上 下
63 / 129
第四章 炎砂の国アシャ

さらば岩月

しおりを挟む
 さて、今日はアールマティ王国を出て、国境の町へ向かう。
 朝食を食べ終え、俺は地図をテーブルに広げた。

「オスクール街道を通って、国境の町イブラヒムまで行こう。回り道することも考えたけど……国境の町までは見所が何もないんだよなあ」
「そうみたいですね……まっすぐ国境の町まで行って、入念に準備した方がよさそうです」
「ああ。オスクール街道を使えば、三日くらいで到着する。道中、オスクール商会のやってる宿屋とか、街道小屋を使って休みながら行こう」
「はい。ふふ……」
「ん?」

 エルサが笑い、テーブルで転がっていたムサシを人差し指で撫でた。

「また、二人と一匹ですね」
「だな。でも……俺は、エルサとムサシの二人一匹旅、好きだけどな」
「わ、わたしもです。えへへ」

 なんだか照れるな。
 俺は地図を畳んでしまい、立ち上がる。

「よし!! 天気もいいし、出発するか」
「はい。では……いざ、国境の町イブラヒムですね」
「ああ」
『きゅるる』

 俺とエルサは立ち上がり、宿屋を出た。
 アールマティ王国の城下町を進み、正門を出てアシャ王国に向かう方向へ。
 オスクール街道をしばらく進み、俺とエルサは振り返った。
 奥に見えるのは、アールマティ王国。

「地歴の国アールマティ。通称、岩月か……」
「いろんなこと、ありましたね」
「ああ。玄徳や愛沙、四凶……リーンベル。それと、六滅竜『地』のヘレイア」
「欲を言えばもう少し、みんなで観光したり、遊びたかったですね」
「ああ……」

 アールマティ王国で学んだ。
 俺たちの旅は『世界を知るぶらり旅』だ。戦いに参加したり、陰謀やイベントに巻き込まれるのは、やっぱり違う……アールマティ王国では、いろいろなものに関わりすぎた。
 アールマティ王国では、俺たちらしくなかった。

「エルサ。アシャ王国では、厄介ごとを避けて、とにかく冒険しよう!!」
「避ける……ですか?」
「ああ。国家の存亡をかけるような戦いとか、ヤバそうな敵とか……そういうの避けて、観光や冒険者家業をしながら行こう」
「はい。私も、そっちのがいいです」
「決まりだな。ムサシ、わかったか?」
『きゅい~』

 ムサシはクルクル回転しながら俺たちの周りを飛び、俺の紋章に飛び込んだ。
 
「じゃあ、出発」
「はい。アールマティ王国……いいところでした」

 こうして俺たちは、アールマティ王国での冒険を終え、旅立つのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 オスクール街道を進むこと三日。
 
 これまではけっこう寄り道したり、野営したりだったが、オスクール街道を使って進むのがこんなにも快適だなんて知らなかった。
 まず、オスクール街道沿いにある宿屋。
 オスクール商会が運営する、街道沿いにのみある簡易宿。まあ……カプセルホテルみたいなところだ。
 一人用の寝るスペースに、荷物置きの棚しかない。一応は個室だけどまあ狭い。
 だが、男女別に部屋はわかれているし、食事も出してくれるのでありがたい。
 話によると、風呂があるところもあれば、立派なホテルみたいな宿もあるとか。

 そしてもう一つは、街道小屋だ。
 宿屋ではなく、暖炉とテーブル、簡易キッチンくらいしかない小屋……まあ山小屋だな。
 そこは誰でも使っていい小屋で、宿屋がない場合は使うことになる。
 だが早い者勝ちなので、誰かが使っているのを見た場合は諦めなくてはならない。
 今回は誰もいなかったので、俺とエルサの貸し切りだ。
 まあ……特にイベントもなく、テーブルを挟んで室内にテントを張り、交代で寝た。

 こんな感じで、俺とエルサのオスクール街道を使った旅は進む。
 アールマティ王国では『秋』を感じたが、国境に近づくにつれて暑さを感じた。
 木々も、濃い緑色の葉っぱが生い茂る太い木に変わり、熱さのせいか地面がひび割れている。
 そして、ついに到着した。

「お、見えた……あれが国境の町イブラヒムか」
「わぁ……またまた、文化が違いますね」

 一言で言えば、『アラビア風』だ。
 丸っこい建物が多く、この暑さなのにみんな長袖長ズボン……女性は顔まで隠しているし、男性はターバンみたいなのを頭に巻いていた。
 
「なんだか、独特なファッションですね……顔まで隠しています」
「たぶん、日焼け防止だな」

 ハルワタート王国では『夏の暑さ』を感じた。汗がドバドバ出るし、蒸し暑さもあった。
 でも、アシャ王国では違う……これは『火傷する暑さ』だ。カラッとした、突き刺すような熱の暑さは、リゾートで感じる暑さとは別物だ。
 冒険者カードで身分証明をして町の中へ。

「う……あ、暑いですね」
「ハルワタート王国と違って、肌を出すと火傷するな……見てみ、薄手の長袖とか売ってるぞ」
「本当だ。帽子も必要ですね……」
「日焼け止めとかあるかな。うーん、準備物がいっぱいありそうだ」
「ふふふ……レクス、砂漠に関してはわたしにお任せください」

 と、毎度おなじみ……エルサはパンフレットを出した。
 すげえ。『砂漠の歩き方』や『アシャ王国・ファッション』とか『アシャの灼熱グルメ!』なんてパンフレットもある……どこで手に入れたんだろうか?
 
「とりあえず、宿を取って休むか。しばらく滞在して、砂漠に向かう準備を整えないとな」
「はい。ふふふ、わくわくしてきましたね」
「ああ。っと」
『きゅい~!!』

 ムサシが紋章から飛び出し、俺たちの周りをクルクル回る。
 俺はムサシを肩に載せ聞いてみた。

「お前、毛むくじゃらだけど暑くないのか?」
『きゅい?』

 暑くないみたいだ……素直に羨ましい。
 とりあえず、町の中心に向かい、いい感じの宿屋を見つけた。
 アラビア宮殿風と言えばいいのか、立派な建物だ。名前は『イブラヒムの風』……なんかいい名前。
 
「この宿にするか」
「はい。異国風、楽しみです」

 と、宿屋に入ろうとした時、ちょうどドアが開き、お客さんが出てきた。
 危ないと思い立ち止まると。

「──あら、レクス、エルサじゃない」

 聞き覚えのある声。
 青いドレス風の戦闘服、黒いショートボブカットの女性。
 
「ミュランさん!!」

 俺たちにいろいろ教えてくれる親切なお姉さん……ミュランさんだった。
 ミュランさんはにっこり微笑む。

「久しぶりね。アールマティ王国から来たみたいだけど……大丈夫だった?」
「だ、大丈夫とは」
「いろいろあったらしいじゃない。ふふ、キミたちってトラブルに愛されてるのね」
「い、いやあ……」

 もう知ってんのかい。
 なんとなく苦笑し、頭を掻いていると、エルサが言う。

「ミュランさんは、アシャ王国に? ハルワタート王国で休暇だったのでは?」
「休暇は終わり。私はハルワタート王国からアールマティ王国を経由して、一足先にアシャ王国に行ったの。指名で依頼を受けてね。それで、一仕事終えて、これからアールマティ王国を観光するのよ」
「「なるほど……」」
『きゅるる~』

 入れ違いってやつか。
 けっこう会うのに、なかなか冒険は合わないな。

「二人は、これからアシャ王国ね。お姉さんからのアドバイス……準備は入念に」
「「はい」」
「ふふ。なんだか立派になったわね。ああそうだ……アシャ王国、少し面倒なことが起きているみたい。気を付けてね」
「え……め、面倒なこと?」
「ええ。でもまあ、観光するには問題ないかな。ふふ、じゃあ私はこれで。二人とも、よい旅を」

 ミュランさんは行ってしまった。
 エルサはペコっと頭を下げたが……俺はミュランさんの残した『爆弾発言』が気になっていた。

「面倒なこと……ああ、嫌な予感がしてきた」
『きゅるる~』

 アシャ王国……なんだか、今から嫌な予感がしてきたぞ。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!  コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定! ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。 魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。 そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。 一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった! これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。