聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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剣術授業

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 一学年懇談会。
 入学したばかりの1年生が、親睦を深めるために毎年行うパーティーだ。
 聖剣レジェンディア学園には学園行事が少なく、こういった催し物もあまりない。
 なので、行われる行事はどれも派手だ。一学年懇談会では、聖剣レジェンディア学園にある一番大きな講堂を貸し切り、パーティーが開かれる。
 男子は正装し、女子はドレスに着替える。
 各国の料理人たちがそれぞれの国の料理を振舞い、二年、三年生による入学祝いの剣舞なども披露される。
 これから学ぶ一年生たちが、少しでもやる気になるようにと。

「ま、こんな感じかな」
「なるほど」

 ロイは、オルカから懇談会の話を聞いていた。
 授業が終わり、午後は剣術授業。その前にお昼を食べ、今は食休み中だ。
 食堂は混雑していたので、購買でパンを買って中庭で食べている。

「そういや、炎聖剣の子は一緒じゃないのか?」
「エレノアか? あいつは……まぁ、人気者だしな」

 エレノアは、学園内でロイに話しかけることはほとんどない。というか、その暇がない。
 サリオスと常に一緒に行動しており、お昼も一緒に食べている。
 エレノアから聞いた話では、さすがに王子様からのお誘いを何度も断るのは、周りからよく見られないから仕方ないとのことだ。

「じゃあ、氷聖剣の子……ユノちゃんは?」
「知らない。授業終わると同時にすっ飛んで行ったの見ただろ」
「確かに。どこ行ったんだろうな」

 ロイは、果実水の入ったカップを一気に飲み干す。
 
「それにしても……剣術授業か」
「ようやくだな。今までは座学ばかりで、剣術は自主練ばかりだったけど、ようやく授業が始まるんだ」
「ああ……」
「お前、大丈夫なのか?」
「…………」

 まともに素振りもできないことは、自主練を一緒にやるオルカ、そしてユイカも知っている。
 なぜ、まともに素振りできないのか。ロイはもちろん、オルカとユイカもわからない。
 
「それに、その木刀だろ? オレはそんなつもりないけど……お前、馬鹿にされるぞ」
「わかってるよ。こんなボロ木刀で、しかもまともに素振りもできないし、剣術に至っては素人レベル。なんでこんな奴が、この聖剣レジェンディア学園に……って、なるだろうな」
「…………」
「でも、俺はやる。俺は……聖剣士になりたいんだ」

 エレノアの隣に立つために、とは言わない。
 だが、オルカは笑わずにロイの肩を叩いた。

「真っすぐだねぇ。若者」
「なんだよそれ」

 ロイとオルカは、互いに笑った。

 ◇◇◇◇◇◇

 午後になり、剣術授業が始まった。
 1組の剣術授業担当は、SS級聖剣士の女性、『海剣』のシヴァ。
 青い髪、青い鎧を装備した、ポニーテールの美しい女性。歳は二十代後半ほどで、青い柄、青い刀身の大剣を背負い、緊張している1組の生徒たちをジーっと見た。

「いいね」

 最初の一言が、それだった。
 どこか爽やかな笑顔で、生徒たちを見る。

「全員、素直そうでいいね。乾いた布みたいに、何でも吸収しそうな感じがする。私の教えを受けて、どこまで成長するか……フフ、今から楽しみだ。それに」


 シヴァは、ユノを……そして、ユノの持つ氷聖剣を見る。

「氷聖剣。七大聖剣の一本を、私が鍛えることになるとはね。実に楽しみだ」
「……先生、もしかして」
「ああ。私もお前と同じ、レイピアーゼ王国出身さ」

 シヴァは、自分のポニーテールを掴んで揺らす。
 レイピアーゼ王国出身の者は、色素の違いこそあれ、青系等の髪色をしている。
 
「話が逸れた。じゃ、さっそく剣術授業を始めようか」

 こうして、授業が始まった。
 まず最初に、演習場内を軽く走り、ストレッチをして身体をほぐす。
 それから、それぞれの聖剣を抜き───。

「まずは、全員の実力を知りたい。一人ずつ、かかってこい」

 シヴァが木剣を構える。
 もちろん、生徒は聖剣を使用する。
 すると、ユノが前に出た。

「行きます」
「ふ、さっそくか……遠慮はいらん、全力で来い」
「はい」

 ユノは、『氷聖剣フリズスキャルヴ』を抜く。
 氷のような、美しいアイスブルーの細い刀身。斬るのではなく、『突く』ことに特化した剣だ。
 剣を縦に構え、そのままシヴァに向ける。
 普段の眠そうな雰囲気が消えていた。今のユノは間違いなく、聖剣に選ばれた剣士だ。

「その構え、コキュートス流細剣技だな。王宮剣技、見せてもらおう」
「いきます」

 ユノは地面を蹴り、一気にシヴァの元へ。
 細剣の射程内に入ると、高速で連続突きを放つ。

「ふむ」

 だが、シヴァは身体を横にして突きを回避、最後の突きに合わせ木刀で剣の腹を叩くと、ユノ態勢が崩れそうになった。だが、ユノは想定内なのか前に踏み出し、身体を反転させ斬りかかる。

「コキュートス流細剣技、『アマデトワール』」
「───!」

 突くのではない、斬撃。
 レイピアの先端で、相手の身体を裂く技だ。狙いはシヴァの顔……だが、シヴァは首を動かしただけで、ユノの斬撃を躱した。
 あまりにも、見えていた。

「遅いな」
「……けっこう剣速には自信ある」
「ああ、生身にしてはな」
「……生身?」
「せっかくだ、教えておこう。全員、よく聞き、よく見ろ。これが聖剣士の初歩中の初歩、『魔力操作』による身体強化だ」
「ッ!!」

 ロイは見た。
 シヴァの身体が揺らめいた瞬間、ユノのレイピアを叩き落した。

「いったぁ……」
「見えたか?」
「…………」
「気にしなくていい。むしろ、この魔力操作による身体強化は、この場にいる全員が習得できる技術だ。聖剣に選ばれたからといって、特別というわけではない。たゆまぬ努力は必要ということだ」
「はい……」
「では、ここまで」

 ユノは剣を収め、とぼとぼと戻っていく。
 ロイは、シヴァをジッと見ていた。

『わかっただろう? あれが魔力制御に、魔力操作。お前が無意識に使っている技術だ』
「…………」
『あの女剣士も、悪くはない。間違いなく一流の部類に入るだろうよ……だが、お前のが遥かに上だ。お前は無意識に身体強化をして、さらに視力や腕力だけという一部の強化すら無意識に行っている。その技術が、どれほどのモノなのか……ようやく理解できたな?』
「…………もしかして俺、すごいのか?」
『ああ。そうだな……聖剣なしの殴り合いだったら、間違いなくお前は最強だ』

 ロイは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 デスゲイズの言うことは、出まかせばかりと思っていたが……シヴァの魔力操作を見て、『なんだか荒いな』と思ってしまった。
 シヴァは、胸の内から溢れる魔力を全開にして強化している。身体の穴から魔力がこぼれ「もったいない」とロイは思っていた。魔力は無限ではない……あんなに魔力を零してしまっては、長く持たないだろう。

『だがまぁ、身体強化なぞできて当たり前。魔族や魔王を倒すなら聖剣がないとなぁ』
「…………」
『だからロイ、我輩と契約───』

 ロイは、デスゲイズの柄を強く握りしめる。

「では次!!」
「はい!!」

 今の自分がシヴァに通じるのか、ロイは気合を入れて前に出た。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 聖剣レジェンディア学園の遥か上空に、一人の男が浮かんでいた。

「七本の聖剣、そして、その使い手……」

 男の名は、ベルーガ。
 四大魔王ササライの部下。『伯爵位』を持つ魔界貴族。
 二つ名は『魔甲』のベルーガ。魔族の戦士であり、ササライから『魔剣』を与えられた剣士。
 ベルーガは、ジロっとレジェンディア学園を見下ろした。

「クソ人間共が……ササライ様の命令でなければ、根絶やしにするのだが」

 命令は、『一年生懇談会にて、聖剣使いを三人殺せ』だ。
 懇談会までは、手を出さない。
 懇談会とは、人間のパーティーだ。それを台無しにして、聖剣使いを三人殺すのも悪くない。

「ふん。我が主より賜りし『魔剣』……聖剣など、へし折ってくれるわ」

 ベルーガは、魔剣の柄に触れ不敵な笑みを浮かべていた。
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