14 / 15
仮面の下
しおりを挟む
カルセインは、アデリーナと向き合っていた。
仮面を被った、プラチナの髪の女性。
自分の妻。だが……戦いばかりで女性に関わったことがないカルセインにとって、妻という存在はまだよくわかっていない。
そんな妻ことアデリーナは、くるっと踵を返す。
「せっかくだし、散歩でもしませんか?」
「パーティはいいのか?」
「ええ。正直、騒がしいのは好きではないので」
「そうか」
二人は、仮面をかぶったまま歩きだす。
少しだけ歩いたが、アデリーナはすぐに察した。
「何か、お話があるんですね」
「……ああ」
「ふふ。初めて会った旦那様。仮面を被ったままの旦那様は、どんな話をしてくれるのかしら」
「…………」
カルセインも察した。アデリーナは、気付いている。
アデリーナは、ハイゼン王国から贈られた妻だ。だが、もう一年以上経過した……離縁しても、そう傷は大きくない。身体も綺麗なままだし、新しい恋をして生きることもできるだろう。
「大丈夫です」
「……え?」
「旦那様。気になるお方がいるのでしょう? それでも、私に遠慮して、言葉を斬りだせないでいる……とても、優しいお方。本当に……」
「…………」
「私もです」
「え?」
「私も、気になる人がいるんです」
「……そう、なのか?」
「はい」
アデリーナとカルセインは、中庭を抜けた先にある広場に来た。
ベンチが並び、小さな川が流れている。とても心地の良い場所だ。
二人は向き合った。
そして、カルセインが切り出す。
「私は……恋をした」
「……はい」
「とある小さな喫茶店を営む、一人の女性だ。ころころと表情が変わるのは見てて面白いし、彼女の淹れたコーヒーは、本当に私好みでな。気が付くと、僅かな休憩時間のたびに、仕事を抜け出して彼女の店に足を運んでいた」
「……ん?」
アデリーナ、思わず首を傾げてしまう。
物凄く、心当たりのある話だった。
「あの、町はずれにある小さな喫茶店の女主人……私は、彼女に恋をしてしまった」
「あ、あの~……」
「彼女を迎えるには、様々な障害が待ち受けるだろう。だが……不思議と、苦ではない。それらの試練も、今の私なら乗り越えられる」
「ちょ、待った!! 待った!!」
「……なんだ?」
「あの。旦那様……これ、離縁の話、ですよね」
「あ。ああ」
「そっか……ぷ、あは、あはははははっ!!」
「な、何がおかしい!!」
カルセインは、仮面を外した。
アデリーナは確信する。目の前にいるのは……大好きな、常連さんだ。
そして、アデリーナも仮面を外した。
「ばあ」
「……は?」
「ごめん。実は私───シルバーレイ公爵夫人なの」
「…………は?」
「髪は、ウィッグで誤魔化してたわ。まさか、旦那様が常連さんだったなんて」
「…………」
「わかる? 私よ、喫茶店の女主人」
「………ど、どういう」
「エミリオから聞いてたでしょ? 私、公爵家で仕事を終えた後、町に出てるって。実は……町で喫茶店を開いてたのよ。旦那様がいつ離縁を斬りだしても、生きて行けるようにね。まさか、その旦那様が常連さんだとは思わなかったけどね」
「き、きみが、きみが……あの、女主人なのか!?」
「そうよ。もう、なによこれ、バッカみたい」
「…………夢、じゃないよな」
「えいっ」
アデリーナは、カルセインの頬をつねった。
「夢じゃない、でしょ?」
「……公爵夫人が、町で喫茶店を経営するという夢ではない、よな」
「ええ。これが現実。改めて……私はアデリーナ。シルバーレイ公爵の妻にして、城下町の片隅にある小さな喫茶店の、女主人。よろしくね、旦那様……ううん、常連さん」
「……っぷ」
そして───カルセインは、噴き出した。
「あ、ハハハハハっ!! もう、わけがわからん。もう……なんだこれは? 妻と離縁して、女主人に告白しようと悩んでいたら、まさか妻が女主人だった? なんだこれは、ファンタジーか?」
「現実。で、どうする? 離縁するの?」
「まさか」
と、カルセインはアデリーナを抱きしめた。
「アデリーナ。改めて言わせてほしい。今度は自分の意志で……」
「はい」
「どうか、私の妻になってほしい」
「もちろん。喜んで……」
二人は優しく抱き合い、月明かりの下でキスをした。
仮面を被った、プラチナの髪の女性。
自分の妻。だが……戦いばかりで女性に関わったことがないカルセインにとって、妻という存在はまだよくわかっていない。
そんな妻ことアデリーナは、くるっと踵を返す。
「せっかくだし、散歩でもしませんか?」
「パーティはいいのか?」
「ええ。正直、騒がしいのは好きではないので」
「そうか」
二人は、仮面をかぶったまま歩きだす。
少しだけ歩いたが、アデリーナはすぐに察した。
「何か、お話があるんですね」
「……ああ」
「ふふ。初めて会った旦那様。仮面を被ったままの旦那様は、どんな話をしてくれるのかしら」
「…………」
カルセインも察した。アデリーナは、気付いている。
アデリーナは、ハイゼン王国から贈られた妻だ。だが、もう一年以上経過した……離縁しても、そう傷は大きくない。身体も綺麗なままだし、新しい恋をして生きることもできるだろう。
「大丈夫です」
「……え?」
「旦那様。気になるお方がいるのでしょう? それでも、私に遠慮して、言葉を斬りだせないでいる……とても、優しいお方。本当に……」
「…………」
「私もです」
「え?」
「私も、気になる人がいるんです」
「……そう、なのか?」
「はい」
アデリーナとカルセインは、中庭を抜けた先にある広場に来た。
ベンチが並び、小さな川が流れている。とても心地の良い場所だ。
二人は向き合った。
そして、カルセインが切り出す。
「私は……恋をした」
「……はい」
「とある小さな喫茶店を営む、一人の女性だ。ころころと表情が変わるのは見てて面白いし、彼女の淹れたコーヒーは、本当に私好みでな。気が付くと、僅かな休憩時間のたびに、仕事を抜け出して彼女の店に足を運んでいた」
「……ん?」
アデリーナ、思わず首を傾げてしまう。
物凄く、心当たりのある話だった。
「あの、町はずれにある小さな喫茶店の女主人……私は、彼女に恋をしてしまった」
「あ、あの~……」
「彼女を迎えるには、様々な障害が待ち受けるだろう。だが……不思議と、苦ではない。それらの試練も、今の私なら乗り越えられる」
「ちょ、待った!! 待った!!」
「……なんだ?」
「あの。旦那様……これ、離縁の話、ですよね」
「あ。ああ」
「そっか……ぷ、あは、あはははははっ!!」
「な、何がおかしい!!」
カルセインは、仮面を外した。
アデリーナは確信する。目の前にいるのは……大好きな、常連さんだ。
そして、アデリーナも仮面を外した。
「ばあ」
「……は?」
「ごめん。実は私───シルバーレイ公爵夫人なの」
「…………は?」
「髪は、ウィッグで誤魔化してたわ。まさか、旦那様が常連さんだったなんて」
「…………」
「わかる? 私よ、喫茶店の女主人」
「………ど、どういう」
「エミリオから聞いてたでしょ? 私、公爵家で仕事を終えた後、町に出てるって。実は……町で喫茶店を開いてたのよ。旦那様がいつ離縁を斬りだしても、生きて行けるようにね。まさか、その旦那様が常連さんだとは思わなかったけどね」
「き、きみが、きみが……あの、女主人なのか!?」
「そうよ。もう、なによこれ、バッカみたい」
「…………夢、じゃないよな」
「えいっ」
アデリーナは、カルセインの頬をつねった。
「夢じゃない、でしょ?」
「……公爵夫人が、町で喫茶店を経営するという夢ではない、よな」
「ええ。これが現実。改めて……私はアデリーナ。シルバーレイ公爵の妻にして、城下町の片隅にある小さな喫茶店の、女主人。よろしくね、旦那様……ううん、常連さん」
「……っぷ」
そして───カルセインは、噴き出した。
「あ、ハハハハハっ!! もう、わけがわからん。もう……なんだこれは? 妻と離縁して、女主人に告白しようと悩んでいたら、まさか妻が女主人だった? なんだこれは、ファンタジーか?」
「現実。で、どうする? 離縁するの?」
「まさか」
と、カルセインはアデリーナを抱きしめた。
「アデリーナ。改めて言わせてほしい。今度は自分の意志で……」
「はい」
「どうか、私の妻になってほしい」
「もちろん。喜んで……」
二人は優しく抱き合い、月明かりの下でキスをした。
10
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
【完結】美しい家庭教師を女主人にはしません、私は短剣をその女に向けたわ。
BBやっこ
恋愛
私は結婚している。子供は息子と娘がいる。
夫は、軍の上層部で高級取りだ。こう羅列すると幸せの自慢のようだ。実際、恋愛結婚で情熱的に始まった結婚生活。幸せだった。もう過去形。
家では、子供たちが家庭教師から勉強を習っている。夫はその若い美しい家庭教師に心を奪われている。
私は、もうここでは無価値になっていた。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
東野君の特別
藤谷 郁
恋愛
大学受験のため名古屋の叔母宅を訪れた佐奈(さな)は、ご近所の喫茶店『東野珈琲店』で、爽やかで優しい東野(あずまの)君に出会う。
「春になったらまたおいで。キャンパスを案内する」
約束してくれた彼は、佐奈の志望するA大の学生だった。初めてづくしの大学生活に戸惑いながらも、少しずつ成長していく佐奈。
大好きな東野君に導かれて……
※過去作を全年齢向けに改稿済
※エブリスタさまにも投稿します
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる