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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

美しき雪の城下町

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 乗合馬車が王都に到着し、俺たちは正門前で馬車から降りた。
 そして、雪化粧が施された王都を見て……その歴史ある美しさに唖然とした。

「わあ……これが、ウォフマナフ王国」
「……すっげえ」 

 ああ、これ見たことある。
 レンガ造りの建物、整備された街道、もみの木みたいな木々、どれも雪を被っている。
 街灯一つにしても、オシャレな彫刻みたいなのが施されている。
 これ、あれだ。芸術の都パリ……俺がいた地球でいうパリとか、フランスみたいな景色だ。パンフレットで見るようなパリの町並みが、雪景色に覆われている感じ。
 ああ、すごい……アールマティやクシャスラとは文化がまるで違う。

「ここは、芸術の国。大小さまざま、ジャンルもさまざまな美術館、画材屋や素材屋は豊富にある。いちおう、冒険者ギルドなどもあるけど……規模はかなり小さい」
「そうなんですか?」
「ああ。依頼が少ないからね。それに、前も言ったがウォフマナフ王国は魔獣が少ないから」

 エルサは「なるほど~」と感心している。
 俺は、街並みにただ感動していた。この町の景色を絵画にするだけで、かなりいいものになるんじゃないかな。

「さて、さっそく私のアトリエに行こう。少し歩けば到着するよ」
「お世話になります、ファウードさん」

 エルサがペコっとお辞儀。景色に見惚れていた俺もお辞儀を返すのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 町の中心から少し離れた、似たような二階建てのレンガ造りの家が並ぶ住宅地にやってきた。
 そして、庭付きのハウスが二軒並ぶ場所で立ち止まる。
 一軒は平屋っぽく庭付きで、その隣の家は二階建てだ。

「ここが私の家だ。平屋がアトリエで、二階建ての家は母屋になってる。母屋の方は自由に使ってくれ。掃除は……すまないけど」

 あ、やってないのね。
 でも、別にいい。むしろありがたい。
 俺はエルサに言う。

「せっかくだ。いろいろたるんでるし、母屋を掃除しよう」
「はい!! じゃあファウードさん、さっそくお掃除させてもらいますね」
「あ、ああ……なんだかすまないね。私はアトリエで、イメージをまとめておく。レクスくん、エルサさん。明日になったらアトリエに来てくれ。さっそくモデルをお願いしたい……それと、今日はアトリエに来ないでくれ。申し訳ないが……」

 そう言い、ファウードさんはアトリエへ。
 なるほどね、邪魔されたくないんだ。明確に《邪魔すんな》って言わないところが、ファウードさんのやさしさだろうな。
 さっそく、俺とエルサは母屋へ入る。

「「……うわあ」」

 思わず声が出てしまった。
 はっきり言う……かなり汚い。
 玄関からリビングに入ると、脱いだ服や食べた食器、大量の本が積んだままになっていた。空気も淀んでるし……これは掃除のやりがいあるな。
 一階はリビング、トイレ、キッチン、二階は寝室が二部屋に、空き部屋一つ。けっこう広いし、いい家だ。
 そして、一階にが意外な部屋もあった。

「これ……サウナかな」

 フィンランド式みたいなサウナがあった。
 でも、あまり使われていないのか汚れてる。

「……よし。エルサ、さっそく掃除するか」
「はい!!」

 俺とエルサは、手分けして掃除をすることにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 たるんだ身体に、掃除はちょうどいい。
 エルサはまずキッチン回りから掃除を始めた。ゴミを捨て、食器を全てシンクに入れて水に浸け、その間に洗濯ものを全てまとめて外へ。
 ウォフマナフ王国では、洗濯は外で、干すのは部屋の中だ。外だと凍ってしまうからな。
 二階の空き部屋にロープを張り、洗濯物はそこで干すことに。
 で……洗濯だが。

「……ムサシ、ほんとにいいのか?」
『ウォウ!!』

 水属性の人型形態となったムサシが、口から水を吐きながらタライの中にある洗濯物を器用に洗い出した。まさか、ムサシにこんなことさせる日がくるとは。
 まあ、いいか。
 俺はその間に寝室を掃除する。マットレスを新しいのに交換し、シーツや毛布も新しいのにする。
 古いのは全て捨て、二階の寝室は新品同様の綺麗さになった。
 掃き掃除、拭き掃除もしたが、埃がすごいだけでそんなに汚いくない。掃除をしていると、洗濯を終えたムサシが、一階から二階に飛んできた。洗濯物を咥えて……いいね。
 洗濯ものを干し、空き部屋の暖炉を付けて乾かす。
 二階はこれで終わり。ムサシを紋章に戻し、俺は一階へ。

「あ、レクス」
「エルサ、手伝おうか?」
「いえ。洗い物はもう終わるので」

 なんと、エルサは水を使わず、魔法でお湯を出して食器を洗っていた。
 魔法……ほんと便利だな。
 リビングの掃除も終わってるし、俺はトイレ掃除、そしてサウナ掃除をすることにした。
 トイレの掃除を終えると、エルサがサウナに来た。

「あとはサウナだけですね。一緒にお掃除しましょうか」
「ああ。それと……せっかくだし、掃除したら一緒にサウナ入るか? フィンランド式……って言えばいいのかな。身体があったまるぞ」
「い、一緒にですか。ちょっと恥ずかしいですね……汗、いっぱい掻いちゃうんですよね」
「大丈夫だって。な、いいだろ?」
「……わかりました」

 こうして、母屋の掃除を完璧に終え、俺とエルサはサウナでじっくり汗を流すのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、サウナで一汗流し、夕飯の時間になった。
 今日は、エルサの希望で激辛鍋。ほんとはラーメンにするつもりだったが……まあ、サウナで少しやらかしてしまいました。ちょっと興奮しすぎたぜ。
 アールマティで買った香辛料をふんだんにつかい、ハルワタートの海鮮を多く入れた海鮮鍋だ。二人で食べていると、エルサが言う。

「ファウードさん、大丈夫でしょうか……夕飯、どうするのかな」
「今は邪魔しない方がいい。芸術家ってのは、作業を邪魔されるのを何より嫌うしな」
「……お身体、心配です」

 エルサの心配もわかる……でも、こういう時の芸術家に近づいてはいけないと、俺は何となく理解していた。
 
「それより、明日はモデルだ。しっかりやろうぜ」
「は、はい……あの、レクス。その~……」
「ん、どうした?」

 なんだかモジモジしているエルサ。そして、おずおず聞く。

「も、モデルって……裸じゃないですよね」
「…………」

 どうやらエルサ、ヌードモデルが登場する絵画物語を見たそうだ……悪いファウードさん、エルサの裸は俺専用なんで、脱げとか言われたら拒否しますので!!
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