手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

文字の大きさ
上 下
125 / 129
第六章 蓬雷の国アムルタート

和の文化

しおりを挟む
 これまでいくつか国境の町に泊ったが、町の構造はだいだい同じ。
 半分ずつ、二か国の文化で構成された感じ。俺とエルサはアムルタート王国側の宿を取ったので、和の文化が色濃く出ているんだろうな。
 町を歩いて思った。

「……時代劇のセットみたい」
「え?」
「あ、いやこっちのセリフ」

 江戸時代っぽい。やや西洋文明の混じった江戸時代。
 建物は全て木造だが、二階建てが多く、屋根は瓦のところもあれば茅葺屋根もある。
 道行く人たちは、みんな和服だ。
 マジで時代劇みたいな和服。こうも日本的な和服を見ると、過去に俺みたいな転生者がいて、和の文化を教えたんじゃないかと疑ってしまう。
 服は和を感じるが、髪型は普通の人だ。ちょんまげとか微妙に期待したけど……まあ、いないか。

「不思議ですねえ~」
「ああ。なんか落ち着く」
「あ、レクス。あの木……すっごく綺麗です」

 エルサが指差す方を見ると……なんと、桜の木があった。
 綺麗な桜が咲き、花弁が舞っている。すげえ光景だ。

「桜の木か……」
「サクラ? レクス、知ってるんですか?」
「ああ。ちょっとな……」

 すると、そよ風が吹き、花弁が舞った。

「わぁ……綺麗」
「…………」
『……きゅい?』

 ムサシが俺の肩で、俺の耳を噛む。
 やべ……なんか、日本の故郷を思いだして泣きそうだ。
 帰りたいとか、両親に会いたいとか……それに、ドラグネイズ公爵家で、俺を産んでくれた母親にも会いたいと思ってしまう。

「……レクス」
「あ……す、すまん。っと……エルサ?」

 俺が悲しい顔をしているのを、エルサに見られていた。
 そして、俺の手を掴んで強く握る。

「悲しいことがあるなら、相談してくださいね。わたし……レクスの恋人なんですから」
「……うん。ありがとう、エルサ」

 きっと、俺とエルサはこれからもずっと一緒だ。
 いつか……俺がこの世界じゃない、別の世界の記憶を持つと説明する日が来るだろうか。そして、信じてもらえるだろうか。
 俺は、エルサの手を握り、一緒に桜の木を眺めるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、感動や悲しみもあるが、旅の支度はしっかりする。
 ファウードさんのおかげで、旅の資金は潤沢だ。

「旅の支度……ってか、買うのないな」
「食材もあるし、薪もありますし……」

 ウォフマナフ王国で野営は数えるほどしかしていないし、保存のきく食材も豊富にある。
 買い物終了……まあ、無理して買う必要はない。

「アムルタート王国産のがいろいろあるけど、せっかくだし現地で買いたいしな」
「はい。あの、ざぶとんでしたっけ……欲しいかもです」
「俺、茶器とか湯呑ほしい」

 アムルタート王国で買うことを決意。
 この日は、買い物をして過ごしつつ、アムルタート王国の情勢を調べてみることにした。
 そして、冒険者ギルドに向かい、建物に入った時だった。

「あら」
「「……え」」

 見覚えのある人と、バッタリ出会った。

「み……ミュランさん!!」
「レクス、エルサじゃない。随分と久しぶりね」

 B級の冒険者で、俺とエルサに冒険者についていろいろ教えてくれた女性だ。
 最後に会ったのはハルワタート王国で、バカンスの最中だったはず。
 俺は質問した。

「あれ、ハルワタート王国でバカンスだったんじゃ」
「あはは。バカンスは終わり。今はお仕事で、これからリューグベルン帝国に行くの。アムルタート王国を突っ切って行くのよ」
「あー……そうなんですか」

 俺、エルサを見て、ミュランさんはクスっと微笑む。

「ずいぶん、いろいろなモノを見てきたようね。二人とも、大きく見えるわよ」
「い、いえ……わたしたち、観光メインで、冒険者活動はぜんぜんなので……」

 エルサが恥ずかしそうに言うと、ミュランさんがエルサをそっと撫でる。

「……エルサ。レクスと恋人になったの?」
「え……」
「ふふ。大人の女はわかるの。おめでとう」
「あ、ありがとうございます……えへへ」

 エルサは恥ずかしそうだが、嬉しそうだった。
 よくわからんが、何も言わない方がいい気がした。と……せっかくだ、聞いてみるか。

「あの、ミュランさん。俺たち、アムルタート王国に行くんですけど……何かヤバいこととかあります?」
「あ~……」

 ミュランさんは、なんだか言いにくそうに頬を指で掻く。

「実は、アムルタート王国の『武士』が、リューグベルン帝国と少し揉めててね……半鎖国状態というか、今は厳しい入国審査を行っているのよ」
「「……え」」
「なんでも、魔竜とかいう魔獣討伐に世界各国が協力するんだけど、アムルタート王国はその話を断ったの。それで、リューグベルン帝国と険悪になっちゃってねえ……武士たちは怒りや苛立ちを国民にぶつけるし、本当に嫌になっちゃう」
「うへえ……会いたくない」
「レクスくん。行くなら、武士には気を付けてね。お姉さんからアドバイス……挑まれたらお金を払って逃げるか、コテンパンにしちゃうかの二択ね」
「え? 賄賂か、倒すか?」
「うん、武士は誇り高き武人だから、敗北は許されないの。実際に、A級冒険者並みに強いのもいるし、威張るだけの雑魚も多い」
「あの、なんで戦いを挑むんです?」
「武士だから。よくわからないけど、挑まれた戦いは必ず受け、売った喧嘩は必ず勝たなきゃいけないみたい。負けたら武士の地位を剥奪されちゃうみたいだし」

 そ、そんなんで剝奪……マジか。
 でもまあ、戦って勝てばいいのか。ムサシもいるし、何とかなるか。

「さて。せっかくの再会だし、お姉さんが食事を奢ってあげる」
「「あ、ありがとうございます」」

 とりあえず……ミュランさんに、もっといろいろ聞いてみるかな。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。