召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第一章

召喚士学園の教師

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 アースガルズ召喚学園の教師たちは、職員室に集合し定例会議を開いていた。
 生徒の数は二千を超える。なので、教師の数も百人以上いる。
 各クラス、各学年、各等級を担当する教師が、生徒の成長具合や要注意生徒の情報を話し、共有する。教師たちは有望な生徒を重点的に指導し、立派な召喚士にするのが務めなのだ。

 報告もほぼ終わった。
 教師のトップである学園長のメテオールは、長い顎髭を弄りながら言う。

『今年度も優秀な生徒ばかり。豊作豊作、いいことじゃ』

 メテオールは座ったまま言う。
 声が広い職員室全体に響き渡り、嬉しそうであることが教師全員に伝わった。
 メテオールは、A級召喚士最強の二十一人の一人で、特A級の召喚士である。
 この学園にとどまらず、アースガルズ王国でもその地位は高い。
 ふと、メテオールは呟く。

『教師諸君……魔人の存在が報告された』

 一瞬だけ静まり返り───すぐに、ドヨドヨと騒がしくなる。
 魔人。世界を滅ぼしかけた最悪の召喚士である『魔帝』が残した意志と知恵を持つ召喚獣。

『現在確認されている個体は七名。そのうちの一体である『暴食』である可能性が高い……教師諸君、まだ生徒たちに知らせるわけにはいかん。今まで以上に、周囲を警戒しておいてくれ』

 魔人は、魔帝封印後に七体確認されている。
 そのうちの一体である『暴食ぼうしょく』は、魔人の中でも活発で、町や村などをよく襲う。過去に、A級召喚士三十名で討伐隊を結成したが、生き残ったのはわずか四人、『暴食』に手傷を負わせたが討伐には至らなかった。
 それほどまで、魔人という存在は凶悪だ。

『……もし、周辺に魔人の存在を察知したらすぐに知らせてくれ。よいな』

 メテオールは、重々しく呟いた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「アルフェン、メシ行こうぜっ!」
「おう。今日のメニューは?」
「肉なしシチュー……ふざけてるよなぁ」

 アルフェンは、ラッツと一緒に寮へ向かっていた。
 入学して二か月。今の生活にもすっかり慣れていた。
 ここにはいないハウルとマーロンは今日の食事係で、今頃は寮でお昼の支度をしているだろう。
 F級の生徒は、学食の利用を許可されていないのだから仕方ない。

「あの、わたしも一緒に……」
「ああ、ラビィも一緒に行くか。今日は肉なしシチューだってさ」

 アルフェンは、ちょこちょこ近寄ってきたラビィと並んで歩く。
 そして、その後ろにもう一人。

「私も行くわ。さ、早く行くわよ」
「おいおい、急に出てくんなよ」
「うるさいわね。ラッツ、シャツが出ているわよ。ズボンにしまいなさい」
「うるっせぇなぁ……」

 ラッツとレイチェルだ。
 この二人、あまり仲がよろしくない。アルフェンとラビィは二人をなだめ、寮へ向かう。
 寮では、すでに食事の支度が終わっていた。

「遅いぜ。さっさと座んな」
「今日、ボクが味付けしたんだ」

 手際のいいハウルと、料理が上手いマーロンだ。
 残りの生徒たちもゾロゾロと入ってきて、すぐに食事が始まった。
 野菜しかないシチュー、硬いパン、サラダのみの食事だ。だが、仲間たちと食べる食事はとても美味しいと感じているアルフェンだった。

「はぁ~……肉食いてぇなぁ」
「ラッツ、ないものねだりすんなよ。なぁアルフェン」
「だな。野菜だけでも食えるぞ」
「育ち盛りだから肉が必要なんだよ! 肉肉にくぅ!」
「そこうるさい! 静かに食べなさい!」
「やかましい! おめーも肉食いたいだろ? なぁレイチェルよぉ!」
「ないものねだりしても意味ないでしょ! 等級を上げれば学食の利用ができるようになるから、その時に死ぬほど食べればいいわ!」
「あ、そっか」
「納得しちまったよ……マーロン、ハウル、こいつはバカだよな」
「あ、あはは」
「知ってるっつの」

 ギャーギャー騒ぐラッツとレイチェルをラビィが宥め、それを見て笑うクラスの仲間。アルフェン、ハウル、マーロンも笑い、クラスの食事は賑やかに過ぎていった。
 たとえF級だろうと、アルフェンはとても楽しかった。
 食事が終わり、午後の授業も終わり……アルフェンは、寮に戻ろうと教室を出た。
 教室を出て、中庭を通ってF級の寮へ向かう途中。

「……あ」

 出会ってしまった。
 中庭の中央をまっすぐ歩いてくる集団がいた。
 アルフェンは立ち止まり、道を譲る。

「…………」

 その中心にいるのは、アルフェンの実の姉であるリリーシャだった。
 右には兄のダオーム、反対側には長い黒髪の生徒、背後には兄のキリアスがいる。
 そして、姉に付き従うように十人ほどの生徒が付いていた。

「…………ぁ」

 そのうちの一人は、フェニアだった。
 以前、アルフェンを貶したグリッツもいる。
 アルフェンを見て薄く微笑み、フェニアの背中にそっと手を添えて歩いていた。

「…………っ」

 少しだけ、アルフェンの胸が痛む……でも、自分みたいなF級より、グリッツのような優秀な生徒のがフェニアには似合っている……そう、無理やり納得した。
 アルフェンは、姉のリリーシャを見たが……リリーシャは、アルフェンを見ようともしなかった。兄のダオームも同様で、キリアスだけがアルフェンを見て舌打ちした。
 そして、フェニアがアルフェンを見て……そっと目を反らした。

「ごめんね……」

 ポツリと、そう呟いたのを聞き、アルフェンは小さくため息を吐いた。

 ◇◇◇◇◇◇

 夜。
 アルフェンはベッドの中でモグを召喚し、小声で話しかけた。

「なぁ、姉上ってさ……俺が弟ってこと忘れてるのかな」
『もぐ……』
「ま、いいけどな。正直、あんなおっかない人と関わりたくないし。早く卒業して、お前といっしょに外の国で暮らしたいぜ」
『もぐ……』
「……なんだ? 最近ちょっとおかしいぞ?」
『もぐ、もぐ!』
「……?」

 モグは、パタパタと暴れた。
 そして、アルフェンをじっと見て言う。

『もぐ!』
「……いや、わからん」
『もぐ~……』
「…………」

 本当は、わかっていた。
 モグは、『それでいいのか』と言っている。
 アルフェンは言う。

「これでいいんだ。いい仲間たちに恵まれて、けっこう楽しくやってるんだ。このまま卒業まで、当たり障りなく楽しんでやるよ」
『…………』

 モグは、なぜか申し訳なさそうに俯いてしまった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。

「ここがアースガルズ召喚学園かぁ……くんくん、いい匂いすんじゃん!」

 上空に、アベルが浮かんでいた。
 にんまりと笑い、召喚学園を見下ろして笑っている。

「このまま行ってもつまんねーかなぁ……よし! エサが起きるまでオレも寝よっと!」

 そう言って、アベルは空中で器用に横になり、寝息を立て始めた。
 魔人アベル。
 七人存在する魔人の一体で、『暴食』の魔人と呼ばれ恐れられる存在。
 そんな最悪の召喚獣が、召喚学園の上空で寝息を立てていた。
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