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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

氷華の愛、永遠に

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 さて……その後、どうなったか。
 劇的なプロポーズ成功の後、ファウードさんはイズベルグ様とどこかへ消えた。
 シャルネ曰く、最優秀賞を取ったので王様に報告だとか……その日、ファウードさんが家に帰ってくることはなかった。
 翌日、氷華祭はまだまだ続く。
 エルサもシャルネも、『ファウードさんは大丈夫。今は邪魔しないでおこう』というので、もう気にすることなく氷華祭を満喫することにした。

 氷彫刻以外の芸術作品も満喫する。
 絵画を鑑賞したり、木彫りを見てお土産を買ったり、特別ステージで行われる伝統舞踊を見たり、ウォフマナフの美食を満喫……三日ほど、祭りを満喫した。

 その後、家に戻るとファウードさんが戻っていた。
 
「いやあ……いろいろバタバタしててね。とりあえず、私は一年間、ウォフマナフ王族の専属芸術家となったよ」

 この三日間、いろいろあったらしい。
 イズベルグ様のアトリエで仕事する準備や、結婚に関するアレコレなど。
 結婚式はまだ先の話らしいが、これからは同棲するとかなんとか。
 話を聞き、シャルネが言う。

「あれ? ファウードさん、ニブルヘイム侯爵家に婿入り……ってことですか?」

 そう、イズベルグ様はリューグベルン帝国、ニブルヘイム侯爵家の当主である。
 イズベルグ様と結婚するってことは、婿入りってことだけど。

「それなんだけど……イズが『家のこと、気にしないでいいから』って言って、リューグベルン帝国に戻ってしまったんだ。何やら『片付けしてくる』と言ってたんだけどね……まあ、心配していないよ」
「イズ……って、もう愛称なんですね~」
「おっと。ははは……ちゃ、茶化さないでくれ」

 シャルネがニヤニヤしながら突っ込み、ファウードさんは照れるのだった。

「イズベルグ様、どうするんだろうな。まさか六滅竜を降りるとか……」
「ん~、コキュートスが宿ってる以上、それは無理じゃない? 次の世代に継承するまでは、イズベルグ様が六滅竜のままだと思うけど」
「私は、リューグベルン帝国の方を優先していいとは言ったがね……」

 まあ、イズベルグ様がどうにかするんだろう。六滅竜ってそれだけの権力あるし。
 すると、エルサが言う。

「あの、ファウードさん。同棲するということは、この家に?」
「いや。王城近くにある貴族街に、屋敷を買うことにしたんだ。この家は準備が終わり次第、売りに出すよ」
「なるほど。ふふ、新居ですね」
「ははは……もちろん、アトリエ付きだ」

 共同のアトリエになるんだろう。一緒に絵を描いたり、氷彫刻を作っている姿が浮かんだ。
 俺たちが笑い合っていると、ファウードさんが姿勢を正す。

「レクスくん、エルサさん、シャルネさん。きみたちには、感謝してもしきれない恩ができた。本当に、ありがとう……!!」

 頭を下げるファウードさん。
 俺は思ったことを言う。

「俺も、感謝しています。ファウードさんのおかげで、ウォフマナフ王国の旅は本当に面白かったです。いろんな芸術に出会えて、楽しい思い出ができました。な、ムサシ」
『きゅるる!!』

 ムサシを召喚すると、俺の肩に乗ってウンウン頷く。
 エルサも、コロンちゃんを召喚し抱っこした。

「わたしも、すごく楽しかったです。ファウードさんの愛の形を見て、本当に素敵だと思いました」
『もぁぁ~』

 シャルネは軽く肩を竦める。

「あたしは、旅をしたわけじゃないし、何かしたわけじゃないけど……でも、純愛の形、見せてもらいました。ありがとうございました!!」

 感謝する俺たち。
 ファウードさんは、ポケットから手に乗る大きさの氷彫刻を出す。

「これを……感謝の気持ちだ」
「え、これって……ムサシ?」
「こっちは、コロンちゃん?」
「あたしのは……わあ、綺麗な結晶みたい」

 手乗りサイズのムサシ、コロンちゃん、雪の結晶の氷彫刻だ。台座付きで、飾っておくにはぴったりだろう。
 そして、大きな包みを出す。

「こっちは彫刻のモデル代だ。売却した氷彫刻の代金の半分だ。モデルの権利として受け取る必要がある」

 そう言われちゃ受け取るしかない。
 受けとると……まあ予想してた。白金貨がぎっしりだよ。
 エルサは驚いていた。

「ここ、こんなに……!?」
「あれだけオークションで盛り上がればな……なあシャルネ」
「うん。そういや、エルサは見てなかったっけ」

 白金貨を一枚ずつ財布に入れ、残りは共用の財布に入れることにした。
 俺は氷彫刻を手に頭を下げる。

「ファウードさん、素敵な氷彫刻をありがとうございます」
「ああ。特に濃厚な魔力を注いだから、五年は溶けないはずだ。溶けたら、いつでも言ってくれ。新しいのを造らせてもらうよ」

 俺はファウードさんと握手。
 ファウードさんは言う。

「と……レクスくんたちは、次の旅があるんだったね」
「はい。アムルタート王国に行こうと思ってます」
「なるほど……『蓬雷の国アムルタート』か。そう言えば、イズが言っていたな。今のアムルタートは少々危険だと。どうか用心しておくれ」
「あ、はい……」

 そういや、事前の情報はなるべく仕入れないで行く流儀だったけど……危険があるなら調べた方がいいのかな。
 すると、シャルネが言う。

「あたしも、ちょっと長居しすぎたし、明日になったらリューグベルン帝国に帰るわ」
「そうか……あれ? リューグベルン帝国って確か、アムルタート王国の隣だよな?」
「うん。でも、あたしは最短ルートで行くから。アムルタート王国は迂回して、森をフェンリスで突っ切るのよ。一緒に行けたら最高だけど、お兄ちゃんたちは観光メインでしょ?」
「まあ確かに」

 残念、シャルネはここでお別れだ。
 エルサが寂しがっているが、仕方ない。
 さて、ファウードさんもしばらく城に行かなくちゃいけないようだし、俺たちもいつまでもファウードさんの家を使うわけにもいかない。
 今日は宿を取り、明日になったら出発することにした。
 最後、もう一度ファウードさんと握手する。
 
「レクスくん、エルサさん、シャルネさん……ウォフマナフ王国に来たら、いつでも会いにきてくれ。それと……きみたちとの旅、楽しかった」
「俺もです。ファウードさん、またいつか」
「ファウードさん、イズベルグ様のこと、幸せにしてくださいね」
「ふふん。ラブラブそうだし問題なくない?」
「ははは。当然、そのつもりさ」

 こうして、俺たちのウォフマナフ王国を巡る芸術の旅は終わりを告げた。
 今回、厄介な敵とか、種族間の争いとか、魔竜とか……とにかくめんどくさい戦いになることがなく、たのしく冒険することができた。
 まあ、正直……物足りなさも感じたが。でも、平和が一番ってことだ。

「さて、次はアムルタート王国か」
「はい。いよいよ、最後の国ですね……」
「ははは。確かに最後だけど、まだまだ冒険は続くぞ」
『きゅるる!!』
『もぁぁ』

 雪と氷と芸術の国ウォフマナフ。また来よう!!
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