手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

雪の街道

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 さて、準備を終えていざウォフマナフ側のオスクール街道へ。
 国境の町を出てオスクール街道に入るなり、驚いた。

「わあ……!!」
『きゅるる~!!』

 雪。
 そう、周囲一帯は『雪』に覆われていた。
 杉の木みたいな形状の木々が並び、その全てに雪が積もっている。オスクール街道はしっかり除雪されて歩きやすくなっているのが幸いだ。
 雪、雪、雪……とにかく、雪である。

「これが『雪』……まっしろで、冷たくて……わぁぁ~」
『きゅるる~!!』
「あはは、ムサシが雪に飛び込みましたよ!! って……レクス?」
「ん?」

 雪を手で掬って興奮するエルサと、近くの雪山に飛び込んで遊ぶムサシを微笑ましく眺めていると、エルサが首を傾げていた。

「レクス、雪……」
「ああ、雪だな。うん、寒いぞ」

 ちなみに、俺とエルサは買ったばかりのコートを着ている。
 俺は耳当てを、エルサはいつも被っている帽子を脱いで毛糸の帽子だ。ズボンも冬用だし、ブーツは戦闘用でもあり、滑らないようスパイクが付いており、さらに裏起毛である。
 寒いけど、冬装備なので温かい。この手袋もいい品だ。

「……レクス。雪を見てもあんまり驚かないんですね」
「まあ、病室で見てたしな」
「病室?」
「あー!! っと、ははは!! いやー寒い!! 雪だな雪!! おいムサシ、雪を食うな腹壊すぞ!!」
『きゅうう』

 やべっ……エルサには異世界転生したこと教えてない。
 恋人だし、いつかは話すかもしれないけど……まだ、その時じゃない。
 ちなみに、俺が雪で驚かないのは、俺が生前にいた病院はけっこうな豪雪地帯で、雪は当たり前に見ていたからである……うん、久しぶりの雪だ。
 適当に誤魔化し、俺は歩き出す。

「さ、さて。今日はオスクール街道を通って、雪中野営をしてみよう。いろいろ買いそろえた道具を試してみたいしな!!」
「は、はい」

 エルサに隠し事するのは引けるけど……今はまだ、言いたくない。

 ◇◇◇◇◇

 オスクール街道から眺める雪景色は、とても綺麗だった。

「わぁ~……レクス、見て下さい!! あそこ……」
「お、白いリスか?」
「リスって言うんですか? かわいいです」
「ほら、あっちにはウサギもいるぞ」
「ふわわ、かわいい」
『きゅるる~』

 ムサシを肩に乗せ、街道沿いの木の枝にいるリスや、藪からちょこんと覗いてる白いウサギ、そして俺たちの前を横切るイタチみたいな動物や、たまに枝から落ちる雪に驚いたりしていた。
 エルサは遠くの山を見る。

「真っ白な山……綺麗です」

 山は白いが、完全に雪で覆われているわけではないので、所々が青く見える。そのコントラストがなんとも美しく、寒いけど冬はいいものだと思ってしまう。
 今日は天気もいい。風は冷たいけど、まさに冬晴れの天気と言った感じだ。
 俺は国境の街で買ったマップを見て言う。

「もう少し進むと、オスクール街道沿いの『野営広場』に出る。今日はそこで野営しよう」
「はい。冬の野営体験ですね!!」
「ああ。ふふふ、実は……寒い時には辛い食べ物はいいみたいなんだ」
「!!」

 というわけで……今日は、アールマティ王国で買ったスパイスや野菜を使った『激辛鍋』を作るぞ!!

 ◇◇◇◇◇

 夕方前なのに、かなり暗くなってきた。
 俺たちは日が落ちる直前に広場へ到着。他の冒険者が数名おり、すでに野営の支度を終えていた。

「いつもより日が落ちるの早いような気がします……」
「冬ってこんな感じなんだな……さっそく勉強になった」
『きゅるる。きゅい』

 ムサシもウンウン頷き、腹が減ったのか俺の紋章に飛び込んだ……ああ、今日はメシ食ったらすぐに寝そうだな。

「エルサ、テントを組んで支度しよう」
「はい」

 さっそく、新しく買った冬用テントを組む。
 ワンタッチ式なので簡単に開くことができた。そして、折り畳み式の簡易ベッドを組み、その上に冬用のモコモコした寝袋を置く。

「ベッド……まさか、必要になるなんて」
「冬は地面が冷たいから、テントの上からじゃ身体が冷えるらしい。ベッドで地面から浮かせて、そこで寝るのが野営では一般的みたいだ」
「なるほど……」

 ランプを吊るし、椅子とテーブルを用意し、さらに焚火台も出す。
 薪は山ほど買ったし、数か月は持つ……ドラグネイズ公爵家のアイテムボックス、本当に助かってる。こんな大容量のはそうないぞ。

「エルサ、俺は料理するから、水浴び……は、無理か」
「さ、さすがにこの寒さでは……」

 ウォフマナフでは、水浴びができない。
 周りを見ると、雪を鍋に入れて溶かし、その湯でタオルを絞って身体を拭いている。
 水の節約……でもまあ、エルサは水魔法師だし、魔法でお湯も出せるし必要ないな。

「レクス、一緒にお料理しましょう。わたし、何かお手伝いします」
「じゃあ……鍋に水入れて、野菜を洗ってくれ」
「はい!!」

 野菜を洗ってもらう間、俺は肉を切り、スパイスを用意する。

『もあー』
「ん?」

 と、ここで妙な鳴き声。
 キョロキョロすると、足下に何かいた。

「…………」
『もあぁ』

 なんだ、これ。
 真っ白い犬……じゃない。まるまるとした、妙な生物だった。
 犬、猫、ブタ、イノシシ……と、俺の日本データベースから該当しそうな生物をピックアップ。
 そうしていると、エルサが気付く。

「え……な、なんですかその子!! か、かわいい~!!」
「えっと……」
『もあぁぁ』

 もあぁぁ、って……なんだこの鳴き声。
 エルサは無警戒に、その謎生物を抱っこする。
 そして、俺のデータベースにようやくヒットする動物がいた。

「……ウォンバット」
「え?」
「いや、これウォンバットかな……白いけど」

 デカいネズミ……というか、まるまるしたウォンバットだ。
 エルサに抱っこされ、気持ちよさそうにゴロゴロしている。

「決めました。レクス……この子、わたしの獣魔にします!!」
「いや待て待て。魔獣……なのか? 危険な生物かもしれないぞ」
「でも、かわいいです」
「……まあたしかに」

 正直、クッソ可愛い。
 白いウォンバット。成犬よりやや小さく、猫よりは大きい。真っ白ふわふわでまるまるした生物は妙な愛嬌があり、抱っこしたくなる気持ちがよくわかった。

『もあぁぁ~』
「ふふ、お腹空いてるのかな? レクス、何かエサをあげていいですか?」
「あ、ああ……こいつ、何食うんだ?」

 とりあえず、切った生肉を近づけてみると、イヤイヤした。

「じゃあ、お野菜を」

 エルサが野菜を近づけると、ニンジンをコリコリ齧る。

「菜食か……エルサ、任せていいか?」
「はい!! コロンちゃん、餌の時間ですよ~」

 コロンちゃんって……ま、まあいいや。
 こうして、俺は激辛鍋を作り、コロンちゃんを抱っこしたままのエルサと完食。俺は先に仮眠し、エルサと見張りを交代……エルサはコロンちゃんを抱っこし、テントに入った。
 いつの間にか木桶があり、お湯が並々と張ってあるし……どうやら見張り中に、コロンちゃんを風呂に入れたようだ。マジで飼うつもりなのか。

「……さむっ」

 とりあえず、読書しながらコーヒーでも飲みますかね。
 ウォフマナフで初めての野営は、妙な白いウォンバットが仲間になるという珍事で幕を閉じるのだった。
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