召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第六章

アルフェンVSミドガルズオルム③/仲間

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 巨大亀ミドガルズオルムとアルフェンの戦い。
 ミドガルズオルムは全長四十メートル以上。それに対してアルフェンは身長約二メートルほどだ。比べるのも馬鹿馬鹿しい体格差がある。
 だが、アルフェンは負ける気つもりがない。
 この『完全侵食エヴォリューション』状態なら、どんな敵にだって負ける気はしない。
 アルフェンは、右腕を『硬化』させ、さらに巨大化させる。

「行くぞ───『獣の一撃ジャガーブレイク』!!」

 巨大化した腕が伸び、ミドガルズオルムに向かって伸びていく。
 だが───やはり能力は健在だった。
 ミドガルズオルムに近づいた途端、アルフェンの右腕がスローモーションとなったのだ。

「っぐ───能力か」
『無駄だよ。ヒト型の時とはワケが違う!!』

 ミドガルズオルムの甲羅にある突起が伸び、発射された。
 今までにない攻撃方に、アルフェンは驚愕。
 腕がノロくなった瞬間に引き戻したが、まだ動きがノロく戻ってこない。そして、飛んできた『棘』がアルフェンの身体に直撃した。

「ぐ、あがぁ!?」

 完全侵食状態の身体に亀裂が入った。
 常時『硬化』されているジャガーノートの外殻に亀裂。

「ぐ……やられた、全身硬化の弱点……!!」

 原因は、ミドガルズオルムの『スロウ』が付与された棘だった。
 アルフェンの外殻は常に『硬化』されている状態だ。だが、アルフェンは自身の身体に『硬化』を付与する場合に限り、硬化を自在に解除できる。全身硬化をしてしまうと、関節や内臓、血流なども止まってしまうからである。
 なので、完全侵食状態の常時硬化は、身体を動かす場合だけ解除される。動きを止めた時だけ、外殻の表皮だけを硬化するのである。
 今は、腕を伸ばしたまま引き戻した状態だ。だから硬化が効いていない。ダメージを受けた原因はそれだった。

『───へぇ』

 ミドガルズオルムは面倒くさがり屋だ。
 やる気はあまりないし、感情をあらわにすることもあまりない。それが逆に言えば冷静沈着であり、観察力が高いということでもあった。
 
『あははっ……なんかわかっちゃったかもね。きみの五指に触れる前に吹っ飛ばせばいいや』
「……やれるもんならやってみろ!!」

 アルフェンは右手の五指に力を入れる。
 召喚獣の王ジャガーノートだけが使える二つ目の能力。『終焉世界アーカーシャ』を使ってミドガルズオルムに触れれば、この『スロウ』は消える。
 
「お前に触れれば俺の勝ちだ。だったら……ここからは根性の見せ所だ!!」

 そう叫び、アルフェンは右手を巨大化させ走り出した。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「ん、うぅ……くぁぁ───あれ?」

 アネルは目を覚ました。
 身体を起こし、大きく欠伸をして、頭をポリポリ掻き……ハッとする。

「あ!? ま、魔人───は倒したのか。あ、魔獣!? みんな!!」

 ガバッと立ち上がり、身体を確認する。
 完全侵食を習得し、バハムートを倒したのは覚えている。
 その後、疲労で少しだけ目を閉じていたのだが、思った以上に時間が経過していたようだ。
 
「腕、脚───……うん、動く。能力……うん、大丈夫」

 腕を回し、その場で跳躍。『カドゥーケウス』を顕現させる。
 どれも問題ない。それに、完全侵食状態から戻ったせいなのか、怪我も全て消えていた。
 やや疲労はある。だが、戦闘に支障はない。

「……そういえばアタシ、一人で魔人を倒したのよね……う、今さらだけど、けっこう無謀だったかも……頭にきてたけど、もうあんな無謀な真似やめよう」

 アネルのいいところは、こういう反省ができるところだ。
 首を振り、大きく頷く。

「まずは、みんなと合流しなきゃ!! ここ───……どこ?」

 見覚えのないところだった。
 地面に激突したせいかクレーターができている。
 まずは、地形の把握が先だ。

「『噴射口ブースターユニット』、跳躍!!」

 アネルは両足に噴射口を造り、跳躍した。
 一瞬で上空百メートル以上舞い上がる。飛ぶのではなく噴射なので細かい調整は難しい。だが、厳しい訓練で噴射口の制御をモノにしたアネルは、短時間の飛行が可能になっていた。
 上空から周囲を見渡し───……驚愕した。

「───なにあれ」

 巨大な亀と、完全侵食状態のアルフェンが戦っていた。
 
「あんなサイズの魔獣……魔獣? そういえば、ミドガル、なんとか?……が来てるとか言ってたっけ。ああもう、考えるの後!! まずは……助けないと!!」

 噴射口から火が噴き、アルフェンの元へ向かって行く。
 このまま勢いをつけて蹴れば、亀の甲羅を貫通できるかもしれない。
 そう考え、アネルは勢いを増す。

「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 だがそれは、ミドガルズオルムの能力を知らないアネルにとって悪手だった。

 ◇◇◇◇◇◇

「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
「え───アネル!? やばいっ!! ちょ、待った!! ああもう!!」

 アネルがいきなり現れ、ミドガルズオルムに向かって飛び蹴りを食らわせようとした。
 だが、ミドガルズオルムの『スロウ』がある限り奇襲は意味をなさない。というか、あんなに大声で叫んでは奇襲もクソもない。
 アルフェンはミドガルズオルムに向かおうとしたが急ブレーキ。右手を巨大化させて伸ばす。

「え!? ちょ、わぶっ!?」

 右手に受け止められたアネルは、そのままアルフェンの元へ。
 さすがに、これには怒るアネル。

「ちょ、なにすんの!? いい感じで勢い付けたのにぃ!!」
「勢い付けても無意味だ。あいつの能力、近づけばみんなノロくなるんだよ」
「え」

 アルフェンは石を拾い、全力で投げつける。
 石は時速百キロ以上の速度で飛んだが、ミドガルズオルムに近づいた途端にノロくなった。
 アネルは顔を蒼くする。

「あ、あんな能力あり?……」
「ありだな。それより、来てくれて助かった。手ぇ貸してくれ」
「もちろん。それに……アタシも役に立てると思うよ」
「え……?」
「『完全侵食エヴォリューション』」
「え」

 アネルの身体に真紅の装甲が纏われる。
 完全侵食。これにはアルフェンも驚いた。

「おお……すっげぇ」
「ふふ、ピンクが力をくれたの」
「これならいけるな。よーし、二人でやるぞ!!」
「うん!!」

 アルフェンとアネルは互いに構えを取る。
 ミドガルズオルムは、納得していた。

『ああ、バハムートはきみにやられたのか。ってことは、さっきの爆発も?』
「まぁね。次はアンタの番!!」
『……怖いなぁ』

 アルフェンとアネル、そしてミドガルズオルム。
 魔人との戦いは、終盤に向かっていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、どうするか。
 ミドガルズオルムに近づけばノロくなる。ならば攻撃は自然と遠距離に限られる。
 先ほどは逃げ場をなくすほどの大地で四方を囲い、上空から巨大化させた『右手』で押しつぶした。だが、このサイズではその手は使えない。
 すると、アネルが言う。

「ねぇ、のろくなるだけで、攻撃が当たらないわけじゃないんだよね?」
「ああ。でも、見ての通り……ノロい分、硬そうだ」

 ミドガルズオルムは巨大な『亀』だ。
 突起の生えた甲羅は硬そうだし、その突起を飛ばしての攻撃もまた脅威だ。
 すると、ミドガルズオルムが言う。

『なんか面倒くさくなってきたし……本気で終わらせるよ』
「「!!」」
『光栄に思いなよ。本気のオレはバハムートより強い』

 ミドガルズオルムの手足、そして頭が甲羅の中に引っ込んだ。
 甲羅が手足や頭を引っ込めた穴をふさぎ、さらに甲羅の突起が鋭利になる。そして、ミドガルズオルムは超高速で回転し、突起を飛ばしてきたのだ。

「なっ!? アネル、俺の後ろに!!」
「う、うん!!」

 アルフェンは右手を巨大化させ、盾のように広げた。
 すると、突起が右手に直撃───……動きが、遅くなった。
 
「しまっ───……った───……」

 突起の一つ一つに『スロウ』が付与されている。
 そして、地面に突き刺さった突起もまた、半径二メートル圏内に『スロウ』の効果が。
 周囲は突起だらけ。つまり、アルフェンとアネルは『スロウ』に囚われてしまった。

「リ───……デ───……ル───……」
「やっ───……っばぁ───……」

 身体が重く、動きが鈍い。
 完全に術中に囚われていた。
 そして、動きの止まったミドガルズオルムがにょきっと頭を出す。

『捕まえた。あっはっは、もう終わりだよ』

 がぱっと、ミドガルズオルムの口が開いた。
 そこに、黒いエネルギーが集中していくのが見えた。
 身体が動かない。中途半端な『硬化』では防げないかもしれない。
 アルフェンは必死に考えた。だが、思考能力もノロくなっている。
 
「た───え───て───……」
「……え」

 前を向いていたアルフェンには見えなかった。
 アネルの『カドゥーケウス』の下半身。スカートのような部分が展開され、地面めがけてミサイルが発射されていた。
 ミドガルズオルムの黒いエネルギー球がどんどん大きくなる。

「───っ!!」
「───!?」

 そして、アルフェンとアネルのいる地面が爆発した。
 アルフェンには何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと爆発し、爆風で身体が浮き上がっていく。
 ミドガルズオルムの黒球が完成した。あまりの大きさにミドガルズオルムの視界も遮られ、アルフェンたちの地面が爆発し、身体が徐々に浮き上がっていることに気付いていない。
 油断───最初で最後のチャンス。アルフェンは歯を食いしばった。

『じゃあ───さよなら』

 ボッ───と、黒い塊が発射された。
 同時に、爆破で上空二メートルほどに吹き飛ばされたアルフェンとアネルは、『スロウ』の効果範囲から逃れ、爆風で思い切り上空へ打ち上げられた。

「うおぁぁぁぁぁっ!?」
「いったぁぁぁぁっ!?」

 ぐるぐるときりもみ回転。二人がいた場所を黒い球体が通り過ぎていく。
 アネルはアルフェンの身体を掴み、空中で体勢を整えた。

「アルフェン!! これが最初で最後の───」
「ああ、勝機!!」
『───え?』

 ここで、ミドガルズオルムは気付いた。
 アルフェンとアネルが上空にいる。そして、アルフェンの右腕が巨大化し、ミドガルズオルムの真上から振り下ろしていたのだ。
 これには、驚くしかなかった。

『な、なんで!?』

 右腕は、ミドガルズオルムの二メートル圏内へ入った。
 動きがノロくなる。
 ミドガルズオルムは焦っていた。

『やべ、やべ、やべぇぇぇぇっ!!』
「っっっ───……ッ!!」

 そして、ついにアルフェンの五指がミドガルズオルムの甲羅に触れた。

「『終焉世界アーカーシャ』!!」

 次の瞬間───ミドガルズオルムの全ての能力が消えた。
 『スロウ』が消えた。そして、着地したアネルの背中に巨大な弐門の砲身が形成される。

「『雷電磁砲ライトニングブラスター』!!」

 紫電の光線が発射され、ミドガルズオルムの甲羅を砕いた。

『ギャァァァァァァァァァァァ!?』
「とどめだ!!」

 甲羅が砕け、衝撃でひっくり返ったミドガルズオルムに向かって、右腕を叩きつける。
 今なら『硬化』が使える。

「『停止世界パンドラ』───『圧縮コンプレッション』!!」

 『硬化』により空間、時間、その他諸々が固まり、アルフェンの右手によって硬化された空間が圧縮されていく。ミドガルズオルムの身体が砕け、圧縮され縮んでいく。

『あーあ……負けちゃった……まぁ、しばらく……のんびり、でき、そう……』

 最後まで語ることなく、ミドガルズオルムは圧縮され消滅した。
 こうして、村を襲撃した二体の魔人は討伐された。
 アルフェンとアネルは完全侵食を解き、ハイタッチする。

「終わったぁ~……のよね?」
「たぶん。村の方の魔獣はフェニアたちがなんとかしてる。まぁ、A級の連中もいるし、大丈夫だろ」
「うん……あれ? そういえばウィルは?」
「…………」

 アルフェンは、答えられなかった。
 アネルが首を傾げると、首筋に小さな雫がぽつり、ぽつりと当たる。

「あ……雨かな」
「…………みたいだな」

 小降りの雨は、やがて大雨となり大地を潤した。

 ◇◇◇◇◇◇

 空から降る雨は、火照った身体を優しく包む。
 
「うふふ。もうおしまい?」

 あんなに熱かった身体は、すっかり冷えてしまった。
 全身傷だらけ、意識も失いかけ、腕も上がらない。
 ウィルは、大岩に叩きつけられ、大鎌で刻まれ血まみれだった。

「んん~……きみ、今まで残した子の中でも最高に感じさせてくれたわぁん♪ ふふ、お姉さん濡れちゃったぁ……んん? もちろん雨にだけどね♪」

 『色欲』の魔人フロレンティアは、無傷だった。
 大鎌を抱き、くねくねした動きでウィルを見下ろしている。

「わかったでしょう?」

 ふと、真面目な声で言う。

「お姉さん、男の子が大好きなの。強い恨みを持った子なんて特にねぇ♪ ……そんな子を徹底的にいたぶって殺して犯すのが、本当に大好きなの♪」

 ウィルは答えない。
 意識を失っているのか。それとも、チャンスを狙っているのか。

「それと、もう一つ……お姉さんが男の子を残す理由」

 フロレンティアは大鎌をカランと投げ捨て、前かがみになってウィルに顔を近づけた。
 あまりにも無防備───……そして。

「───ッ!! 死にやがれ!!」

 最後の力を振り絞り、ズタズタに引き裂かれた左腕をにフロレンティアの眉間に向け、翡翠の弾丸を発射した。
 フロレンティアは、微笑を浮かべたままだ。
 弾丸は、フロレンティアの眉間へ飛んでいく───……だが、弾丸はフロレンティアの肌を傷つけることなく、一瞬で分解され塵となった。

「これが、その理由。ふふ……レイヴィニアちゃんに聞かなかったの? 私のコト」

 フロレンティアは大鎌を拾い、髪をかき上げた。

「私の能力は『男子禁制アンタッチャブル』───……全ての男は・・・・・私に触れることが・・・・・・・できない・・・・

 これが、フロレンティアの能力だ。
 いかなる男もフロレンティアに触れることができない。フロレンティア自身が自分の意志で触れることは可能だ。だが、『男』は手でも足でも『能力』ですらも、フロレンティアに干渉できない。
 フロレンティアが残した『男』がいくら強くなろうとも、どんな能力を持っても、フロレンティアに勝てない理由はここにあった。

「あなた、まだ諦めてないわねぇ……ん~、それじゃつまんないわぁ。もっと絶望して、全てを諦めて、その瞬間に殺すのが最高なのにぃ……もう」
「て、めぇ……」
「そんなに殺意ふりまいちゃダメダメ。ん~……少し早かったかしら。ま、いいわ。今回は見逃してあげる♪ そもそも、あなたは今食べる予定じゃなかったしね♪」
「…………ッ」

 フロレンティアは雨を楽しむように空を見上げ、ウィルに背を向けた。
 
「じゃぁね~ん♪」
「ま、まち、やが……れ!!」

 左腕を持ち上げる。だが、出血がひどく弾丸は出なかった。
 たとえ発射しても、傷一つ付けられなかっただろうが。
 やがて、フロレンティアは見えなくなり……ウィルは一人、残された。

「っ……ッっ!! ぐ、っっ……あ、あぁ、アァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーっ!!」

 土砂降りの中、ウィルは全力で叫んだ。
 己の無力さを呪う怨嗟の叫びは、雨の音に混じり響いていた。
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