鑑定少女ジュジュの恋愛~イケメン鑑定士たちに言い寄られてるけど、とりあえず今は待って!~

さとう

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アーヴァイン

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 お店は、臨時休業とした。
 アーヴァインは、ソファに座って優雅にコーヒーを啜っている。
 ジュジュの家で一番高級な豆だが、公爵家の当主であるアーヴァインからすれば安物もいいところだ。だが、アーヴァインは美味しそうに飲んでいる。
 そして、カップを置く。

「さて、ジュジュ」
「……」

 ジュジュは、名前を呼ばれるがそっぽ向いた。
 アーヴァインは、そんなジュジュの反応すら楽しんでいる。
 
「お前に頼みたいことがある」
「…………」
「聞いているのか?」
「…………はぁ」
「ふむ……」
「……え、ちょっ」

 アーヴァインは、ジュジュの隣に移動した。
 そして、肩を組み、顔を近づけた。ジュジュが逃げないように、顎に手を添えて。

「お前に、協力してほしいことがある」
「え、えと、えと……」
「お前の眼は本物だ。その眼を見込んで……我が公爵家が管理する『遺物』を鑑定してほしい」
「でで、でも。今のはたまたまで、あたしはその、遺物なんて」

 綺麗な顔だった。
 シミ一つない美貌。どこか挑戦的な真紅の瞳。薄く開いた唇が動き、ダークな声がジュジュの耳に響く。
 これほどまで、男性と密着したことはない。
 アーヴァインは、まっすぐジュジュを見て言った。

「不思議と確信している。お前の眼は美しい……きっと、遺物を鑑定できるだろう」
「うぐぅ……」

 ジュジュの唇が震える。
 そして、アーヴァインは次の言葉を放つ。

「報酬は十分に支払おう。それと、お前が望むことならなんでも叶えてやる」
「え」
「ライメイレイン公爵家ができる範囲で、だがな」
「…………」

 ふと、ジュジュは思った。
 そして、自分の胸で揺れる銅のモノクルを見る。
 アーヴァインは、その視線の先にある意味を正確に理解した。

「ああ、お前は下級鑑定士だったな。お前が望むなら、鑑定士協会に口添えして中級鑑定士に推薦してやってもいい。上級からは実力が伴うから難しいが……中級鑑定士なら大丈夫だろう」
「…………」
「それとも、やはり金が望みか?」
「…………」

 スゥーっと、ジュジュの心が冷えていく。
 やはり、アーヴァインはロクな男ではなかった。金でなんとでもできると思っている。
 ジュジュはアーヴァインの手から離れた。

「お?」
「馬鹿にしないで。お金は欲しいし、中級鑑定士にはなりたいけど……あなたみたいなやり方でなっても、きっと後悔しかない。おじいちゃんも悲しむ」
「……ほう」
「あたしはあなたのお手伝いなんてしない。これがあたしの意思……でも、あなたはこの国の公爵様なんでしょう? だったら貴族として命じたら? そうしたらあたしは従うしかない。でも、その瞬間にあなたはただのクズに成り下がる。貴族だからって何でもできると思ってるクズにね」
「…………」
「お引き取りを。それか、ご命令ください。この城下町の外れに住む平民の下級鑑定士に『俺の頼みを引き受けろ』ってね」
「───……」

 アーヴァインは、面食らっていた。
 ジュジュは、そんなアーヴァインから目を逸らさなかった。
 言ってやった───最悪、ここで殺されてもおかしくない。
 でも、自分の鑑定士としてのプライドを踏みにじられ、黙っていられなかった。
 後悔はない。

「───気に入った」
「え」
「いいだろう。だったら命じてやる」
「…………」

 ジュジュは、アーヴァインの眼をまっすぐ見ていた。
 アーヴァインが何を命じても受ける。でも、心まで従うつもりはなかった。
 
「お前は、今日から俺が鍛えてやる」
「…………は?」
「聞こえなかったのか? 今日からお前は、俺が鍛えると言った」
「…………えっと」
「鑑定士としてのレベルを上げるには、位の高い品物を鑑定して目を鍛えるしかない。公爵家に依頼された鑑定品は山ほどある。その手伝いをすれば、お前のレベルも自然と上がるだろう……それと、手伝いとしての報酬も当然支払う」
「え、え、え」
「ああ、依頼品の中に遺物が混じっても文句を言うなよ? こう見えて俺は忙しいんだ。依頼された鑑定品は山ほどある」
「ちょ……それって」
「どうする?」

 微妙なところだった。
 アーヴァインは、公爵家に依頼される鑑定の手伝いをジュジュにお願いしている。もちろん報酬は支払うし、ジュジュの鑑定眼を鍛えるのにもつながる。
 鑑定眼を鍛えるには、高価な品物を鑑定すればいい。だが、さびれた城下町の外れにある鑑定屋に持ち込まれる品物なんてたかが知れている。アーヴァインの手伝いをすれば、自然と鑑定眼が鍛えられるのは間違いない。
 アーヴァインは、足を組んで微笑んでいた。
 ジュジュは迷う。

「…………む、むむむ」
「明日。返事を聞こう……じゃあな」

 アーヴァインは立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。
 ドアの取っ手を掴み、ニヤリと笑って言った。

「ああ、これは鑑定料金だ。それと……次はもっと、美味いコーヒーを淹れてくれ」

 札束を近くの棚に置き、アーヴァインは去って行った。
 ジュジュは、大きく脱力して呟いた。

「嫌なヤツ……ああもう!!」
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