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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

六滅竜『氷』のイズベルグ

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 翌日。
 俺はベッドから起き、服を着る。
 隣でエルサがスヤスヤ寝ているので起こさないように着替え、そっと部屋を出た。
 部屋を出て一階に降りると、すでに起きたのかシャルネがいた。お湯を沸かし、お茶を淹れているようだ。
 俺に気付くと、シャルネは笑顔を向ける。

「おはよ、お兄ちゃん」
「ああ。早いな……ゆっくり寝れたのか?」
「まあね……」

 昨夜は、シャルネとエルサとムサシとコロンちゃんで、鍋を囲んだ。
 大人数で鍋はいい。笑いながら、これまでの旅を語り聞かせると、シャルネは「あたしも行きたかったな」と愚痴をこぼす。
 シャルネは、アミュアの話もしてくれた。今は、六滅竜『炎』のディアブレイズ様のところで修行……新しく『地』となったヘルと共に、しごかれているそうだ。
 食後は三人でサウナへ。もちろん、タオルは巻いた……妹とはいえ裸は恥ずかしいもんだ。
 するとシャルネ、やや顔を赤くして俺に手招き……こそっと言う。

「あのさ、二人が恋人ってのは聞いたけど……あたし、隣の部屋なんだから、もうちょい静かにしてよ」
「…………お、おお」

 まあ、恋人同士だし……一緒に寝るけどさ。
 妹にそういうのツッコまれるのかなり恥ずかしい。俺は転生者だし、妹も家族寄りの異性には見えるけど……肉親にバレるのってキツいもんだ。
 すると、エルサが寝室から降りてきた。

「おはようございます。レクス、シャルネ」
「「お、おはよう」」
「……? どうしたんですか?」

 とりあえず、俺はシャルネと顔を見合わせ、これ以上余計なことを言わないよう、頷き合うのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 朝食後、ファウードさんの様子をチラ見する。

「これだ!! こうして、こう……ハハハハハ!! いい、いいぞ!! これが愛、愛なんだ!!」

 な、なんか怖い……血走った目で氷柱の周りをグルグルしながら削ってる。二作品目なのかな、ムサシの彫刻……見たいけど我慢しよう。
 俺はドアを閉め、後ろにいたエルサとシャルネに向かって首を振る。

「とりあえず、手紙をドアに挟んでおくか」

 俺は手紙を書き、ドアに挟む。
 内容は『イズベルグ様に会ってきます。夜には帰る』という内容だ。
 エルサは、シャルネに聞く。

「あの、レクスに会って何を話すんですか?」
「いちおう、ムサシの能力についてかな。属性や形態を切り替えるなんて、聞いたことないし。それに……もう除名しちゃったけど、お兄ちゃんはドラグネイズ公爵家の次男だしね」
「言っておくけど、会って話すだけだぞ? めんどくさいのはごめんだ」
「わかってるって。二人の旅、邪魔しないからさ」

 さっそく、俺たちは徒歩で城へ向かった。
 町を歩いていると、周囲では雪かきをしている。

「道、綺麗に雪かきされてるな」
「知らないの? ウォフマナフ王国には、王国軍だけじゃなく『除雪部隊』もあるの。除雪専門の部隊で、剣じゃなくてスコップ持ってる人たちなのよ」
「そ、そんな部隊が……うーん、国や文化の違いを感じる」

 メインの街道も、除雪部隊が早朝から除雪してるみたいだ。
 おかげで、白までの道は普通に歩きやすい。
 それから、特に苦労することなく王城へ。

「イズベルグ様は、城の敷地内にあるアトリエで仕事してる」
「そういや……ウォフマナフ王国に竜滅士はいないのか?」
「イズベルグ様が来たから、みんな休暇でリューグベルン帝国に帰ったよ。六滅竜が来るんだもん……そりゃ、国の安全は保障されたようなモンだしね」

 そう言いながら、シャルネは門兵にドラグネイズ公爵家の印章を見せる。
 印を見た兵士が最敬礼し、門の隣にある大きなドアが開いた。

「アトリエはこっち」

 城内を進む。
 細い通路を抜けると、中庭へ。
 そして、中庭の隅っこにデカい建物があった。あれがアトリエか。
 シャルネはドアをノックし、返事がないことを確認して中へ。どうやら使用人などはいないようだ。

「あたしとイズベルグ様しかいないのよ。あたし、世話係でもあるからね……イズベルグ様、使用人をみんな近づけないの、集中できないからってね」
「芸術家っぽいな……」
「とりあえず、お兄ちゃんが来たこと伝えるわ。こっち」

 シャルネに案内され、家の最奥にあるデカいドアを開けた。
 
「…………」

 室内は広い。
 美術室、最初に抱いたイメージはそんな感じだ。
 汚れたデカい机、いくつも並んだキャンバス、絵具やペンキ、筆や水の入ったバケツなどがある。
 そして、部屋の中央にある巨大キャンバスに、ペンキで色を付ける女性。

「……六滅竜『氷』の、イズベルグ様」

 久しぶりに見た……相変わらず、とんでもない美人。
 俺たちが来たのに見ようともせず、視線はキャンバスに向いている。
 
「イズベルグ様!! お兄ちゃんを連れてきました!!」
「…………見せて」
「はい?」

 イズベルグ様は、キャンバスから目を離さずに言う。

「ドラゴン、見せて」
「……え、俺ですか?」
「あなた以外、誰がいるの?」

 イズベルグ様は、キャンバスに向かって筆を振る。
 何を描いているのかここからは見えない。

「……コキュートス」
『はい、お嬢様』

 すると、イズベルグ様の紋章から、身長四メートルほどの『人型種」のドラゴンが現れた。
 これまで見たドラゴンで、一番スタイリッシュだ。
 細い……とにかく細い。だが、その威圧感は並みじゃない。
 ムサシが紋章から飛び出すと、俺の指示を聞くことなく火属性の『人型形態』へ。

「お、おいムサシ!!」
『がるるるる……!!』
「お、お兄ちゃん、何してんのよ」
「いや、ムサシが勝手に……」
「あ、あの……レクス。たぶんですけど、ムサシ、怒ってます……」
「え?」

 エルサが、『氷黎神竜』コキュートスを見て言う。

「あの青いドラゴン……ムサシに、敵意を飛ばしています」
『ガァルルル!!』
『ふふ、よく気付きましたね。では……少し、力を見ましょうか』

 ぴきぴきと、部屋が凍り付いていく。
 俺は嫌な予感しかしなかった。

「ま、まさか……こ、ここでやるのか!?」
「イズベルグ様!? 何を!?」
「黙って。今、いいところなの……」

 こんな状態でも、イズベルグ様はキャンバスから目を離さない。

『では、ムサシとやら、かかって来なさい』
『ガルゥァ!!』

 ムサシが鱗で作った大剣を振りかぶり、コキュートスに襲い掛かった。
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