手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

文字の大きさ
上 下
62 / 129
第三章 地歴の国アールマティ

ドラグネイズ公爵にて④

しおりを挟む
「ふう、おしまい……あー疲れた」

 アミュアは、本日の訓練を終え、タオルで汗をぬぐう。
 烈火竜アグニベルトは幼竜から成長し『天空級』へと上がり、アミュア自身もドラグネイズ流格闘術の二級認定を受けた。もうすでに立派な竜滅士として、風格すら漂わせている。
 すると、ドラグネイズ公爵家の訓練場に、氷狼竜フェンリスに乗ったシャルネが現れた。

「アミュア、お疲れー」
「シャルネ。訓練終わり?」
「うん。フェンリスと走ってきたの」

 シャルネも弓術にさらに磨きをかけ、『天空級』となったフェンリスの頭を撫でた。
 二人は竜滅士として、順調に成長している。
 互いに汗を流したので、シャワーでも浴びに行こうと話をしている時だった。

「お疲れ、二人とも」
「あ、兄さん」
「フリードリヒさん、お疲れ様です」

 レクス、シャルネの兄、フリードリヒだった。
 現在、六滅竜に仕える十二人の竜滅士、『十二竜滅士』の一人として活躍している。
 今は、父であるバルトロメイ・ドラグネイズの配慮で、二人の訓練士として見守っていた。
 フリードリヒは言う。

「お疲れのところ悪いけど、明日の仕事について確認だ」
「明日の仕事……ああ、『竜誕の儀』の護衛だっけ」

 シャルネが言うと、フリードリヒが頷く。

「そうだ。明日、ヨルムンガンド公爵の長女、ヘル令嬢が儀式を受ける。二人にはヘル令嬢の護衛を頼む」
「はい。わかりました」
「あの、兄さん……ヨルムンガンド公爵家って、パパが嫌ってる家だよね?」
「その通り。まあ、父上は当主のヘレイア様を毛嫌いしてるのであって、公爵家そのものを嫌ってるわけじゃない。当主はアールマティ王国で好き勝手やってるみたいだし、気持ちはわかるけどね」

 フリードリヒは肩を竦める。
 アールマティ王国。現在、レクスが観光している国。
 アミュアは、なんとなく聞いてみた。

「あの、フリードリヒさん……そのヘレイア様って、どんな人なんですか?」
「貴族だけど、自分のことしか考えていない人さ。ミドガルズオルムに選ばれた竜滅士だけど、リューグベルン帝国を守る気なんてサラサラなさそうだし、あり得ないことに、国を出て別の国で研究三昧……まあ、ヨルムンガンド公爵家からすれば、面白くないよね。でも……ミドガルズオルムがいるから手が出せない」
「「…………」」
「まあ、お前たちが関わることはないし、気にすることないさ」

 フリードリヒはそう言い、ポンと手を叩く。

「ああそれと、聞いていると思うが……『邪竜』に関して」
「「!!」」
「近く、六国から精鋭を派遣し、七国連合軍として対処に当たる。若手の竜滅士であるお前たち、そして当然オレも参加することになるから、気を引き締めておけ」
「……兄さん。その邪竜って、なんなの?」
「わからん。知られていることといえば、六滅竜は本来、邪竜と戦うための神の眷属ってことらしい」
「……神の眷属」
「とりあえず、明日の仕事を済ませてからだな」

 フリードリヒは踵を返し、軽く手を振って去っていった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 シャルネ、アミュアは正装に着替え、竜誕の儀を行う儀式場へやってきた。
 二人の前には、ガチガチに緊張している少女がいる。

「きき、きんちょう、してきた……」

 ヘル。
 ヨルムンガンド公爵家の令嬢で、ヘレイアとは親戚にあたる。
 淡い金色のショートヘアを何度も弄り、シャルネに頭を下げる。

「あ、あの、護衛、ありがとうございます。えへへ」
「い、いえ……あの、大丈夫ですか?」
「は、はい。その……緊張しちゃって」

 ヘルは苦笑し、大きく深呼吸して胸を張る。
 アミュアは言った。

「大丈夫。緊張はするけど、痛いとか苦しいとかないから。むしろ、迎え入れるような、暖かい気持ちになれるよ」
「おお……よーっし」

 気合を入れるヘル。
 すると、儀式が始まった。
 ヘルが儀式場の壇上に上がり、静かに祈りを捧げる……すると。

「──……えっ、うそ、なんで」

 祈りを捧げるヘルの頭上に、輝く黄色の魔法陣が現れた。
 普通ではないとシャルネ、アミュアが警戒する。
 だが……儀式を見にきていたシャルネの父、バルトロメイ・ドラグネイズが驚愕した。

「ば、馬鹿な……!? この輝き、まさか……ミドガルズオルム!?」

 ヘルが授かったドラゴンは、『地嶽神竜』ミドガルズオルムだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 当然のように、騒ぎになった。
 間違いなく、ミドガルズオルム。
 六滅竜を授かる時、幼竜ではなく成体として神から授かる。
 つまり、山脈のような巨大なドラゴンが、儀式場に現れたのである。
 ミドガルズオルム。岩石の塊のような『甲殻種』で、姿はまるでカメのようだ。
 ミドガルズオルムはゆっくり目を開き、ヘルを見る。

『……お前さんが、儂の新たな宿主か』
「あ、は、はい。へ、ヘル……です」
『うむ。よろしゅうたのむぞ』

 それだけ言い、ミドガルズオルムはヘルの右手の紋章に吸い込まれた。
 ミドガルズオルム。
 もう、間違いない。
 バルトロメイ・ドラグネイズが絞り出すような声で言った。

「ヘレイアめ……死んだようだな。おい、アールマティ王国に飛べる最速のドラゴンを用意しろ。それと、アールマティ王国で何があったのかを調べる。間違いなく、ヘレイア……ミドガルズオルムが『負ける』ような何かが……それか、重大な事件があったはずだ」

 バルトロメイの指示。
 ミドガルズオルムの新しい宿主のことより、何があったのかを優先した。
 ヘルはどうしていいのかわからず、オドオドしてシャルネとアミュアの元へ。

「わ、私……い、いいんだよね?」
「え、ええ」
「そ、そだね」

 シャルネ、アミュアも事態を飲み込めない。
 あたりが騒ぎになる中、竜誕の儀は終了した。
 シャルネたちはヘルをヨルムンガンド公爵家へ送り届けることになる。
 用意された馬車に乗り、ヨルムンガンド公爵家に向かって馬車が走りだす。
 車内は、静寂だった……だが、アミュアが言う。

「……ヘレイア様が死んだから、ヘルにミドガルズオルムが宿った……で、いいんだよね」
「そ、そうだけど……ろ、六滅竜が寿命以外で死ぬっておかしいよね? ヘレイア様って確か、まだ二十代だよね……急な病とか?」
「……わからない」
「う、うう……私、大丈夫なのかな」

 ヘルは怯えていた。
 同世代……アミュアはにっこり微笑む。

「大丈夫。それより、今日からヘル……ううん、ヘル様は六滅竜の一人です。おめでとうございます」
「や、やめてよ……まだ、実感ないし。というか、同い年っぽいし、お友達になりたいな」
「あたしはいいよ。ふふ、リーンベルが帰ってきたら六滅竜が二人になるね」

 ようやく、三人は少しだけ笑った。
 ヘレイアの死。新たなミドガルズオルム。深まる謎。
 アミュアは、どうにも嫌な予感がしていた。

「……レクス、大丈夫かな」
 
 馬車の窓から見える空は、やや曇り空……雨が降りそうな気配がした。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。