手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

文字の大きさ
上 下
97 / 129
第五章 氷礫の国ウォフマナフ

雪の街道

しおりを挟む
 さて、準備を終えていざウォフマナフ側のオスクール街道へ。
 国境の町を出てオスクール街道に入るなり、驚いた。

「わあ……!!」
『きゅるる~!!』

 雪。
 そう、周囲一帯は『雪』に覆われていた。
 杉の木みたいな形状の木々が並び、その全てに雪が積もっている。オスクール街道はしっかり除雪されて歩きやすくなっているのが幸いだ。
 雪、雪、雪……とにかく、雪である。

「これが『雪』……まっしろで、冷たくて……わぁぁ~」
『きゅるる~!!』
「あはは、ムサシが雪に飛び込みましたよ!! って……レクス?」
「ん?」

 雪を手で掬って興奮するエルサと、近くの雪山に飛び込んで遊ぶムサシを微笑ましく眺めていると、エルサが首を傾げていた。

「レクス、雪……」
「ああ、雪だな。うん、寒いぞ」

 ちなみに、俺とエルサは買ったばかりのコートを着ている。
 俺は耳当てを、エルサはいつも被っている帽子を脱いで毛糸の帽子だ。ズボンも冬用だし、ブーツは戦闘用でもあり、滑らないようスパイクが付いており、さらに裏起毛である。
 寒いけど、冬装備なので温かい。この手袋もいい品だ。

「……レクス。雪を見てもあんまり驚かないんですね」
「まあ、病室で見てたしな」
「病室?」
「あー!! っと、ははは!! いやー寒い!! 雪だな雪!! おいムサシ、雪を食うな腹壊すぞ!!」
『きゅうう』

 やべっ……エルサには異世界転生したこと教えてない。
 恋人だし、いつかは話すかもしれないけど……まだ、その時じゃない。
 ちなみに、俺が雪で驚かないのは、俺が生前にいた病院はけっこうな豪雪地帯で、雪は当たり前に見ていたからである……うん、久しぶりの雪だ。
 適当に誤魔化し、俺は歩き出す。

「さ、さて。今日はオスクール街道を通って、雪中野営をしてみよう。いろいろ買いそろえた道具を試してみたいしな!!」
「は、はい」

 エルサに隠し事するのは引けるけど……今はまだ、言いたくない。

 ◇◇◇◇◇

 オスクール街道から眺める雪景色は、とても綺麗だった。

「わぁ~……レクス、見て下さい!! あそこ……」
「お、白いリスか?」
「リスって言うんですか? かわいいです」
「ほら、あっちにはウサギもいるぞ」
「ふわわ、かわいい」
『きゅるる~』

 ムサシを肩に乗せ、街道沿いの木の枝にいるリスや、藪からちょこんと覗いてる白いウサギ、そして俺たちの前を横切るイタチみたいな動物や、たまに枝から落ちる雪に驚いたりしていた。
 エルサは遠くの山を見る。

「真っ白な山……綺麗です」

 山は白いが、完全に雪で覆われているわけではないので、所々が青く見える。そのコントラストがなんとも美しく、寒いけど冬はいいものだと思ってしまう。
 今日は天気もいい。風は冷たいけど、まさに冬晴れの天気と言った感じだ。
 俺は国境の街で買ったマップを見て言う。

「もう少し進むと、オスクール街道沿いの『野営広場』に出る。今日はそこで野営しよう」
「はい。冬の野営体験ですね!!」
「ああ。ふふふ、実は……寒い時には辛い食べ物はいいみたいなんだ」
「!!」

 というわけで……今日は、アールマティ王国で買ったスパイスや野菜を使った『激辛鍋』を作るぞ!!

 ◇◇◇◇◇

 夕方前なのに、かなり暗くなってきた。
 俺たちは日が落ちる直前に広場へ到着。他の冒険者が数名おり、すでに野営の支度を終えていた。

「いつもより日が落ちるの早いような気がします……」
「冬ってこんな感じなんだな……さっそく勉強になった」
『きゅるる。きゅい』

 ムサシもウンウン頷き、腹が減ったのか俺の紋章に飛び込んだ……ああ、今日はメシ食ったらすぐに寝そうだな。

「エルサ、テントを組んで支度しよう」
「はい」

 さっそく、新しく買った冬用テントを組む。
 ワンタッチ式なので簡単に開くことができた。そして、折り畳み式の簡易ベッドを組み、その上に冬用のモコモコした寝袋を置く。

「ベッド……まさか、必要になるなんて」
「冬は地面が冷たいから、テントの上からじゃ身体が冷えるらしい。ベッドで地面から浮かせて、そこで寝るのが野営では一般的みたいだ」
「なるほど……」

 ランプを吊るし、椅子とテーブルを用意し、さらに焚火台も出す。
 薪は山ほど買ったし、数か月は持つ……ドラグネイズ公爵家のアイテムボックス、本当に助かってる。こんな大容量のはそうないぞ。

「エルサ、俺は料理するから、水浴び……は、無理か」
「さ、さすがにこの寒さでは……」

 ウォフマナフでは、水浴びができない。
 周りを見ると、雪を鍋に入れて溶かし、その湯でタオルを絞って身体を拭いている。
 水の節約……でもまあ、エルサは水魔法師だし、魔法でお湯も出せるし必要ないな。

「レクス、一緒にお料理しましょう。わたし、何かお手伝いします」
「じゃあ……鍋に水入れて、野菜を洗ってくれ」
「はい!!」

 野菜を洗ってもらう間、俺は肉を切り、スパイスを用意する。

『もあー』
「ん?」

 と、ここで妙な鳴き声。
 キョロキョロすると、足下に何かいた。

「…………」
『もあぁ』

 なんだ、これ。
 真っ白い犬……じゃない。まるまるとした、妙な生物だった。
 犬、猫、ブタ、イノシシ……と、俺の日本データベースから該当しそうな生物をピックアップ。
 そうしていると、エルサが気付く。

「え……な、なんですかその子!! か、かわいい~!!」
「えっと……」
『もあぁぁ』

 もあぁぁ、って……なんだこの鳴き声。
 エルサは無警戒に、その謎生物を抱っこする。
 そして、俺のデータベースにようやくヒットする動物がいた。

「……ウォンバット」
「え?」
「いや、これウォンバットかな……白いけど」

 デカいネズミ……というか、まるまるしたウォンバットだ。
 エルサに抱っこされ、気持ちよさそうにゴロゴロしている。

「決めました。レクス……この子、わたしの獣魔にします!!」
「いや待て待て。魔獣……なのか? 危険な生物かもしれないぞ」
「でも、かわいいです」
「……まあたしかに」

 正直、クッソ可愛い。
 白いウォンバット。成犬よりやや小さく、猫よりは大きい。真っ白ふわふわでまるまるした生物は妙な愛嬌があり、抱っこしたくなる気持ちがよくわかった。

『もあぁぁ~』
「ふふ、お腹空いてるのかな? レクス、何かエサをあげていいですか?」
「あ、ああ……こいつ、何食うんだ?」

 とりあえず、切った生肉を近づけてみると、イヤイヤした。

「じゃあ、お野菜を」

 エルサが野菜を近づけると、ニンジンをコリコリ齧る。

「菜食か……エルサ、任せていいか?」
「はい!! コロンちゃん、餌の時間ですよ~」

 コロンちゃんって……ま、まあいいや。
 こうして、俺は激辛鍋を作り、コロンちゃんを抱っこしたままのエルサと完食。俺は先に仮眠し、エルサと見張りを交代……エルサはコロンちゃんを抱っこし、テントに入った。
 いつの間にか木桶があり、お湯が並々と張ってあるし……どうやら見張り中に、コロンちゃんを風呂に入れたようだ。マジで飼うつもりなのか。

「……さむっ」

 とりあえず、読書しながらコーヒーでも飲みますかね。
 ウォフマナフで初めての野営は、妙な白いウォンバットが仲間になるという珍事で幕を閉じるのだった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。