聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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『地底宝物殿』の財宝④/ロイの到着

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「ここが『地底宝物殿』……洞窟だよな?」
『ああ』

 ロイはステルス状態で、『地底宝物殿』の入口にいた。
 天幕内を隠れつつ、エレノアたちがすでにダンジョン内にいると聖剣士たちが話しているのを聞き、急いで崖を駆け下りてダンジョン入口まで来たのである。

「今回は、ダンジョンの制御室で魔界貴族を狙えるんだな?」
『ああ……だが、ボッグワーズは用心深い。いや、臆病だ。シェリンプとシタラドが討たれたと聞いた以上、聖剣士たちの前には現れんだろうし、制御室も厳重な警戒をしているはずだ』
「まぁ、なんとかするよ。狩れない獲物は今のところいないしな」

 そう軽く言うと、ロイはダンジョンの入口を見上げた。
 どう見ても、ただの洞窟だ。

「……隠し通路なんてあるのか?」
『ある。くくく、ほれ、後ろだ』
「え?」

 後ろを見ると、ただの断層しかない。
 ロイは、仮面に魔力を注ぐ。すると、仮面越しに見た地面の一部に、取っ手が付いているのが見えた。

「まさか、入口に……?」
『そうだ。これまで、数々の聖剣士がこの『地底宝物殿』に挑んだが、まさか入口の後ろに、魔族用の通路入口があるとは考えもしない。しかも、偽装魔法によって隠されているともな』
「あらら……」
『ここのダンジョン制御室は広い。魔族も多くいる……気を付けろ』
「ああ、静かに狩るよ」

 以前、火のダンジョンでもそうだった。
 ロイは、制御室にいた魔族たちを、誰にも気付かれることなく静かに狩った。今回もまた、聖剣士たちを援護しながら魔界貴族を狩ろうとしているのだ。

『本当に、お前はとんでもないな……』
「よし、行くぞ」

 ロイは隠し通路の扉を開け、地面に潜っていく。

 ◇◇◇◇◇◇

 制御室までの道には、大勢の魔族がいた。
 長い通路、大きな部屋、たくさんの木箱がある部屋などがある。ロイは通路の壁にぴったりくっつき、ロイのすぐそばを通る魔界貴族の男爵級を『万象眼』で見た。

(どれどれ……)

 男爵級の眼と、ロイの視界を共有。
 男爵級は、スタスタと急ぎ足で歩いている。途中、いくつかの通路を曲がり、室内にいる男爵級に挨拶したり、上司の子爵級に頭を下げたりして、いくつもの木箱がある部屋へ到着した。
 木箱の中身は、とんでもない量の財宝だった。
 大量の金貨、アクセサリーなどが詰まった箱を、宝箱に入れている。

(すっげえ……そうか、ここはダンジョンに設置する宝箱を準備する部屋か)
『ここにボッグワーズはいないようだな』

 ロイは万象眼を解除し、魔族たちが集まる大部屋へ。
 ドアがないので非常に楽だった。
 ロイは矢を抜き、ロイのすぐ傍を通った男爵が通路で一人になったところで、心臓めがけて矢を放つ。

「っこ……ぁ」

 何が起きたかわからない、そういう表情になり、男爵級は青い炎に包まれ消滅した。

(まず、一人……けっこう大変そうだ)

 だが、焦らない。
 少しずつ狩り、道を開く。
 狩りすぎれば「あいつがいない」と騒がれる。
 ロイが動き回れる自然な数だけを狩り、ボッグワーズまでの道を切り開き、ボッグワーズを仕留める前に残りを狩る。
 大物は、一番最後……ロイの狩りでは、いつもそうしている。

(───……次は、あいつだ)

 別の魔界貴族に万象眼を使う。
 そいつが歩き出し、視界が共有される。
 ロイは、制御室内の構造を頭に叩き込み、脳内でマップを作る。

(半日以内に、ケリを付ける)

 ロイの気配は、静かに、静かに……羽虫以下まで消えていった。

 ◇◇◇◇◇◇

「やったぁ! バルバーさん、またお宝!」
「いちいち報告しなくていい。それ、ちゃんと収納に入れとけ」
「はーい!」

 エレノアは、もう何個目かわからない宝箱を空け、財宝を回収した。
 収納にはどれほどの財宝が入っているのかもわからない。
 ユノも、エレノアと交互に宝箱を開けて、満足そうにしていた。

「おい、油断すんじゃねーぞ。上の階層に行けば行くほど、宝箱の中身は豪華になるけどよ、トラップが仕掛けられてることもあるからな」
「「はい!」」
「ったく、返事はいいんだがなぁ」

 バルバーは眉を寄せる。
 やや、緊張感に欠ける。黙っていたネクロムも注意しようとした。
 現在、エレノアたちは広い通路を進んでいる。ほぼ一本道で、分岐などもないため迷わず進んでいる。出てくる魔獣もゴブリンやコボルトがほとんどだ。
 二人は、新しい戦闘スタイルを確立しつつある。第二形態となった聖剣、少しずつ剣の特性も理解し始めており、戦いたくて、考えたくてうずうずしている。
 こういう時が、一番危ない。
 ネクロムが、注意しようとした瞬間───天井に張り付いていた『何か』が、エレノアの目の前に落ちて来た。

「えっ」

 落ちてきたのは、蛇。
 人間を丸呑みできるほど大きな蛇が、天井の壁に『擬態』して潜んでいた。
 尻尾は、まだ天井に張り付いている。
 聖剣を抜こうとするが、蛇はもう動いていた。

「ッシャァ!!」
『ッ!?』

 だが、バルバーの槍が蛇の口を貫き、貫いた瞬間に槍の先から小規模の竜巻が発生、蛇はバラバラになって壁に激突した。

「気ぃ抜くな!! 囲まれてるぞ!!」
「───ッ!!」

 エレノアは炎聖剣を抜き、『バーナーブレード』を展開。ユノも剣を抜く。
 ネクロムは、黒い手持ちの『鎌』を両手に持った。

「ダンジョンスネーク……おかしいな、もっと下層にいるはずの魔獣だ。ここはまだ五階層……こいつが出ていいレベルの階層じゃない」
「チッ、報告にあった『魔界貴族』だろうよ。仲間ぁヤラれてダンジョンをいじってやがる。油断したことろでパックリやるつもりだったのか!!」
「……バルバーさん、その」
「気ぃ抜くな!! わかんだろ?」
「……はい!!」

 エレノアは、炎聖剣を持った時から『熱』を感知することができるようになっていた。つまり、周囲の熱源を感知することで、敵の位置をある程度なら絞ることができる。
 今は、全く感じなかった。天井に張り付いていたダンジョンスネークは、熱すら偽装していたのだ。
 そして、通路の壁が引き戸のように開き、ダンジョンオーガという二メートル以上の身長を持つ鬼が、何体も現れたのである。

「気合入れろ!! ダンジョンオーガは、地のダンジョン最下層に現れる魔獣だ!!」

 バルバーの掛け声と共に、ダンジョンオーガが襲い掛かって来た。

 ◇◇◇◇◇◇

「…………」

 二十人目の男爵級を仕留めたロイ。
 恐らく、これ以上はまずい。すでに何人かの男爵級は「あいつどこ行った?」とか「財宝詰めるの手伝え」と言い、人手を集めている。
 ロイは床に触れ、足音を確認。
 万象眼で男爵級の一人と視界を共有し、大まかな人数を確認した。

(残りは二十人くらい。半分くらい数が減ったのに、まだ怪しまれていない……でも、そう長くはもたないな。早く侯爵級を仕留めて、残りを殲滅しないと)

 魔族を倒しながら進んだことで、制御室の構造も見えた。
 ここは、円だ。
 大きな円形の通路で、沿うように部屋がある。通路の途中にも大きな部屋があり、財宝の管理をしているらしい。ダンジョンの魔獣はどうなっているのか気になっていたが、たまたま『眼』を共有した魔族が、魔方陣が敷かれている部屋で魔獣を『召喚』しているのが見えた。
 
(侯爵級がどの部屋にいるのかもわかった。それと……魔獣を召喚する部屋を潰しておけば、ダンジョンの魔獣が増えることはないかも)

 どの男爵級たちも出入りをしていない部屋が、一つだけあった。
 そのドアは頑強な造りになっており、特別な部屋だとわかる。
 さすがのロイも、視認しないと相手を狙えない。『魔喰矢』でドアを破ることは可能だが、侯爵級に命中するとは思えない。
 まず、ドアを開ける。そのために……『召喚部屋』に向かった。

(───……よし)

 偶然、召喚部屋に入る男爵級がいたので、その背後に付いてドアが空いた瞬間に身体を滑り込ませる。
 床には巨大な魔方陣が敷かれ、魔界貴族数名で魔獣を召喚するための呪文を呟き、魔法陣の上にダンジョンオーガが現れた。

(……!)
『この程度の召喚魔法で四人がかりか……魔界貴族の質も落ちたものだ』

 ダンジョンオーガは、どこかの階層へと転移した。
 すると、部屋の中に声が響く。

『おぉ~い、ダンジョンオーガはもういい。次はギガントオーガを召喚して、聖剣士たちのところに送ってくれよ~……ああ、あと喉が渇いた。誰か飲み物持ってこ~い!』

 どこか間延びした声。
 すると、デスゲイズが言う。

『この声、侯爵級のボッグワーズだ……チャンスだぞ』

 すると、召喚をしていた男爵級たちが言う。

「ギガントオーガ、って……勘弁してくれよ」
「オレらの魔力も無尽蔵じゃないんだ。ったく……」
「飲み物、誰行く?」
「オレが行く。少し喉が渇いた……あの豚め」

 どうやら、ボッグワーズはあまり尊敬されていないようだ。
 男爵級がドアを開け、収納からトレイとワインを取り出し、歩き出す。
 ロイはその後に続き、開くことのなかった扉まで進み……男爵級の男がドアを開け、中に入ると同時に身体を滑り込ませた。
 そして、やはりそこは『制御室』だった。
 フカフカの椅子に座るのは、ぽっちゃりした男。
 男爵級が一礼し部屋を出ると、生野菜の籠からトマトを取り、グチャグチャと食べ始めた。そして、ワインをグラスに注がず、ボトルから直接飲んでいる。
 ロイは矢を番え、ボッグワーズに向けた。

「そこにいるのはわかってるよ」
「!?」

 ギョッとするロイ。
 椅子がくるりと回転し、ボッグワーズはワインボトルをテーブルに置く。

「すごい隠形だね。足音もほとんどしないし、気配も羽虫程度。でもね、きみは『地面』に立っている。それだけで、ぼくにはわかっちゃうんだよ」
「…………」
「待った。きみに話があるんだ……ぼくと、取引してほしい」
「…………エレノアたちに魔獣をけしかけるのをやめろ」
「ああ、いいよ」

 ボッグワーズが『魔獣を送るな』と召喚部屋に命じると、ギガントオーガが送り込まれる寸前で止まった。

『ロイ、罠だ。魔族が人間と取引などするわけがない』
「ぼくの願いは一つ。風のダンジョンを制御しているザオレンさんを始末してほしい」
「…………」
「きみだよね? シェリンプさんと、シタラドさんを倒したの。ぷくく……おかげで、ダンジョンの管理者はぼくとザオレンさんだけになった。ザオレンさんがいなくなれば、ぜんぶのダンジョンをぼくが管理できる……ね、どうだい? ぼくのダンジョン、人間たちにはすっごく喜ばれるよ? ぼくの作るアイテム、すっごく好評みたいだし」
「…………」
『ロイ、ダメだ』
「あと、きみの正体も気になるなぁ」

 次の瞬間、ロイは矢を放った。
 ボッグワーズは矢を素手で摑み、にこにこしていた顔中に青筋が走る。

「なんのつもりかな?」
「俺の正体は、知られるわけにいかない。お前がその言葉を出した時点で、お前と交渉するつもりはない」
「あっそぉ」

 ボッグワーズは『ギガントオーガ、大量に投入』と言い、エレノアたちの元へギガントオーガが現れるのを、ロイは投影魔法の映像で見た。

「じゃあいいや。きみが誰か知らないけど、ここで死んでよ」
「…………」

 ロイは無言で、矢筒から矢を抜いた。
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