。
 聖剣に選ばれる前は、それなりに訓練をしてきたのだろう。だが、実戦経験がほぼ皆無なのは見てすぐにわかった。
 二年生は動けている。ダンジョンコボルトを斬り伏せ、聖剣による魔法を放ち、一年生を援護しつつ戦っている。
 七階層は、大きなホールだけの空間だ。右手しか使えないという制限が掛けられ、ホールに現れる魔獣を全滅させれば先に進めるようだ。
 
「きゃぁっ!?」「うわぁっ!?」
「くそ、数が多い!!」「おい、こっちに来てくれ!!」

 困惑が大きくなってくる。
 怪我人も増え始め、徐々に押され始めて来た。

(あたしが、もっと頑張らないと───)

 エレノアは、強く剣を握る。

(もっと、速く、もっと速く、こいつらを全滅できたら……───えっ)

 炎聖剣の柄が、熱くなる。
 まるで、エレノアに応えるかのように熱くなり……エレノアに、一つのイメージを送る。

「これって……ッ!! 全員後方へ下がって!!」

 エレノアが叫ぶ。
 有無を言わさない力強い叫びに、全員がすぐに従った。
 ホールの後方に全員が集まったのを確認し、エレノアは炎聖剣フェニキアを敵に向ける。

炎聖剣フェニキア第三形態サードフォーム!!」

 刀身が割れ、柄が真横にポキッと折れ、鍔の部分が割れて持ち手のようになる。
 エレノアが割れた鍔を右手で、柄を左手で持ち、割れた刀身部分を敵の集団に向けた。

「『灼火熱線砲プロミネンス・バスター』!! マルチロック!!」

 狙うは、《熱部分》だ。
 エレノアの眼には、敵の熱部分……心臓に照準を合わせている。
 不思議な光景が頭に広がっている。まるで、スコープバットから送られてくる映像が、そのまま視界にあるような。
 敵の心臓に、『照準カーソル』が表示される。
 その数、四十。この場にいるほぼ全ての敵。

「食らえ、『灼炎楼しゃくえんろう熱線砲華ねっせんほうか』!!」

 割れた刀身から発射されたのは、高密度に圧縮された炎。それは《熱線》となり、照準された心臓を的確に貫いた。
 魔獣は全て同時に消滅……エレノアは、炎聖剣を……もはや、剣とは呼べない変形をした姿の相棒を見た。

「だ、第三形態……フェニキア、応えてくれたの?……ありがとう」

 エレノアは、愛剣にそっとキスをした。
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