13 / 227
そのころのエレノア
しおりを挟む
エレノアは、4組で授業を受けていた。
ロイは1組なので、教室は一番遠い。同じクラスにサリオスがいるが、正直なところサリオスが苦手なエレノアは、やや憂鬱な気分で授業を受けていた。
憂鬱な理由その1……背中に感じる視線。
「…………」
「……ふっ」
エレノアの席の後ろに、サリオスがいた。
このトラビア王国の王子で、最強の光聖剣サザーランドに選ばれた聖剣士。男子からは尊敬の的で、女子からは羨望の眼差しを一手に引き受ける少年。
確かに、見てくれはイケメンだろう。まだ少年らしいあどけなさが残る顔立ちに、綺麗でキラキラ光る金髪、オーシャンブルーの瞳は、視線が合った女子を虜にする。
だが、エレノアには響かない。確かにかっこいいとは思う。剣の腕前も、エレノアと互角かやや上。
間違いなく、七人そろった聖剣士たちを引っ張る存在になる……が、エレノアは何となく、サリオスが苦手だった。理由は……《何となく》だが、サリオスの眼が嫌だった。
今も、背中に視線を感じている。
「ね、エレノア」
「……あの、授業中ですけど」
「ちょっとだけ。あのさ、お昼一緒にどうかな?」
「すみません。先約が……」
もちろん噓だ。約束はしていないが、ロイのところへ行こうと思っている。
「……もしかして、幼馴染くんかい?」
「…………」
「図星か。ふふ、仲良しだね」
「……ま、まあ」
こういう、見透かしたような態度もまた、苦手だった。
授業中なので、振りかえることはない。でも、顔を見たらニコニコしたサリオスの笑顔が見えるだろう。
正直なところ……あまり、関わりたくないタイプだ。
「ああそうだ。近いうち、七聖剣士たちの顔合わせをするよ。今、四人は学園にいるけど、残り三人は自国に戻っているんだよ」
「そ、そうですか……」
「それと、エレノア。きみの聖剣はもともと、フレム王国の守護聖剣だから……いずれキミも、フレム王国に行かないといけないよ」
「……そうですね」
エレノアは、机のフックにかけてある《炎聖剣》をチラリと見た。
ササライ王国にあった炎聖剣はもともと、灼熱の国フレムにあった剣だ。エレノアが選ばれた以上、フレム王国に報告しなくてはならない。もしかしたら、そのまま聖剣士として、国に住まなくてはいけないかもしれない。
そう思い、エレノアは……ロイの顔を思い出した。
幼馴染。一緒に剣を振るった友。弟のような少年。そして……エレノアを守ると誓ってくれた、エレノアの騎士。
もしかしたら、離れ離れに。
「…………」
「エレノア?」
「…………っ」
エレノアは、ロイと離れ離れになることを考え……何度も小さく首を振った。
◇◇◇◇◇◇
女神が鍛えし七本の聖剣。通称《七聖剣士》に選ばれたエレノアは忙しかった。
授業が終わると、挨拶に来る上級生や貴族令嬢、令息たちの相手をしなければいけなかった。ユノは無視したり断ったりしていたのだが、真面目なエレノアはきちんと挨拶をしていた。
その挨拶もようやく落ち着き、お昼休みも普通に過ごせるようになった。
なので、今日からお昼にロイのところへ行こうと、教室を出る。
「エレノア、彼のところへ行くのかい?」
だが、ドアの前でサリオスが通せんぼ。さすがにイラっとしたのか、ややきつく言う。
「そうです。あの、そこをどいてくれますか?」
「ああ、悪いね。んー……あのさ、それボクも一緒に行っていいかい?」
「……え」
「キミの幼馴染に興味があってね。いいだろ?」
「…………」
エレノアは、無視して歩き出す。
するとサリオスは「同意と受け取っていいのかな」と言い、エレノアに付いてきた。
大きなため息を吐きたい気持ちを押さえ、ロイのいる1組へ。
エレノア、サリオスが歩く姿は注目される。目的が1組なので、廊下にいた生徒たちは「氷聖剣の」や「やっぱ七聖剣士同士」と聞こえてきた。
エレノアは、ドアの前で止まり、取っ手を掴んで開けると───。
「うおっ」
「きゃっ!?」
ドアを開けた瞬間、ロイが立っていた。
どうやら、ロイもドアを開けようとしていたらしい。
「び、びっくりした……って、エレノア?」
「お、驚かせないでよ!! もう、ロイの馬鹿!!」
「わ、悪かった。あはは、まさか一緒にドアを開けようとするなんてな」
「もう……ん?」
エレノアはロイに会えてうれしかった。
馬鹿と言いつつも、自分の顔は笑っているとわかる。
だが、気付いた。ロイの隣に立っている、青い髪の女子。
「ロイ、この人だれ?」
「ああ、エレノア。俺の幼馴染だよ」
「ふーん」
「……誰だか知らないけど、名乗るくらいしたら?」
目の前にいるエレノアではなく、わざわざロイに質問する。
その態度に、なんとなくエレノアは腹が立った。
すると、青い髪の女子ことユノは言う。
「わたしはユノ。あ、そういえばあなた、一緒に壇上に登ったっけ」
「……あなた、わざとそう言ってる? というか、喧嘩売ってるの?」
「べつに。なんだろ……わたし、あなたのこと、なんだか無理」
「はぁ!?」
「お、おい二人とも、何喧嘩して」
「ロイは黙ってて!!」
「ロイ、はやくご飯食べよ」
「あ、ああ。あの、エレノアはお昼まだか? 一緒にどうだ?」
「もちろん食べるわ。ほら、行くわよ」
「む、最初に約束したのわたし。場所はわたしが決める」
エレノアとユノは、ロイの手を引っ張ってショッピングモールへ。
その後姿を、サリオスが冷めた目で見ていた。
「ロイ、だっけ? ふーん……なんだか、邪魔になりそうだ」
ロイは1組なので、教室は一番遠い。同じクラスにサリオスがいるが、正直なところサリオスが苦手なエレノアは、やや憂鬱な気分で授業を受けていた。
憂鬱な理由その1……背中に感じる視線。
「…………」
「……ふっ」
エレノアの席の後ろに、サリオスがいた。
このトラビア王国の王子で、最強の光聖剣サザーランドに選ばれた聖剣士。男子からは尊敬の的で、女子からは羨望の眼差しを一手に引き受ける少年。
確かに、見てくれはイケメンだろう。まだ少年らしいあどけなさが残る顔立ちに、綺麗でキラキラ光る金髪、オーシャンブルーの瞳は、視線が合った女子を虜にする。
だが、エレノアには響かない。確かにかっこいいとは思う。剣の腕前も、エレノアと互角かやや上。
間違いなく、七人そろった聖剣士たちを引っ張る存在になる……が、エレノアは何となく、サリオスが苦手だった。理由は……《何となく》だが、サリオスの眼が嫌だった。
今も、背中に視線を感じている。
「ね、エレノア」
「……あの、授業中ですけど」
「ちょっとだけ。あのさ、お昼一緒にどうかな?」
「すみません。先約が……」
もちろん噓だ。約束はしていないが、ロイのところへ行こうと思っている。
「……もしかして、幼馴染くんかい?」
「…………」
「図星か。ふふ、仲良しだね」
「……ま、まあ」
こういう、見透かしたような態度もまた、苦手だった。
授業中なので、振りかえることはない。でも、顔を見たらニコニコしたサリオスの笑顔が見えるだろう。
正直なところ……あまり、関わりたくないタイプだ。
「ああそうだ。近いうち、七聖剣士たちの顔合わせをするよ。今、四人は学園にいるけど、残り三人は自国に戻っているんだよ」
「そ、そうですか……」
「それと、エレノア。きみの聖剣はもともと、フレム王国の守護聖剣だから……いずれキミも、フレム王国に行かないといけないよ」
「……そうですね」
エレノアは、机のフックにかけてある《炎聖剣》をチラリと見た。
ササライ王国にあった炎聖剣はもともと、灼熱の国フレムにあった剣だ。エレノアが選ばれた以上、フレム王国に報告しなくてはならない。もしかしたら、そのまま聖剣士として、国に住まなくてはいけないかもしれない。
そう思い、エレノアは……ロイの顔を思い出した。
幼馴染。一緒に剣を振るった友。弟のような少年。そして……エレノアを守ると誓ってくれた、エレノアの騎士。
もしかしたら、離れ離れに。
「…………」
「エレノア?」
「…………っ」
エレノアは、ロイと離れ離れになることを考え……何度も小さく首を振った。
◇◇◇◇◇◇
女神が鍛えし七本の聖剣。通称《七聖剣士》に選ばれたエレノアは忙しかった。
授業が終わると、挨拶に来る上級生や貴族令嬢、令息たちの相手をしなければいけなかった。ユノは無視したり断ったりしていたのだが、真面目なエレノアはきちんと挨拶をしていた。
その挨拶もようやく落ち着き、お昼休みも普通に過ごせるようになった。
なので、今日からお昼にロイのところへ行こうと、教室を出る。
「エレノア、彼のところへ行くのかい?」
だが、ドアの前でサリオスが通せんぼ。さすがにイラっとしたのか、ややきつく言う。
「そうです。あの、そこをどいてくれますか?」
「ああ、悪いね。んー……あのさ、それボクも一緒に行っていいかい?」
「……え」
「キミの幼馴染に興味があってね。いいだろ?」
「…………」
エレノアは、無視して歩き出す。
するとサリオスは「同意と受け取っていいのかな」と言い、エレノアに付いてきた。
大きなため息を吐きたい気持ちを押さえ、ロイのいる1組へ。
エレノア、サリオスが歩く姿は注目される。目的が1組なので、廊下にいた生徒たちは「氷聖剣の」や「やっぱ七聖剣士同士」と聞こえてきた。
エレノアは、ドアの前で止まり、取っ手を掴んで開けると───。
「うおっ」
「きゃっ!?」
ドアを開けた瞬間、ロイが立っていた。
どうやら、ロイもドアを開けようとしていたらしい。
「び、びっくりした……って、エレノア?」
「お、驚かせないでよ!! もう、ロイの馬鹿!!」
「わ、悪かった。あはは、まさか一緒にドアを開けようとするなんてな」
「もう……ん?」
エレノアはロイに会えてうれしかった。
馬鹿と言いつつも、自分の顔は笑っているとわかる。
だが、気付いた。ロイの隣に立っている、青い髪の女子。
「ロイ、この人だれ?」
「ああ、エレノア。俺の幼馴染だよ」
「ふーん」
「……誰だか知らないけど、名乗るくらいしたら?」
目の前にいるエレノアではなく、わざわざロイに質問する。
その態度に、なんとなくエレノアは腹が立った。
すると、青い髪の女子ことユノは言う。
「わたしはユノ。あ、そういえばあなた、一緒に壇上に登ったっけ」
「……あなた、わざとそう言ってる? というか、喧嘩売ってるの?」
「べつに。なんだろ……わたし、あなたのこと、なんだか無理」
「はぁ!?」
「お、おい二人とも、何喧嘩して」
「ロイは黙ってて!!」
「ロイ、はやくご飯食べよ」
「あ、ああ。あの、エレノアはお昼まだか? 一緒にどうだ?」
「もちろん食べるわ。ほら、行くわよ」
「む、最初に約束したのわたし。場所はわたしが決める」
エレノアとユノは、ロイの手を引っ張ってショッピングモールへ。
その後姿を、サリオスが冷めた目で見ていた。
「ロイ、だっけ? ふーん……なんだか、邪魔になりそうだ」
11
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?
眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。
これが全ての始まりだった。
声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。
なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。
加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。
平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。
果たして、芳乃の運命は如何に?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる