聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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新たな出会い

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 サリオスたちがダンジョンから戻る頃には、すっかり朝になっていた。
 エレノア、ユノは一日の休日ですっかり元気になり、『地』のダンジョンに向かう馬車に乗っていた。
 エレノアは、馬車の窓を開けて景色を眺めながら、ボソッと言う。

「ロイ、大丈夫かな……」
「ロイ?」
「え、ああ……まぁ、ちょっとね」
「む、わたしも知りたい」
「だ、ダメだって。幼馴染同士の秘密なのよ」
「むー」

 ムスッとするユノを押さえ、エレノアたちは『地』のダンジョンに到着した。
 まずは聖剣騎士団の駐屯地で、ダンジョン攻略について話すのだが。エレノアとユノは、駐屯地を見て首を傾げた。

「……ダンジョン、どこ?」
「それ、あたしも思った。何もないよね……?」

 駐屯地は、平原の真ん中にあった。
 遺跡なり塔なり、何か建物があると思ったのだが、何もない。
 何もない平原にある駐屯地で、ここに本当にダンジョンがあるのか、エレノアとユノは首を傾げる。
 すると、二人の背後から槍を持った男が現れた。

「来たか、七聖剣士」
「え? あ……ど、どうも」
「ふん。さっさとこっち来い。会議を始めるぞ」
「あ、あのー……ここ、地のダンジョンですよね?」
「あぁ? それ以外に何があるってんだよ」

 随分とガラの悪い男だった。
 どこか迷惑そうに顔を歪め、エレノアとユノをジロっと睨む。
 そして、何かに気付いたように「チッ」と舌打ち、首をクイッと先へ向けた。

「仕方ねぇ、着いてこい」
「「……」」
「おら、ぼさっとすんな」

 エレノアとユノは互いに顔を見合わせ、いつでも聖剣を抜けるよう警戒しながら男に付いて行く。
 駐屯地を抜け、平原をしばらく歩くと……ようやく、見えてきた。

「「わぁ……」」
「何もない平原に駐屯地があるわけねぇだろ? これが『地』のダンジョン……デカい穴倉だ」

 塔や遺跡があるわけではない。
 何もない平原に駐屯地があるわけでもない。
 遠くからでは、わからなかった。
 近づいて見えたのは、地面にぽっかり空く大きな『穴』だ。

「地のダンジョン、別名『地底宝物殿』だ」
「地底、宝物殿?」
「ああ。ここは、他の三つのダンジョンと比べても難易度が低い。さらに、魔族の作った武器や道具が山ほどあるんだよ」
「おおー」
「あの……すみません、ところであなたは?」
「あぁ?」

 男は、「そういや言ってなかったな」と言い、頭をボリボリ掻く。

「オレはバルバー、聖剣騎士団『風』の部隊長だ。今回、お前ら七聖剣士のお守り役ってわけだ」
「あ、ど、どうも。その……エレノアです」
「ユノ」
「おう。疑問は晴れたな? じゃ、行くぞ」
「あ、はい」
「…………」

 ユノは、歩き出すバルバーの背中をジーっと見て、エレノアに耳打ちする。

「この人、怖いけど優しいかも」
「……だよね。わざわざここまで案内してダンジョンの説明してくれたし」
「うん、やさしいヒト」

 バルバーに案内され、一番大きい天幕へ。
 そこにいたのは、黒髪の、どこか顔色の悪い眼鏡の青年と、数名の聖剣士。

「ネクロム、連れて来たぜ。始めようや」
「わかった。ああ……自分はネクロム。聖剣騎士団『闇』部隊長です。よろしく」
「よ、よろしくです」
「よろしく」
「じゃ、地のダンジョンについて説明します」

 ネクロムは、どこか掴みどころのない感じの青年だった。
 顔色が悪く、体調も悪そうだ。
 だが、ネクロムは淡々と説明を始めた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 一方その頃。
 命からがら、ダンジョンを脱出したサリオスたち。
 サリオスは、担架で運ばれるロセの手を握っていた。

「ロセ会長、もう大丈夫です」
「うん。ありがとう、サリオスくん」
「いえ……」
「ふふ、かっこよかったよ?」
「ぅ……」

 サリオスは赤くなってしまい、ロセはクスっと笑う。
 エクレール、ポマードも互いに顔を合わせ、少年少女の青春劇を眺めていた。
 すると、突如として『渦潮』の水が引き始めた。

「な、おいポマード……これって」
「……まさか」

 水が引き、ダンジョンが粒子となって消えていく。
 ダンジョンクリア。たった今、『核』が破壊され、ダンジョンは死を迎えた。
 だが……一体、誰が?
 そしてようやく、ポマードは言った。

「……エクレール。あの扉を破壊した一撃、あなたではないのですね?」
「ったりめーだろ……ヤレんなら最初からヤッてた。ありゃ、完全に外部の、第三者の一撃だ」
「そして、狙いはボクらではない。むしろ……ボクらを逃がすための一撃。ダンジョンがクリアされたということは、その第三者が核を破壊した、ということになる」
「待てよ。そりゃ誰だ? ここにはいない七聖剣士か?」
「たぶん違う。仮に七聖剣士だったら、隠れる理由もないし。堂々と援軍として参加すればいいだけだ。この第三者には、隠れねばならない理由があった、とか?」
「んだよそれ? ってか、どんな能力だ?」
「……わからないね。情報が足りなすぎる。今はとりあえず、ダンジョンクリアの報告と、第三者の可能性を団長に伝えておこう」
「……敵か?」
「それも不明。味方ともいえないけどね」

 ポマードは、チラリとサリオスを見た。
 サリオスは、ダンジョンの消滅をポカンとしながら見ている。

「……殿下を守るための一撃に見えたのは、気のせいだろうかね」

 ◇◇◇◇◇◇

 一方、ロイは。

「…………」
「ロイ、大丈夫か?」
「…………」

 水のダンジョン『渦潮』から速攻で戻り、一睡もせずに学園に登校。
 授業中、眠くて死にそうだったが、なんとかお昼休みを迎えた。
 今日もオルカにパンを買ってもらい、フラフラしながらユイカと中庭へ。

「お前、夜遊びもほどほどにしとけって言っただろうが」
「……違うっての」
「ロイってばサイテー、ユノやエレノアがいないからって、遊んじゃダメよー?」
「うっさい……あ、パンうまい」

 エレノアとユノは『地のダンジョン』に向かった。
 学園が終わったら、またダッシュで行かねばならないのだが……さすがに、倒れそうだ。
 すると、聖剣用のラックに掛けてある木刀形態のデスゲイズが言う。

『今日は休め。そのままダンジョンに向かっても、満足の行く狙撃は無理だろう』
「……でも、エレノアが」
『大丈夫だ。地のダンジョン、『地底宝物殿』は、四つのダンジョンの中でも難易度が低い。今日が初挑戦なら、そう深くは潜らないはず。一日、しっかり休んで明日からまた始めろ』
「うぃ~……」
「おいユイカ、こいつなにボソボソ言ってるんだ?」
「お疲れなんでしょ。幻覚見えてるのかも?」

 二人に好き勝手言われていたが、反論する元気がないロイだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 放課後。
 オルカの誘いをまたしても断り、ロイは一人で学園を出て、城下町を歩いていた。
 すぐに寮に戻って寝てもよかったが、少し歩きたい気分だったので、城下町を歩いている。

「あぁ~……なんか、すっごいダルいかも」
『そりゃほぼ不休で、二つのダンジョンと二人の侯爵級を倒したんだからな』
「……なぁ、俺ってさ、前に出過ぎてるか?」
『なに?』
「本来なら、魔界貴族を倒すのは聖剣士だろ? それに、ダンジョンも二つ消えた……そろそろ、俺の存在とまではいかないけど、聖剣士じゃない『第三者』がいるってバレそうだぞ」
『かもな。だが、そのまま隠れていろよ。恐らく、聖剣士たちも、魔族たちも、第三者であるお前のことを「はぐれ者の聖剣士」と思ってるはずだ。まさか、我輩を宿した弓で狙撃しているなぞ、考えてすらいない。我輩の正体がバレるのは、少なくとも二人倒してからだな』
「はいよ。まぁ、頑張るよ」

 ロイは大きく背伸びし、そろそろ学園寮に戻ろうと欠伸をする。
 すると、ロイの背中に何かがぶつかった。

「いてっ」
「あら、ごめんなさい」
「あ、はい」
「でも、あなたも欠伸しながら背伸びして、周りが疎かになっていたわ。あなたも、アタシに謝りなさいな」
「え……って」

 女性は、綺麗なエメラルドグリーンの髪をしていた。
 そして、物凄い美少女だ。
 ロイと同じくらいの年齢だろう。だが……悲しいくらい、胸がない。
 少女の腰には、立派な装飾の施された双剣があり、なんと木造りの弓を持っていた。

『エルフか』
「エルフ?」
「そう、エルフよ」

 少女は胸を張るが、小さい。
 
「って、そんなことより……謝りなさい」
「あ、はい……ぶつかって申し訳ございませんでした」
「ん。じゃあ次から気を付けることね」
「はあ」
「……なんか覇気がないわね。あなた、眠いの? それにその木刀何?」
「えーと、これが俺の聖剣で。眠いのは寝てないからです」
「ふーん……ん? ちょ、待った……この木刀、この材質……もしかして!!」

 すると、少女はロイの木刀をガシッと掴み、まじまじと見た。

「め、『女神の聖木』じゃない!! あなた、どこでこれを……って、聖剣の選抜しかあり得ないわね。あなた、これちょうだい!!」
「…………嫌です」

 なんだか逃げたくなるロイ。
 すると、少女はあっさり諦めた。

「そっかー……じゃあいいわ。ごめんね、騒がしくして」
「……あの、この木刀、なんで欲しいんですか?」
「そりゃ女神の聖木で作られてるからよ。知ってる? 女神の聖木は美容効果にいいの。湯船に入れるだけで、お肌スベスベになるのよ」
「…………はあ」

 すごいどうでもよかった。
 ロイはペコっと頭を下げ、さっさと寮へ戻ろうとする。

「ね、あなた。聖剣レジェンディア学園の一年生?」
「え? はい、そうですけど」
「じゃあ、アタシのこと知らないのも無理ないわね。アタシの名前はララベリアルルド・グリンデルワル・シャイローブルム・エルフリアよ。あなたの先輩で、学園の三年生。名前長いからララベルでいいわ。そして、『風聖剣エアキャヴァルリィ』の聖剣士……ふふ、よろしくね」
「え、風聖剣って……」
『やはりそうだったか。だが、聖剣を使えるのは人間のみ……ああ、ハーフか』
「あ、聖剣は人間にしか使えないって思ってる? ま、アタシはハーフだから使えるのよ。ね、あなたの名前は?」
「えっと……ロイです」
「ロイね。覚えておく。あのね、お互い知り合いになったわけだし、いつかその木刀貸してね。お風呂に浮かべるだけだからさ! じゃ、そういうことで~っ」

 ララベルは手を振って去った。
 
「自己紹介した理由が、木刀を風呂に浮かべるため……か」
『妙な女だ。まぁいい。さっさとメシ食って寝るぞ』
「へいへい」

 ロイはもう一度大きな欠伸をして、寮までの道を歩き出した。
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