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炎の迷宮『業火灰燼』①/燃えるダンジョン

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 ダンジョンに挑戦することになった。
 ユノがそう言うと、ロイは「やっぱりな」と思った。
 デスゲイズの言った通り、ダンジョン攻略に七聖剣士が駆り出される。
 ロイは平静を保ちつつ、ユノに言う。

「ダンジョン攻略……大丈夫なのか?」
「うん。最近はロセ会長といっぱい訓練してるし、収納も使いこなせるようになってきた。ほら」

 ユノが指をパチッと鳴らすと、ユノの頭上に黒い穴が空いて、『氷聖剣』が落ちてきた。
 それを掴み、再び黒い穴に剣を入れる。

「持ち運びらくちん。しかも、お菓子もいーっぱい入るの」
「お、お菓子?」
「うん。収納、すっごい便利」

 と、オルカをどかしてエレノアがロイの隣へ。

「ユノの言う通り、あたしたちダンジョン攻略に行くことになった。最初は、トラビア王国から北にある『炎』のダンジョン……あたしにピッタリね」
「わたしも一緒。炎属性なら、氷で冷やせるし」
「それと、聖剣騎士団も同行するわ……ね、ロイ。ロイも行けない?」

 エレノアはチラッとデスゲイズを見た。が……エレノアの隣に座っていたオルカが言う。

「いやいやエレノアちゃん。オレらみたいな新人聖剣士が行けるわけないっしょー? あはは、ロイと一緒にいたい気持ちはわかるけどさー」

 どうやら冗談だと思われている。エレノアとしては冗談のつもりなどない。
 エレノアは、こそっと小さな紙をロイの手に握らせた。

「ま、そうよね。それに、同行するのは騎士団だけじゃなくて、二年生と三年生も同行するって話だし……とりあえず、経験積んでくるわ」
「わたしも、ね、ロイが一緒だとうれしいな」
「そ、そうか?」
「ん……」

 ユノは、ロイの腕に抱きついて甘えてくる。
 頭をぐりぐりしてくるのが、なんとも可愛らしい。
 すると、エレノアがロイの頬を軽くつねった。

「なにデレデレしてんのよ」
「いででで!? いい、痛いって!!」
「ふん。ってかユノ、あんたもくっつくな!!」
「やだ。だってロイ、あったかいし優しいから大好き」
「え」
「ロイはわたしのこと、好き?」
「えっと」

 なんと応えればいいのか、ロイにはわからない。
 ユノのことはもちろん好きだ。恋愛的な意味ではなく、友人として。
 こうして腕に抱きつかれるのも、正直悪くない。女の子の柔らかさが気持ちいいし、甘いどこかひんやりとした香りも、妙に心地よい。
 ユノはかわいい。こんな可愛い子に「好き」と言われたら、もちろん嬉しい。
 だが───隣のエレノアの視線が、けっこう痛い。
 返答を間違えたらヤバいような……すると。

「そりゃ男の子はみんな、可愛い女の子大好きだよな。なぁロイ」
「あ、ああ」
「つまり……エレノアちゃんも大好きだろ? このモテモテハーレム野郎め!!」
「お、おい。なんだよそれ……」
「むー」
「すす、好きって……あ、あたしも? もうロイってば、馬鹿じゃないの? もう、馬鹿……」

 なぜか満更でもなさそうなエレノア。ロイは視線でオルカに『助かった』と言うと、オルカは視線で『あとで奢りな』と返した。
 と───ここで、予鈴が鳴った。

「じゃ、あたしはここで。ユノ、あんまりベタベタしちゃダメだからね」
「それはやだ」

 エレノアは行ってしまった。
 ユノはロイの腕にギューッと抱きついたまま、ロイに言う。

「ロイ、午後の剣術授業、一緒に組もう」
「いいけど……俺、ヘタクソだぞ?」
「いい。一緒がいい」
「あ、ああ」

 お菓子をあげただけで、ここまで懐かれるとは……ロイはまた今度、ユノのためにお菓子を買おうと考えていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 放課後。
 ロイは、パーティー会場から離れた場所に立っている見張り塔に来た。
 頂上で待っていると、ドアが開いてエレノアが入って来た。

「時間通り、ね」
「ああ。お前、時間にルーズなヤツ、嫌いだもんな」
「まあね。それより……」

 エレノアは、デスゲイズを見る。
 
『なんだ、ジロジロと』
「……ひ、久しぶりね」
『ふん、我輩のことは誰にも言っていないようだな。危うい場面はあったようだが』
「え、わかるの?」
『我輩がかけた呪いだぞ? 当然だ』

 デスゲイズとエレノアが会話をしている。
 なんともいえない光景に、ロイは少しだけ嬉しくなった。

「な、エレノア。いろいろ聞きたいことがある。お前……というか、七聖剣士が、あのダンジョンに挑むって本当なのか?」
「本当よ。さっき、生徒会長から連絡があったの。私とユノ、会長と殿下の二チームに分かれて、『火』と『水』のダンジョンを攻略するって」
「二チーム同時に攻略か……」
「ええ。ダンジョン、あと六十日以内に攻略しないと、ダンジョン内から魔獣があふれ出る仕様になってるみたい。もしダンジョンから魔獣があふれ出したら……トラビア王国は終わる」
「…………」
「ロイ、あなたも来て。って言いたいんだけど……今回は二年生、三年生と騎士団があたしたちに同行するの。ダンジョンの入口も厳重に守られているし、同行は難しいかも……」
「くそ……」

 さすがのロイも、完全に屋内だと弓で狙いようがない。
 
「なぁ、ダンジョンはどうすれば消えるんだ?」
「ダンジョンの心臓である『核』を破壊すればいい、って聞いたけど」
「そういうのって当然……」
「ええ。ダンジョンの最下層にあるらしいわ。核を守る魔獣もいるみたい」
「管理者の魔族は?」
「普通は出てこないみたいだけど……」

 エレノアが首を傾げると、デスゲイズが言う。

『奴らはダンジョンの「管理部屋」にいるだろうな。そこで、お前たちの戦いを観察し、魔獣を投入したり、罠を設置したりしているはず。奴らを引きずりだすには、核を破壊するだけじゃ足りないな』
「じゃあ、どうするのよ」
『ロイ、お前の出番だ』
「え?」
『最初は、火のダンジョンだったな。確か……『断鋏』のシェリンプが管理者のはず。ククク、面白くなってきた。ロイ、魔王狩りの始まりだぞ』
「……なんか嫌な予感してきた」
『さぁ、まずは準備が必要だ。エレノアよ、ダンジョン攻略はいつからだ?』
「明後日からだけど……」
『よし。ではロイ、さっそく狩りに行くぞ。エレノア、お前も来い』
「え、今から? もうすぐ夕飯だぞ」
「それに、夜間外出は禁止よ?」
『放っておけ。いいから行くぞ』

 いつになくやる気のデスゲイズに付き合い、二人は初めて校則を破った。

 ◇◇◇◇◇◇

 二日後。授業が終わり、ロイはカバンを手に立ち上がった。
 すると、オルカとユイカが傍に来る。

「なー、今日はどうする?」
「悪い、帰るわ」
「……わかる。心配だもんね、お祈りでもするの?」
「いや、普通に帰るだけ」

 ユイカに肩をポンポン叩かれた。
 今日は朝から、エレノアとユノとサリオスがいない。
 七聖剣士の三人だけではなく、二年生と三年生もダンジョン攻略に駆り出され、学園内は静かだった。
 ちなみに、ベルーガの襲来以降、学園警備として騎士団の一つが常に警護をしている。
 ロイは急いで教室を出た。

「行っちまった……何だろな、遊びにでも行くのか?」
「違うでしょ。あ、ねぇオルカ。買い物行くから付き合ってよ。新しい鞘欲しいんだ~」
「お、デートのお誘い? いいね、喜んで!」
「違うわよバーカ」

 二人の仲睦まじい声が聞こえた。
 ロイは少しだけ微笑み、自分の部屋に戻ってカバンを投げ捨て、城下町の防具屋で買った革製品の装備を身に付ける。
 そして、デスゲイズを掴み、寮から飛び出した。

『向かう先はわかっているな?』
「エレノアたちが向かった火のダンジョン!! そこにある隠し通路・・・・だな?」
『ああ。本来、魔界貴族たちが出入りする専用の入口だ。魔法で隠蔽されているが、お前なら見つけられる』
「よーし!!」

 魔族を狩る。
 そう考え、ロイは魔力操作で加速する。
 国の外へ出て、いつも狩りをしている森へ。正面の街道には、多くの聖剣士や騎士団がいる。ロイの姿を見られるわけにはいかない。
 ロイは、火のダンジョン『業火灰燼』から二キロほど離れた林道へ入り、一番大きな木の上に登った。
 そして、魔力を眼に集め……巨大な『遺跡型』ダンジョンを見る、が。

「………………は?」

 ロイは、自分の眼が信じられなかった。
 なぜなら。

「お、おいデスゲイズ……あれ、ヤバくないか?」
『何がだ?』
「いやだって、あれ、遺跡───……燃えてるぞ」

 遠目からでもわかった。
 火のダンジョン『業火灰燼』は遺跡型ダンジョン。
 遺跡は、豪快に燃えていた。
 まるで火事……なのだが。

『あれが普通だ。さ、行くぞ』
「マジで!? いやいや、さすがにヤバいぞ!?」

 こうして、ロイとデスゲイズのダンジョン攻略が始まった。
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