10 / 178
第一章
入学前の夜
しおりを挟む
採寸の翌日、制服が届いた。
木箱に男女混合で一纏めにして寮の玄関に置かれていた。いくらなんでも扱いがぞんざいすぎるとラッツが怒ったが、アルフェンは特に気にしていなかった。
アルフェンはマーロンと木箱を食堂内に運び、蓋を開ける。
いつの間にか寮生が揃っていた。アルフェンが名前を呼び、一人ずつ制服を渡す。
「ほれ、ラッツ」
「おう。ちくしょう、どこまでも馬鹿にしやがって……」
「ハウル」
「ああ、ありがとな」
「マーロン」
「あ、ありがと……」
男子はけっこう怒っていたが、女子はそれほどでもない。
布に包まれているとは言え、女子の制服に触れることにやや抵抗があった。だが、特に女子が前に出て配るということはなかったので、アルフェンが渡す。
何人か女子の制服を渡し、次の女子へ。
「えーと、ミリッツさん」
「ん、どーも。リグヴェータ家の三男さん」
「……」
「あら、気に障った? ごめんなさいね」
ミリッツ。なぜか彼女はアルフェンがリグヴェータ家と知ると嫌味なことを言う。
特に気にならないが、いい気はしない。なので無視した。
「次は……ラビィ」
「あ、はい……ありがとう」
おっとりとした女の子であるラビィは、柔らかな笑みをアルフェンへ向けた。
その笑みが可愛らしく、ついつい目を反らすアルフェン。
制服を配り終え、最後に残った制服を取る。
そこには、『アルフェン・リグヴェータ』と名前が書かれていた。
「えーっと、入学式は明日だ。大講堂でやるから、飯食ったら行こうぜ。朝飯係、明日は早く起きていっぱい作れよ!」
と、なぜかラッツが仕切る。
ちなみに、食事係はマーロンと女子数名。意外なことに美味い料理が出てきた。
◇◇◇◇◇◇
夕飯、入浴を終え部屋に戻ってきた。
ラッツは同級生の部屋に遊びに行き、マーロンは朝食の仕込みをしている。
なので、部屋にはアルフェンとハウルだけだ。
ハウルは、壁にかけた制服を見て、アルフェンに言う。
「見ろよ。どこまでも小馬鹿にしたデザインだ」
「……だな。ここまではっきりされると、逆に笑えるぜ」
「違いない」
ハウルはくくっと笑う。
制服と一体化している腕章に『F』と刺繍されていた。
これはF級召喚士であり、この学園では最底辺を意味する。ハウルは制服をベッドに放り、アルフェンに言う。
「なぁアルフェン……お前の召喚獣見せてくれよ」
「いいけど……」
アルフェンは手のひらに小さなモグラを呼び出す。
『もぐ!』
「へぇ、モグラかよ……ちっこいな」
「成長するのかと思いきや、かれこれ十五年このままだ」
「じゃ、オレも」
ハウルの肩に、小さな文鳥が止まった。
「こいつはボイス。能力は『甲高い声で鳴くことができる』だ。キーキーやかましいだけの、使えない能力……ああ、目覚まし代わりにはなるな」
「俺も似たようなもんだ。穴掘って地面を固める能力……はは」
互いに苦笑した。
モグはアルフェンの傍でコロコロ転がり、ぐでんと身体を伸ばす。
「はぁ……学園、さっさと卒業したいな」
「ああ。ハウル、卒業したらどうすんだ?」
「なんだよ。入学もしてないのに」
「なんとなく。俺はリグヴェータ領を出て、静かなところで畑を耕したいぜ」
「……お前、枯れてるな」
「は、はぁ!?」
これには、アルフェンも反論できなかった。
入学式は、もう明日。新生活の始まりが迫っていた。
木箱に男女混合で一纏めにして寮の玄関に置かれていた。いくらなんでも扱いがぞんざいすぎるとラッツが怒ったが、アルフェンは特に気にしていなかった。
アルフェンはマーロンと木箱を食堂内に運び、蓋を開ける。
いつの間にか寮生が揃っていた。アルフェンが名前を呼び、一人ずつ制服を渡す。
「ほれ、ラッツ」
「おう。ちくしょう、どこまでも馬鹿にしやがって……」
「ハウル」
「ああ、ありがとな」
「マーロン」
「あ、ありがと……」
男子はけっこう怒っていたが、女子はそれほどでもない。
布に包まれているとは言え、女子の制服に触れることにやや抵抗があった。だが、特に女子が前に出て配るということはなかったので、アルフェンが渡す。
何人か女子の制服を渡し、次の女子へ。
「えーと、ミリッツさん」
「ん、どーも。リグヴェータ家の三男さん」
「……」
「あら、気に障った? ごめんなさいね」
ミリッツ。なぜか彼女はアルフェンがリグヴェータ家と知ると嫌味なことを言う。
特に気にならないが、いい気はしない。なので無視した。
「次は……ラビィ」
「あ、はい……ありがとう」
おっとりとした女の子であるラビィは、柔らかな笑みをアルフェンへ向けた。
その笑みが可愛らしく、ついつい目を反らすアルフェン。
制服を配り終え、最後に残った制服を取る。
そこには、『アルフェン・リグヴェータ』と名前が書かれていた。
「えーっと、入学式は明日だ。大講堂でやるから、飯食ったら行こうぜ。朝飯係、明日は早く起きていっぱい作れよ!」
と、なぜかラッツが仕切る。
ちなみに、食事係はマーロンと女子数名。意外なことに美味い料理が出てきた。
◇◇◇◇◇◇
夕飯、入浴を終え部屋に戻ってきた。
ラッツは同級生の部屋に遊びに行き、マーロンは朝食の仕込みをしている。
なので、部屋にはアルフェンとハウルだけだ。
ハウルは、壁にかけた制服を見て、アルフェンに言う。
「見ろよ。どこまでも小馬鹿にしたデザインだ」
「……だな。ここまではっきりされると、逆に笑えるぜ」
「違いない」
ハウルはくくっと笑う。
制服と一体化している腕章に『F』と刺繍されていた。
これはF級召喚士であり、この学園では最底辺を意味する。ハウルは制服をベッドに放り、アルフェンに言う。
「なぁアルフェン……お前の召喚獣見せてくれよ」
「いいけど……」
アルフェンは手のひらに小さなモグラを呼び出す。
『もぐ!』
「へぇ、モグラかよ……ちっこいな」
「成長するのかと思いきや、かれこれ十五年このままだ」
「じゃ、オレも」
ハウルの肩に、小さな文鳥が止まった。
「こいつはボイス。能力は『甲高い声で鳴くことができる』だ。キーキーやかましいだけの、使えない能力……ああ、目覚まし代わりにはなるな」
「俺も似たようなもんだ。穴掘って地面を固める能力……はは」
互いに苦笑した。
モグはアルフェンの傍でコロコロ転がり、ぐでんと身体を伸ばす。
「はぁ……学園、さっさと卒業したいな」
「ああ。ハウル、卒業したらどうすんだ?」
「なんだよ。入学もしてないのに」
「なんとなく。俺はリグヴェータ領を出て、静かなところで畑を耕したいぜ」
「……お前、枯れてるな」
「は、はぁ!?」
これには、アルフェンも反論できなかった。
入学式は、もう明日。新生活の始まりが迫っていた。
142
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる