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第四章 炎砂の国アシャ

砂と森、砂漠と森林、太陽が差す

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 エルサは、アシャワンとドルグワントの戦士たちの治療をしていた。
 魔法での治療……ドルグワントにも治療系の魔法師はいるみたいだが、エルサほどの腕前はないのか、みんなエルサを驚きの目で見ている。
 エルサは、アシャワンの戦士の腕を魔法で治療し、終えるとにっこり笑う。

「はい、終わりました。痛みはありませんか?」
「……素晴らしい。貴女は最高の治癒士。私の嫁にならんか?」

 おいてめえブチ殺すぞ!! と思ったが、エルサはにっこり笑って否定。

「ごめんなさい。わたし、大事な人がいますので」
「そうか……残念だ」

 戦士はがっくり肩を落とす。すると、ドルグワントの治癒士が俺に近づいて言う。

「あれで七十人目。みんなお断りしてるわ」
「あ、ああ……そうなんだ」
「あなたでしょ? あの子の大事な人。ささ、もうここはいいから連れて行きなさい」
「あ、どうも」

 親切なドルグワントの治癒魔法師おばさんに背中を押され、俺はエルサの元へ。

「レクス!! 怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」
「ああ。俺は大丈夫……エルサは? だいぶ魔力を使ったんじゃ」
「はい。でも、みんな怪我していたので……」

 エルサ、優しい子。
 俺はエルサを連れ、ディアブレイズ様がこっちに気付く前に町の宿屋へ戻った。
 俺の部屋に入り、エルサと話をする。

「ディアブレイズ様に俺とムサシのことバレた。ムサシの変身能力も、たぶんアミュアが説明すると思う……今はもうドラグネイズ公爵家と関係ないけど、もしかしたら『一度戻れ』とか言われる可能性ある」
「え……ど、どうするんですか?」
「今は、アミュアがご機嫌取ってくれてる。俺たちのこと思い出す前に、アシャ王国を出ちまおう」
「……アミュアさんは」
「街の宿屋にいるらしい。挨拶したいけど……」

 と、俺が言った時だった。ドアがノックされ、返事をする前に開かれる。
 
「レクス!!」
「……ふん」
「おお、いたな!! いきなりいなくなるから驚いたぞ!!」

 アミュア、ヴァルナ、そしてシャクラの三人だった。
 いきなりで驚いていると、アミュアが言う。

「あんたの場所を探そうと思ったら、この子が『お礼したいからレクスのところ行くぞ』って言うの聞いて、付いてきたのよ」
「そ、そうなのか」
「レクス!!」
「うおっ」

 いきなりシャクラが顔を覗き込み、俺の手を取り手の甲にキスをした。
 びっくりすると、シャクラが言う。

「ヴァルナと話したぞ!! これからアシャワン、ドルグワントは、協力して砂漠と森を守ることになった!! もう争うこともないぞ!!」
「そうなのか?」
「……ふん。そういうことだ」

 ヴァルナはそっぽ向きつつも、答えてくれた。 
 シャクラは嬉しそうに言う。

「アシャ王国は、砂漠と森の国だ!! これからは一緒!! でも、その前にアタシたち、リューグベルン帝国に言って、邪竜とかいうのぶっ飛ばす!! レクス、また会おう!! 我が永遠の友よ!!」
「お、おお!! シャクラ、また会おうな!!」
「うむ!! エルサ……お前とはまた、おいしいものいっぱい食べたいぞ!!」
「はい!! シャクラ、また会いましょうね」

 シャクラはエルサに抱きつき、なぜか窓を開けて飛び出した。

「……森を燃やしたことは許さん。だが、不問にはしてやる」
「あ、ああ。それと……姉ちゃんと、仲良くしろよ」
「うるさい……ふん」

 ヴァルナも、窓から出て行った。
 シャクラ、ヴァルナ……リューグベルン帝国で邪竜退治か。頑張れよ。

 ◇◇◇◇◇
 
 窓を閉め、アミュアは息を吐く。

「さて……台風みたいな子たちがいなくなったわね」
「ああ、アミュア……どうなったんだ?」

 アミュアは、ベッドサイドに座る。

「とりあえず、ディアブレイズ様とヘルは、アシャ王国の国王に挨拶に行った。めちゃくちゃ褒めまくってあんたの活躍は上手く誤魔化したから安心して。でも……報告書は出す必要があるから」
「噓は書かなくていい。お前が見たまま書けよ」
「……いいの? 報告書、間違いなくバルトロメイ様も……」
「いい。それに、俺はもう平民だ。父……じゃなくて、いくらバルトロメイ様でも、一度追放した人間を、再びドラグネイズ公爵家に迎え入れるなんてことしないさ」
「……うん」
「で、お前は?」
「私は、十日後にはリューグベルン帝国に帰るわ。今日は六滅竜の二人が王族との会食だし……十日後に、アシャワンとドルグワントの戦士たちがリューグベルン帝国に行くから、それに同行することになってるの」
「十日後か……」
「あんたとエルサは、ウォフマナフ王国に行きなさい。あんまり長居してディアブレイズ様に見つかると、めんどうなことになるしね……」
「……せっかく会えたのにな」

 寂しい……そう思っていると、アミュアが俺を押しのけてエルサに耳打ちする。

「……は、はい。その……恋人に」
「そっかー……ふふん、あんたも?」
「はい。アミュアさんと同じです」
「うんうん。すっごく嬉しい!! これからも、レクスのことよろしくね。あたしは、今日しか一緒にいれないから、頑張っちゃうけど……あんたも一緒に」
「はい、わたしたち、お友達ですしね」

 な、なんの話してるのかな……なんか嫌な予感。
 すると、アミュアは立ち上がり、部屋のドアに鍵をかけた。

「さてレクス。あたしは今日しか一緒にいれないし……たっぷりお話しよっか」
「あ、ああ。よし、たくさんお話しようぜ!!」

 この日、俺たち三人は朝まで一緒に過ごすのだった。

 ◇◇◇◇◇

 翌日。
 眼を覚ますとアミュアはいなかった。書置きに『またね』とだけあり、俺はなんとも寂しい気持ちになる。
 エルサはアミュアから何かを受け取ったのか、嬉しそうに微笑んでいた。
 俺たちは旅支度をし、宿を出る。すると、ずっと寝ていたムサシが、大欠伸しながら紋章から出て来た。

『きゅあぁあぁぁ~……』
「寝坊助、ようやく起きたか」
『きゅるる~』

 そういや……ムサシ、また姿が変わったような気がしたけど。
 魔竜を滅ぼした最後の一撃、声を聴いたような……?

『きゅ?』
「……気のせいかな」
「レクス。国境の町は、東門からオスクール街道を通って行けばいいみたいです」
「あ、ああ。ディアブレイズ様に見つかると面倒だし、オスクール街道を通ってさっさと国境まで行くか」
「はい」

 俺たちはアシャ王国の東門から出て、オスクール街道を歩きだす。
 そして、しばらく進んで振り返り、砂漠にある森、王国を見た。

「アシャ王国……いろいろあったな」
「はい。暑くって、激辛で、いろんな人たちがいて……楽しいところでした!!」
「ああ。次は、雪と氷の国ウォフマナフだけど……まずはいつも通り、国境で準備するか」
「はい。レクス……これからも、一緒に行きましょうね」
「ああ。俺、エルサ、ムサシ……旅はまだまだ続くぞ!!」

 砂と熱と森の国アシャ。いつかまた来よう。
 さあ、次は氷の国ウォフマナフだ!!
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