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お祝い

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 公爵邸に戻ると、なぜかゼロワンがいた。
 さらに、ついさっきまで試験官をしていたカーディウス。そして、着飾り髪を整えた祖父ボレロも。
 ボレロは、ジュジュにそっと手を差し伸べた。

「試験、合格したんだってなぁ……おめでとう」
「おじいちゃん……っ」
「ふふ。立派になったなぁ」

 ジュジュは涙を流し、ボレロに抱き着いた。
 ボレロは目をしょぼしょぼさせ、ジュジュの背に手をまわす。
 ジュジュは、ボレロからそっと離れ、聞いてみた。

「おじいちゃん。どうしてここに? それと、その恰好……あ」

 アーヴァインが笑っていたのを見て、すぐに理解した。

「祝いの席に、ボレロ殿がいないのはおかしいだろう?」
「ふふ。こういう堅苦しい服は初めてでのぉ……かわいい孫の祝いじゃ。わしも驚かせたかったんじゃよ」
「もう! でも……ありがとう、アーヴァイン」
「ああ。喜んでもらって嬉しい」

 アーヴァインは、ジュジュに一礼した。
 ジュジュも、スカートを持ち上げてそれに応える。
 すると、黙っていたゼロワンが割り込んだ。

「ジュジュ!! 中級鑑定士になったんだってな、おめでとう!」
「あ、ありがとう……」
「おい……割り込むな。礼儀がなってないぞ」
「そんなのいいって!! それよりジュジュ、うんまい料理いっぱいあるぞ!! あと、親父の酒蔵からうまい酒いっぱいくすねてきたからさ、飲もうぜ!!」
「お酒……うん!! あたしも中級鑑定士だし、飲む!! おじいちゃん、いいよね!!」
「う、うむ。飲みすぎるなよ?」
「おい、酒は……まぁいいか」
「あはは。楽しくなってきましたね」

 カーディウスが、アーヴァインの肩を叩いた。
 アーヴァインは、面倒くさそうに……笑った。
 笑顔の先にいるのは、やはり笑顔のジュジュだ。

「アーヴァイン。きみ、変わったね」
「……そう思うか?」
「うん。昔のきみは、そんな風に笑う男じゃなかった。やっぱり、ジュジュさんの影響かな?」
「……かもな」
 
 アーヴァインも、それは自覚していた。
 ジュジュが来てから、アーヴァインの生活は変わった。
 寄ってくる女性は山ほどいたが、それら全てアーヴァインの容姿に惹かれたり、公爵家の当主という肩書、そして公爵夫人の肩書を欲する女ばかりだった。
 だが、ジュジュは違った。
 ジュジュは、アーヴァインが公爵だということには驚いていた。でも……アーヴァイン自身を見ていた。公爵ではなく、鑑定の師匠として、一人の男として見ていたのだ。
 
 最初は、遺物を鑑定できる特殊な眼の少女、くらいにしか見ていなかった。
 でも、今は違う。
 一緒にいて楽しい少女だった。いつの間にか、傍にいないと安心できなかった。
 ゼロワンやカーディウスと親し気に話す姿を見て、胸がモヤモヤした。

「…………認めるよ。あいつは、特別だ」
「それは異性として? それとも、特別な眼を持つ鑑定士として?」
「…………」

 アーヴァインは答えず、カーディウスの腕を振り払った。

 ◇◇◇◇◇◇

 ジュジュの中級鑑定士昇格のパーティーは、大いに盛り上がった。
 途中、ゼロワンが退席。どうやら城を抜け出してきたようだ。さらに、酒蔵から酒をくすねたこともバレて、国王がブチ切れてるとかなんとか……しばらくは王城から出られないと、パーティー後にジュジュは知った。
 カーディウスは、ジュジュに花束と贈り物をどっさり送り、ジュジュの額にキスをして去って行った。
 キスには驚いたが、カーディウスはどこか飄々としていた。
 アーヴァインはなぜか「塩を撒け」とノーマンに命じていたが……ジュジュにはわからなかった。
 祖父ボレロは、公爵邸が落ち着かないというので、パーティー後に家に戻った。
 ジュジュも帰ろうとしたが、ボレロに「お前は残れ」と言われたので残る。なぜかボレロはアーヴァインに向かって微笑んでいた。
 そして、パーティーが終わり……ジュジュは、公爵邸の自室へ。

「おあったー……うへぇ、疲れたぁ」

 ベッドにダイブ。
 そして、胸元から銀製のモノクルを取り出す。

「えへへ……中級鑑定士」

 次は上級。そして、その先にある『鑑定医』まで、もう少し。
 少し目を閉じていると───……ドアがノックされた。

「ん? はーい」
「俺だ……少し、いいか?」
「アーヴァイン?」

 ドアを開けると、アーヴァインがいた。
 ジュジュは迷わず部屋へ招き入れる。

「……ここではいいが、他では絶対やるなよ」
「え? なにを?」
「……こんな夜更けに、男を寝室へ入れるなということだ。もう少し警戒心を持て」
「警戒心って……アーヴァインなら別に」
「…………え」
「…………?」

 しばし、見つめ合い……ジュジュは盛大に赤くなった。

「あ!! ちが、そういうんじゃ……ばば、馬鹿!! なに言わすのよ!!」
「お、お前が勘違いさせるようなことを言ったんだろう!!」

 アーヴァインも、赤くなり騒ぎ出す。
 それから、アーヴァインは咳払い。

「用件だけ言う。明日、町へでかけるぞ」
「え? なんか用事?」
「違う。お前の昇格祝いだ……レストランを予約してある。それと、買い物もするぞ」
「おお! やったぁ!」
「……早く寝ろよ」

 アーヴァインは、そそくさと部屋を出た。
 ジュジュは、再びベッドへダイブ……そして、ようやく気付いた。

「……え? あれ? これって……デート?」

 この日、ジュジュはなかなか寝付けなかった。
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