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第五章
またもや売った喧嘩
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「───で、生徒会、あと先生に喧嘩売ったと」
「…………ま、まぁ」
「はぁ……あんたね、考えなしに喧嘩売りすぎ!」
寮に戻ったアルフェンは、メルに「何をお話したんですか?」と聞かれ挙動不審に。そこを訝しんだフェニアに根掘り葉掘り質問され、全てを話した。
ちなみにカード勝負は終わり、ウィルが大負けして部屋に引っ込んでいるらしい。ここにいるのは全員女子だが、アルフェンは特に気にしていない。
メルは少し考えた。
「……公開模擬戦、というのもありですね」
「は?」
「公開、模擬戦?」
アルフェンが聞き返し、アネルが首を傾げた。
メルは、ニヤリと笑う。
「せっかくですので、A級召喚士こそが最上格だと思っているヒトたちにわからせちゃいますか。各新聞社や貴族を招待して、A級召喚士とS級召喚士のバトルを見せるんです。S級召喚士は寄生型の三人、A級召喚士はお兄様含む学園最強の八人、『アースガルズ・エイトラウンズ』という恥ずかしい名称の生徒会役員」
「は、恥ずかしい名称……」
サフィーはクスっと笑った。アルフェンたちは嗤わなかったが。
そして、アネルが「……え?」と言う。
「ちょ、寄生型の三人って、アタシも!?」
「もちろん。正直な意見で申し訳ありませんが……フェニアやサフィーでは、まだお兄様たちには敵わないかと思われます。なので、魔人と近接戦闘で生き抜いたお三方に戦っていただこうかと」
「まま、待った! アタシまだ訓練始めたばっかりだし! それに『兵装』だって四種類しか使えないし!」
「十分です。というか……あんな凶悪な『能力』はそうありません。むしろ言わせてください。戦う場合、手加減して殺さないように」
「え、えぇ~……? ウィルとアルフェンだけでいいんじゃ……」
アネルはまだ自信がないようだ。
だが、アルフェンたちは知っている。訓練で最も伸びているのは、間違いなくアネルだ。
鋼の足を自在に組み替え武器とする『兵装』は、最初こそ一種の変形しかできなかったが、今は四種の形態を獲得している。
アルフェンは、アネルを安心させるように言う。
「ま、気楽にやろうぜ。アネルは新しい兵装の実験。俺も新しく獲得した『完全侵食』の実験したい」
「じ、実験……う~、わかった」
「では、決まりですわね。よし、準備はわたしにお任せください」
メルはドンと胸を叩く……とてもやる気になっているようだ。
◇◇◇◇◇◇
数日後。
生徒会からの呼び出しも特になく、アルフェンたち(メル含む)は通常授業、そして訓練を行っていた。
変わったことと言えば、訓練をのぞき見する連中が増えたことだ。さらに、フェニアたちなどが購買に行くと、B級の連中が声を掛けてくるようになった。
内容は同じ。『S級ってどんなところ?』や『S級に入りたい』などだ。
フェニアは『A級になってからね』と言ってはぐらかしたり、ウィルに話しかけて殺されそうになった奴もいたり、鬱陶しいことも増えた。
アルフェンは、授業の休み時間にオレンジジュースを飲みながらウィルに言う。
「最初は馬鹿にしてたのに、今じゃ『どうやったらS級になれる?』だとさ」
「フン。馬鹿の相手なんかしてる暇はねぇよ。それより……模擬戦、まだか? けっこうストレス溜まってるんでな、憂さ晴らししてぇんだよ」
「お前、ホントに殺すなよ……?」
「フン……『色欲』も現れず、カード勝負は負けっぱなし、イライラだってする」
「カード勝負はお前が弱いだけだろ」
「うるさい」
すると、アネルが混ざる。
「はぁ……模擬戦、やりたくないなぁ」
「お前、まだそんなこと言ってんのかよ」
「だってぇ……アタシ、ウィルみたいに戦い好きじゃないし」
「フン、お前は強いんだ。自信持てよ」
「ん……」
ウィルとアネル。
なかなか相性がいいのか、ウィルもアネルによくアドバイスをしている。
アルフェンは二人を交互に見て、なんとなく笑った。
「なぁ、模擬戦に向けて連携訓練しようぜ」
「いらねーよ。お前とアネルが派手に暴れる、オレが撃ちまくる。それでいい」
「簡単っ……ねぇアルフェン、それでいいの?」
「んー……まぁ、いいかな。ダモクレス先生とヴィーナス先生を同時に相手して一本取れるまで、そのがむしゃら作戦でやってみるか」
「うぅ……殴られると痛いんだよね」
三人の『寄生型』は、どこか楽し気だった。
◇◇◇◇◇◇
さらに数日後。
授業、訓練が終わり放課後。寮に戻って夕食を終え、夕食後のお茶を飲んでいるとメルが言った。
「模擬戦の日程、さっき決まったから」
いきなりだった。
授業中も普通だった。放課後どこかに出かけたようだが。
すると、ウィルが紅茶のカップを置いて笑う。
「ようやくか」
「ええ。三対十の模擬戦ね。アルフェン対A級四人、ウィル対A級三人、アネル対A級三人の模擬戦よ。場所はB級演習場、試合当日は『塔』のグレイ教授が演習場を保護するから、全力で暴れていいってさ」
「待った待った待った!! 三対一!? あ、アタシのことなんだと思ってんの!?」
アネルが慌てたが、メルはあっさり言う。
「アネル、自信持ちなさい。あんたは強い。いいかげん自分を弱く思うのはやめなさい」
「で、でも……」
「戦えばわかる。あんたは強いわよ」
「う……」
「それとアルフェン。あんたの相手だけど」
「…………」
なんとなく、予感はしていた。
アルフェンの表情で察したのか、メルはうんと頷く。
「相手は、A級召喚士リリーシャ、お兄様ことサンバルト、教師オズワルド、そしてB級召喚士ダオームよ。完膚なきまで叩きのめしなさい」
「ああ。そろそろ思い知らせてやる……」
アルフェンは、不敵な笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
時間は少し巻き戻る。
メルは一人、生徒会室に向かい、数枚の書類を生徒会長リリーシャの机に置く。
リリーシャはそれを掴み、眺め……眉をぴくっと上げた。
そして、メルを見る。
「王女殿下。これはどういうことでしょうか?」
「そのままの意味よ。S級召喚士と生徒会の模擬戦内容について」
「……これには、四対一、三対一、三対一となっています。それに王子殿下もご参加なさると……?」
「止めたんですけどねー……はぁ、お兄様、あなたのために戦いたいそうです」
「…………」
リリーシャはため息を吐いた。
メルはそれを見逃さない。
「あれ? 嫌でした? ふむふむ、リリーシャさんとお兄様はけっこういい雰囲気だって噂なんですけど、どうやら違ったみたいですねー」
「……そういうわけではありません。このような催し物に、王子殿下がご参加なさるなんて」
「あはは。まぁいいじゃないですか。お兄様、リリーシャさんが大好きみたいですし、いいところを見せてポイント稼ごうとしてるみたいですよ?」
「…………」
「それと、気になるのはそこじゃないですよね?」
「ええ……三対十、ということですね?」
「そうです。正直、実力差を考えると一対十でもいいんですけど……さすがにそれじゃ取材の記者さんたちもつまらないでしょうし」
「…………我らが負けると?」
「はい♪」
メルは迷いもせず断言した。
リリーシャはメルが気に入らない。というか、敵意すら感じていた。
メルは用が済んだとばかりに退室しようとする。その前に、リリーシャに向かって言う。
「あの、S級召喚士に敵意とか持つの勝手ですけど、あなたたちじゃ絶対に勝てませんよ」
「……ほう、なぜでしょうか?」
メルは、なんの感情も込めずに言う。
「だってあなたたち、何の成果も出してないじゃないですか」
「…………」
「S級召喚士はすでに三人の魔人を討伐しています。これだけでS級召喚士の強さは知ってもらえると思います。それに対して生徒会の皆さん、いままで何かやりました? 魔獣討伐くらいですよね?」
「…………」
「ま、せっかくの機会なので。これを機にA級召喚士はS級召喚士への通過点だと国民に証明してみせましょう。いずれはS級召喚士がこの国最強の戦力として、これから生まれてくる子供たちの目標になればと考えてますので」
「王女殿下。あなたはA級召喚士でありながらS級召喚士を認めると?」
「当然じゃないですか。っていうかわたし、等級至上主義者じゃありませんし、AだのSだのどうでもいいと思ってます」
「…………」
「ま、不貞腐れたような状態で戦ってもらっても困るんで。あなたたち生徒会がS級に勝てば、どんな望みでもかなえてあげましょう。では」
そう言って、メルは退室した。
残されたリリーシャは、メルが置いていった模擬戦の要項を握りつぶした。
◇◇◇◇◇◇
リリーシャは生徒会役員を集め、オズワルドとサンバルトを呼び要項を確認する。
サンバルトは、ため息を吐いた。
「メル、いつの間にこんなものを……全く」
サンバルトは、妹メルが模擬戦の計画を通したことを知らなかった。
『リリーシャのために戦う』とは言ったが、まさか実の妹がこのように手をまわしていたとは。サンバルトは苦笑した。
「まぁいい。リリーシャ、私も戦おう」
「……ありがとうございます」
たったこれだけでわかった。
サンバルトは、妹の動向すら掴めない無能だと。
だが、戦闘力だけは期待できる。
生徒会役員、そしてオズワルドにリリーシャは言う。
「要項によると、生徒会十名、S級三名で戦うことになっている。相手は全員が『寄生型』だ。だが……この学園に入学して研鑽を積んできたお前たちが負けるとは思わない。それに、こちらにはサンバルト殿下、オズワルド先生、そして私がいる……負けることはない」
早くもリリーシャは自身の力を過信する。
だが、それを指摘する者は誰もいない。
「場所はB級演習場。会場の保護を『塔』のグレイ教授が、救護班に『死神』のリッパー医師が付く。本気を出しても問題ない」
最強の二十一人の召喚士が二人も付く。
グレイ教授は『守り』に特化した『王国最硬』の召喚獣『オリハルコン』を持ち、救護班にいるリッパー医師は『死神に嫌われた医師』という異名を持つ王国最高の医師だ。ただし治療に法外な値段を吹っ掛けるという話もある。
「決戦は三日後。報酬は……S級の廃止、は恐らく不可能だ。ならば国外追放処分……これしかない。みんな、勝利の報酬はこれでいいだろうか」
リリーシャの問いに、誰も反対しない。
もはやS級を廃止するのは不可能。ならばこのアースガルズ王国から離れた僻地に飛ばす。
それがA級召喚士たちの決定だった。
「勝つぞ。そして……我々生徒会、そしてA級召喚士こそ最上だと認めさせるのだ」
リリーシャは、かつてない気合で全員を見た。
「…………ま、まぁ」
「はぁ……あんたね、考えなしに喧嘩売りすぎ!」
寮に戻ったアルフェンは、メルに「何をお話したんですか?」と聞かれ挙動不審に。そこを訝しんだフェニアに根掘り葉掘り質問され、全てを話した。
ちなみにカード勝負は終わり、ウィルが大負けして部屋に引っ込んでいるらしい。ここにいるのは全員女子だが、アルフェンは特に気にしていない。
メルは少し考えた。
「……公開模擬戦、というのもありですね」
「は?」
「公開、模擬戦?」
アルフェンが聞き返し、アネルが首を傾げた。
メルは、ニヤリと笑う。
「せっかくですので、A級召喚士こそが最上格だと思っているヒトたちにわからせちゃいますか。各新聞社や貴族を招待して、A級召喚士とS級召喚士のバトルを見せるんです。S級召喚士は寄生型の三人、A級召喚士はお兄様含む学園最強の八人、『アースガルズ・エイトラウンズ』という恥ずかしい名称の生徒会役員」
「は、恥ずかしい名称……」
サフィーはクスっと笑った。アルフェンたちは嗤わなかったが。
そして、アネルが「……え?」と言う。
「ちょ、寄生型の三人って、アタシも!?」
「もちろん。正直な意見で申し訳ありませんが……フェニアやサフィーでは、まだお兄様たちには敵わないかと思われます。なので、魔人と近接戦闘で生き抜いたお三方に戦っていただこうかと」
「まま、待った! アタシまだ訓練始めたばっかりだし! それに『兵装』だって四種類しか使えないし!」
「十分です。というか……あんな凶悪な『能力』はそうありません。むしろ言わせてください。戦う場合、手加減して殺さないように」
「え、えぇ~……? ウィルとアルフェンだけでいいんじゃ……」
アネルはまだ自信がないようだ。
だが、アルフェンたちは知っている。訓練で最も伸びているのは、間違いなくアネルだ。
鋼の足を自在に組み替え武器とする『兵装』は、最初こそ一種の変形しかできなかったが、今は四種の形態を獲得している。
アルフェンは、アネルを安心させるように言う。
「ま、気楽にやろうぜ。アネルは新しい兵装の実験。俺も新しく獲得した『完全侵食』の実験したい」
「じ、実験……う~、わかった」
「では、決まりですわね。よし、準備はわたしにお任せください」
メルはドンと胸を叩く……とてもやる気になっているようだ。
◇◇◇◇◇◇
数日後。
生徒会からの呼び出しも特になく、アルフェンたち(メル含む)は通常授業、そして訓練を行っていた。
変わったことと言えば、訓練をのぞき見する連中が増えたことだ。さらに、フェニアたちなどが購買に行くと、B級の連中が声を掛けてくるようになった。
内容は同じ。『S級ってどんなところ?』や『S級に入りたい』などだ。
フェニアは『A級になってからね』と言ってはぐらかしたり、ウィルに話しかけて殺されそうになった奴もいたり、鬱陶しいことも増えた。
アルフェンは、授業の休み時間にオレンジジュースを飲みながらウィルに言う。
「最初は馬鹿にしてたのに、今じゃ『どうやったらS級になれる?』だとさ」
「フン。馬鹿の相手なんかしてる暇はねぇよ。それより……模擬戦、まだか? けっこうストレス溜まってるんでな、憂さ晴らししてぇんだよ」
「お前、ホントに殺すなよ……?」
「フン……『色欲』も現れず、カード勝負は負けっぱなし、イライラだってする」
「カード勝負はお前が弱いだけだろ」
「うるさい」
すると、アネルが混ざる。
「はぁ……模擬戦、やりたくないなぁ」
「お前、まだそんなこと言ってんのかよ」
「だってぇ……アタシ、ウィルみたいに戦い好きじゃないし」
「フン、お前は強いんだ。自信持てよ」
「ん……」
ウィルとアネル。
なかなか相性がいいのか、ウィルもアネルによくアドバイスをしている。
アルフェンは二人を交互に見て、なんとなく笑った。
「なぁ、模擬戦に向けて連携訓練しようぜ」
「いらねーよ。お前とアネルが派手に暴れる、オレが撃ちまくる。それでいい」
「簡単っ……ねぇアルフェン、それでいいの?」
「んー……まぁ、いいかな。ダモクレス先生とヴィーナス先生を同時に相手して一本取れるまで、そのがむしゃら作戦でやってみるか」
「うぅ……殴られると痛いんだよね」
三人の『寄生型』は、どこか楽し気だった。
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さらに数日後。
授業、訓練が終わり放課後。寮に戻って夕食を終え、夕食後のお茶を飲んでいるとメルが言った。
「模擬戦の日程、さっき決まったから」
いきなりだった。
授業中も普通だった。放課後どこかに出かけたようだが。
すると、ウィルが紅茶のカップを置いて笑う。
「ようやくか」
「ええ。三対十の模擬戦ね。アルフェン対A級四人、ウィル対A級三人、アネル対A級三人の模擬戦よ。場所はB級演習場、試合当日は『塔』のグレイ教授が演習場を保護するから、全力で暴れていいってさ」
「待った待った待った!! 三対一!? あ、アタシのことなんだと思ってんの!?」
アネルが慌てたが、メルはあっさり言う。
「アネル、自信持ちなさい。あんたは強い。いいかげん自分を弱く思うのはやめなさい」
「で、でも……」
「戦えばわかる。あんたは強いわよ」
「う……」
「それとアルフェン。あんたの相手だけど」
「…………」
なんとなく、予感はしていた。
アルフェンの表情で察したのか、メルはうんと頷く。
「相手は、A級召喚士リリーシャ、お兄様ことサンバルト、教師オズワルド、そしてB級召喚士ダオームよ。完膚なきまで叩きのめしなさい」
「ああ。そろそろ思い知らせてやる……」
アルフェンは、不敵な笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
時間は少し巻き戻る。
メルは一人、生徒会室に向かい、数枚の書類を生徒会長リリーシャの机に置く。
リリーシャはそれを掴み、眺め……眉をぴくっと上げた。
そして、メルを見る。
「王女殿下。これはどういうことでしょうか?」
「そのままの意味よ。S級召喚士と生徒会の模擬戦内容について」
「……これには、四対一、三対一、三対一となっています。それに王子殿下もご参加なさると……?」
「止めたんですけどねー……はぁ、お兄様、あなたのために戦いたいそうです」
「…………」
リリーシャはため息を吐いた。
メルはそれを見逃さない。
「あれ? 嫌でした? ふむふむ、リリーシャさんとお兄様はけっこういい雰囲気だって噂なんですけど、どうやら違ったみたいですねー」
「……そういうわけではありません。このような催し物に、王子殿下がご参加なさるなんて」
「あはは。まぁいいじゃないですか。お兄様、リリーシャさんが大好きみたいですし、いいところを見せてポイント稼ごうとしてるみたいですよ?」
「…………」
「それと、気になるのはそこじゃないですよね?」
「ええ……三対十、ということですね?」
「そうです。正直、実力差を考えると一対十でもいいんですけど……さすがにそれじゃ取材の記者さんたちもつまらないでしょうし」
「…………我らが負けると?」
「はい♪」
メルは迷いもせず断言した。
リリーシャはメルが気に入らない。というか、敵意すら感じていた。
メルは用が済んだとばかりに退室しようとする。その前に、リリーシャに向かって言う。
「あの、S級召喚士に敵意とか持つの勝手ですけど、あなたたちじゃ絶対に勝てませんよ」
「……ほう、なぜでしょうか?」
メルは、なんの感情も込めずに言う。
「だってあなたたち、何の成果も出してないじゃないですか」
「…………」
「S級召喚士はすでに三人の魔人を討伐しています。これだけでS級召喚士の強さは知ってもらえると思います。それに対して生徒会の皆さん、いままで何かやりました? 魔獣討伐くらいですよね?」
「…………」
「ま、せっかくの機会なので。これを機にA級召喚士はS級召喚士への通過点だと国民に証明してみせましょう。いずれはS級召喚士がこの国最強の戦力として、これから生まれてくる子供たちの目標になればと考えてますので」
「王女殿下。あなたはA級召喚士でありながらS級召喚士を認めると?」
「当然じゃないですか。っていうかわたし、等級至上主義者じゃありませんし、AだのSだのどうでもいいと思ってます」
「…………」
「ま、不貞腐れたような状態で戦ってもらっても困るんで。あなたたち生徒会がS級に勝てば、どんな望みでもかなえてあげましょう。では」
そう言って、メルは退室した。
残されたリリーシャは、メルが置いていった模擬戦の要項を握りつぶした。
◇◇◇◇◇◇
リリーシャは生徒会役員を集め、オズワルドとサンバルトを呼び要項を確認する。
サンバルトは、ため息を吐いた。
「メル、いつの間にこんなものを……全く」
サンバルトは、妹メルが模擬戦の計画を通したことを知らなかった。
『リリーシャのために戦う』とは言ったが、まさか実の妹がこのように手をまわしていたとは。サンバルトは苦笑した。
「まぁいい。リリーシャ、私も戦おう」
「……ありがとうございます」
たったこれだけでわかった。
サンバルトは、妹の動向すら掴めない無能だと。
だが、戦闘力だけは期待できる。
生徒会役員、そしてオズワルドにリリーシャは言う。
「要項によると、生徒会十名、S級三名で戦うことになっている。相手は全員が『寄生型』だ。だが……この学園に入学して研鑽を積んできたお前たちが負けるとは思わない。それに、こちらにはサンバルト殿下、オズワルド先生、そして私がいる……負けることはない」
早くもリリーシャは自身の力を過信する。
だが、それを指摘する者は誰もいない。
「場所はB級演習場。会場の保護を『塔』のグレイ教授が、救護班に『死神』のリッパー医師が付く。本気を出しても問題ない」
最強の二十一人の召喚士が二人も付く。
グレイ教授は『守り』に特化した『王国最硬』の召喚獣『オリハルコン』を持ち、救護班にいるリッパー医師は『死神に嫌われた医師』という異名を持つ王国最高の医師だ。ただし治療に法外な値段を吹っ掛けるという話もある。
「決戦は三日後。報酬は……S級の廃止、は恐らく不可能だ。ならば国外追放処分……これしかない。みんな、勝利の報酬はこれでいいだろうか」
リリーシャの問いに、誰も反対しない。
もはやS級を廃止するのは不可能。ならばこのアースガルズ王国から離れた僻地に飛ばす。
それがA級召喚士たちの決定だった。
「勝つぞ。そして……我々生徒会、そしてA級召喚士こそ最上だと認めさせるのだ」
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