聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~

さとう

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そのころのエレノア

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 エレノアは、4組で授業を受けていた。
 ロイは1組なので、教室は一番遠い。同じクラスにサリオスがいるが、正直なところサリオスが苦手なエレノアは、やや憂鬱な気分で授業を受けていた。
 憂鬱な理由その1……背中に感じる視線。

「…………」
「……ふっ」

 エレノアの席の後ろに、サリオスがいた。
 このトラビア王国の王子で、最強の光聖剣サザーランドに選ばれた聖剣士。男子からは尊敬の的で、女子からは羨望の眼差しを一手に引き受ける少年。
 確かに、見てくれはイケメンだろう。まだ少年らしいあどけなさが残る顔立ちに、綺麗でキラキラ光る金髪、オーシャンブルーの瞳は、視線が合った女子を虜にする。
 だが、エレノアには響かない。確かにかっこいいとは思う。剣の腕前も、エレノアと互角かやや上。
 間違いなく、七人そろった聖剣士たちを引っ張る存在になる……が、エレノアは何となく、サリオスが苦手だった。理由は……《何となく》だが、サリオスの眼が嫌だった。
 今も、背中に視線を感じている。

「ね、エレノア」
「……あの、授業中ですけど」
「ちょっとだけ。あのさ、お昼一緒にどうかな?」
「すみません。先約が……」

 もちろん噓だ。約束はしていないが、ロイのところへ行こうと思っている。

「……もしかして、幼馴染くんかい?」
「…………」
「図星か。ふふ、仲良しだね」
「……ま、まあ」

 こういう、見透かしたような態度もまた、苦手だった。
 授業中なので、振りかえることはない。でも、顔を見たらニコニコしたサリオスの笑顔が見えるだろう。
 正直なところ……あまり、関わりたくないタイプだ。

「ああそうだ。近いうち、七聖剣士たちの顔合わせをするよ。今、四人は学園にいるけど、残り三人は自国に戻っているんだよ」
「そ、そうですか……」
「それと、エレノア。きみの聖剣はもともと、フレム王国の守護聖剣だから……いずれキミも、フレム王国に行かないといけないよ」
「……そうですね」

 エレノアは、机のフックにかけてある《炎聖剣》をチラリと見た。
 ササライ王国にあった炎聖剣はもともと、灼熱の国フレムにあった剣だ。エレノアが選ばれた以上、フレム王国に報告しなくてはならない。もしかしたら、そのまま聖剣士として、国に住まなくてはいけないかもしれない。
 そう思い、エレノアは……ロイの顔を思い出した。
 幼馴染。一緒に剣を振るった友。弟のような少年。そして……エレノアを守ると誓ってくれた、エレノアの騎士。
 もしかしたら、離れ離れに。

「…………」
「エレノア?」
「…………っ」

 エレノアは、ロイと離れ離れになることを考え……何度も小さく首を振った。

 ◇◇◇◇◇◇

 女神が鍛えし七本の聖剣。通称《七聖剣士》に選ばれたエレノアは忙しかった。
 授業が終わると、挨拶に来る上級生や貴族令嬢、令息たちの相手をしなければいけなかった。ユノは無視したり断ったりしていたのだが、真面目なエレノアはきちんと挨拶をしていた。
 その挨拶もようやく落ち着き、お昼休みも普通に過ごせるようになった。
 なので、今日からお昼にロイのところへ行こうと、教室を出る。

「エレノア、彼のところへ行くのかい?」

 だが、ドアの前でサリオスが通せんぼ。さすがにイラっとしたのか、ややきつく言う。

「そうです。あの、そこをどいてくれますか?」
「ああ、悪いね。んー……あのさ、それボクも一緒に行っていいかい?」
「……え」
「キミの幼馴染に興味があってね。いいだろ?」
「…………」

 エレノアは、無視して歩き出す。
 するとサリオスは「同意と受け取っていいのかな」と言い、エレノアに付いてきた。
 大きなため息を吐きたい気持ちを押さえ、ロイのいる1組へ。
 エレノア、サリオスが歩く姿は注目される。目的が1組なので、廊下にいた生徒たちは「氷聖剣の」や「やっぱ七聖剣士同士」と聞こえてきた。
 エレノアは、ドアの前で止まり、取っ手を掴んで開けると───。

「うおっ」
「きゃっ!?」

 ドアを開けた瞬間、ロイが立っていた。
 どうやら、ロイもドアを開けようとしていたらしい。

「び、びっくりした……って、エレノア?」
「お、驚かせないでよ!! もう、ロイの馬鹿!!」
「わ、悪かった。あはは、まさか一緒にドアを開けようとするなんてな」
「もう……ん?」

 エレノアはロイに会えてうれしかった。
 馬鹿と言いつつも、自分の顔は笑っているとわかる。
 だが、気付いた。ロイの隣に立っている、青い髪の女子。

「ロイ、この人だれ?」
「ああ、エレノア。俺の幼馴染だよ」
「ふーん」
「……誰だか知らないけど、名乗るくらいしたら?」

 目の前にいるエレノアではなく、わざわざロイに質問する。
 その態度に、なんとなくエレノアは腹が立った。
 すると、青い髪の女子ことユノは言う。

「わたしはユノ。あ、そういえばあなた、一緒に壇上に登ったっけ」
「……あなた、わざとそう言ってる? というか、喧嘩売ってるの?」
「べつに。なんだろ……わたし、あなたのこと、なんだか無理」
「はぁ!?」
「お、おい二人とも、何喧嘩して」
「ロイは黙ってて!!」
「ロイ、はやくご飯食べよ」
「あ、ああ。あの、エレノアはお昼まだか? 一緒にどうだ?」
「もちろん食べるわ。ほら、行くわよ」
「む、最初に約束したのわたし。場所はわたしが決める」

 エレノアとユノは、ロイの手を引っ張ってショッピングモールへ。
 その後姿を、サリオスが冷めた目で見ていた。

「ロイ、だっけ? ふーん……なんだか、邪魔になりそうだ」
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