聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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やるべきこと

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「…………」

 ある日、ロイはデスゲイズお手製の隠蔽が施されたローブこと『イレイザーローブ』と、同じ効果を持つ仮面『ペルソナ』を装備し(命名はデスゲイズ。ロイは嫌がったが押し切られた)トラビア王国郊外の森で狩りをしていた。
 背中にある矢筒こと『大罪の矢筒シン・ヴェロス』から抜くのは、金属製の矢。ありふれた一般的な矢で、デスゲイズの『無から有クリエイト』で作られている。
 矢を『魔弓デスゲイズ』に番え───……静かに放った。

「…………よし」
『ふむ、その眼……使いこなせるようにはなってきたな。まぁ、我輩に比べればカスみたいなものだが』
「カスって何だ。言い方あるだろうが」

 現在、ロイの右目は赤く、瞳は金色に光っている。
 デスゲイズの眼である『万象眼』だ。これは『ロイが視認した生物の視界を共有することができる』という眼で、ロイは現在位置から1200メートル先にいるリスの視界を借り、野生のシカを喰らっていた狼型の魔獣『アッシュウルフ』の脳天を見事に撃ちぬいた。

『その眼を使わずとも、射抜けたのではないか?』
「まぁな。2キロ以内の狙撃で外したことないし。でも、せっかく手に入れた能力なんだ、いろいろ試したいだろ」
『……そうか』

 二キロ以内の狙撃で、外したことがない。
 これは嘘でも慢心でもない。真実だ。
 現に、ベルーガが学園を襲撃してから二十日ほど経過。その間、休日に狩りをしに郊外の森まで何度か足を運んでいるが、ロイが的を外したことは、ただの一度もない。
 自信にあふれているでもない、淡々と事実を語っている。

「な、デスゲイズ。もう少し弓の張りを強くできないか?」
『……これ以上か?』
「ああ」
『わかった。では……これでどうだ?』
「どれどれ」

 滑車とテコの原理で引ける弓だが、今の張力でも魔力操作で身体強化をした人間七人ほどの力がないと引くことはできない。だが、ロイは軽々と引く。
 普通ではありえない。
 だが、デスゲイズはロイの魔力操作、身体強化の秘密を探り、その正体を突き止めた。

「うん、いい感じ。ありがとな」
『気にするな。お前の腕が上がると、その分だけ魔王共を射抜ける確率が上がる』
「はいはい」
『……本当に、お前はとんでもないやつだな』
「は?」

 ロイは「しまった」と言い、魔力操作で視力を上げて仕留めたアッシュウルフを見た。
 案の定、狼の死骸には他の魔獣が群がっていた。

「あーあ……肉、食いそびれた」
『金はあるだろう? 町でいい肉を喰えばいいだろうが』
「馬鹿だなー、自分で狩って、解体して、その場で焼いて塩コショウ振って食う肉は、町の料理店で食う高級肉よりもうまいんだぞ?」
『そんなものか?』
「ああ、お前にも食わせてやりたいよ」

 ロイは木から飛び降りる。

「えーと……『黒装トランス』」

 そう唱えると、ローブと仮面が弓に収納され、さらに弓が木刀になった。
 ロイはため息を吐く。

「あのさ……ローブと仮面、普通に装備するから、いちいちその、トランスとか言いたくないんだけど。それに、装備品に変な名前つけるのもちょっと……」
『大馬鹿者!! 名前は大事だぞ? それと変な名前とはなんだ!?』
「わ、悪かった悪かった……はぁ」

 ロイは、藪に隠していたカバンから水筒とパンを取り出し、近くの岩に座って食べ始める。

『ところで、あの女は?』
「あの女? ああ、エレノアか。今日はユノと町で買い物だって」
『同行しなくてよかったのか?』
「いや、女同士の買い物だし……それに、お前に慣れておきたかったからな」
『ふ、我輩を選ぶとは。よーくわかっているではないか。言っておくが、今はこの姿だが、真の姿を取り戻した時のために好感度を上げておくのはいいことだぞ?』
「へいへい。それにしても……エレノア、大丈夫かな」
『む、何がだ?』
「お前のことだよ」
『……ああ』

 ロイは、約一月前……ベルーガを倒し、見張り塔でエレノアと話したことを思い出した。

 ◇◇◇◇◇

「ぅ~……」
「そ、その……悪かったよ」
「……もういい」

 見張り塔にて。
 ロイに胸を見られたエレノアは、ロイからローブを強奪して羽織っていた。
 何度か深呼吸をして、ロイの方に向き直る。

「で……なに、今の?」
「…………」
「あの『矢』……あんたでしょ? それに、あたしにトドメ刺すように叫んだのも」
「う」
「……それ、なんなの?」

 エレノアは、ロイの弓……『魔弓デスゲイズ』を見る。
 すると、デスゲイズは言う。

『もう隠しきれんな。下手に隠してこの先怪しまれるより、こいつには真実を話してもいいだろう』
「こいつ、って……いいのか?」
『ああ、お前の信頼する人間だ。こいつは、我輩の秘密を話すような人間か?』
「……魔王ってやつか」
『そうだ。今のお前なら信じるだろう? 我輩は『大罪の魔王デスゲイズ』、四大魔王に封印された魔王だという話を』
「まぁな。こんな出鱈目な力、あり得ないし」
「ちょっと、何ブツブツ言ってるの? ああ……そういえば、意志を持つ能力だっけ」
「エレノア」

 ロイは、エレノアに弓を見せつけた。

「全部話す。今の攻撃も、俺がやったことも全部。そして、信じて欲しい」
「……いいわ、話して」
 
 ロイは、全て話した。
 魔王デスゲイズ。ロイの聖剣は聖剣ではなく、五番目の魔王が封じられた木刀だということ。斬撃無効の呪いにより何も斬れない木刀ということ。ロイの弓の腕前に惚れてこの姿になったこと。そして、ロイと契約して聖剣士ではなく『狩人』となったこと。
 ロイは、全て話した。

「…………ほんとなの?」
「ああ」
「聖剣士を……諦めたの?」
「ああ」
「…………そんな」
「でも、お前と一緒に戦うことを諦めたわけじゃない。俺はずっと逃げてた……上がらない剣の腕前、先を進むエレノア。追いつけない焦りから、お前のことも避けてた。お前が炎聖剣に選ばれて、もう追いつけないって決めつけてた。でも……今は違う。隣り合って戦う聖剣士になれなくても、お前を守ることができる」
「……っ」
「エレノア。俺は聖剣でお前の隣では戦えない。でも……先を進むお前の後ろから、お前の敵を穿ち、お前を援護する。俺が、俺の矢でお前を守る」
「…………ロイ」

 決意に満ちた目だった。
 同じだった。
 かつて、子供のころ……エレノアを守ると誓った、少年のロイと。
 あの頃のロイが、帰ってきた。

「……待ってるつもりだったのに、もう追い越されそう」
「え?」
「ううん。なんでもない……それと、信じるよ」
「……エレノア」
「その弓のこと、今の力のこと、信じる」

 エレノアが頷くと、デスゲイズが言う。

『なら、我輩に血を濡れ』
「え?」
『ちょうど出血しているな。その血でいい、我輩に濡れ』
「ん、どうしたの?」

 ロイがエレノアに「血を塗れって言ってるけど」と言うと、エレノアはベルーガに掴まれて少し切れた首から血を拭い、デスゲイズに塗った。
 すると、デスゲイズが淡く輝いた。

『接続完了。どうだ、聞こえるか?』
「……うそ、聞こえる」
「え」
『我輩と貴様の間にパスをつないだ。これで我輩の声が聞こえる。同時に……貴様に少し、呪いをかけた』
「え……」
「なっ、デスゲイズ、おま」
『安心しろ。我輩のことを他言しようとすると、声が出なくなる程度の呪いだ。すまんな……我輩の存在は、まだ魔王に知られるわけにはいかん。少なくとも二人、魔王を討伐するまではな』
「デスゲイズ、お前勝手に」
「待って。わかった、あなたのことは誰にも言わない」

 エレノアは力強く頷いた。
 それから、しばらく互いに無言。
 話すべきことはいろいろある。

「とりあえず……今は、この状況ね」
「ああ。みんなは……」

 ロイがパーティー会場の中を『万象眼』で、羽虫を経由して見ると、何人かの生徒が起き始めた。
 サリオス、ユノも気絶から起きたようだ。

「とりあえず、魔族襲撃のことと、後始末しなきゃな」
「ええ……ところで、ロイ」
「エレノア。あの魔族を討伐したのはお前と、殿下と、ユノだ。俺のことは何も言うな」
「やっぱりそう言うと思った……あたしなんてトドメだけで、ほとんどあんたがやったようなモンじゃない」
「いいんだよ。俺は狩人だからな。目立ちたくない」

 そう言い、ロイとエレノアは後始末をしにパーティー会場へ戻った。
 その後、教師が慌てて来てサリオスを医務室に運んだり、ユノを助け起こしたロイだが漏らしたことを知られロイをビンタしたりと、パーティーは中止になり、怪我人以外は寮に戻された。
 最後、エレノアはロイに言った。

「ロイ、あとでちゃんと話そうね。その、デスゲイズのこと……いろいろ知りたいし」
「ああ、わかった」

 それから約一か月。
 学園は再開され、日常が戻りつつあるが……ロイは、エレノアと話せていない。

 ◇◇◇◇◇

 ロイはここまで思い出し、水筒のお茶を飲みほした。

「っぷはぁ……まぁ、エレノアが誰かにお前のこと話すとかはないだろ。それより、今後のことも話しておかないとな」
『今後のことか』
「ああ。お前との約束は守る……魔界に行けば、魔王にたどり着けるか?」
『ククク、やる気になってくれたのはありがたい。だが、奴らがそう簡単に我輩らの前に出てくるとは思えん。盤上遊具……チェスフィールドだったか? あれの駒を動かして遊ぶのはいいが、自ら駒になりたいとは思わんだろう?』
「そうだけど。じゃあ、どうするんだ?」
『まずは、魔族を狩る。あのベルーガとかいう奴はササライの部下だった。あいつを倒したことで『手番』が変わったはず。次はパレットアイズの番だ』
「パレットアイズ……『快楽の魔王』か」
『あいつの部下、魔界貴族を始末する。あいつは短気だ。お気に入りの部下を皆殺しにすれば、盤上に現れるかもしれん』
「ちょっと待った。快楽の魔王って、確か……」
『ククク、そうだ』

 ロイも知っている。
 快楽の魔王パレットアイズ。彼女が行う『人間界への侵攻』は違う。
 
『そう、『箱庭世界ダンジョン』……奴が作る人間たちの『遊び場』だ。それを管理する魔界貴族を皆殺しにしろ』

 快楽の魔王パレットアイズ。
 彼女は、人間界に大量の『迷宮』を設置し、聖剣士を誘い込んで殺す。
 ダンジョンは、放っておけば大量の魔獣であふれ出す。なので、聖剣士はダンジョンに入り、ダンジョンの《核》を破壊しなければならない。
 さらに、どういうわけなのか……ダンジョン内には、財宝や人間では作ることのできない武器や防具なども設置されており、まるでゲームのような場所でもあった。
 
『パレットアイズは、ダンジョンに挑戦する聖剣士たちを見て、笑う。設置したダンジョンが全て消え去れば奴の『手番』は終わる』
「…………マジか」
『ああ。ククク、楽しくなってきたぞ』

 ロイは、空っぽの水筒にもう一度口をつけた。
 飲んだばかりなのに、もう喉が渇き始めていた。
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