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一日の終わり
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自己紹介が終わると、アンネが学園について説明してくれた。
「この学園は、聖剣に選ばれた『聖剣士』たちが、自分の聖剣に付いて学び、剣技を磨く場所です。そして、この学園を卒業した『聖剣士』は、四大魔王たちと戦うことになります」
ドヨドヨと、教室内が騒がしくなる。
困惑や恐怖ではなく、高揚や闘志があふれる喧騒だった。
アンネは続ける。
「四大魔王……残されたヒトの大地に向かって攻めてくる、魔族なる者たちの王。魔王は四人いて、それぞれ不仲なのか、魔王は一度に攻めてくることがありません。我々聖剣士は、この『最後の大地』の国境で、魔王の手先である『魔獣』と戦い、大地を守っているのです」
『はっ……大馬鹿だな』
と、ロイにしか聞こえない声で、デスゲイズが言う。
『魔王が不仲? 違う。あいつらはゲームをしてるんだよ。誰が、人間の大地を蹂躙できるかどうか……魔王たちが一人ずつしか相手をしないのは、そういうルールだからだ。人間は、遊ばれているんだよ、っふんぎゃ!?』
ロイは、デスゲイズを黙らせるために足で踏んづけた。
「みなさんのご兄弟、ご家族も、前線で戦っておられます。皆さん、皆さんも立派な聖剣士となり、世界を守るための『剣』になりましょう!」
「「「「「はい!!」」」」」
「…………」
ロイは返事ができなかった。
すると、オルカがコソッと言う。
「前線とか言ってもよ、魔王の軍勢はもう何年も進行してこないって話だ。聖剣士でも、休暇取って遊んだりできるみたいだぜ。オレの兄貴も、普通に帰ってくるしな」
もう、何十年も大きな戦いはない。
魔族の領地である『魔界』と、人間の領地である『人間界』の国境に、魔王の先兵である『魔獣』が現れ、聖剣士たちが倒している、というのが現状だ。
アンネは、教鞭で黒板をぺしっと叩くと、文字が浮かび上がる。
そこには、『聖剣』と書かれ、剣のイラストも浮かび上がった。
「今までは、国境内の防衛だけが聖剣士の仕事でしたが……今回は違います。数百年ぶりに、七本の聖剣、全てに所持者が現れました。つまり……こちらから、打って出ることも可能になるということです。もしかしたら、魔王討伐も夢ではありませんね」
「「「「「おぉぉ~……」」」」」
教室がざわつき、氷聖剣の少女に視線が集中した。
当の少女は、ぼんやりしているだけだが。
「ふふふ、ユノさんや他クラスの七大聖剣所持者の方にも、頑張ってもらいたいですね」
「…………」
ユノと呼ばれた少女は、小さく頷くだけだった。
ロイは、ずっと嫌なことしか思っていなかった。
「…………」
『貴様、こう考えているだろう? あの……エレノアとか言ったか? あの女が、危険な目に合うかもしれない、と』
「…………」
『魔界に入り魔王を討つ、ね……言うのは簡単だ。それに、確かに聖剣もあいつらには効くだろう。だが……あの四人の強さは、ヒトにどうこうできるモノじゃない』
「…………」
『だが、我輩は別だ』
「…………」
『あいつらを始末したいなら、我輩をぶぎゃっ!?』
ロイは、やかましい木刀を踏んずけて黙らせた。
◇◇◇◇◇◇
ホームルームが終わり、今日は自由行動となった。
オルカ、ユイカは用事があると、さっさと帰ってしまい、教室内には、できたばかりのグループで親睦を深めようとしているのか、どこかへ行くようだ。
「おい、あいつは?」「木刀野郎なんてほっとけ」
「なんかかわいそー」「同情すんなって。あんな木刀」
ヒソヒソと、ロイに向く視線。
悪意、同情、憐憫……あまりにも、情けない。
すると、ぼんやりしたまま動かない『氷聖剣』の少女に、数名の女子が話しかけていた。
「あの、ユノさん。これからみんなで地下ショッピングモール行くんだけど、一緒にどう?」
「いい」
「あの、親睦会やるんだけど……」
「遠慮する」
青髪の少女ことユノはきっぱり拒絶、剣を手に持ち、ズルズル引きずりながら出て行った。
女子たちは声をかけられず、ユノを見送る。そして、諦めたように教室を出て行った。
いつの間にか、教室にはロイだけ。
ロイは、木刀を手に取る。
「はぁ……一人か」
『我輩を忘れるな』
「お前は人じゃないだろ」
自分にしか聞こえない声でも、少しだけ救われた気がした。
木刀を腰に差し、カバンを掴んで帰ろうとすると、教室のドアが開いた。
「あ、いた」
「……え」
そこにいたのは。
腰に『炎聖剣』を差し、真新しい制服を着た、赤いポニーテールの少女。
エレノアが、そこにいた。
エレノアは、教室内に入り、ロイの前へ。
「エレノア……お前、一人なのか?」
「ん。ようやく解放された……というか、逃げてきたのよ。いろんなヒトが挨拶に来るし、殿下はべったりだし、もう疲れたわ……」
「……い、いいのか?」
「ん?」
「お前、それ……炎聖剣に認められたんだろ? 殿下も『光聖剣』の所持者だし、七大聖剣を持つ者同士で、話とか」
「なーにそれ。へんなロイ」
「う」
エレノアはクスっと笑う。そして、ロイに指を突き付けた。
「あたしはあたし。わかるでしょ? 確かに、この剣に選ばれていろいろ変わったけど、あたしはロイと一緒に修行したいし、ロイと一緒にご飯食べたいって思ってる……ダメかな?」
「…………」
ロイは、頭をガシガシ掻いた。
立場が変わった。炎聖剣に選ばれた。住む世界が変わった。
勝手にそう思い込み、壁を作っていたのは……ロイだけだった。
ロイは、エレノアに向かって笑う。
「悪かった、エレノア。俺さ、勝手に壁作ってたわ……エレノアは、エレノアなのに、な」
「ふふん。やっとわかった? さーて、ロイ、ご飯行こっか。あのさ、地下ショッピングモールに……」
と、ここで再びドアが開く。
そこにいたのは、綺麗な金髪の少年。
腰に差しているのは、眩く輝く『光聖剣』であり、誰もが知っている顔だ。
「見つけた、エレノア。こんなところにいたのかい?」
「殿下……何か用事ですか?」
「いや、親睦会が開かれるって知っているだろう? 迎えに来たのさ」
「その話はお断りしましたけど……」
「あはは。駄目だよ、ちゃんとみんなに挨拶しなきゃ。ボクも一緒に行くからさ」
「ですから、挨拶は教室でしましたし、自由時間くらい、あたしの好きにやらせてください」
「自由時間、ね。そこの彼と過ごすつもりかい?」
トラビア王国、王子サリオスの眼がロイを射抜く。
そこにあったのは、僅かな敵意。ロイはサリオスの敵意を瞬時に見抜いた。
「そこのキミ、エレノアとどういう関係だい?」
「幼馴染ですけど……」
「なるほど。ね、キミからも説得してくれないかい? ボクらと親睦会に参加した方が、エレノアのためにもなるだろうし、ね?」
「…………」
「殿下、あんまりしつこいと、あたしも……」
ロイは、エレノアの肩をポンと叩く。
「エレノア、行けよ」
「え、ロイ……」
ロイは、コソッと言う。
「この国の王子に逆らっていいことなんてない。大丈夫、学園は始まったばかりだしな」
「…………うん」
「悪い。この埋め合わせ、必ずするからさ」
「……約束だかたらね」
エレノアは、サリオスに向かって一礼する。
「殿下、親睦会に行くことにします」
「わかってくれた? ふふ、ありがとう」
「いえ……」
「じゃあ、行こうか。そこの彼、ありがとう」
それだけ言い、サリオスはエレノアと一緒に行ってしまった。
エレノアは一度だけ振り返り、「ごめんね」と小さく言う。それだけでロイは満足した。
「さて、俺もどこかでメシ食って帰ろうかな」
『この根性なしめ』
「……なんだよ、いきなり」
『「俺の女に手を出すな!」くらい言えんのか、情けないぶぎゃっ!?』
ロイは、木刀の刀身をゴツンと殴って黙らせた。
「この学園は、聖剣に選ばれた『聖剣士』たちが、自分の聖剣に付いて学び、剣技を磨く場所です。そして、この学園を卒業した『聖剣士』は、四大魔王たちと戦うことになります」
ドヨドヨと、教室内が騒がしくなる。
困惑や恐怖ではなく、高揚や闘志があふれる喧騒だった。
アンネは続ける。
「四大魔王……残されたヒトの大地に向かって攻めてくる、魔族なる者たちの王。魔王は四人いて、それぞれ不仲なのか、魔王は一度に攻めてくることがありません。我々聖剣士は、この『最後の大地』の国境で、魔王の手先である『魔獣』と戦い、大地を守っているのです」
『はっ……大馬鹿だな』
と、ロイにしか聞こえない声で、デスゲイズが言う。
『魔王が不仲? 違う。あいつらはゲームをしてるんだよ。誰が、人間の大地を蹂躙できるかどうか……魔王たちが一人ずつしか相手をしないのは、そういうルールだからだ。人間は、遊ばれているんだよ、っふんぎゃ!?』
ロイは、デスゲイズを黙らせるために足で踏んづけた。
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「「「「「はい!!」」」」」
「…………」
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すると、オルカがコソッと言う。
「前線とか言ってもよ、魔王の軍勢はもう何年も進行してこないって話だ。聖剣士でも、休暇取って遊んだりできるみたいだぜ。オレの兄貴も、普通に帰ってくるしな」
もう、何十年も大きな戦いはない。
魔族の領地である『魔界』と、人間の領地である『人間界』の国境に、魔王の先兵である『魔獣』が現れ、聖剣士たちが倒している、というのが現状だ。
アンネは、教鞭で黒板をぺしっと叩くと、文字が浮かび上がる。
そこには、『聖剣』と書かれ、剣のイラストも浮かび上がった。
「今までは、国境内の防衛だけが聖剣士の仕事でしたが……今回は違います。数百年ぶりに、七本の聖剣、全てに所持者が現れました。つまり……こちらから、打って出ることも可能になるということです。もしかしたら、魔王討伐も夢ではありませんね」
「「「「「おぉぉ~……」」」」」
教室がざわつき、氷聖剣の少女に視線が集中した。
当の少女は、ぼんやりしているだけだが。
「ふふふ、ユノさんや他クラスの七大聖剣所持者の方にも、頑張ってもらいたいですね」
「…………」
ユノと呼ばれた少女は、小さく頷くだけだった。
ロイは、ずっと嫌なことしか思っていなかった。
「…………」
『貴様、こう考えているだろう? あの……エレノアとか言ったか? あの女が、危険な目に合うかもしれない、と』
「…………」
『魔界に入り魔王を討つ、ね……言うのは簡単だ。それに、確かに聖剣もあいつらには効くだろう。だが……あの四人の強さは、ヒトにどうこうできるモノじゃない』
「…………」
『だが、我輩は別だ』
「…………」
『あいつらを始末したいなら、我輩をぶぎゃっ!?』
ロイは、やかましい木刀を踏んずけて黙らせた。
◇◇◇◇◇◇
ホームルームが終わり、今日は自由行動となった。
オルカ、ユイカは用事があると、さっさと帰ってしまい、教室内には、できたばかりのグループで親睦を深めようとしているのか、どこかへ行くようだ。
「おい、あいつは?」「木刀野郎なんてほっとけ」
「なんかかわいそー」「同情すんなって。あんな木刀」
ヒソヒソと、ロイに向く視線。
悪意、同情、憐憫……あまりにも、情けない。
すると、ぼんやりしたまま動かない『氷聖剣』の少女に、数名の女子が話しかけていた。
「あの、ユノさん。これからみんなで地下ショッピングモール行くんだけど、一緒にどう?」
「いい」
「あの、親睦会やるんだけど……」
「遠慮する」
青髪の少女ことユノはきっぱり拒絶、剣を手に持ち、ズルズル引きずりながら出て行った。
女子たちは声をかけられず、ユノを見送る。そして、諦めたように教室を出て行った。
いつの間にか、教室にはロイだけ。
ロイは、木刀を手に取る。
「はぁ……一人か」
『我輩を忘れるな』
「お前は人じゃないだろ」
自分にしか聞こえない声でも、少しだけ救われた気がした。
木刀を腰に差し、カバンを掴んで帰ろうとすると、教室のドアが開いた。
「あ、いた」
「……え」
そこにいたのは。
腰に『炎聖剣』を差し、真新しい制服を着た、赤いポニーテールの少女。
エレノアが、そこにいた。
エレノアは、教室内に入り、ロイの前へ。
「エレノア……お前、一人なのか?」
「ん。ようやく解放された……というか、逃げてきたのよ。いろんなヒトが挨拶に来るし、殿下はべったりだし、もう疲れたわ……」
「……い、いいのか?」
「ん?」
「お前、それ……炎聖剣に認められたんだろ? 殿下も『光聖剣』の所持者だし、七大聖剣を持つ者同士で、話とか」
「なーにそれ。へんなロイ」
「う」
エレノアはクスっと笑う。そして、ロイに指を突き付けた。
「あたしはあたし。わかるでしょ? 確かに、この剣に選ばれていろいろ変わったけど、あたしはロイと一緒に修行したいし、ロイと一緒にご飯食べたいって思ってる……ダメかな?」
「…………」
ロイは、頭をガシガシ掻いた。
立場が変わった。炎聖剣に選ばれた。住む世界が変わった。
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ロイは、エレノアに向かって笑う。
「悪かった、エレノア。俺さ、勝手に壁作ってたわ……エレノアは、エレノアなのに、な」
「ふふん。やっとわかった? さーて、ロイ、ご飯行こっか。あのさ、地下ショッピングモールに……」
と、ここで再びドアが開く。
そこにいたのは、綺麗な金髪の少年。
腰に差しているのは、眩く輝く『光聖剣』であり、誰もが知っている顔だ。
「見つけた、エレノア。こんなところにいたのかい?」
「殿下……何か用事ですか?」
「いや、親睦会が開かれるって知っているだろう? 迎えに来たのさ」
「その話はお断りしましたけど……」
「あはは。駄目だよ、ちゃんとみんなに挨拶しなきゃ。ボクも一緒に行くからさ」
「ですから、挨拶は教室でしましたし、自由時間くらい、あたしの好きにやらせてください」
「自由時間、ね。そこの彼と過ごすつもりかい?」
トラビア王国、王子サリオスの眼がロイを射抜く。
そこにあったのは、僅かな敵意。ロイはサリオスの敵意を瞬時に見抜いた。
「そこのキミ、エレノアとどういう関係だい?」
「幼馴染ですけど……」
「なるほど。ね、キミからも説得してくれないかい? ボクらと親睦会に参加した方が、エレノアのためにもなるだろうし、ね?」
「…………」
「殿下、あんまりしつこいと、あたしも……」
ロイは、エレノアの肩をポンと叩く。
「エレノア、行けよ」
「え、ロイ……」
ロイは、コソッと言う。
「この国の王子に逆らっていいことなんてない。大丈夫、学園は始まったばかりだしな」
「…………うん」
「悪い。この埋め合わせ、必ずするからさ」
「……約束だかたらね」
エレノアは、サリオスに向かって一礼する。
「殿下、親睦会に行くことにします」
「わかってくれた? ふふ、ありがとう」
「いえ……」
「じゃあ、行こうか。そこの彼、ありがとう」
それだけ言い、サリオスはエレノアと一緒に行ってしまった。
エレノアは一度だけ振り返り、「ごめんね」と小さく言う。それだけでロイは満足した。
「さて、俺もどこかでメシ食って帰ろうかな」
『この根性なしめ』
「……なんだよ、いきなり」
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