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第六章 蓬雷の国アムルタート
和の文化
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これまでいくつか国境の町に泊ったが、町の構造はだいだい同じ。
半分ずつ、二か国の文化で構成された感じ。俺とエルサはアムルタート王国側の宿を取ったので、和の文化が色濃く出ているんだろうな。
町を歩いて思った。
「……時代劇のセットみたい」
「え?」
「あ、いやこっちのセリフ」
江戸時代っぽい。やや西洋文明の混じった江戸時代。
建物は全て木造だが、二階建てが多く、屋根は瓦のところもあれば茅葺屋根もある。
道行く人たちは、みんな和服だ。
マジで時代劇みたいな和服。こうも日本的な和服を見ると、過去に俺みたいな転生者がいて、和の文化を教えたんじゃないかと疑ってしまう。
服は和を感じるが、髪型は普通の人だ。ちょんまげとか微妙に期待したけど……まあ、いないか。
「不思議ですねえ~」
「ああ。なんか落ち着く」
「あ、レクス。あの木……すっごく綺麗です」
エルサが指差す方を見ると……なんと、桜の木があった。
綺麗な桜が咲き、花弁が舞っている。すげえ光景だ。
「桜の木か……」
「サクラ? レクス、知ってるんですか?」
「ああ。ちょっとな……」
すると、そよ風が吹き、花弁が舞った。
「わぁ……綺麗」
「…………」
『……きゅい?』
ムサシが俺の肩で、俺の耳を噛む。
やべ……なんか、日本の故郷を思いだして泣きそうだ。
帰りたいとか、両親に会いたいとか……それに、ドラグネイズ公爵家で、俺を産んでくれた母親にも会いたいと思ってしまう。
「……レクス」
「あ……す、すまん。っと……エルサ?」
俺が悲しい顔をしているのを、エルサに見られていた。
そして、俺の手を掴んで強く握る。
「悲しいことがあるなら、相談してくださいね。わたし……レクスの恋人なんですから」
「……うん。ありがとう、エルサ」
きっと、俺とエルサはこれからもずっと一緒だ。
いつか……俺がこの世界じゃない、別の世界の記憶を持つと説明する日が来るだろうか。そして、信じてもらえるだろうか。
俺は、エルサの手を握り、一緒に桜の木を眺めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、感動や悲しみもあるが、旅の支度はしっかりする。
ファウードさんのおかげで、旅の資金は潤沢だ。
「旅の支度……ってか、買うのないな」
「食材もあるし、薪もありますし……」
ウォフマナフ王国で野営は数えるほどしかしていないし、保存のきく食材も豊富にある。
買い物終了……まあ、無理して買う必要はない。
「アムルタート王国産のがいろいろあるけど、せっかくだし現地で買いたいしな」
「はい。あの、ざぶとんでしたっけ……欲しいかもです」
「俺、茶器とか湯呑ほしい」
アムルタート王国で買うことを決意。
この日は、買い物をして過ごしつつ、アムルタート王国の情勢を調べてみることにした。
そして、冒険者ギルドに向かい、建物に入った時だった。
「あら」
「「……え」」
見覚えのある人と、バッタリ出会った。
「み……ミュランさん!!」
「レクス、エルサじゃない。随分と久しぶりね」
B級の冒険者で、俺とエルサに冒険者についていろいろ教えてくれた女性だ。
最後に会ったのはハルワタート王国で、バカンスの最中だったはず。
俺は質問した。
「あれ、ハルワタート王国でバカンスだったんじゃ」
「あはは。バカンスは終わり。今はお仕事で、これからリューグベルン帝国に行くの。アムルタート王国を突っ切って行くのよ」
「あー……そうなんですか」
俺、エルサを見て、ミュランさんはクスっと微笑む。
「ずいぶん、いろいろなモノを見てきたようね。二人とも、大きく見えるわよ」
「い、いえ……わたしたち、観光メインで、冒険者活動はぜんぜんなので……」
エルサが恥ずかしそうに言うと、ミュランさんがエルサをそっと撫でる。
「……エルサ。レクスと恋人になったの?」
「え……」
「ふふ。大人の女はわかるの。おめでとう」
「あ、ありがとうございます……えへへ」
エルサは恥ずかしそうだが、嬉しそうだった。
よくわからんが、何も言わない方がいい気がした。と……せっかくだ、聞いてみるか。
「あの、ミュランさん。俺たち、アムルタート王国に行くんですけど……何かヤバいこととかあります?」
「あ~……」
ミュランさんは、なんだか言いにくそうに頬を指で掻く。
「実は、アムルタート王国の『武士』が、リューグベルン帝国と少し揉めててね……半鎖国状態というか、今は厳しい入国審査を行っているのよ」
「「……え」」
「なんでも、魔竜とかいう魔獣討伐に世界各国が協力するんだけど、アムルタート王国はその話を断ったの。それで、リューグベルン帝国と険悪になっちゃってねえ……武士たちは怒りや苛立ちを国民にぶつけるし、本当に嫌になっちゃう」
「うへえ……会いたくない」
「レクスくん。行くなら、武士には気を付けてね。お姉さんからアドバイス……挑まれたらお金を払って逃げるか、コテンパンにしちゃうかの二択ね」
「え? 賄賂か、倒すか?」
「うん、武士は誇り高き武人だから、敗北は許されないの。実際に、A級冒険者並みに強いのもいるし、威張るだけの雑魚も多い」
「あの、なんで戦いを挑むんです?」
「武士だから。よくわからないけど、挑まれた戦いは必ず受け、売った喧嘩は必ず勝たなきゃいけないみたい。負けたら武士の地位を剥奪されちゃうみたいだし」
そ、そんなんで剝奪……マジか。
でもまあ、戦って勝てばいいのか。ムサシもいるし、何とかなるか。
「さて。せっかくの再会だし、お姉さんが食事を奢ってあげる」
「「あ、ありがとうございます」」
とりあえず……ミュランさんに、もっといろいろ聞いてみるかな。
半分ずつ、二か国の文化で構成された感じ。俺とエルサはアムルタート王国側の宿を取ったので、和の文化が色濃く出ているんだろうな。
町を歩いて思った。
「……時代劇のセットみたい」
「え?」
「あ、いやこっちのセリフ」
江戸時代っぽい。やや西洋文明の混じった江戸時代。
建物は全て木造だが、二階建てが多く、屋根は瓦のところもあれば茅葺屋根もある。
道行く人たちは、みんな和服だ。
マジで時代劇みたいな和服。こうも日本的な和服を見ると、過去に俺みたいな転生者がいて、和の文化を教えたんじゃないかと疑ってしまう。
服は和を感じるが、髪型は普通の人だ。ちょんまげとか微妙に期待したけど……まあ、いないか。
「不思議ですねえ~」
「ああ。なんか落ち着く」
「あ、レクス。あの木……すっごく綺麗です」
エルサが指差す方を見ると……なんと、桜の木があった。
綺麗な桜が咲き、花弁が舞っている。すげえ光景だ。
「桜の木か……」
「サクラ? レクス、知ってるんですか?」
「ああ。ちょっとな……」
すると、そよ風が吹き、花弁が舞った。
「わぁ……綺麗」
「…………」
『……きゅい?』
ムサシが俺の肩で、俺の耳を噛む。
やべ……なんか、日本の故郷を思いだして泣きそうだ。
帰りたいとか、両親に会いたいとか……それに、ドラグネイズ公爵家で、俺を産んでくれた母親にも会いたいと思ってしまう。
「……レクス」
「あ……す、すまん。っと……エルサ?」
俺が悲しい顔をしているのを、エルサに見られていた。
そして、俺の手を掴んで強く握る。
「悲しいことがあるなら、相談してくださいね。わたし……レクスの恋人なんですから」
「……うん。ありがとう、エルサ」
きっと、俺とエルサはこれからもずっと一緒だ。
いつか……俺がこの世界じゃない、別の世界の記憶を持つと説明する日が来るだろうか。そして、信じてもらえるだろうか。
俺は、エルサの手を握り、一緒に桜の木を眺めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、感動や悲しみもあるが、旅の支度はしっかりする。
ファウードさんのおかげで、旅の資金は潤沢だ。
「旅の支度……ってか、買うのないな」
「食材もあるし、薪もありますし……」
ウォフマナフ王国で野営は数えるほどしかしていないし、保存のきく食材も豊富にある。
買い物終了……まあ、無理して買う必要はない。
「アムルタート王国産のがいろいろあるけど、せっかくだし現地で買いたいしな」
「はい。あの、ざぶとんでしたっけ……欲しいかもです」
「俺、茶器とか湯呑ほしい」
アムルタート王国で買うことを決意。
この日は、買い物をして過ごしつつ、アムルタート王国の情勢を調べてみることにした。
そして、冒険者ギルドに向かい、建物に入った時だった。
「あら」
「「……え」」
見覚えのある人と、バッタリ出会った。
「み……ミュランさん!!」
「レクス、エルサじゃない。随分と久しぶりね」
B級の冒険者で、俺とエルサに冒険者についていろいろ教えてくれた女性だ。
最後に会ったのはハルワタート王国で、バカンスの最中だったはず。
俺は質問した。
「あれ、ハルワタート王国でバカンスだったんじゃ」
「あはは。バカンスは終わり。今はお仕事で、これからリューグベルン帝国に行くの。アムルタート王国を突っ切って行くのよ」
「あー……そうなんですか」
俺、エルサを見て、ミュランさんはクスっと微笑む。
「ずいぶん、いろいろなモノを見てきたようね。二人とも、大きく見えるわよ」
「い、いえ……わたしたち、観光メインで、冒険者活動はぜんぜんなので……」
エルサが恥ずかしそうに言うと、ミュランさんがエルサをそっと撫でる。
「……エルサ。レクスと恋人になったの?」
「え……」
「ふふ。大人の女はわかるの。おめでとう」
「あ、ありがとうございます……えへへ」
エルサは恥ずかしそうだが、嬉しそうだった。
よくわからんが、何も言わない方がいい気がした。と……せっかくだ、聞いてみるか。
「あの、ミュランさん。俺たち、アムルタート王国に行くんですけど……何かヤバいこととかあります?」
「あ~……」
ミュランさんは、なんだか言いにくそうに頬を指で掻く。
「実は、アムルタート王国の『武士』が、リューグベルン帝国と少し揉めててね……半鎖国状態というか、今は厳しい入国審査を行っているのよ」
「「……え」」
「なんでも、魔竜とかいう魔獣討伐に世界各国が協力するんだけど、アムルタート王国はその話を断ったの。それで、リューグベルン帝国と険悪になっちゃってねえ……武士たちは怒りや苛立ちを国民にぶつけるし、本当に嫌になっちゃう」
「うへえ……会いたくない」
「レクスくん。行くなら、武士には気を付けてね。お姉さんからアドバイス……挑まれたらお金を払って逃げるか、コテンパンにしちゃうかの二択ね」
「え? 賄賂か、倒すか?」
「うん、武士は誇り高き武人だから、敗北は許されないの。実際に、A級冒険者並みに強いのもいるし、威張るだけの雑魚も多い」
「あの、なんで戦いを挑むんです?」
「武士だから。よくわからないけど、挑まれた戦いは必ず受け、売った喧嘩は必ず勝たなきゃいけないみたい。負けたら武士の地位を剥奪されちゃうみたいだし」
そ、そんなんで剝奪……マジか。
でもまあ、戦って勝てばいいのか。ムサシもいるし、何とかなるか。
「さて。せっかくの再会だし、お姉さんが食事を奢ってあげる」
「「あ、ありがとうございます」」
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