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第三章 地歴の国アールマティ

六滅竜『地』のヘレイアと『液礫竜』タローマティ③

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 スライム状のドラゴン……タローマティは、こうして見上げている間にも膨張していた。
 周囲の木々を取り込み、大地を、湖を吸収してデカくなっている。
 オスクール街道だけじゃない。そのへんの森や湖の水も吸収し、さらにデカくなっている。

「ま、まるで暴走しているみたいだ……!! レクス、ここは危険だ!!」
「ああ、森から……もう森消えたけど、森から出よう!!」

 すると、リーンベルが右手を掲げる。

「来て、レヴィアタン!!」

 水色の光が輝き、レヴィアタンが召喚され、俺たちを乗せて上空へ。
 俺は慌てた。

「お、おいリーンベル!! お前、魔力は」
「まだ六割くらい……美味しいもの食べて、いっぱい遊んだおかげか、普段より回復が早いの。ブレスは厳しいけど、みんなを乗せて飛ぶくらいは……」
「れ、レクス、みんな……見て」

 と、愛沙が下を見て驚愕していた。
 俺たちも上空から下を見ると……ひどい有様だった。

「ひ、ひでえ……スライムの粘液が、周りを汚染している」

 スライムの色が、濃い紫色に変わり、周囲の木々を腐らせては取り込み、退魔士や冒険者たちも飲み込んでいた。
 玄徳が愛沙に言う。

「見て、あそこ!!」
「あ……雅民さんたち!! 兄上、姉上も!!」

 愛沙の所属する『真星退魔士』のメンバーが、スライムたちを燃やしていた。
 まだ城壁前にいるスライムたち。このまま放っておけば城下町に侵入するのも時間の問題。
 俺はタローマティを見た。

「……弱点はやっぱり、あの女の子か」

 タローマティ。スライム状のドラゴン。
 大きさは高さ五十メートルを超え、形状はティラノサウルスみたいな、翼のないドラゴンだ。だが、足が丸太を重ね合わせたような太さで、腕も同じくらい大きい。
 心臓部に、女の子がいる。恐らくあれが『核』だろう。
 
「レクス。もしかして、あの女の子が……」
「ああ、本体だ」

 エルサも気付いた。
 俺はリーンベルに言う。

「リーンベル。もっと近づけるか? 心臓部の女の子が、たぶん弱点だ」
「……レヴィアタン、いける?」
『厳しいわね。私でも、あの粘液を受ければ鱗が溶ける。今、大きな怪我をしたらリーンベルの魔力をごっそりいただくことになるわ。そうなれば、契約が崩れるかもしれない』
「……じゃあ、仕方ない。俺とムサシが接近して、ブレスを叩きこむしかないな」

 俺はムサシを召喚。
 属性は『風』で、形態は『羽翼形態』だ。
 俺はムサシに飛び乗り、銃を手にする。

「リーンベル、お前は陽動を。俺はムサシと接近して、弱点を直接叩く!!」
『がるるる!!』
「わかった。レヴィアタン、いくよ!!」
『ええ。ふふ、共闘ってやつね!!』
「玄徳、エルサ、私たちも援護するわよ!!」
「はい!!」
「ああ、任せてくれ!!」

 こうして、俺たちの『タローマティ攻略』が始まるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 粘液みたいなドラゴン。
 それが、上空から対峙した俺の感想だった。

「キモすぎる……ヘレイアのヤツ、こんなのを作り出して『ドラゴンだ!!』なんて言うつもりだったのかよ」
『ぐるるる……』

 下を見ると、リーンベルが水の砲弾で攻撃し、エルサが水の槍、玄徳が氷の槍で、愛沙が雷魔法で槍を放っている。全て貫通するような威力だが、貫通してもすぐに穴が塞がってしまう。
 俺はムサシに言う。

「短期決戦だ。ムサシ、心臓部分にいる女の子に突っ込んで、直接ブレスで焼くぞ!!」
『がるる!!』

 ムサシは風を纏って一気に飛ぶ。
 だが、タローマティの口から粘液が発射され急旋回。
 俺は落ちないようしがみつく……双剣、ハンマー、銃。俺の持つ武器じゃダメージ与えられないのは明白だ。
 
『あは、ああは……あはは』

 声が聞こえる。
 心臓部にいる女の子……あれがタローマティの弱点なのかな。
 自分が弱点ってこと理解していないのか、身体を見せて大笑いしている。どういう実験をすれば、あんな風になっちまうのか……いろんな意味で可哀想な子だ。
 俺はムサシに言う。

「ムサシ。俺の魔力、ギリギリまで使っていい……速く終わらせてやろう」
『……ぐるる』
 
 粘液を避けつつ接近。
 無駄だと思いつつ、俺はタローマティの本体に向かって叫ぶ。

「おい!! 聞こえてんのか!? もうこんなことやめろ!!」
『?』

 お、こっち見た。 
 首を傾げていたが、すぐに笑顔……ひどくゆがんだ悲しい笑顔だった。
 善悪の区別もない。ただ粘液を放ち、辺りを溶かすだけの怪物。
 会話が成り立つのかわからない。でも、俺は叫んだ。

「お前、聞こえてんならもうやめろ!! そのスライム引っ込めて、話をしよう!!」
『ふぁああ? なぁぁんでえ? あは、あはは』
「…………」

 ダメだった。
 もう言葉も理解していない。というか……俺の言葉を理解するんじゃなくて、俺の言葉に対し理解するんじゃなく、言葉を放ったから言葉を放っている、そんな感じ。
 わかりあうことができない……もう、本当にダメだった。
 
「──……ムサシ。やるぞ」
『がるる!!』

 ムサシの口に魔力が集中していく──……すると、タローマティは楽しそうに笑い、ドラゴンの口を俺に向けた。

「レクス!! 危ない!!」

 相手は魔力を練る必要がないから、口を向けた瞬間に粘液が発射された。

「レヴィアタン!!」
『一度だけ、ね!!』
「僕も──……『けつ』!!」

 レヴィアタンが水を吐き出し、玄徳がそれを一瞬で凍らせる。
 粘液ブレスが氷を解かすが、エルサが魔法で水を放ち氷塊を補強し、愛沙は雷の槍をタローマティに向けて放つ。
 魔力の充電が終わり、俺は剣を抜いてタローマティに向けた。

「SET!!」

 ムサシが口を開ける。
 タローマティはキャッキャしながら俺を、ムサシを見た。
 ほんの少しだけ……あの笑顔を崩したくない、そう思ってしまった。

「『風属性シューマッハ・ドラゴンブレス』!!」

 竜巻のような、エメラルドグリーンのブレスが放たれる。
 一点集中させ、螺旋を描くような高威力のブレスは、タローマティに直撃。
 タローマティがブレスに飲み込まれると、笑ったまま砕け散った。
 タローマティが消滅すると、スライムがただの液体になり、地面に流れていく。
 その様子を見て、玄徳が言う。

「……本体で間違いなかったみたいだね。もう少し、偽装とか考えていたんだけど」
「……たぶん、あいつはそんなこと考える知能なかったんだ。それと……あいつ、遊んでるだけだった。恨みや怒りじゃなくて、ただ遊びたいとか……そんな気持ちだったのかも」

 俺がそう言うと、玄徳は黙りこむ。
 リーンベルは俺の袖を引いた。

「レクスくんは、あの子を……タローマティを、解放してあげたんだね」
「……そう、なのかな」
「……きっとそう。私も少し見たけど……あの子の笑顔、本物だったと思う」
「……」

 俺たちはしばし無言で、地面に吸収されつつあるスライムを眺めるのだった。
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