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仮面の下

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 カルセインは、アデリーナと向き合っていた。
 仮面を被った、プラチナの髪の女性。
 自分の妻。だが……戦いばかりで女性に関わったことがないカルセインにとって、妻という存在はまだよくわかっていない。
 そんな妻ことアデリーナは、くるっと踵を返す。

「せっかくだし、散歩でもしませんか?」
「パーティはいいのか?」
「ええ。正直、騒がしいのは好きではないので」
「そうか」

 二人は、仮面をかぶったまま歩きだす。
 少しだけ歩いたが、アデリーナはすぐに察した。

「何か、お話があるんですね」
「……ああ」
「ふふ。初めて会った旦那様。仮面を被ったままの旦那様は、どんな話をしてくれるのかしら」
「…………」

 カルセインも察した。アデリーナは、気付いている。
 アデリーナは、ハイゼン王国から贈られた妻だ。だが、もう一年以上経過した……離縁しても、そう傷は大きくない。身体も綺麗なままだし、新しい恋をして生きることもできるだろう。

「大丈夫です」
「……え?」
「旦那様。気になるお方がいるのでしょう? それでも、私に遠慮して、言葉を斬りだせないでいる……とても、優しいお方。本当に……」
「…………」
「私もです」
「え?」
「私も、気になる人がいるんです」
「……そう、なのか?」
「はい」

 アデリーナとカルセインは、中庭を抜けた先にある広場に来た。
 ベンチが並び、小さな川が流れている。とても心地の良い場所だ。
 二人は向き合った。
 そして、カルセインが切り出す。

「私は……恋をした」
「……はい」
「とある小さな喫茶店を営む、一人の女性だ。ころころと表情が変わるのは見てて面白いし、彼女の淹れたコーヒーは、本当に私好みでな。気が付くと、僅かな休憩時間のたびに、仕事を抜け出して彼女の店に足を運んでいた」
「……ん?」

 アデリーナ、思わず首を傾げてしまう。
 物凄く、心当たりのある話だった。

「あの、町はずれにある小さな喫茶店の女主人……私は、彼女に恋をしてしまった」
「あ、あの~……」
「彼女を迎えるには、様々な障害が待ち受けるだろう。だが……不思議と、苦ではない。それらの試練も、今の私なら乗り越えられる」
「ちょ、待った!! 待った!!」
「……なんだ?」
「あの。旦那様……これ、離縁の話、ですよね」
「あ。ああ」
「そっか……ぷ、あは、あはははははっ!!」
「な、何がおかしい!!」

 カルセインは、仮面を外した。
 アデリーナは確信する。目の前にいるのは……大好きな、常連さんだ。
 そして、アデリーナも仮面を外した。

「ばあ」
「……は?」
「ごめん。実は私───シルバーレイ公爵夫人なの」
「…………は?」
「髪は、ウィッグで誤魔化してたわ。まさか、旦那様が常連さんだったなんて」
「…………」
「わかる? 私よ、喫茶店の女主人」
「………ど、どういう」
「エミリオから聞いてたでしょ? 私、公爵家で仕事を終えた後、町に出てるって。実は……町で喫茶店を開いてたのよ。旦那様がいつ離縁を斬りだしても、生きて行けるようにね。まさか、その旦那様が常連さんだとは思わなかったけどね」
「き、きみが、きみが……あの、女主人なのか!?」
「そうよ。もう、なによこれ、バッカみたい」
「…………夢、じゃないよな」
「えいっ」

 アデリーナは、カルセインの頬をつねった。

「夢じゃない、でしょ?」
「……公爵夫人が、町で喫茶店を経営するという夢ではない、よな」
「ええ。これが現実。改めて……私はアデリーナ。シルバーレイ公爵の妻にして、城下町の片隅にある小さな喫茶店の、女主人。よろしくね、旦那様……ううん、常連さん」
「……っぷ」

 そして───カルセインは、噴き出した。

「あ、ハハハハハっ!! もう、わけがわからん。もう……なんだこれは? 妻と離縁して、女主人に告白しようと悩んでいたら、まさか妻が女主人だった? なんだこれは、ファンタジーか?」
「現実。で、どうする? 離縁するの?」
「まさか」

 と、カルセインはアデリーナを抱きしめた。

「アデリーナ。改めて言わせてほしい。今度は自分の意志で……」
「はい」
「どうか、私の妻になってほしい」
「もちろん。喜んで……」

 二人は優しく抱き合い、月明かりの下でキスをした。
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