上 下
1 / 36

とある国の小さな鑑定屋で働く少女

しおりを挟む
 この世界には、千人に一人の確率で『特殊な眼』を持って生まれてくる人がいる。
 その特殊な眼は『鑑定眼』と呼ばれ、様々な『情報』を読み取ることができるのだ。
 鑑定眼を持つ者を『鑑定士』と呼ばれた。
 確かに鑑定眼は珍しいが……そこまで珍しいという物ではない。
 大きな町に2~3人は鑑定士がいる。だが、大抵の鑑定士は『下級』鑑定士だ。

「姉ちゃん! これいくらになる?」
「はいはーい。え~っとですねぇ……」

 アーレント王国。
 大陸最大の国。この城下町の外れの外れ、ほぼ路地裏といってもいい寂れた場所に、一軒の小さな『鑑定屋』があった。
 こじんまりとしたお店のカウンターに、古びた本やボロッちいナイフ、よくわからないキラキラした石などが乱雑に並べられている。
 そのキラキラした石をつまみ、銅でできたモノクルでジーっと見る少女がいた。

「ん~……おじさん、この石はただの石。たまーに落ちてるのよね、こういうキラキラしたただの石が」
「えぇぇ~~~?……お宝かと思ったのに」
「ちゃんと『情報』出てる。『ただの石ころ』ってね」
「はぁぁ~~~……」

 少女は、長い菫色の髪を適当にポニーテールにしていた。
 大きくてクリっとした眼はどこか人懐っこそうだ。
 来ている服も、お洒落で流行の服ではなく、安売りしていた作業服だ。背中には『ボレロ鑑定屋』と刺繍されている。
 
「なぁジュジュちゃん。なんとか高くならねぇか?」
「ダメダメ。鑑定士の『鑑定』は真実なの。もしあたしが噓ついたら、あたしの鑑定士としての人生はおしまい。あたしの夢もおしまい。このお店もおしまーい……ね?」
「はぁ~……」

 ジュジュ。
 この『ボレロ鑑定屋』の看板娘にして跡継ぎ。十六歳の女の子だった。
 ジュジュは、女の子っぽくないニヤッとした笑みを浮かべる。
 手に持っているのは、古びた本だ。

「おじさん、この本どうしたの?」
「あ? 家の屋根裏にあったボロ本だけど」
「これ……あたしの『鑑定』で読み取れない。もしかしたらお宝かもね!」
「なにぃ!? おい、読み取れないってマジか?」
「うん。残念だけど……『下級』のあたしじゃ、『情報の窓ステータスウィンドウ』の輪郭しか見えない。もしかしたら、中級以上のお宝かも……」
「おおお……か、鑑定、鑑定してくれ!」
「別途料金かかるよ~?」
「構わん!」
「まいどあり! おじいちゃん、おじいちゃーんっ!」

 ジュジュは、バックヤードに声を掛ける。
 すると、腰の曲がった老人が欠伸をして出てきた。
 ジュジュの祖父にして『ボレロ鑑定屋』の店主ボレロだ。

「なんじゃ騒々しい……」
「これ! あたしじゃ見えないの。中級鑑定士のおじいちゃんなら見えるでしょ?」
「どれ……」

 ボレロは、銀製のモノクルを取り出す。 
 そして、古びた本をジッと見た。

「これは……セントマリアンナの悲劇、その舞台本じゃな。準主役のアルベールのセリフがびっしり書かれとる」
「台本!? 爺さん、それ、お宝か?」
「お宝っちゃぁお宝だな。セントマリアンナの悲劇はアーレント王国で流行した悲劇の舞台。四十四回目の公演中に、主役のマリアンナがシャンデリアに押しつぶされて死んだ曰く付きの舞台劇じゃ。その台本、アルベールの台本……もうほとんど消えているが、マリアンナへの愛の言葉がつづられとる。舞台俳優としてではなく、アルベールを演じた役者自身が、役者であるマリアンナを愛して書いた言葉じゃな。ほっほっほ、熱い熱い」
「「…………」」

 ジュジュと客は顔を見合わせ黙り込んだ。
 ボレロは、本をまじまじ見て言う。

「値段は、七万エンから十万エンってところかの。個人売買するなら十万、オークションにかけるなら七万から始めるのがええ。ジュジュ、鑑定報告書を書いてやれ」
「あ、はーい。ってかおじいちゃんの鑑定眼、ほんとすごいなー」
「ふん。わしはただステータスを読んだだけじゃ」

 ジュジュは、鑑定報告書を書く。
 鑑定士の書く鑑定報告書は、『鑑定士が書いた』というだけで信用される。
 鑑定士協会が発行する報告書を書き、ジュジュは最後に自分のモノクルを鑑定報告書に押し付けた。すると、報告書に『印』が浮かぶ。

「ほい。これを見せればオークションに出せるよ。個人で売る時もちゃんと見せてね」
「あ、ああ。このナイフは?」
「……ただの果物ナイフ。剣っぽいけどナイフだよ」
「はぁ……そうかい。まぁいい、けっこうお宝みたいだしな。じゃあこれ、鑑定料」
「まいどありっ!」

 ジュジュは鑑定料をもらった。
 客は、満足そうに店を出て行った。

「またのお越しを-!」

 これは、アーレント王国の城下町の外れの外れにある小さな鑑定屋。ここで働く少女ジュジュの物語。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ひねくれ師匠と偽りの恋人

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「お前、これから異性の体液を摂取し続けなければ死ぬぞ」 異世界に落とされた少女ニチカは『魔女』と名乗る男の言葉に絶望する。 体液。つまり涙、唾液、血液、もしくは――いや、キスでお願いします。 そんなこんなで元の世界に戻るため、彼と契約を結び手がかりを求め旅に出ることにする。だが、この師匠と言うのが俺様というか傲慢というかドSと言うか…今日も振り回されっぱなしです。 ツッコミ系女子高生と、ひねくれ師匠のじれじれラブファンタジー 基本ラブコメですが背後に注意だったりシリアスだったりします。ご注意ください イラスト:八色いんこ様 この話は小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿しています。

処理中です...