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第七章
異様で異質な異物
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貴族の少年少女たちは逃げ出した。
アルフェンは右手を巨大化させ、右目の『第三の瞳』を開眼。吹っ飛んだ魔人……テュポーンを視た。
そして、その異質さに思わず目を見張る。
「な、なんだこいつ……!?」
屋敷の中に吹っ飛んだテュポーン。
今は仰向けで大の字に寝ている。
だが、真に驚いたのは、その体内……『経絡糸』と『経絡核』だ。
まず、血管のように体内をめぐる経絡糸。この経絡糸の流れが滅茶苦茶だった。絡まった糸が無理やり体内に押し込められているような、あまりにも不自然な『流れ』だ。
そして、経絡核。通常は召喚獣につき一つだけなのだが、テュポーンの経絡核は八つ……だけじゃない。経絡核が消えたり現れたりを繰り返し、数が数えきれなかった。
今までと違い、明らかに異質な召喚獣……いや、魔人だ。
「アルフェン!! 貴様、屋敷を壊すつもりか!!」
「んなこと言ってる場合か!! さっさと王城に行って応援呼んでこい!! 王国内なら二十一人の英雄がいるだろうが!!」
アルフェンは、見当違いのことを叫ぶダオームに向かって叫んだ。
すると、ドレス姿のリリーシャが言う。
「魔人……フン、アルフェン、ここは任せるぞ。殿下、王城へ避難を」
「あ、ああ……だが、彼一人では」
「応援を呼びましょう。ダオーム、キリアス、行くぞ」
「……はい。くそ、アルフェン!! 屋敷の修理代、請求するからな!!」
「アルフェン、気を付けろ!!」
サンバルトを守るように、リリーシャたちは出て行った。
アルフェンは、右手に力を込めて握る。リリーシャたちが逃げたことを確認することなく、右手に『硬化』を載せて転がっているテュポーンめがけて腕を伸ばした。
「さっさとケリ付ける!!」
「んー……いたい」
「ッ!?」
むくりとテュポーンは起き上がり、向かってくるアルフェンの右手を見た。
そして、自分も同じように右腕を巨大化させ、アルフェンと同じように伸ばしてきたのである。
「『ジャガーブレイク』?」
「なっ!?」
アルフェンの右手と異質な『口』の手が衝突する。
だが、アルフェンの右手は『硬化』を付与してある。テュポーンの右手が固まり、そのまま右手を伝って全身が硬直。やがて心臓も呼吸も止まり死に至る。
「う、かたい……えいっ」
ぶちゅっ……と、テュポーンの右腕が肩から千切れた。
そして、何事もなかったかのように右腕が生えてくる。
「なっ……腕を千切って、『硬化』から逃れた、だと?」
「うん。いたかった……」
テュポーンは、顔を痛そうにしかめ、右腕をブンブン振る。
アルフェンは、右腕を構えたまま聞いた。
「お前、なんだ? ……魔人だよな。一人で乗り込んでくるなんて、馬鹿なのか?」
「? ……ここ、ごはんいっぱいあるって聞いたの。にんげん、すっごく美味しいって。あのおばさんが」
「おばさん? ……よくわかんねーけど、人間を喰うつもりか?」
「うん。にんげんでも召喚獣でも、食べられるものはなんでもたべる。だから……」
ぞわぞわと、アルフェンの背中が泡立つ。
得体の知れない何かが、テュポーンから噴出する。
テュポーンの背中に肉が盛り上がり、触手が何本も現れた。しかもその触手の先端には大きな口が付いており、綺麗な歯並びが見えた……人のような口が、かえって禍々しく見える。
「いっぱいたべる。おなかへったぁ……ねぇ、あなたを食べていい?」
「ふっざけんな!! テメェは俺がぶっ潰す!! 奪え『ジャガーノート』!!」
アルフェンは叫び、右腕を巨大化させてテュポーンに向かって行った。
◇◇◇◇◇◇
異常事態は、茶会が始まる前からすでに起こっていた。
「ふぅむ……」
「ダモクレス、どう思う?」
アースガルズ王国正門前に、ダモクレスとヴィーナスが厳しい表情で立っていた。
王国最強の二人がここにいる理由。それは、正門を守護する兵士が突如消えたと報告があり、きな臭いと感じたダモクレスがやってきたのだ。
「職務放棄、というわけではなさそうだのぉ……目撃者は?」
「それが、サッパリなのさ……きな臭いね」
ヴィーナスは腕組みをして眉を寄せる。
女性ながら、背負った大剣に相応しい肉体をしている。
「嫌な予感がする。ヴィーナス、動ける連中はどのくらいおる?」
「……あたしにあんた、アルジャン、ガーネットだね。残りは王城だ」
「ふぅむ……一応、呼んでおこうぞ」
「おいおい。魔人が来たとでもいうのかい? ベルゼブブがこの国に魔人を寄越すはずないだろう。魔帝を封印したあたしたち相手に、何の策もなく真正面から来るはずがない」
「一応じゃ。念には念を入れておこうぞ」
「…………わかった」
ダモクレスは正しい。
まさか、何の策もなく真正面から魔人が来て、門兵どころか目撃者の人間を全て『丸呑み』した魔人がいるなんて、考えすらしなかった。
そして今まさに、アルフェンが一対一で戦っているなんて思いもしなかった。
この二人が、貴族街に魔人が現れたと報告を受けるまで、あと十分。
◇◇◇◇◇◇
最初に気付いたのは、ニスロクだった。
「……えっ?」
「む、どうしたニスロク?」
「……な、なにこれぇ」
S級寮にて。
おやつの時間ということで、ウィルが作ったホットケーキを食べていた。
美味しそうにパクパク食べていたニスロクの手が止まり、真っ青になって震えはじめたのである。
「ど、どうしたんですか?」
「う、うぅぅ~~……こ、こわい。怖いのがいるぅ」
サフィーがニスロクを介抱するが、ニスロクは震えたままだ。
尋常ではない怯え方に、ウィルはエプロンを外しながら言う。
「……おい、敵か?」
「わ、わかんない……こわい気配、いっぱい、いっぱい……でも、みんな同じなの。みんな、いっぱいいるのに、意識は一つなの」
「……どういう意味だ?」
「そ、そんなことより! ニスロク、大丈夫なの?」
フェニアとサフィーは、蹲るニスロクの背中を撫でた。
すると、遊びに来ていたメルが立ちあがる。
「……嫌な予感がするわ。少し偵察してくるわね」
メルは外に出て、召喚獣『ゲート・オブ・イゾルデ』を召喚。メルに忠誠を誓った召喚士の召喚獣を使役する能力を持ち、偵察用の召喚獣を呼ぶ。
「『スコープヤンマ』……行きなさい」
イゾルデの鏡から飛び出した無数のトンボが、王国中を偵察する。
ニスロクの怯え方は異常だ。きっとなにかあったに違いない。
「おい、腹黒王女」
「……その呼び方やめて。なに?」
「嫌な予感がする。戦闘準備する。お前も、王女の権限使ってできることをやれ」
「ちょっと、命令するのはわたしよ。あなたは余計なこと───」
次の瞬間、スコープヤンマが一気に喰われた。
「あ、っぐぅ!?」
バツン、と……召喚獣との繋がりが断たれた。
スコープヤンマは消え、メルがふら付き、ウィルが支えた。
「おい、どうした!! 何があった!!」
「うっ……なに、いまの……す、スコープヤンマが……斬られた?」
「なに……?」
「……女、ツノが生えた、女が見えた」
「───なんだと?」
メルが見たのは、ツノの生えた女。
大きな鎌を持った女が、スコープヤンマを一気に切り裂いた。
その女は、嗤っていたという。
「…………」
「ウィル」
いつの間にか背後にアネルがいた。
アネルだけじゃない。フェニアとサフィー、レイヴィニアがいた。
ウィルは軽く深呼吸……メルに言う。
「なんでもいい。見えたのはそれだけか?」
「……時計塔が見えたわ。貴族街の近くにある時計塔」
「よし……お前ら、いけるか」
「もちろん!!」
「ええ、いけます!!」
「アタシも!!」
全員が頷く。
レイヴィニアは、寮を見て言う。
「うち、ニスロクに付いてる。お前ら、行くならさっさと行け。なんか嫌な予感するぞ」
「ああ。おい腹黒王女、お前は───」
と、ウィルが言いかけた時だった。
寮の入口の空間が歪み、漆黒のローブを着た何者かが現れた。
「メル王女殿下。サフィア公爵令嬢……ご同行を」
「……なんだテメェ」
「あなた、『隠者』……そう、そういうこと。あなたたち、敵は魔人の可能性が高いわ。『隠者』がわたしとサフィーを保護しに来た。つまり、それほどの事態……」
漆黒のローブを着た何者かは、口元しか見えない。
ウィルは左手を向けた。
「失せろ「王女命令よ、失せなさい」
ウィルに被せるようにメルは言った。
だが、『隠者』は首を振る。
「非常事態時、王族と五大公爵家の人間は最優先保護。申し訳ございません、あなたの命令は聞けません」
「……そう。じゃあ仕方ないわね」
次の瞬間、メルの影から少年と少女が飛び出し、『隠者』に飛び掛かった。
「なっ───!?」
「フギン、ムニン、足止めよろしく! さぁみんないくわよ!」
「グリフォン!」
「マルコシアス!」
フェニアとサフィーが召喚獣を呼び、ウィルたちは飛び乗る。そして、寮の屋根を飛び越え城下町の方へ消えてしまった。
『隠者』は舌打ちし、目の前にいるフギンとムニンを睨むが。二人は一言も発することなく、寮の影に飛び込んで姿をくらませた。
『隠者』はローブを脱ぐ。
「くっ……や、やばいよぉ、怒られちゃうぅ」
ローブを脱ぐと、オロオロとした可愛らしい女の子の顔があった。
最強の二十一人の一人、『隠者』トリスメギストスは、泣きそうな顔でメルが消えた方に向かって駆けだした。
アルフェンは右手を巨大化させ、右目の『第三の瞳』を開眼。吹っ飛んだ魔人……テュポーンを視た。
そして、その異質さに思わず目を見張る。
「な、なんだこいつ……!?」
屋敷の中に吹っ飛んだテュポーン。
今は仰向けで大の字に寝ている。
だが、真に驚いたのは、その体内……『経絡糸』と『経絡核』だ。
まず、血管のように体内をめぐる経絡糸。この経絡糸の流れが滅茶苦茶だった。絡まった糸が無理やり体内に押し込められているような、あまりにも不自然な『流れ』だ。
そして、経絡核。通常は召喚獣につき一つだけなのだが、テュポーンの経絡核は八つ……だけじゃない。経絡核が消えたり現れたりを繰り返し、数が数えきれなかった。
今までと違い、明らかに異質な召喚獣……いや、魔人だ。
「アルフェン!! 貴様、屋敷を壊すつもりか!!」
「んなこと言ってる場合か!! さっさと王城に行って応援呼んでこい!! 王国内なら二十一人の英雄がいるだろうが!!」
アルフェンは、見当違いのことを叫ぶダオームに向かって叫んだ。
すると、ドレス姿のリリーシャが言う。
「魔人……フン、アルフェン、ここは任せるぞ。殿下、王城へ避難を」
「あ、ああ……だが、彼一人では」
「応援を呼びましょう。ダオーム、キリアス、行くぞ」
「……はい。くそ、アルフェン!! 屋敷の修理代、請求するからな!!」
「アルフェン、気を付けろ!!」
サンバルトを守るように、リリーシャたちは出て行った。
アルフェンは、右手に力を込めて握る。リリーシャたちが逃げたことを確認することなく、右手に『硬化』を載せて転がっているテュポーンめがけて腕を伸ばした。
「さっさとケリ付ける!!」
「んー……いたい」
「ッ!?」
むくりとテュポーンは起き上がり、向かってくるアルフェンの右手を見た。
そして、自分も同じように右腕を巨大化させ、アルフェンと同じように伸ばしてきたのである。
「『ジャガーブレイク』?」
「なっ!?」
アルフェンの右手と異質な『口』の手が衝突する。
だが、アルフェンの右手は『硬化』を付与してある。テュポーンの右手が固まり、そのまま右手を伝って全身が硬直。やがて心臓も呼吸も止まり死に至る。
「う、かたい……えいっ」
ぶちゅっ……と、テュポーンの右腕が肩から千切れた。
そして、何事もなかったかのように右腕が生えてくる。
「なっ……腕を千切って、『硬化』から逃れた、だと?」
「うん。いたかった……」
テュポーンは、顔を痛そうにしかめ、右腕をブンブン振る。
アルフェンは、右腕を構えたまま聞いた。
「お前、なんだ? ……魔人だよな。一人で乗り込んでくるなんて、馬鹿なのか?」
「? ……ここ、ごはんいっぱいあるって聞いたの。にんげん、すっごく美味しいって。あのおばさんが」
「おばさん? ……よくわかんねーけど、人間を喰うつもりか?」
「うん。にんげんでも召喚獣でも、食べられるものはなんでもたべる。だから……」
ぞわぞわと、アルフェンの背中が泡立つ。
得体の知れない何かが、テュポーンから噴出する。
テュポーンの背中に肉が盛り上がり、触手が何本も現れた。しかもその触手の先端には大きな口が付いており、綺麗な歯並びが見えた……人のような口が、かえって禍々しく見える。
「いっぱいたべる。おなかへったぁ……ねぇ、あなたを食べていい?」
「ふっざけんな!! テメェは俺がぶっ潰す!! 奪え『ジャガーノート』!!」
アルフェンは叫び、右腕を巨大化させてテュポーンに向かって行った。
◇◇◇◇◇◇
異常事態は、茶会が始まる前からすでに起こっていた。
「ふぅむ……」
「ダモクレス、どう思う?」
アースガルズ王国正門前に、ダモクレスとヴィーナスが厳しい表情で立っていた。
王国最強の二人がここにいる理由。それは、正門を守護する兵士が突如消えたと報告があり、きな臭いと感じたダモクレスがやってきたのだ。
「職務放棄、というわけではなさそうだのぉ……目撃者は?」
「それが、サッパリなのさ……きな臭いね」
ヴィーナスは腕組みをして眉を寄せる。
女性ながら、背負った大剣に相応しい肉体をしている。
「嫌な予感がする。ヴィーナス、動ける連中はどのくらいおる?」
「……あたしにあんた、アルジャン、ガーネットだね。残りは王城だ」
「ふぅむ……一応、呼んでおこうぞ」
「おいおい。魔人が来たとでもいうのかい? ベルゼブブがこの国に魔人を寄越すはずないだろう。魔帝を封印したあたしたち相手に、何の策もなく真正面から来るはずがない」
「一応じゃ。念には念を入れておこうぞ」
「…………わかった」
ダモクレスは正しい。
まさか、何の策もなく真正面から魔人が来て、門兵どころか目撃者の人間を全て『丸呑み』した魔人がいるなんて、考えすらしなかった。
そして今まさに、アルフェンが一対一で戦っているなんて思いもしなかった。
この二人が、貴族街に魔人が現れたと報告を受けるまで、あと十分。
◇◇◇◇◇◇
最初に気付いたのは、ニスロクだった。
「……えっ?」
「む、どうしたニスロク?」
「……な、なにこれぇ」
S級寮にて。
おやつの時間ということで、ウィルが作ったホットケーキを食べていた。
美味しそうにパクパク食べていたニスロクの手が止まり、真っ青になって震えはじめたのである。
「ど、どうしたんですか?」
「う、うぅぅ~~……こ、こわい。怖いのがいるぅ」
サフィーがニスロクを介抱するが、ニスロクは震えたままだ。
尋常ではない怯え方に、ウィルはエプロンを外しながら言う。
「……おい、敵か?」
「わ、わかんない……こわい気配、いっぱい、いっぱい……でも、みんな同じなの。みんな、いっぱいいるのに、意識は一つなの」
「……どういう意味だ?」
「そ、そんなことより! ニスロク、大丈夫なの?」
フェニアとサフィーは、蹲るニスロクの背中を撫でた。
すると、遊びに来ていたメルが立ちあがる。
「……嫌な予感がするわ。少し偵察してくるわね」
メルは外に出て、召喚獣『ゲート・オブ・イゾルデ』を召喚。メルに忠誠を誓った召喚士の召喚獣を使役する能力を持ち、偵察用の召喚獣を呼ぶ。
「『スコープヤンマ』……行きなさい」
イゾルデの鏡から飛び出した無数のトンボが、王国中を偵察する。
ニスロクの怯え方は異常だ。きっとなにかあったに違いない。
「おい、腹黒王女」
「……その呼び方やめて。なに?」
「嫌な予感がする。戦闘準備する。お前も、王女の権限使ってできることをやれ」
「ちょっと、命令するのはわたしよ。あなたは余計なこと───」
次の瞬間、スコープヤンマが一気に喰われた。
「あ、っぐぅ!?」
バツン、と……召喚獣との繋がりが断たれた。
スコープヤンマは消え、メルがふら付き、ウィルが支えた。
「おい、どうした!! 何があった!!」
「うっ……なに、いまの……す、スコープヤンマが……斬られた?」
「なに……?」
「……女、ツノが生えた、女が見えた」
「───なんだと?」
メルが見たのは、ツノの生えた女。
大きな鎌を持った女が、スコープヤンマを一気に切り裂いた。
その女は、嗤っていたという。
「…………」
「ウィル」
いつの間にか背後にアネルがいた。
アネルだけじゃない。フェニアとサフィー、レイヴィニアがいた。
ウィルは軽く深呼吸……メルに言う。
「なんでもいい。見えたのはそれだけか?」
「……時計塔が見えたわ。貴族街の近くにある時計塔」
「よし……お前ら、いけるか」
「もちろん!!」
「ええ、いけます!!」
「アタシも!!」
全員が頷く。
レイヴィニアは、寮を見て言う。
「うち、ニスロクに付いてる。お前ら、行くならさっさと行け。なんか嫌な予感するぞ」
「ああ。おい腹黒王女、お前は───」
と、ウィルが言いかけた時だった。
寮の入口の空間が歪み、漆黒のローブを着た何者かが現れた。
「メル王女殿下。サフィア公爵令嬢……ご同行を」
「……なんだテメェ」
「あなた、『隠者』……そう、そういうこと。あなたたち、敵は魔人の可能性が高いわ。『隠者』がわたしとサフィーを保護しに来た。つまり、それほどの事態……」
漆黒のローブを着た何者かは、口元しか見えない。
ウィルは左手を向けた。
「失せろ「王女命令よ、失せなさい」
ウィルに被せるようにメルは言った。
だが、『隠者』は首を振る。
「非常事態時、王族と五大公爵家の人間は最優先保護。申し訳ございません、あなたの命令は聞けません」
「……そう。じゃあ仕方ないわね」
次の瞬間、メルの影から少年と少女が飛び出し、『隠者』に飛び掛かった。
「なっ───!?」
「フギン、ムニン、足止めよろしく! さぁみんないくわよ!」
「グリフォン!」
「マルコシアス!」
フェニアとサフィーが召喚獣を呼び、ウィルたちは飛び乗る。そして、寮の屋根を飛び越え城下町の方へ消えてしまった。
『隠者』は舌打ちし、目の前にいるフギンとムニンを睨むが。二人は一言も発することなく、寮の影に飛び込んで姿をくらませた。
『隠者』はローブを脱ぐ。
「くっ……や、やばいよぉ、怒られちゃうぅ」
ローブを脱ぐと、オロオロとした可愛らしい女の子の顔があった。
最強の二十一人の一人、『隠者』トリスメギストスは、泣きそうな顔でメルが消えた方に向かって駆けだした。
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