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第四章 炎砂の国アシャ

六滅竜『炎』のディアブレイズ①

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 リューグベルン帝国からアシャ王国に続く、オスクール商会が最も力を入れて開拓を進めた『オスクール街道』に、一台の巨大な馬車と、その護衛をする三台の普通サイズの馬車があった。
 馬車は巨大だった。
 一軒家サイズ。その荷車を引くのは陸走種のドラゴン。
 真っ赤な鱗を持つドラゴンは、苦も無く一軒家を引いている。
 そして、その一軒家の中にいるのは、なんとも大きな男だった。

「ガッハッハ!! 新人んん……そう緊張するな!!」
「は、はひ!!」

 真っ赤な髪、真っ赤な髭、筋骨隆々の肉体。素肌にジャケットを着こみ、火傷だらけの上半身を晒す姿は『豪快』としか言いようがない。
 六滅竜『炎』のディアブレイズ。
 リューグベルン帝国、ムスペル侯爵家当主にして、六滅竜『炎獄神竜』スルトを使役する竜滅士。
 現在、六滅竜筆頭のドラグネイズ公爵に継ぐ、最強の竜滅士の一人である。
 そして、ディアブレイズが『新人』と言ったのは、ディアブレイズの前に座る少女。

「うう……アミュア」
「大丈夫だって。親方はごつくて怖いけど、優しいんだから」
「お、おやかた?」
「うん。そう呼べって……私も良く知らないけど」

 ヘル・ヨルムンガンド。
 六滅竜『地』のへレイアの後継であり、ヨルムンガンド公爵家の当主となった、まだ十六歳の少女である。
 原因は不明であるが、へレイアが死亡したことにより、六滅竜『地嶽神竜』ミドガルズオルムがヘルと正式に契約……今は、新たな六滅竜として、一時的にディアブレイズの下で修行をしていた。
 歳が近いという理由で、天空級に階級が上がった『烈火竜』アミュアも一緒に付いてきたのである。
 ディアブレイズは言う。

「さて!! アミュア、任務の確認だ!!」
「はい!! えーっと、これからアシャ王国に向かい、魔竜化したとされる二体のドラゴンを倒し、リューグベルン帝国の至宝となる『竜魔玉眼』を回収します」
「好!! 細かいことはあるが、オレらはとにかく魔竜をブチ殺す!! 新人んん、オメーはミドガルズオルムを使えるよう訓練だ!! なあスルト!!」
『応!! ハハハハハ!! お嬢ちゃんよ、緊張しなくていいぜ!! オレと旦那のコンビなら、どんな魔竜だろうと消し炭よ!!』
「がっはっは!! そういうこった!!」

 六滅竜『炎獄神竜』スルトが、ディアブレイズの紋章から声だけで返事をした。
 頼りがいはある。だがやや暑苦しい……アミュア、ヘルは同時に思った。

 ◇◇◇◇◇

 馬車は砂地を進み始めると、荷車内は一気に熱くなる。
 
「あの、親方……ところで、今回の魔竜って、どこの竜滅士が?」

 だが、熱さなんて気にならないのか、アミュアが言う。
 同じように暑さを気にしていないディアブレイズは首を捻った。

「アシャ王国の常駐竜滅士が二名、いなくなってたって報告があった。本国に戻る途中で『何か』あり、ドラゴンが魔竜化しちまったらしいな」
「でも……魔竜化して一年以上経過しているんですよね。その間、アシャ王国に竜滅士がいないことになってるんじゃ……リューグベルン帝国もなぜ、竜滅士が本国への期間中に行方不明になったと把握していなかったんですか?」
「恐らく、アシャ王国も知らなかったんだろうな。そもそも、アシャ王国はアシャワン、ドルグワントっていう戦士がいる。竜滅士の出番なんてほぼねぇ……竜滅士が『本国に一度帰る』と言って送り出し、帰ってこなかったとしても問題ねぇんだろうさ」
「なるほど……」

 アミュアは考え込む。

(アシャ王国……レクスたちとハルワタートで別れてけっこう時間経ってるし、アールマティ王国の次はアシャ王国って言ってた。もしかしたら……会えるかも)

 アミュアは顔を綻ばせると、ディアブレイズがニヤッと笑う。

「男のこと考えてるだろ」
「ッ!?」

 ニマニマするディアブレイズ。アミュアは顔を赤くしてバッと上げる。

「もう抱かれたか?」
「は!? おお、親方!! ななな何言ってんですか!!」
「ははは!! どうやら図星だな。乳臭いガキの新人と思っていたが、ハルワタートから戻ったら『女』になってたし、こりゃいい経験したなと思ってたぜ。あーあー、何も言うな。オレも愛する妻が七人もいるから、女のことぁよーくわかるんだよ」
「~~~!!」

 照れるアミュア。ディアブレイズは「若いねえ。はあ、妻たちに会いたくなったぜ」と笑う。

「このタイミングで男を考えるってことは……いるんだな?」
「う」
「がーっはっはっは!! よし、仕事終わったら会いに行っていい!! 今まで会えなかったぶん、思いっきり愛されてきな!!」
「だから!! そういうんじゃ!!」
「ん? そういや……バルトロメイんとこのガキ、除名されて家を出たんだっけな。今じゃ野良の竜滅士って聞いたが……ああ、世界を旅して、その道中で結ばれたってことか」
「…………」
「ふーむ。バルトロメイは『あいつは使い物にならん』とか言っていたが、実際はどうなんだ?」

 と、ディアブレイズはアミュアに聞く。
 アミュアは思った。

(ムサシのこと、言えないよね……)

 真っ白でふわふわな手乗りドラゴン。
 陸走、人型、羽翼に変形し、さらに全ての属性を兼ね備える異質な能力を持つ。
 アミュアは、ハルワタート王国で最後、圧倒的な威力のブレスでタルウィを消滅させたムサシの姿を思い出し、もしかしたらレクスが竜滅士に復帰できるかも……と考えた。
 だが、レクスはそれを望まない。

「……レクスのドラゴンは、手乗りドラゴンで、ふわふわで可愛いです」
「あぁ?」
「このくらいのサイズで、私の肩にのって耳を甘噛みしたり、手のひらでお昼寝したりします」
「んだそりゃ。戦闘能力は?」
「小さい炎を吐くくらいはできますけど……ゴブリンを倒せるか倒せないか、ってところですね」

 噓は言っていない。
 ディアブレイズはアミュアをジーっと見て「ま、いい」と笑う。

「何隠してるか知らねぇが、それがお前の判断なら尊重する。はは、バルトロメイのやつ、早まったことしたかもしれねぇなあ」
「…………」

 なんとなく会話が打ち切られ、やや気まずい空気に。
 そして、アミュアもディアブレイズもようやく気付いた。

「う、うぅぅぅ……あ、づ、い」

 車内の熱気に当てられたヘルが、汗だくで死にかけていることを。
 アミュアは大慌てで水のボトルを出し、ディアブレイズは大笑いしながら「バルトロメイんところの末娘も連れて来ればよかったぜ」と言うのだった。
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