手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

読書デート

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 さて、読書を堪能した俺は本を閉じ、大きく伸びをした。
 外を見ると、雪が降り始めている……今の時間はお昼くらいかな。
 俺は本を元の位置に戻し、エルサのいる塔へ向かうと、エルサはいた。

「……すごい没頭してるな」

 丸テーブルに本を重ね、ペラペラとページをめくっている。
 まだ数時間しか経過していないが、なんか読むの早いな。
 俺はエルサに近づいた。

「エルサ」
「…………」
「エルサ、おーい」
「……え? あ、レクス」

 ようやく気付いたのか、エルサは驚いたように俺を見た。
 
「あの、どうしたんですか?」
「いや、そろそろお昼だし、休憩しないか?」
「あ、はい……」

 エルサはまだ物足りないのか、少しためらいがちの返事だ。
 そんなに面白い本なのか……と思ってエルサの本をチラ見すると、俺は驚いた。

「え……エルサ、その本って」
「あ、これですか? えへへ、面白いんですよ。挿絵だけの本なんですけど、読みやすくて」

 エルサが持っていた本は、挿絵にセリフが書かれた本だった。
 いや待てマテ、それってまさか。

「ま、漫画じゃん!! え、うそ、漫画があるのか!?」
「まんが? これ、絵画物語っていう新しいジャンルの本みたいですよ。画家のお兄さん、小説家の弟さんの合作で、ご兄弟の発表を機に設立された、新しい形式の物語だそうです」
「おお……」

 驚いた。
 絵画と物語の合作、絵画物語……俺は『漫画』のほうがしっくりくる。
 まさか、異世界で漫画に出会えるとは思わなかった。

「今では、いろんな画家と小説家が共同で、絵画物語を作っているみたいです。わたし、この恋愛小説の絵画物語にハマっちゃって……ここ、いろんな絵画物語がある塔でもあるみたいです」

 マジか……小説だけじゃないのか。
 絵画物語。新たなジャンルの本……異世界の漫画か。なんか俺も気になってきたぞ。

「と、とりあえず……メシ食ったらまた戻ってこよう。俺も今度はこっちで漫画……じゃなくて、絵画物語を見るからさ」
「はい!! 読みやすくて楽しい物語ばかりですよ」

 こうしてこの日は、異世界で出会った漫画に没頭することになるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 目を覚ますと、外はやはり雪が降っていた。
 ベッドから出て窓を少し開けると、冷たい風が入ってくる。

「うぅぅ……」

 おっと、エルサを起こしてしまう。
 恋人同士なので同じベッドで寝起きしているので気付いたが、エルサは意外と寝起きが悪い。
 昨日は、夜遅くまで漫画の話で盛り上がってしまったのもあるが、やや寝るのが遅かった。
 俺はこっそり着替えて部屋の外へ。すると、ファウードさんも部屋から出てきた。

「やあ、おはよう」
「おはようございます。朝食ですか? 一緒に行きましょう」
「ああ」

 ファウードさんと宿の一階へ。
 食堂に入って席に座ると、給仕のお姉さんが朝食プレートを運んで来る。
 それを食べながら、俺はファウードさんに聞いた。

「昨日、エルサと図書館に行ったんですけど、そこにあった漫画……じゃなくて、絵画物語にハマっちゃって。今日も行く予定です」
「ははは、絵画物語はハマるとなかなか抜け出せないと聞く。ちなみに、氷華祭では絵画物語の専用スペースも設けられて、画家と小説家のコンビが新作を売りに出すよ」
「へえ、それは面白そうだ」

 コミケみたいな感じなのかな。
 でも、エルサが気に入りそうな内容だ。

「私の氷華祭出品作品の制作があるから、あと数日ほど滞在したら王都へ向かいたいのだが……」

 一応、俺とエルサとムサシは、ファウードさんの作品のモデルだ。
 引き受けた以上、一緒に行くのは決まっている。

「もちろん大丈夫です」
「ありがとう。王都での寝泊まりだが、私の家を使って構わない。私はアトリエに籠るし、その間は家を使うことはないからね」
「いいんですか?」
「もちろん。それとは別に、モデル代も支払うよ」
「あ、ありがとうございます」

 ファウードさん、いいヒトだ。
 そういやこの人。イズベルグ様に告白するんだっけ。

「……あの、ファウードさん。イズベルグ様のことですけど」
「ははは、大丈夫。告白の文章はもう考えてある」

 いや、そうじゃなくて。
 まあ……いいか。他人の恋路に踏み込むほど無粋じゃないし。
 すると、やや眠そうなエルサが食堂へ。
 俺の隣に座ると、俺をジト目で見た。

「もうレクス、起こしてくれてもいいじゃないですか」
「いや、なんだか悪くてな……気持ち良さそうに寝てたし」
「む~……まあいいです。レクス、今日も図書館に行きましょうね」
「あ、先に行っててくれ。俺、少し街を見たいんだ。図書館もいいけど、町の本屋とかも見たい」
「ふむ、なるほど……じゃあ、わたしも一緒に」
「いや、絵画物語気になるんじゃないのか?」
「気になりますけど……町の本屋さんも気になります。まだ町には滞在しますし、レクスと一緒に街を見てみたいです」
「お、おう……なんか照れるな」
「ふふ、わたしもです」

 と、ファウードさんがニコニコしながら俺たちを見ていた。

「若いっていいね。ふふ」
「「…………」」

 俺とエルサは顔を見合わせ、気恥ずかしくなってしまうのだった。
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