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第三章 地歴の国アールマティ

地歴の国アールマティ

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 ついに到着、『地歴の国アールマティ』!!
 万里の長城みたいな城壁が国全体を囲い、外壁のすぐそばでは小麦のような作物を育てている。
 街道を進むと、城下町に入る正門が見えた。

「みんな、冒険者カードあるよね? 入国に必要だから出しておいて」

 玄徳が言う。
 俺たちはカードを出し、エルサが言う。

「冒険者カード、本当に便利ですねぇ」
「だよな。身分証明としては最適だ」

 キャッシュカードにもなるし、万能の身分証にもなる。どういう技術なのは不明だが本人しか使えない機能もあるから盗まれて現金を引き出すとかにも使えないし……本当にありがたい。
 リーンベルは、周りの小麦畑を見ながら言う。

「小麦、いっぱい育ててるんだね」
「うん。麺に欠かせない物だしね。小麦農家は岩月王家が支援もしているの」
「へえ、そうなんだ」
「小麦って言っても種類もあるし、麺屋が農家と契約して、オリジナルの小麦を育てたり、改良とかもしているみたい。麺だけじゃなくて、付け合わせの野菜やお肉も農家が育ててるし、ハルワタート王国と貿易して、新鮮な魚介類も仕入れているのよ」
「す、すごい」

 リーンベルの疑問に答える愛沙。
 ちなみに、玄徳と愛沙に頼んで、事前情報はなるべく教えてもらわず、要所要所で気になったものを解説してもらうことにした。事前にいろいろ聞くと、気になること多すぎるしな。
 玄徳も補足する。

「岩月城下町には、麺屋が三千軒以上あるんだ。年に一度、『麺料理大会』があって、岩月で一番の麵料理屋を決める催しもあるんだ」
「残念ながら、今は時期じゃないけどね」

 め、麺料理大会だと……!?
 そのイベント、めちゃくちゃ気になるじゃないか。

「玄徳、愛沙……そのめちゃくちゃ楽しそうなイベント、いつ開催だ!?」
「すごい食いつくわね……レクス」
「えっと、あと半年後くらいかな」
「くっ……エルサ」
「レクス、さすがにアールマティ王国に半年滞在はダメですよ」
「うぐぐ」
『きゅるる』

 ムサシも『諦めろ』と言わんばかりに、俺の耳を甘噛みする。
 愛沙は笑って言う。

「あはは。ま、料理大会は開かれてないけど、岩月の麺料理屋はたくさんあるから、半年と言わず満足するまで滞在していってよ!!」
「そうする。ふっふっふ……ワクワクしてきた!!」
「レクス、麺に惚れ込んでますね……」
「あ、エルサ。激辛麺とかもあるよ」
「わくわくしますね!!」
「あわわ、エルサも興奮してるっ」
『きゅいっ!!』

 岩月、もといアールマティ王国……楽しそうなところじゃないか!!

 ◇◇◇◇◇◇

 アールマティ王国に入国……その街並みは、古き中華文明って感じだった。
 これまで通った町もだが、どの建物も古い。薄汚れているとかボロいとかじゃなく、立派な建築だが長き年月が経過しているような趣を感じる。
 道行く人たちも漢服やチャイナ服、アオザイみたいな服だし、露店では点心売ってるし、少しでも広い場所では大道芸やってるし。

「わぁ~……レクス、すごいですね!!」
「ああ。広い、デカいとは思ってたけど、これまでとは比べ物にならない広さだ」

 お、馬がリヤカー引いてる。牛とか豚もいるし。
 周りを見ても飽きない。これはいいね。

「愛沙、家に戻るのかい?」
「うん。顔出しするね。玄徳は……」
「僕はレクスたちを宿に案内するよ」
「わかった。いつものところ?」
「そうだね、じゃあまた」

 幼馴染同士のやり取りは、詳しい内容を話さなくても通じるもんだ。
 愛沙は言う。

「じゃあ、私は実家に顔出ししてくるね。明日には戻ってくるから」

 じゃあね、と愛沙は行ってしまった。
 手を振って見送ると、玄徳が言う。

「じゃあ宿に案内するよ。僕と愛沙がよく使っていた宿でいいかい? 安い、個室は広い、小さいけどお風呂もあるよ」
「異議なし。いいか、エルサにリーンベル?」
「はい。お願いしますね」
「うん、よろしく」

 玄徳の案内で向かったのは、『石器亭』という宿だった。
 見かけは古いが大きく立派で、中に入るとかなり広い。
 部屋を取り、それぞれの部屋に入る。

「おお、いいね」

 椅子、テーブル、クローゼット。さらに別室にはデカいタライ……これ、風呂か。
 しかもトイレもちゃんと付いている。中華風の安いビジネスホテルみたいだ。
 部屋の確認をしてロビーに戻ると、玄徳が待っていた。

「なかなかいい部屋でしょ?」
「ああ、いいね。気に入ったよ」
「うん。さて……エルサとリーンベルが戻ったら、お昼を食べに行こうか。何を食べたい?」
「麺!!」
「……ま、まあそんな気がしてたよ」

 リーンベル、エルサも合流し、さっそく麺屋へ向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、お昼を食べたあと、玄徳の案内で向かったのは……デカい『寺院』だった。
 デカい。とにかくデカい……世界遺産レベルだ。
 ただっぴろい石畳の地面、中央にデカい寺院、周りには多くの観光客がいる。

「ここは岩月が信仰する神、『岩神』を祭る寺院なんだ」
「岩神?」

 俺が質問すると、玄徳が「こほん」と咳払い。
 一歩前に出て、俺、リーンベル、エルサの前に立つ。

「かつて岩月は、妖魔が蔓延る不毛の大地だった。そこに岩神が降り立ち、人の姿となって妖魔退治を始めたんだ。岩神は自身の技、知識を人に伝え、妖魔の退治方法を広めた……これが退魔士の始まりなんだ。そして、岩神を教えを最初に受けた退魔士の一族が、岩月王族。王家の王族なんだ」
「「「へえ~……」」」

 すごい話だ。
 退魔士の歴史ってかなり深いんだな。
 リーンベルが言う。

「この建物に、岩神様がいるの?」
「ああ。岩神を模した像があるよ。ちなみに、この『岩神寺院』の周辺では出店や露店の営業は禁止されている」
「あ、ほんとだ……お店、ない」

 キョロキョロするリーンベル。
 確かに、周りにはお店がない。食べ物の匂いというより、線香みたいな香りがする。
 さっそく寺院へ。

「わ、なんだか不思議な香り……」
「線香かな?」
「お、レクス、よく知ってるね。そう、これはお線香の香りなんだ」
「「おせんこう……?」」

 エルサ、リーンベルが首を傾げる。
 線香、異世界じゃ馴染みないよな。
 寺院の奥にはデカい銅像があり、その手前に小さなお社があった。そこで線香が売られており、大きな線香立てが置かれている。
 玄徳が線香を買い、俺たちに一本ずつ渡す。

「そこの蝋燭で火を着けて、線香立てに差すんだ」

 玄徳は、銅像の傍で静かに燃えている大量の蝋燭の一本に線香を近づけ、線香立てに差す。
 俺たちも真似をする。エルサとリーンベルがドキドキしながらやっているのが可愛らしい。
 そして銅像の前に立つ。

「…………」

 玄徳は、両手の人差し指と親指で輪を作り、その輪を重ねるように手を交差させた。
 そして、そのまま銅像に一礼。
 俺は真似をし、エルサとリーンベルも慌てて同じように頭を下げた。
 礼を終え、俺たちは寺院を出る。

「……ふう、ごめんね。堅苦しかったよね」
「あ、いや」
「ちょっと緊張しました……」
「でも、不思議な体験だった……」

 エルサは胸を押さえ、リーンベルがホワーンとしている。
 玄徳は苦笑する。

「岩月に来たら、この寺院だけは見てほしくてね。僕たち退魔士の聖地みたいな場所なんだ」

 玄徳は、寺院を見上げる。

「僕はさ、まだまだ退魔士として未熟だけど……ここに来ると、もっと頑張らなくちゃって思えるんだ」
「「「…………」」」

 俺たちは玄徳を見る。
 寺院を見上げる姿……何かに憧れるような、眼がキラキラしていた。 
 そんな時だった。

「お前、玄徳か?」

 ふと、玄徳を呼ぶ声。
 そちらを見ると、ニ十歳くらいの男性が玄徳を見ていた。
 玄徳が男性を見ると、驚いた顔をする。

「……玄辰げんたつ兄さん」

 玄徳と似た顔立ちで、身長が高い。
 玄辰と呼ばれた男は俺たちを一瞥し、玄徳へ視線を戻す。

「お前、観光客ガイドでも始めたのか? 退魔士はもう諦めたようだなぁ?」

 うわ……一瞬でわかった。こいつ玄徳を馬鹿にしてるわ。
 声がナメ腐ったような、ニチャニチャした嫌な声だ。

「……行こう。みんな」

 玄徳は無視。俺たちを促そうとする。

「ははっ、男二人、女二人で夜遊びでもすんのか? ま、お前ツラはいいしなぁ、女を食う仕事なら困らねぇだろうよ。ハハハッ!!」
「…………」
「愛沙はいないのか? あいつも才能の塊のクセに、いつまでもお前にくっついてる場合じゃねぇしなあ。それとも、もう飽きて捨てたのか?」
「……もう、黙ってくれないかな。兄さん、冗談じゃ済まなくなる」
「あぁ? 才能のねぇクソのくせに、オレに盾突くつもりか?」

 次の瞬間、リーンベルが玄辰を睨んだ。

「あなた、私が誰か知ってる? ド低能の雑魚退魔士さん?」

 げ、リーンベルが『六滅竜』モードで日傘を握りしめている。
 ムカつくし「ざまあ」してやりたいが、町中じゃまずい。
 俺はリーンベルを押さえようとすると、玄徳が。

「『フウ』」
「もがっ!?」

 一瞬で呪符を投げ、玄辰の口にペタッと張り付いた。
 玄徳は人差し指と中指を立て、俺たちに言う。

「さ、行こう」

 俺たちの背を押し、口の札をはがそうとしている玄辰を無視し、走り出した。
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