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現われし五大ダンジョン

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 トラビア王国、王城。
 大会議室に集まった精鋭の聖剣士たちと、国の重鎮たち、そして国王であるバンガード。彼らは、数日前に突如として現れた五つの『ダンジョン』についての対策を練っていた。
 国王バンガードは、頭を抱える。

「………これも、聖剣が七本揃ったせいなのか」
「可能性はゼロではないでしょう。ですが……この現状は、前代未聞だ」

 同じく頭を抱えるのは、トラビア王国聖剣騎士団の団長にして、聖剣騎士団『光』部隊を率いる、SS級聖剣士『螺旋』のルドルフだ。
 七聖剣士を除いた聖剣士の中では、トップレベルの戦闘能力を持つ。そんなルドルフの強さをもってしても、今この状況には頭を抱えたくなる。
 なぜなら、『快楽の魔王』パレットアイズのダンジョンが全て……この、トラビア王国に現れたからだ。
 ルドルフの部下であり、聖剣騎士団『炎』部隊隊長、S級聖剣士の女性カレリナが言う。

「騎士団を総動員し、攻略に当たらねばなりません。他国からの救援は……」
「難しいだろうね」

 聖剣騎士団『水』の部隊長、S級聖剣士ポマードが肩をすくめる。

「ただでさえ、七本の聖剣が全てここトラビア王国に集まっているんだ。今は三本の剣がそれぞれの国に戻っているとはいえ、他国も魔族の防衛に手いっぱいで、ダンジョンの攻略に手を貸す余裕はない。それに……ダンジョンが現れた影響なのか、魔界の国境では魔族による侵略が増えているようだしね。三本の聖剣を呼び寄せる暇もないし、戻せるわけがないだろうね」
「くっ……」

 聖剣騎士団『土』の部隊長ミコリッテは、オドオドしながら挙手。

「じゃ、じゃあ……一つずつ、みんなで確実に攻略ですね!」
「バァァカ。そんな悠長なことしてたら他のダンジョンから魔獣がわんさと現れるぞ」

 聖剣騎士団『風』の部隊長のバルバーがミコリッテを睨む。
 すると、眼鏡をかけた聖剣騎士団『闇』の部隊長ネクロムが眼鏡をクイッと上げた。

「ダンジョンの管理は魔界貴族『侯爵級』……いつもだったら、七つの国のどこかにランダムで、五つのダンジョンが展開されるのに。今回はトラビア王国を囲むように、五つ同時に現れた……狙いは、この国で間違いないっぽい」

 どこか陰気な物言いに、聖剣騎士団『雷』の部隊長、エクレールが言う。

「ハッ、くっだらないね。ウチの部隊に一つ任せな。ソッコーでクリアしてやるからよ!!」
「そこまで」

 ルドルフが重々しく言うと、部隊長たちは黙る。
 すると、トラビア王国の女性宰相であるマルシェラが、自分の顎を撫でながら言った。

「ルドルフ。今の戦力で攻略できるダンジョンは?」
「…………三つ、が限度です」
「なら、残り二つは……七聖剣士に任せよう」
「なっ!?」

 これにはルドルフも、他の部隊長たちも驚いた。
 真っ先に反論したのは、部隊長の中で一番ガラの悪い『風』のバルバーだ。

「正気か!? 里帰りしてる三人と生徒会長のロスヴァイセはともかく、残り三人はウチの部隊の新兵よりも弱っちいんだぞ!? 侯爵級が管理するダンジョンなんかに放り込んだら、半日もしないうちに喰い殺されちまうぞ!!」
「おやおや、相変わらず子供好きなようだね、バルバー」
「ババァ、茶化してんじゃねぇよ!!」

 一番チンピラっぽい部隊長のバルバーは、この中で誰よりも子供好きで、給金で孤児院を支援したり、自分で経営している。本人は隠しているが、この場にいる全員が知っていた。なので、強がってツッパる姿は怖いのではなく、なぜか微笑ましく見えていた。
 すると、『地』のミコリッテも小さく挙手。

「わ、わたしも、その……子供を巻き込むのは。それに、ロスヴァイセちゃん……彼女に言えば、絶対に行くっていいますよ? あの子、二年前に一人でダンジョンを攻略しちゃったし」
「かもねぇ。歴代最強の『地聖剣ギャラハッド』の使い手は並みじゃないってこった」
「あの、今回はイレギュラーですし……せっかく揃った聖剣士を、危険に晒すような真似はしない方がいいかと……慎重に、わ、わたしたち聖剣騎士団で、慎重に、慎重に攻略すべきかと……」
「同意するぜ」

 ミコリッテの意見に、バルバーは挙手して同意。テーブルに足をドンと乗せた。
 だが、ルドルフは言う。

「…………子供を巻き込みたくないという考えはわかる。だが、今回は人手が足りないのも事実……なら、二年生と三年生と七聖剣士を補佐に付け、我々が守ればいい。楽観的かもしれんが、七聖剣士にとっても、ダンジョンではいい経験を積めるはずだ」
「オヤジ、テメェ……正気かよ」
「快楽の魔王パレットアイズのダンジョンがどういうものか、お前も知っているだろう」
「…………」

 バルバーは黙り込む。
 当然、知っている。
 
「ダンジョンには、我々の知らない技術で作られた道具が多く存在する。どういうわけか……快楽の魔王パレットアイズの侵攻は、四大魔王の中でも軽い。我々がしっかり対応すれば、乗り切れる」

 ルドルフの決断に、バルバーは舌打ちして黙り込む。
 そう……快楽の魔王パレットアイズだけが、魔王ではない。
 今後のことを考えると、ダンジョンにある道具や武器、そしてダンジョンに住む魔獣で七聖剣士たちのレベルを上げることは最重要事項だ。
 全員が黙り込み、宰相マルシェラが言う。

「決まりだね。まずは『公爵級』を除いた四つのダンジョンを攻略する。七聖騎士団を総動員し、聖剣レジェンディア学園の二年、三年生。そして四人の七聖剣士を動員。早急に部隊を再編制……十日後に二つのダンジョンを攻略開始する」

 すると、『水』の部隊長ポマードが挙手して言う。

「攻略のリミットは?」
「従来通りと考えるなら、魔獣がダンジョンから溢れ出すまで七十日といったところだ。すでに七日経過している……残り六十日以内に、ダンジョンを攻略する。いいね、ルドルフ」
「ああ。陛下も、よろしいですかな?」
「…………任せよう」

 バンガードは頷き、ルドルフに言う。

「ルドルフ。息子を頼むぞ」
「はっ!!」
「皆も、最善を尽くすように」
「「「「「「はっ!!」」」」」」」

 こうして、トラビア王国騎士団と、聖剣レジェンディア学園の二年、三年。
 そして……現在学園にいる七聖剣士、エレノア、ユノ、サリオス、ロセのダンジョン攻略が、始まろうとしていた。

 ◇◇◇◇◇

 ロイは、パーティー会場からベルーガを狙撃した見張り塔に上り、『万象眼』を使って空を飛ぶカラスの視界を共有……トラビア王国から一番近いダンジョンを見た。

「あそこに、侯爵級だっけ? がいるんだな」
『ああ。四人の侯爵が管理する『地水火風』を司るダンジョンだ』
「地水火風?」
『その名の通りだ。さらに、『公爵級』……四魔公爵の一人、『討滅』のクリスベノワが管理する楽園ダンジョンは、なかなかに面白いぞ』
「面白いねぇ……正直なところ、関わりたくない」
『だろうな。だが、約束だ。まずはパレットアイズを倒してもらうぞ』
「わかったよ」
『我輩の勘だが、ダンジョン攻略に七聖剣士たちも関わるだろう。お前の出番もあるだろうな』
「わかってるって。七聖剣士たちの援護は、俺の仕事だ」

 ロイは万象眼を解除。見張り塔の手すりに寄りかかる。

「俺がやることは変わらない。魔族を狩る……やってやるさ」
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